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第4章 炎が呼び覚ます記憶
盗賊退治②
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「くっ! 今の馬鹿は何を考えていますの!
せっかくナナに逃がしてもらっておきながら、のこのこ戻ってくるなんて!
それに、なんでここにレニとリッドさんまで来てるのかしら!」
約束した時間が経過してもナナが戻って来ないため、予定より長く揺動にあたっていたミイア達。
予定外の事は重なるもので、突然背後からレニとリッドが現れたかと思ったら燃えているアジトを見て騒ぎ出し、かと思ったらナナが逃がしたはずの村人が戻ってきて、やめておけばいいのにわざわざ盗賊を挑発して追いかけられていく始末。
「でもミイア様! さっきの人が言うには、村人は全員逃げられたみたいっすよ!
盗賊が追いかけたっすけど、あの程度の人数なら、ナナがいれば大丈夫っす!
俺達もそろそろ次に進むっすよ!」
「そう、したいところですね!」
苛立つミイアに、アレンとリアムがそろそろ撤退すべきだと進言してくる。
「おにいちゃぁああああん‼」
その背後では、リッドの腕を振りほどこうと暴れながら、レニは一瞬現れて盗賊に追われて行った兄に向かって叫び続けている。
「それに……まさかよりにもよって、あの馬鹿がレニの兄だったなんて、信じられませんわ!」
盗賊の頭目が「殺すな」と厳命してはいたが、あの様子ではどんな目に合わされるかわかったものではない。
仮にどうにかレニを静かにさせて、盗賊達に範囲攻撃をお見舞いしてから煙幕を炊いて撤退してた場合、残った盗賊達が村人を追いかけてしまう可能性がある。
いくらナナでも、村人を守りながら多人数の盗賊と戦うのは危険だ。
だが一方で、このまま戦い続けても、そう時間をかけずに自分達の手札が切れて時間切れとなる。
「せめて、ナナの無事さえ確認できていれば――」
そんなふうに、ミイア達が盗賊たちのなじるような攻勢からなんとか身を守りつつ、進退を決めかねていた時。
転機は訪れた。
突然、盗賊達とミイア達の間に、半透明な柔らかい、だが突き破ることができない壁が現れ、両者を分断する。
「「「「な、なんだ?」」」」
あっけにとられているミイア達と盗賊。
「ぎゃっ」
≪ゴシャッ!≫
そこに、何かが砕けるような音と、誰かの悲鳴が重なる。
≪ドゴッ! バゴッ! グシャ!≫
さらに連続で破砕音が続く。
「お、おい後ろ! 誰かいるぞ!」
「なんだこいつ! 化物みたいにつええ!」
「かまわねぇ! 殺せぇええ!」
ようやく音の発生源に気付いた盗賊達が、状況を把握して悲鳴じみた怒号を発する。
盗賊達の背後には、高位の治癒士のような白い羽織状の装備に身を包んだ美女がいた。
露出度は低いにも関わらず、要所要所で身体のラインを浮き立たせるデザインが、彼女の美しいボディラインを強調し、確かなエロスを振りまいている。
美女は穏やかな微笑みを浮かべながら、その身長ほどもある長い杖……というよりこん棒を振り回し、盗賊達をぼっこぼこに殴り倒していた。
「いったい何が起こっているのかしら?」
「このぶよぶよした壁のせいでよく見えないっすが……こん棒で奴らを殴りまくってる女がいるみたいっすね……裏ボスっすか?」
なり続ける破砕音と盗賊達の悲鳴に、思わずミイアが疑問をこぼし、アレンが答えた。
明らかに治癒士に見える装備とは裏腹に、美女の戦闘スタイルは殴り飛ばされて行く盗賊達より盗賊っぽい。
彼女が盗賊の裏のボスと言われても信じられるレベルだ。
「ほら今、表のボスが殴り飛ばされたっす。やっぱり裏ボス……逃げるっす?」
あっと言う間にレベル25だった盗賊の頭目まで殴り飛ばされ、盗賊達は殲滅された。
言葉を失って唖然とするミイア達。
「す、すげえな、あんた」
そこに、思わぬ方向……レニの兄が逃げて行った森の方から男性の声が聞こえた。
気付くとミイア達の前面に立ちはだかっていた半透明の壁は消え去り、状況がはっきりと視認できるようになっていた。
男性の声がした方を見ると、そこには先ほど逃げて行った村人、レニの兄であるグランが苦笑いを浮かべて立っていた。
他の村人の姿は見当たらない。
盗賊に追われて逃げて行った兄を助けてと騒いでいたレニだったが、無事な兄を見つけて、呆けたように動きを止める。
その様子を見たリッドが、そっとレニを地面に降ろした。
レニは滂沱の涙を流し、愛する兄の元に無言で突進してしがみつく。
グランの方も、レニと無事の再会に喜び、妹を抱き締める。
しかし、すぐに違和感に気付いたレニが兄から離れ、質問攻めにする。
「あれ……? おにいちゃん、どこもいたくない? からだつらくない? くるしくない?」
レニはしきりに兄の体の各所を確認する。
「おかしいな、くろいもやもや、いつもならもうたくさんでてるはずなのに」
と小さく呟いているが、それはレニ本人以外には聞こえない。
「心配させたな、さっき黒髪の女の子に変な食べ物もらったからか、けっこう元気だぞ。
他の助けられた奴らも、あっちにいる」
グランはレニを心配させないよう、強がる。もちろん、いくらナナにもらった実が効力を発揮したとは言え、5日以上、ほとんど飲まず食わずに近い状況に置かれていたのだ。
すぐに体力が戻るわけではない。
それに、先程無理をして盗賊から逃げたため、今すぐにも倒れそうなほどには弱っていた。
だが、奇跡的に助けられ、大切な妹に会えたのだ。
その喜びが、彼に強がるだけの気力を与えていた。
しかし、そこまで言ってからグランはリッドの方を見て、表情を曇らせる。
「リッドさん……あんたの奥さんはいない。女たちは俺らとは別に連れ出されちまったんだ」
その言葉にリッドの表情が蒼白になる。
「⁉ ど、どこに! なあ、どこに連れていかれたんだ! あいつは無事なのか!」
「……すまん、わからねえ」
「そんな……くそ! ここまで来て! くそぉおおおおお‼」
グランの無事な姿を見て、自分の妻もまだ無事で生きていてくれるのかもしれないと期待していたリッド。
だが、期待を裏切る報せを受けてしまい、膝をついて地面を殴りながら慟哭する。
理不尽に震えるリッドと、それを悔しそうに見つめるしかないグラン。
「盛り上がっているところ悪いのだけれど、色々と状況整理したいのよ。いいかしら」
そこに躊躇うことなく近づいてきた美女――先ほど長柄のこん棒で盗賊達をなぎ倒していた美女が、唐突に声をかけた。
「い…いや、あんたには感謝してるが、見ての通り今はちょっと無理だ。
すまんがもう少し待ってくれ」
状況を無視したような美女の問いかけに、グランが慌てて空気を読めとやんわりと返す。
「いいから聞きなさい。たぶんその女性たちなら、今頃アバトの冒険者ギルドにいるわよ?」
「「…………は?」」
そんなグランの忠告を無視して告げられた美女の発言内容に、グランとリッドは口を開けたまま硬直した。
「大雑把に説明すると、一昨日の夜、森の中を探索していたら、盗賊っぽいごろつき共に連れられた4人の女性を発見したのよ。
だからとりあえず盗賊を撲殺…おとなしくさせて、女性たちに話を聞いたの。
そうしたら、ハンナ村から拉致された村人だって言うじゃない。
でもそのままハンナ村に帰すのは危険でしょう?
だからアバトに使い魔を送って、ギルドの舎弟た…後輩たちを呼びつけて、彼女たちをギルドで保護するように命じ…お願いしたの。
たぶん今頃、ギルドでおいしいご飯でも食べているはずよ」
ところどころに、その立ち居振る舞いには似合わない不穏当な発言を混ぜながら、美女は村の女性たちを救助した経緯を説明した。
「だから、安心なさい。あなたの大事な奥様も、きっと無事でいるわ」
そして、事態が呑み込めずに固まったままになっているリッドを、聖母のような優しい声音で落ち着かせる。
「あ、ぁああ、うぁああああ」
その声に、張りつめていたものがついに切れたのか、リッドが地面に顔を伏せて感極まったように涙を流す。
「よかったね、りっどさん、よかったね!」
そんなリッドに駆け寄ったレニが、共に涙を流しながら、震えるリッドの背をさする。
身内を攫われた者同士、通じ合うものがあったのだろう。
一同はしばし2人が落ち着くのを見守るのだった。
そしてしばしの後。
「それはそうと、ヴァリア様! どうしてあなたがここに?」
ミイアが喜色を浮かべて発した声に、レニとリッドに慈愛の眼差しを向けていた美女――ヴァリアが反応する。
「あら? ミイアじゃない! こんなところで会えるなんて奇遇ね!
……あら? あらら?
目の錯覚かしら、少し見ないうちに見違えたわね、いい目をしてるわ。
何かあったの?」
そして、ミイアに気付くと同時に、ミイアが纏う雰囲気が変化していることを敏感に感じ取り、その成長を喜ぶ。
そんな、ミイアとヴァリアの再会を喜ぶやり取りの裏で……
(ま、まさかさっきの裏ボスはヴァリア様だったっすか⁉)
こっそりアレンがビビっていたりするが、そんなことなど気にせず2人の会話は弾む。
「見違えた……そうでしょうか?
ああ、もしかしたら…実は、先日わたくしの不心得が原因で、パーティを壊滅寸前まで追い込んでしまいましたの。
その時の反省で、わたくしもいろいろと考えましたから、そのおかげかもしれません……
そうですわ! その時に助けて下さった方を、ぜひヴァリア様にもご紹介したいですわ!
ふふふ、あの子、なんとニアン様のお気に入りの女の子なのですわよ!」
「あら! それは本当? 楽しみね! すぐ会いたいわ!
その子もここにいるのかしら?」
「ええ、そちらのレニのお兄さんを助け出したはずですわ! ねえ、グランさん?」
そう言ってミイアが、ようやく落ち着いたらしいリッドを立ち上がらせようと手を貸していたグランに笑顔を向ける。
だが。
「……え? も、もしかしてあの黒髪の子、あんたたちの仲間か⁉
そうだまずい、急いでくれ!
あの子さっき急に痙攣して倒れちまって、目を覚まさなかったんだ!
こっちだ!」
「――え?」
そう言って駆け出すグラン。
慌ててアレンやリアムが追従する。
でも、絶句したミイアは、ただ青い顔でその様子を見つめることしかできなかった。
◇
せっかくナナに逃がしてもらっておきながら、のこのこ戻ってくるなんて!
それに、なんでここにレニとリッドさんまで来てるのかしら!」
約束した時間が経過してもナナが戻って来ないため、予定より長く揺動にあたっていたミイア達。
予定外の事は重なるもので、突然背後からレニとリッドが現れたかと思ったら燃えているアジトを見て騒ぎ出し、かと思ったらナナが逃がしたはずの村人が戻ってきて、やめておけばいいのにわざわざ盗賊を挑発して追いかけられていく始末。
「でもミイア様! さっきの人が言うには、村人は全員逃げられたみたいっすよ!
盗賊が追いかけたっすけど、あの程度の人数なら、ナナがいれば大丈夫っす!
俺達もそろそろ次に進むっすよ!」
「そう、したいところですね!」
苛立つミイアに、アレンとリアムがそろそろ撤退すべきだと進言してくる。
「おにいちゃぁああああん‼」
その背後では、リッドの腕を振りほどこうと暴れながら、レニは一瞬現れて盗賊に追われて行った兄に向かって叫び続けている。
「それに……まさかよりにもよって、あの馬鹿がレニの兄だったなんて、信じられませんわ!」
盗賊の頭目が「殺すな」と厳命してはいたが、あの様子ではどんな目に合わされるかわかったものではない。
仮にどうにかレニを静かにさせて、盗賊達に範囲攻撃をお見舞いしてから煙幕を炊いて撤退してた場合、残った盗賊達が村人を追いかけてしまう可能性がある。
いくらナナでも、村人を守りながら多人数の盗賊と戦うのは危険だ。
だが一方で、このまま戦い続けても、そう時間をかけずに自分達の手札が切れて時間切れとなる。
「せめて、ナナの無事さえ確認できていれば――」
そんなふうに、ミイア達が盗賊たちのなじるような攻勢からなんとか身を守りつつ、進退を決めかねていた時。
転機は訪れた。
突然、盗賊達とミイア達の間に、半透明な柔らかい、だが突き破ることができない壁が現れ、両者を分断する。
「「「「な、なんだ?」」」」
あっけにとられているミイア達と盗賊。
「ぎゃっ」
≪ゴシャッ!≫
そこに、何かが砕けるような音と、誰かの悲鳴が重なる。
≪ドゴッ! バゴッ! グシャ!≫
さらに連続で破砕音が続く。
「お、おい後ろ! 誰かいるぞ!」
「なんだこいつ! 化物みたいにつええ!」
「かまわねぇ! 殺せぇええ!」
ようやく音の発生源に気付いた盗賊達が、状況を把握して悲鳴じみた怒号を発する。
盗賊達の背後には、高位の治癒士のような白い羽織状の装備に身を包んだ美女がいた。
露出度は低いにも関わらず、要所要所で身体のラインを浮き立たせるデザインが、彼女の美しいボディラインを強調し、確かなエロスを振りまいている。
美女は穏やかな微笑みを浮かべながら、その身長ほどもある長い杖……というよりこん棒を振り回し、盗賊達をぼっこぼこに殴り倒していた。
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明らかに治癒士に見える装備とは裏腹に、美女の戦闘スタイルは殴り飛ばされて行く盗賊達より盗賊っぽい。
彼女が盗賊の裏のボスと言われても信じられるレベルだ。
「ほら今、表のボスが殴り飛ばされたっす。やっぱり裏ボス……逃げるっす?」
あっと言う間にレベル25だった盗賊の頭目まで殴り飛ばされ、盗賊達は殲滅された。
言葉を失って唖然とするミイア達。
「す、すげえな、あんた」
そこに、思わぬ方向……レニの兄が逃げて行った森の方から男性の声が聞こえた。
気付くとミイア達の前面に立ちはだかっていた半透明の壁は消え去り、状況がはっきりと視認できるようになっていた。
男性の声がした方を見ると、そこには先ほど逃げて行った村人、レニの兄であるグランが苦笑いを浮かべて立っていた。
他の村人の姿は見当たらない。
盗賊に追われて逃げて行った兄を助けてと騒いでいたレニだったが、無事な兄を見つけて、呆けたように動きを止める。
その様子を見たリッドが、そっとレニを地面に降ろした。
レニは滂沱の涙を流し、愛する兄の元に無言で突進してしがみつく。
グランの方も、レニと無事の再会に喜び、妹を抱き締める。
しかし、すぐに違和感に気付いたレニが兄から離れ、質問攻めにする。
「あれ……? おにいちゃん、どこもいたくない? からだつらくない? くるしくない?」
レニはしきりに兄の体の各所を確認する。
「おかしいな、くろいもやもや、いつもならもうたくさんでてるはずなのに」
と小さく呟いているが、それはレニ本人以外には聞こえない。
「心配させたな、さっき黒髪の女の子に変な食べ物もらったからか、けっこう元気だぞ。
他の助けられた奴らも、あっちにいる」
グランはレニを心配させないよう、強がる。もちろん、いくらナナにもらった実が効力を発揮したとは言え、5日以上、ほとんど飲まず食わずに近い状況に置かれていたのだ。
すぐに体力が戻るわけではない。
それに、先程無理をして盗賊から逃げたため、今すぐにも倒れそうなほどには弱っていた。
だが、奇跡的に助けられ、大切な妹に会えたのだ。
その喜びが、彼に強がるだけの気力を与えていた。
しかし、そこまで言ってからグランはリッドの方を見て、表情を曇らせる。
「リッドさん……あんたの奥さんはいない。女たちは俺らとは別に連れ出されちまったんだ」
その言葉にリッドの表情が蒼白になる。
「⁉ ど、どこに! なあ、どこに連れていかれたんだ! あいつは無事なのか!」
「……すまん、わからねえ」
「そんな……くそ! ここまで来て! くそぉおおおおお‼」
グランの無事な姿を見て、自分の妻もまだ無事で生きていてくれるのかもしれないと期待していたリッド。
だが、期待を裏切る報せを受けてしまい、膝をついて地面を殴りながら慟哭する。
理不尽に震えるリッドと、それを悔しそうに見つめるしかないグラン。
「盛り上がっているところ悪いのだけれど、色々と状況整理したいのよ。いいかしら」
そこに躊躇うことなく近づいてきた美女――先ほど長柄のこん棒で盗賊達をなぎ倒していた美女が、唐突に声をかけた。
「い…いや、あんたには感謝してるが、見ての通り今はちょっと無理だ。
すまんがもう少し待ってくれ」
状況を無視したような美女の問いかけに、グランが慌てて空気を読めとやんわりと返す。
「いいから聞きなさい。たぶんその女性たちなら、今頃アバトの冒険者ギルドにいるわよ?」
「「…………は?」」
そんなグランの忠告を無視して告げられた美女の発言内容に、グランとリッドは口を開けたまま硬直した。
「大雑把に説明すると、一昨日の夜、森の中を探索していたら、盗賊っぽいごろつき共に連れられた4人の女性を発見したのよ。
だからとりあえず盗賊を撲殺…おとなしくさせて、女性たちに話を聞いたの。
そうしたら、ハンナ村から拉致された村人だって言うじゃない。
でもそのままハンナ村に帰すのは危険でしょう?
だからアバトに使い魔を送って、ギルドの舎弟た…後輩たちを呼びつけて、彼女たちをギルドで保護するように命じ…お願いしたの。
たぶん今頃、ギルドでおいしいご飯でも食べているはずよ」
ところどころに、その立ち居振る舞いには似合わない不穏当な発言を混ぜながら、美女は村の女性たちを救助した経緯を説明した。
「だから、安心なさい。あなたの大事な奥様も、きっと無事でいるわ」
そして、事態が呑み込めずに固まったままになっているリッドを、聖母のような優しい声音で落ち着かせる。
「あ、ぁああ、うぁああああ」
その声に、張りつめていたものがついに切れたのか、リッドが地面に顔を伏せて感極まったように涙を流す。
「よかったね、りっどさん、よかったね!」
そんなリッドに駆け寄ったレニが、共に涙を流しながら、震えるリッドの背をさする。
身内を攫われた者同士、通じ合うものがあったのだろう。
一同はしばし2人が落ち着くのを見守るのだった。
そしてしばしの後。
「それはそうと、ヴァリア様! どうしてあなたがここに?」
ミイアが喜色を浮かべて発した声に、レニとリッドに慈愛の眼差しを向けていた美女――ヴァリアが反応する。
「あら? ミイアじゃない! こんなところで会えるなんて奇遇ね!
……あら? あらら?
目の錯覚かしら、少し見ないうちに見違えたわね、いい目をしてるわ。
何かあったの?」
そして、ミイアに気付くと同時に、ミイアが纏う雰囲気が変化していることを敏感に感じ取り、その成長を喜ぶ。
そんな、ミイアとヴァリアの再会を喜ぶやり取りの裏で……
(ま、まさかさっきの裏ボスはヴァリア様だったっすか⁉)
こっそりアレンがビビっていたりするが、そんなことなど気にせず2人の会話は弾む。
「見違えた……そうでしょうか?
ああ、もしかしたら…実は、先日わたくしの不心得が原因で、パーティを壊滅寸前まで追い込んでしまいましたの。
その時の反省で、わたくしもいろいろと考えましたから、そのおかげかもしれません……
そうですわ! その時に助けて下さった方を、ぜひヴァリア様にもご紹介したいですわ!
ふふふ、あの子、なんとニアン様のお気に入りの女の子なのですわよ!」
「あら! それは本当? 楽しみね! すぐ会いたいわ!
その子もここにいるのかしら?」
「ええ、そちらのレニのお兄さんを助け出したはずですわ! ねえ、グランさん?」
そう言ってミイアが、ようやく落ち着いたらしいリッドを立ち上がらせようと手を貸していたグランに笑顔を向ける。
だが。
「……え? も、もしかしてあの黒髪の子、あんたたちの仲間か⁉
そうだまずい、急いでくれ!
あの子さっき急に痙攣して倒れちまって、目を覚まさなかったんだ!
こっちだ!」
「――え?」
そう言って駆け出すグラン。
慌ててアレンやリアムが追従する。
でも、絶句したミイアは、ただ青い顔でその様子を見つめることしかできなかった。
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