後宮の侍女、休職中に仇の家を焼く ~泣き虫れおなの絶叫昂国日誌~ 第二部

西川 旭

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第十三章 清算

百十話 次のおはようを、笑って言うために

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 翠(すい)さまの様子がおかしい。
 知らせを受けて、私と翔霏(しょうひ)に続いて侍女たちと玉楊(ぎょくよう)さんも、慌てて寝室に押し寄せる。
 寝台の上の翠さまは、一見して、普通に気持ち良さそうに寝ている、穏やかな呼吸を立てていた。
 
「……お子も、変わったことはないようにございます」

 玉楊さんが翠さまのお腹に耳を当て、その奥にある胎動を聞く。
 戸惑いつつ言ったように、外見からは大きな異変は見受けられない。
 しかし、ただ寝ているだけなら、声をかけたり体を揺すったりすれば、起きるはずだ。
 それでも起きないのだから、なにかの病気か。
 まさか、まさか脳神経とかの重大な疾病が。
 悪い予感が無数に頭をよぎり、気分が悪くなってくる。

「麗(れい)女史、紺(こん)女史。応(おう)どのが、なにやら話があるようでござる」

 そのとき、巌力(がんりき)さんが来て、軽螢(けいけい)が私たちを呼んでいると告げる。
 男性、しかも一時的な来客でしかない軽螢が、おいそれと翠さまの寝室まで立ち入ることはできないから、巌力さんが伝言に来たのだ。
 宦官として後宮で信頼を得ていた巌力さんは、ある意味特別扱いだからね。
 まったく、なんだよいったい。
 こっちは翠さまのことで、いっぱいいっぱいなのによお!!

「どしたの!?」

 私が若干イラつきながら聞くと、軽螢は、宝物として手に入れた水晶の小さな玉を掌に乗せて、見せてきた。

「なんか、昨日からこの玉の様子がおかしいんだ。泣いてるような、震えてるような、可哀想になっちゃう感じでさ」
「私には正直よくわからんが」

 翔霏が一瞥して素っ気なく言うように、軽螢が持っているのは、キレイにぼんやりと輝く水晶玉でしかない。
 試しにちょっと触ってみると。

 ドクン。

 一瞬、私の鼓動が強く速く脈を打ち、脳内に今、私が目にしている光景ではないビジョンが、唐突に浮かんできた。
 人が何人か立ったり座ったりしていて、その周囲には薄く煙が立ち込めている。

「麗央那(れおな)、どうした。大丈夫か?」

 一瞬、放心していた私を心配する翔霏。
 今、水晶玉が私の意識の中に見せた光景は。
 ハッと私は一つの仮定が頭に浮かび、軽螢に訊ねた。

「玉に異変を感じたのは、昨日からなんだよね!?」
「そうだよ。なんか俺も、頭に靄(もや)がかかったみたいに気分がパッとしなくてさ。ヒメさんの具合が悪いなら、なにか関係があるんじゃねえかって思ったんだ。ヒメさん、俺なんかよりずっと鋭い感じだから……」

 私は軽螢の手を引っ張り、自分の直感を信じて走る。

「一緒に来て! 昨日、安産のお祈りをした広間を調べなきゃ!!」

 私と軽螢は、儀式の祭壇が片付けられ、いつも通りに整然と模様替えし直された広間に入る。

「う、うわっ、ここだ! 間違いねえ! 水晶玉が割れるくらいに痛そうに苦しんでる……!!」

 なにか目に見えない力を感じ取った軽螢が、冷や汗を流しながら怯えたような声を漏らす。
 私たちは部屋の家具や調度品を片っ端からひっくり返し、壁の隅や床までを調べるにいいだけ、調べた。

「軽螢、これは……」

 まず最初に翔霏が、見慣れない不自然な小さな紙の札を数枚、発見した。
 人の目から隠れるように、家具類の陰に貼り付けられていたのだ。

「鎖符(さふ)じゃねえか」
「なにそれ?」

 軽螢が言うその単語を、私は知らない。

「体や魂を縛る呪符だよ。豚や羊を締めるときなんかに、暴れないように大人しくさせるための禁呪なんだ。なんでこんなお屋敷に……」

 鎖の模様が描かれたその札を手に取り、軽螢が教えてくれた。
 家畜を制御するための、古くから伝わるおまじないだと言う。
 動物を飼育することに慣れている軽螢だから、一目見て分かったんだね。

「そうか、貴妃殿下は八畜(はっちく)の『亥(いのしし)』の末裔だから、豚や猪を戒める呪いが効いてしまうのか……」

 翔霏が顎に指を当て、深刻な顔で呟いた。
 そう言えば恒教(こうきょう)にも書いてあった。
 八畜の末裔であるそれぞれの氏族は、象徴する動物と強い結びつきがあるのだと。
 それを聞いて泣きそうになってる私の肩をポンと叩き、軽螢が力強い顔で言った。

「他にも呪符が隠されてねえか、みんなで手分けして探そう。昨日の法師連中、あいつらが屋敷中に仕掛けて行ったに違いねえや。なにが安産祈願だよ。どっかの悪い奴に頼まれて、ヒメさんとお腹の赤ん坊に危害を加えに来やがったんだ」

 私は涙を引っ込めて、コクリと頷く。
 今は翠さまの心身を縛り付けている呪いを解除することが、最優先だ。
 私たちは屋敷の皆さんに事情を説明し、入り口や出口、門や塀、庭の中からあらゆる場所を念入りに調べて、数十枚に上る呪符を回収した。
 解呪にもなにやらの複雑な手順が必要とのことなので、ひとまず呪符を甕(かめ)の中に入れて封印し、今度こそは信頼のおける別の法師さまを呼ぶことになった。
 インチキ法師を派遣した角州公(かくしゅうこう)にも、強く問い正さなければいけない。
 なにせ、皇帝陛下の御子に手を出したのだから。
 屋敷中がひっくり返るように慌ただしく動き回り、考え得る手段を打ち終えた夜半。
 一同は沈んだ顔で控えの間に。
 腑に落ちない、と言う顔で巌力さんが言った。

「司午(しご)貴妃はまことに強力な呪術破りの霊威(れいい)をお持ちのはず。相手の呪いがよほど強力なのでござろうか……」
「え、そうなんですか?」

 そんなことも今まで知らなかった私に、少し呆れるように毛蘭さんが教える。

「いつだったか、後宮で呪いの人形がどうのと騒ぎが起こったでしょう?」
「懐かしいですね。あのときもバタバタして大変でした」

 人も亡くなるし、嘘の推理はでっち上げたし、後始末もそこそこにお葬式で走り回ったし。
 来たばかりの後宮の忙しさに、混乱しまくっていたのを、昨日のことのように思い出すよ。

「翠さまが呪いなんてないってきっぱり言い切ったのは、後宮の西苑(さいえん)で呪いの気配なんて見つけようものなら、翠さまが飛んで行ってすべて打ち破ってきたからなの。その翠さまが、どうしてこんなつまらない鎖術(さじゅつ)なんかに……」

 哀しみながら疑問に暮れる毛蘭さんに、玉楊さんが一つの推論を示した。

「……おそらく、主上の御子をお腹に抱えているからでしょう。主上の属する『未族(びぞく)』が持つのは、結界を『作り、保つ』能力。翠蝶(すいちょう)が持つ呪いを『破る』能力と打ち消し合って、双方の異能が効果を失っている状態なのだと思うわ」

 そう言えば皇帝陛下の先祖神は、八畜の『未(ひつじ)』だった。
 羊は、囲いの中で仲間と共に協調して生きる、大人しく優しい動物。
 先代と今上の皇帝陛下が穏やかで理性的、慈悲深い方であるのがそれを強く象徴している。
 それに対して豚や猪は、ときに囲いを打ち破る、荒々しく力強い獣だ。
 玄霧さんや翠さまを見ていると、なるほどなと思うし、確か首狩り軍師を生んだ除葛氏(じょかつし)も、亥族の末裔だわ。
 結ぶ力と破る力が体内で相殺し合った今の翠さまは、なんの異能も持たず、呪いにも無防備な、か弱い一人の妊婦でしかないということか。
 暗い雰囲気の中で、全員が溜息を吐きながら押し黙る。
 この場はお医者さんに任せて、後でやって来るちゃんとした法師さんの解呪を待つしかない。
 私は黙って席を立ち、自分の部屋へ向かおうとした。
 旅荷物を、作らなくては。
 私の翠さまに。
 いいや、翠さまだけじゃねえんだ。
 そのお腹で健やかに育って行く赤ちゃんにまで、ろくでもないことをしようとしたやつらがいる。
 大事な大事な宝物に手を出された私の取るべき行動は、一つだけ。

「だめよ、麗央那」

 誰よりも先に玉楊さんに悟られ、手を握って制される。
 私の鼓動が、怒りに燃えて激しく高鳴っていることが、玉楊さんの鋭い聴覚に知られてしまったのだ。

「離してください。私を甘く見たら、私の大事な人たちに手を出したらどうなるか、まだ理解してない多くの馬鹿どもに、思い知らせてやらなきゃならないんです」

 涙と声の震えを必死で抑えて言った私。
 そうだよ、まだわからないらしいな?
 私を怒らせたら、私を敵に回したら。
 家が焼かれて、毒が撒かれる程度じゃ済まないんだぞ!
 知らない、分からない愚かものどもには、怒りの烙印を叩きつけて、体でわからせてやるしかない!!

「こんなくだらないことをする連中は、火あぶりの中、毒の串で滅多刺しにして、牛に体を引き裂かせて、豚に死体を食わせてやる。地獄への道行きで、自分たちの無知を後悔させてやる! 煮えたぎる血の池の中で、永遠に翠さまに懺悔し続ければいい!!」

 激情に狂う私の味方をするでも、止めるでもなく。
 軽螢が横で冷静に言った。

「麗央那は言い出したら聞かねえから、行くなら行くでいいけどよ。どこの誰が仕掛けて来たかもわからん状況で、なにをどうすんだよいったい。神台邑(じんだいむら)を焼いた覇聖鳳(はせお)とは違うんだぜ?」
「それは、ええっと、頑張って探すし」

 うう、正論パンチで麗央那、沈没。
 玉楊さんに続いて巌力さんも私を制止した。

「麗女史の怒りは痛いほど、奴才(ぬさい)も分かりまする。しかし、今は落ち着かれよ。当てもなく藪に突っ込んではなりませぬ」

 さすがに巌力さんに阻まれては物理的に身動きが取れない、そんな状況の中。
 突然に、歌うような明るい声。
 
「はーいちょっとお邪魔しますよーっと。武家の屋敷の割には不用心だねえ。簡単に忍び込めちゃったよ。見張りの連中に払ってる給金が少ないのかい?」

 一人の知らん女が、控えの間に割り込んで来て、あっけらかんと失礼な挨拶を口にした。
 いや、彼女について「知らん女」と形容するのは正確ではない。
 名前は知らないけれど、私たちは彼女の顔と、立場を知っている。

「間者の未亡人さん! 除葛(じょかつ)軍師の下働きの!」

 そう、戌族(じゅつぞく)の土地で私たちが大立ち回りをしていたとき、最後の最後に表れて、重要な助力をしてくれた、その彼女だった。
 相変わらず、翔霏と別方向で口が悪い。

「あー、その呼び方で定着されても面倒臭いから、あたしのことは『乙(おつ)』って呼んでくれればいいよ。あのときのみなさんは誰も死んでないみたいね。でもやっぱり司午の貴妃さまが倒れちゃったのかあ。除葛のやつが読んだ通りとは」

 愛想のいいのか悪いのかわからないことを言いながら、間者未亡人こと乙さんは、勝手に椅子に腰掛ける。
 そして余っていた杯に無断で手ずからお茶を淹れて、ハーと一息ついて。

「央那(おうな)ちゃんたちに、除葛から伝言を預かってるよ。書面にできない話だったから、ちゃんとその賢いおつむに叩き込んでおきな」

 文書に残せないということは、かなりの機密を抱えてここに来た、もしくは書く暇もなかったということだろうか。
 そう前置きして、一つずつゆっくりはっきりと、乙さんは言った。

「まず第一に、司午貴妃が赤ん坊を産むことを嫌がって邪魔して来てるのは、正妃さまでもなければ、そのご実家の素乾家(そかんけ)でもないからね。早まって素乾のお屋敷に火なんかつけるんじゃないよ。一番有り得そうだから、先に忠告しておくわ」
「え、違うんですか」

 私はてっきり、翠さまが男子を産んでしまったら正妃の座が危うくなると思った素乾家の勢力を、第一容疑者に数えていたのだけれど。
 要は、翠さまを害して最も利益があるのは誰かと言う発想だ。

「翠蝶は朱蜂宮(しゅほうきゅう)の秩序維持に欠かせない存在だから、正妃さまが翠蝶をどうのと言うのは有り得ないわ。里帰りで御子を産むことが許されているほどに、主上や正妃さまからの信任が厚いのだから」

 玉楊さんも見解を補足してくれて、私は納得するしかない。
 正妃、素乾家が首謀者でないというなら、謎はますます深まってしまった。
 私の混乱をよそに、乙さんは話を続ける。

「第二に、ざっと屋敷の空気を見た限り、この呪いは昂国(こうこく)の外、西方の沸教(ふっきょう)の力も入ってるね。きちんと徹底的に除去したいなら、呪法で名高い沸(ふつ)の寺も当たってみた方が良いよ」

 それを聞き、翔霏が懐からボロっちい木札を取り出し、言った。

「確か蹄州(ていしゅう)の大海寺(だいかいじ)は、護法、呪法、解法で広く知られた寺だ。母さんたちが芝居の巡業で蹄州に行くときも、厄除け祈願で必ず立ち寄ると言っていたな……」

 姜さんが箱に入れた、クソの役にも立たなさそうな木札が、ここで活きて来るとは。
 続いて乙さんが言った三つ目のこと。
 どうやらこれが本命の本題らしい。

「第三に、司午の貴妃さまに危害を加えようとしてるやつのことは、除葛も含めて表の役人も、すでにちゃんと調査を始めてる。けれど、なかなか調べの手が及ばない空間が、昂国の中にはあるよねえ?」

 その場所を私は、知っている。
 なにかしらの事件が起きても、一般の役人が滅多に調べに来ない、閉ざされた秘密の園。
 かつてそこで、央那と名乗る女が、働いていたのだ。

「朱蜂宮ですか」
「その通り。今、後宮の南苑(なんえん)に、除葛の遠戚のお妃さまがいる。ガリ勉の央那ちゃんなら名前にも聞き覚えがあるだろ?」

 三百人近く存在している、後宮の妃。
 いつか建物の図面と併せて、クソ暗記したお妃全員の名前を頭に浮かべる。
 南苑にいまするお妃の中で、除葛の姓を持つお方は。

「確か、除葛漣(じょかつれん)さま、美人の位階の」

 私が正確にその名を記憶し答えたことに、満足げに乙さんは頷く。

「よくできました。あのモヤシ軍師は、漣美人の侍女として央那ちゃんに後宮に入ってもらって、中のことを調べて欲しいって思ってる。司午貴妃と、そのお腹にいる御子への呪いをかけた張本人は、後宮にいるかもしれないってあいつは読んでるんだね」

 姜さんは自分で調べ切れない後宮の内情を、出戻り侍女として自然に入って行ける私に、内偵して欲しいと考えているのか。
 確かに私は姜さんと知り合いだし、その縁で漣美人の侍女に復職したというシチュエーションなら、誰に怪しまれることもないかも。
 いや、しかし、私は重大事件を引き起こした、お尋ねものでもあるのだぞ。
 ううむと考えて悩んでいる横で、軽螢が言った。

「麗央那が後宮に行くンなら、俺も河旭(かきょく)に行こうかな。お城の工事やってる連中に、石碑の礼も言わんとならんし」
「軽螢、来てくれるの?」

 私が明るい顔になって聞くと、ちょっと照れたように軽螢は頭をポリポリと掻き。

「麗央那がいなくなるなら、ここにいても俺、特にすることねえもん。呪いがあるのはかろうじて感じ取れるけど、解呪なんて全然わからんし……」

 居心地悪そうに、自虐自嘲した。
 話を聞き終えて、翔霏が腕を組みながら、難しい顔で言う。

「私は大海寺というところがなにか気になるんだ。一度そこに行って、それから麗央那が働く河旭に向かおうと思う。都からそれほど遠くもないし、大した日にちもかからないだろう」
「じゃあ俺は紺さんと一緒するついでに、少しその辺りをぶらついて街の噂を探ってみるかな。官吏が調べないような思いがけないことが見つかるかもしれん」

 椿珠さんが、翔霏のお伴に付いてくれると申し出た。
 武力の翔霏と、世渡りの椿珠さんのコンビなら、きっと収穫の多い行脚になるだろう。
 なんか、私が後宮の侍女に復職する前提で話が進んでしまっていますね、これは。
 話がまとまりかけている中、玉楊さんが静かに言った。

「わたくしは、翠蝶の様子をここのお屋敷で見守りたいと思います。巌力、あなたはあなたの思うようにしていいのよ」
「奴才はいつでも、環(かん)貴人のお側に」

 玉楊さんと巌力さんは、引き続きここ、司午屋敷で翠さまを守ってくれるようだ。
 優しい玉楊さんの音楽による癒しと、文字通り誰よりも力強い巌力さん。
 うん、銃後の憂いはなにひとつとして存在しない!
 各々の決意を固めて力強く私たちが頷く。
 間者の乙さんはいつの間にか、相変わらず挨拶もなしに消えていた。
 その場に、翠さまの見守りをしていた毛蘭さんが、疲れた顔で訪れた。
 準備と行動に移ろうとする私たちを見て、すべてを悟ったのだろう。

「あ、ああ、また、またなのね……」

 私の身体を抱き締めて、泣きながらこう言ってくれた。

「どうして、どうして央那ばかりこんなに辛い思いをしなくてはいけないの? いったい誰が、央那にこれ以上戦えと言ってるのよ……これが天の定めなら、そんなの、哀しすぎる……酷すぎるわ……」
 
 私は毛蘭さんの体をぎゅうっと抱き返し。
 自信たっぷり、元気良く。
 心配など一つもないという表情が自然に出て、言ったのだ。

「大丈夫、大丈夫ですよ。私が本気を出せば、運命だって裸足で逃げ出します。私はそれだけ頑張れるやつだって、自分で自分を、信じてますから」

 そう、哀しいことなんかなにもない。
 私は、私と言う命を生きて、生き切るんだ!
 そんな私の往く道を邪魔する連中は。
 片っ端から、燃やして、毒に苦しめて、引き裂いて切り刻んで、踏みつぶしてやる!!
 私を待つ次の戦場は、かつて慣れ親しんだ、皇都は河旭城の中心、奥深く。
 静かに佇む女たちの園、朱蜂宮。
 陰謀の待ち構える後宮に、たとえ鬼が出ても蛇が出ても。

「私の方が、よっぽど怖いんですよ」

 寝台の上ですうすうと眠り続ける翠さまの耳元で、私は言った。
 気のせいか、翠さまの口角が、ニヤ、と上がったように見えた。
 翠さまが次に目を覚ますまでに。
 全部、キレイに片付けて掃除して、始末してやる。
 汚いものの掃除は侍女である私の、本職本業なんだぞ。
 待ってろよ、朱蜂宮。
 お前に聞き分けがないようなら。
 また、燃やしてやるんだから。



(後宮の侍女、休職中に仇の家を焼く 
 ~泣き虫れおなの絶叫昂国日誌~ 第二部    完)
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