101 / 103
Episode8 聖遺物を求めて
第46話 決裂
しおりを挟む
「…待たせてしまったな?」
「いや、我も今しがた、ここに着いたばかりだ。セレスタ王よ、そちらに腰をかけるがよろしかろう」
「うむ…」
公国軍を吸収したセレスタ王国軍約15万の軍勢と、インドゥーラ将軍率いるワイギヤ教軍約1万の間に設けられた、会談を行うための幕舎の中に、インドゥーラ将軍その人とその護衛2名、セレスタ王とその護衛であるアルモと俺が入り、セレスタ王インドゥーラに勧められるがままに腰かけると、会談が始まった。
「まずは、公国軍を殲滅させたとのこと、お祝い申し上げる」
「これも、後衛をインドゥーラ殿がしっかりと守備していたからこそと、余は思うておる」
「国王よ、それは出陣しなかった我への嫌味と捉えてよろしいか?」
「とんでもない。背水の陣で戦うことの愚かさは、インドゥーラ殿もお分かりのはずでは?」
「…まぁ、王がそこまで言うのなら、そういうことにしておこう。ところで…」
インドゥーラの目線が、アルモに向けられる。
その視線を感じたアルモが、表情一つ変えずに俺に精神感応(テレパシー)で脳内に話しかけてきた。
『…君の言った通りにしておいて、正解だったわね』
『…月明りの鎧、のことか!?』
『ええ。確かこの将軍は、セレスタ王から鎧を譲り受けることを条件に、セレスタ軍に味方するということになっているはず』
『ああ。いかに偽物とは言え、本物と瓜二つの鎧を見たことのあるこの将軍が、アルモの鎧を目にすれば、タダでは済まされないはず』
『君の先見の明には、恐れ入るわ…』
そんな脳内会話を知ってか知らずか、将軍がアルモの容姿を見てセレスタ王に質問を投げかける。
「王の護衛のうち女の方なのだが…我にはちと見覚えがあるように感じるのだが…」
「辺境の一国の、所詮近衛騎士程度の身分の者を、将軍のような方が知っているはずもありますまい」
セレスタ王の提案で、俺とアルモはセレスタ王の近衛騎士が身に着ける武器・防具を装備して、この会談に臨んでいた。
インドゥーラの着眼点を考えれば、セレスタ王の先見の明は、俺以上であると言えるだろう。
「…それもそうであるな………それよりも王よ。確認しておきたいことが一つある」
「…インドゥーラ将軍よ。申してみよ」
「王がワイギヤ教に寄進したクレスの鎧のことだが………」
「…あの鎧が、何か!?」
「あの鎧は、わが教団の伝承によれば、保有しているワイギヤの杖と同じ聖遺物(アーティファクト)で、近づけることで呼応反応が出るはずなのだ。だが、本部に送った鎧と杖の間には、全く反応が見られず、これに疑念を抱かれた我が教祖が魔法をかけたところ、鎧は木端微塵に消し飛んでしまったという。これが何を意味するのか、王なら理解できるはずでは?」
「つまり………将軍は余が教団に差し出した鎧が偽物であるとでも?」
「それ以外で、この状況をどう説明するおつもりか!?」
「…そもそも、中立地帯に保管されていたクレスの鎧が偽物であった可能性は?」
「…聖遺物(アーティファクト)は、教団の始祖ワイギヤ、そしてクレスの子孫でないと使えないようにできておる。子孫でない者は、運ぶだけでも大変な目に遭うのだ。故に、組織的に運び出すなどしない限り、彼の場所からクレスの鎧を運び出すのは困難であろう。そして…」
“ヒュン!”
インドゥーラが短刀のようなものをアルモに向かって投げつけた。
“ササッ”
“キィン!!”
インドゥーラの動きを警戒していた俺たちだったが、アルモは投げつけられた短刀を完璧にかわすことができずに兜の端を直撃。兜は短刀と共に地面に転がった。
“バサッ…”
兜が脱げると同時に、アルモの金色に輝く長髪が露わとなる。
「その金髪にその素顔は………やはり、そなたはS級指名手配犯の『アルモ』だな!!」
“キィィィィィン…”
“カチャリ…”
それまで着座していたインドゥーラとセレスタ王が瞬時に立ち上がり、それぞれの護衛のところまで下がると、護衛がそれぞれの得物を鞘から抜き去り、目の前に構える。
「セレスタ王よ!やはりそなたは、教団を裏切っていたのだな!!」
“ガガッ………ドン!”
“バサッ…”
その場に勢いよく立ち、座っていた椅子を倒すと同時にマントを翻したセレスタ王が、インドゥーラ将軍に言い放つ。
「裏切る、ですと!?そもそも連合公国と我が国を戦わせるため、ランデスを唆(そそのか)し、公国の盟主アンティムを幽閉させ、戦争に発展させたのは、インドゥーラ将軍、そなたであろう!!」
「………セレスタ王よ…愚王であれば教団の庇護の元、余生を過ごせたであろうに………賢王であるが故、寿命を縮めたな!!」
“ヒュゥゥゥゥゥン…”
隙間風が吹き抜けるような音と共に、周辺から魔力による制限が解除されていくのが分かる。
「アルモ!!」
「ええ。将軍の一言で、バリアが解除されたんだわ!!」
「セレスタ王、それにS級指名手配犯のアルモよ。ここで我が刃の餌食となるがいい!!」
“キィィィィィン…”
バリアが解除され、魔法で呼び出したのだろう。将軍インドゥーラが腰に携えた鞘から得物を抜き去ると、俺たちに向かって構えたのだった。
「いや、我も今しがた、ここに着いたばかりだ。セレスタ王よ、そちらに腰をかけるがよろしかろう」
「うむ…」
公国軍を吸収したセレスタ王国軍約15万の軍勢と、インドゥーラ将軍率いるワイギヤ教軍約1万の間に設けられた、会談を行うための幕舎の中に、インドゥーラ将軍その人とその護衛2名、セレスタ王とその護衛であるアルモと俺が入り、セレスタ王インドゥーラに勧められるがままに腰かけると、会談が始まった。
「まずは、公国軍を殲滅させたとのこと、お祝い申し上げる」
「これも、後衛をインドゥーラ殿がしっかりと守備していたからこそと、余は思うておる」
「国王よ、それは出陣しなかった我への嫌味と捉えてよろしいか?」
「とんでもない。背水の陣で戦うことの愚かさは、インドゥーラ殿もお分かりのはずでは?」
「…まぁ、王がそこまで言うのなら、そういうことにしておこう。ところで…」
インドゥーラの目線が、アルモに向けられる。
その視線を感じたアルモが、表情一つ変えずに俺に精神感応(テレパシー)で脳内に話しかけてきた。
『…君の言った通りにしておいて、正解だったわね』
『…月明りの鎧、のことか!?』
『ええ。確かこの将軍は、セレスタ王から鎧を譲り受けることを条件に、セレスタ軍に味方するということになっているはず』
『ああ。いかに偽物とは言え、本物と瓜二つの鎧を見たことのあるこの将軍が、アルモの鎧を目にすれば、タダでは済まされないはず』
『君の先見の明には、恐れ入るわ…』
そんな脳内会話を知ってか知らずか、将軍がアルモの容姿を見てセレスタ王に質問を投げかける。
「王の護衛のうち女の方なのだが…我にはちと見覚えがあるように感じるのだが…」
「辺境の一国の、所詮近衛騎士程度の身分の者を、将軍のような方が知っているはずもありますまい」
セレスタ王の提案で、俺とアルモはセレスタ王の近衛騎士が身に着ける武器・防具を装備して、この会談に臨んでいた。
インドゥーラの着眼点を考えれば、セレスタ王の先見の明は、俺以上であると言えるだろう。
「…それもそうであるな………それよりも王よ。確認しておきたいことが一つある」
「…インドゥーラ将軍よ。申してみよ」
「王がワイギヤ教に寄進したクレスの鎧のことだが………」
「…あの鎧が、何か!?」
「あの鎧は、わが教団の伝承によれば、保有しているワイギヤの杖と同じ聖遺物(アーティファクト)で、近づけることで呼応反応が出るはずなのだ。だが、本部に送った鎧と杖の間には、全く反応が見られず、これに疑念を抱かれた我が教祖が魔法をかけたところ、鎧は木端微塵に消し飛んでしまったという。これが何を意味するのか、王なら理解できるはずでは?」
「つまり………将軍は余が教団に差し出した鎧が偽物であるとでも?」
「それ以外で、この状況をどう説明するおつもりか!?」
「…そもそも、中立地帯に保管されていたクレスの鎧が偽物であった可能性は?」
「…聖遺物(アーティファクト)は、教団の始祖ワイギヤ、そしてクレスの子孫でないと使えないようにできておる。子孫でない者は、運ぶだけでも大変な目に遭うのだ。故に、組織的に運び出すなどしない限り、彼の場所からクレスの鎧を運び出すのは困難であろう。そして…」
“ヒュン!”
インドゥーラが短刀のようなものをアルモに向かって投げつけた。
“ササッ”
“キィン!!”
インドゥーラの動きを警戒していた俺たちだったが、アルモは投げつけられた短刀を完璧にかわすことができずに兜の端を直撃。兜は短刀と共に地面に転がった。
“バサッ…”
兜が脱げると同時に、アルモの金色に輝く長髪が露わとなる。
「その金髪にその素顔は………やはり、そなたはS級指名手配犯の『アルモ』だな!!」
“キィィィィィン…”
“カチャリ…”
それまで着座していたインドゥーラとセレスタ王が瞬時に立ち上がり、それぞれの護衛のところまで下がると、護衛がそれぞれの得物を鞘から抜き去り、目の前に構える。
「セレスタ王よ!やはりそなたは、教団を裏切っていたのだな!!」
“ガガッ………ドン!”
“バサッ…”
その場に勢いよく立ち、座っていた椅子を倒すと同時にマントを翻したセレスタ王が、インドゥーラ将軍に言い放つ。
「裏切る、ですと!?そもそも連合公国と我が国を戦わせるため、ランデスを唆(そそのか)し、公国の盟主アンティムを幽閉させ、戦争に発展させたのは、インドゥーラ将軍、そなたであろう!!」
「………セレスタ王よ…愚王であれば教団の庇護の元、余生を過ごせたであろうに………賢王であるが故、寿命を縮めたな!!」
“ヒュゥゥゥゥゥン…”
隙間風が吹き抜けるような音と共に、周辺から魔力による制限が解除されていくのが分かる。
「アルモ!!」
「ええ。将軍の一言で、バリアが解除されたんだわ!!」
「セレスタ王、それにS級指名手配犯のアルモよ。ここで我が刃の餌食となるがいい!!」
“キィィィィィン…”
バリアが解除され、魔法で呼び出したのだろう。将軍インドゥーラが腰に携えた鞘から得物を抜き去ると、俺たちに向かって構えたのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
16
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる