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Episode8 聖遺物を求めて

第38話 奪還と放棄

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「皆の者、苦労をかけてすまなかったが、ようやくターパを奪還することができた!心から礼を言いたい!」

”オオオーー!!”

 ここは、エプールマウンテンの西方に位置する、ザパート連合公国の都市の一つターパにある、領事との謁見の間。王国で言うところの、玉座が置かれ国王が他国からの使者や騎士、国民と謁見を行うための場ということになる。

 ここに、ランデス率いる公国軍を退けたターパ領事アンティムの私兵、公国軍に身を置きながらも奪還戦では公国側から寝返り俺たちと共に闘った公国兵、そして俺たち6名が集結し、アンティムからターパ奪還宣言を聞いたという訳だ。

「領事様………本当にご無事で何よりでした!」

「アンティム様が捕えられたと聞いた時は、本当に血の気が引く思いでした…」

「それでも、お前たちは私を信じ、私の帰りを待ってくれていた。本当に感謝する」

「そして、公国軍から寝返った兵たちも、よくぞ私たちに味方をしてくれた!私たちと一緒に闘ったあの時から、お前たちも私の兵士、いや………家族となったのだ!本当によくやってくれた」

「アンティム様!!」

「一度はランデスに降った我々を、そこまで言ってくださるとは………」

「アンティム様!ばんざーーい!!ターパ軍、ばんざーーい!!」

 アンティムの私兵、そして元公国軍の兵が互いに握手をし、互いを激励しているのが見える。

「…これが、連合公国の盟主アンティムの力なのね…」

「あのスレスタ国王が惹かれるのも、うなずけるという訳だ」

 自分の名前を冠した歓声を、アンティムが右手を挙げて制する。

「皆、ありがとう。さて、ターパは奪還したものの、これで終わりではないのは、皆も重々承知のことと思う」

 そういうと、アンティムの視線と右手が、俺たち6人に注がれる。

「皆と一緒に闘ってくれたこの6人だが………アルモ、一歩前へ出てもらえるか?」

「はい」

 クレスの遺した聖遺物(アーティファクト)に身を包んだアルモが、その場から一歩前へ出る。

「既に気づいているものもいるかと思うが………アルモ殿は、三日月同盟の正史に伝わる、英雄クレスの末裔だ」

”ザワザワザワザワ………”

「おお、やはりあの井出達は………」

「どうりで強いはずだ!」

 再びアンティムの右手が挙がり、騒然としていた場に静寂が戻る。

「皆も知っての通り、ザパート連合公国の盟主である私が、愛するセレスタ国王の妃となることで、セレスタ大陸は再び一つの王国として再出発するはずだった。ところが、バルデワ領事のランデスのクーデターにより、公国軍はセレスタ王国軍と戦闘状態に突入してしまった。私は、この状況をどうにかしたいと思っている」

「英雄クレスの末裔のアルモ殿とそのお仲間の皆さんも、私と共にランデスと闘うことを約束してくれた。私は奪還したターパを放棄すると共に、ここにいるアルモ殿らと共に、セレスタ王国軍と合流し、ランデスの野望を打ち砕きたいと思っている。皆も、どうか私のこのわがままに賛同してはもらえないだろうか………」

 アンティムがそう言い終えると、一瞬、この場を静寂が支配した。

 だが…

「アンティム様!私たちはその命を貴女様に捧げた身。如何様にもお使いください!!」

「アンティム様の幸せを台なしにしたランデス率いる公国軍など、私たちの敵ではございません!!」

「命尽きるまで、私たちはアンティム様について参りますぞ!!!」

”オオオオオーーーー”

 静寂は一瞬にして打ち破られ、アンティムの提案をその場にいる全員が祝福した。

「皆、ありがとう。本当に、ありがとう…」

 アンティムの瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちる。

 懐疑的な顔をしながら、リーサが口を開く。

「アンティムさんは、ターパを放棄するとおっしゃっておいででしたが…」

「ランデスはこの後、公国軍の一部を裂いて、ここに差し向けるはずだ。故に、差し向けられた公国軍と交戦しないよう、こちらから戦地に赴き、セレスタ王国軍と合流しようって話さ」

「放棄されたターパの領民は、どうなるのかしら?」

「ランデスに賛同しないターパの領民は、ターパから立ち去るだろう。それに、公国軍が自国民を傷つけるようなことはしないはずだ」

「それなら、俺たちとアンティムさん、そしてここにいる兵が全員ターパを出払っても、大丈夫なんだな」

「ああ、そういうことさ」

”バタン…”

 ひとしきり涙を流したアンティムの元に、扉を開いた入ってきた伝令兵が駆け寄る。

「アンティム様!外にターパの領民が集まっています。皆、今後のことを心配しているようです」

「…どうやら、領民にもちゃんと説明をする必要がありそうだ。皆の者、出発は明日の12時とする!各自出発の準備を整え、再びここに集まってくれ!」

「「「御意」」」

”スタスタスタスタスタ………バタン”

 アンティムが部屋を出ると、兵士たちも別の扉から謁見の間を後にした。

「さて、俺たちも用意してもらった部屋でしっかりと休息をとろう」

「そうね………私は、多分明日みんなの役に立てるような状況にはならないだろうし…」

「アルモ!?」

「いえ、何でもないわ。アコード、私たちも早く部屋で休みましょう」

「??………そうだな」

 こうして俺たちはアンティムの用意してもらった部屋でしっかりと休息を取ると、次の日の12時に、再び謁見の間へと集結していたのだった。

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