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Episode8 聖遺物を求めて

第47話 アヴァター

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“ピカァーーーン!!”

 インドゥーラが魔法で得物を呼び出し、その刀身を抜き去ったその時だった。

「陛下…どうか、アンティム様のためにも、お下がりください!」

 全身に眩い光を纏ったアルモが、武器を持たないセレスタ王に俺たちの後ろまで下がるよう促す。

「!!!」

 そして、眩い光で幕舎内が埋め尽くされ、一面が白い世界となった次の瞬間、一瞬にしてアルモから放たれていた光が失われ、アルモの身体にはこれまでに手に入れたクレスの聖遺物(アーティファクト)が、俺の腰にはアルモが俺に託したショートソードが装着された。

「アルモ………一体どうやって…」

「強く念じただけよ…『我等が元に戻れ』ってね」

「うぬぬぬぬ………小癪(こしゃく)な真似を!!!」

「将軍、それはこちらのセリフだわ。バリアを勝手に放棄した上、丸腰の私たちを不意打ちしようとしたのだから!!」

「騎士道精神に反するとでも!?笑止千万!!教団からS級指名手配を受けているお前に、そもそも騎士道精神を語る資格などないわ!!クレスの聖遺物(アーティファクト)と共に、我が得物の錆にしてくれる!」

“ザザッ”

 そう言い放つと同時に、インドゥーラはこちら目がけて突進を繰り出した。

“ギィン!”

“ブゥン!!”

 それを、俺のショートソードとアルモの月明りの剣をクロスさせ受け止めると、前方へとインドゥーラの体を押し返した。

「ぐぬぬぬ………やはり2対1では分が悪いか………ならば…」

『アヴァター!!』

“ブゥゥゥン…”

 インドゥーラが魔法を放つと、重点音と共にインドゥーラから放たれた、可視化された膨大な魔力が集結し、インドゥーラの横に人型となって集まると、次の瞬間にはインドゥーラと瓜二つの容姿となっていた。

「アヴァター………魔力のほぼ全てを消費して、自らの完全な分身を作り出す高位魔法だわ」

「ということは、隣にいるインドゥーラの実力は…」

「ええ。インドゥーラそのものということよ!!」

「「この魔法のことを知っているのなら話は早い!我々の攻撃、いつまで耐えられるかな!?」」

“ザザッ”

“ザザッ”

 分身と共に口を開いたインドゥーラは、言い終わると同時に再度、俺たちに突撃を繰り出してきた。

“ギィン”

“ギィン”

 俺は分身の、アルモはインドゥーラ本体の攻撃をその場で受け止める。

 が、先ほどのように、インドゥーラ(とその分身)を前方へ押しやることができない。

「分身が…本体と同等の…力を持っている、というのは…どうやら…正しい、らしいな…」

“カタカタカタカタ…”

 俺の得物の刀身が、インドゥーラの力に圧され、情けなく震えている。

 アルモはというと、刀身の震えこそないものの、インドゥーラの力を前に押しやれないでいる。

「切っ先が震えておるぞ!所詮、お主の力は、そこの犯罪者の力を借りねば、一人前ではないということか!!」

「所詮、お主はS級指名手配犯。そこの体たらくの力を借りねば、半人前ということさ。クレスの子孫が、聞いて呆れる。聖遺物(アーティファクト)も、宝の持ち腐れ、という訳だ!!」

 二人のインドゥーラが、俺とアルモに罵声を浴びせる。

「我は、力の半分も出していないのだぞ!もっと我を楽しませてはどうだ!!」

“ブゥン!!”

“ブゥン!!”

 二人のインドゥーラが同時に俺たちを力任せに押しやると、俺たちの身体は宙を舞い、幕舎を支える柱へと打ち付けられた。

「ぐはっ!」

「うぅぅ…」

 柱に打ち付けられた衝撃で、俺とアルモの口から、紅(くれない)色の液体が迸(ほとばし)り、地面に敷かれた絨毯を紅く染めた。

「はぁ…はぁ…大丈夫か、アルモ!?」

 柱に打ち付けられた直後、どうにかその場に立った俺は、唇についた血液を右腕で拭いながら、アルモに尋ねた。

「はぁ………はぁ………私は、何とか…君は?」

「俺も、どうにか大丈夫だ」

「あの将軍の力………これまでの将軍の比じゃないわね…」

「ああ。『アヴァター』が魔力のほとんどを消費してしまう魔法ならば、その力を最大限に活かすためには、自らの身体能力を向上させるしかない…」

「その通りだ!我は、教軍のどの将軍よりも身体能力の向上に努めてきた。故に、『アヴァター』は最後の切り札。それを我に使わせたお主たちは、賞賛に値する」

「だが、遊びはここまでだ。教祖様より賜ったこの槍で、絶命するが良い!!」

「「出でよ!ヴァージュラ!!」」

 二人のインドゥーラがそう言い放つと、二人の身体から猛烈な突風が発生し、一瞬にして幕舎は空の彼方へと飛んで行った。

 そして、露わになった空を見ると、そこは雷雲に覆われ、二振りの金色に輝く槍が雷雲の中から現れると、インドゥーラの元へと落下していき、それぞれがかざした右手に収まった。

 槍がそれぞれの右手に収まると、突風は治まり、空を覆っていた雷雲も次の瞬間には跡形もなく消え去った。

「陛下!幕舎の外で待機していた、そこにいるセレスタ兵と共に、この場から離れてください!」

 俺たちの戦闘を、幕舎の隅で見届けていたセレスタ王に、アルモが声をかけた。

「ここからの闘いは、より一層激しさを増すものと思われます。どうか、安全な場所まで避難してください!」

「わかった。余が近くにいたのでは、そなたらも存分な力を出すことができまい」

「申し訳ございません。陛下…」

「だが、余は退散はせぬぞ。そなたたちが見える場所まで後退し、この闘いを見届けようぞ!」

「ありがとうございます。陛下」

“パカラッパカラッパカラッ…”

「陛下…剣と馬をお持ちしました」

「ウム、ご苦労。それでは、この場からすぐに離れるのだ」

「御意!」

「アルモ殿にアコード殿。健闘を祈る!」

 そう言うと、セレスタ王と兵は、その場から立ち去った。
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