秋風に誘われて

剣世炸

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けやき商編 第3章 遠征

第4話 届かぬ想い

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 食事を終えた俺は、ホテル26階の展望フロアで宇都宮の夜景を眺めていた。

『ずいぶんと後輩に好かれているみたいだな…』

『いや、何でもない。沢継、いろいろな意味で、視野をもっと広く持った方が良いぞ…』

「(若林先生は、俺に何であんなことを…)」

 食事の前に先生から言われたことの真意が分からず、俺は夜景の光に目を細めた。


***


「…私は、遠征には行かないわよ。沢継君」

「亜美…いや、鳳城。お前はけやき商のマネージャーリーダーじゃないか」

「でも、今回の遠征は選手限定なんでしょ?私の出る幕じゃないわ」

「そうかも知れないが…」

「じゃあ、私はこれから予備校に行くから。じゃあね」

「ちょっと待てよ、鳳城!」

 すっかり葉桜になった木々が並ぶ体育館から校門までの道を、俺の呼び止めに応えることなく進む亜美の姿を、俺はただ茫然と見守ることしかできなかった。

 俺の告白に、1年以上返事を返さない亜美。世間一般から見れば、それはもう「振られた」のと同じなのかも知れない。

 だが、だからといってはっきりと断られた訳でもない。それでいて、俺の亜美に対する想いが失われた訳でもない。

 はっきりと断られた方が、もしくは俺の亜美への想いが宇宙の彼方へと飛び去ってしまった方がどんなに楽なことか。最近の俺はそんなことばかり考えるようになっていた。

「煉先輩?」

 亜美の後ろ姿が校門の外へ消え失せた頃、俺を呼ぶ馴染みの声が聞こえた。

「美琴。それに真琴と紗代も…」

「こんな所でどうしたんです?」

「部長。パソコン室の片付けは終わって、鍵は職員室に返しておきましたよ」

 真琴の報告と同時に、両手で抱えるように持っていたカバンを、俺の前に差し出す美琴。

「…それは、俺のカバン。美琴、ありがとう」

「そんな、お礼を言われる程大したことはしてないですよ!」

 長い髪を結んでいる大きな赤いリボンを揺らし、満面の笑みを浮かべる美琴。

「…それじゃ、今度の遠征の話でもしに、駅前の100円ラーメンにでも行くか。女の子にカバン持ちなんかさせちまったし、俺のおごりで行こう!」

「先輩!本当ですか?お姉と紗代も一緒に行こう!」

「部長!いいんですか?」

「ああ、遠征前の景気づけって奴さ。もっとも、100円ラーメンでどの程度景気がつくか、分からないけどな」

 自分自身でも、亜美のことを棚上げしたい気分だったし、目の前にいる3人の後輩との関係を、今よりももっと良い関係にしたいと瞬間的に思った。

「煉先輩。そうと決まれば早く行きましょう!これからの時間帯は、あの店すっごく混みますよ!」

「確かにその通りだな。よし、それじゃいくか」

「はい!」

 薄暗くなりつつある桜並木を、俺たちは歩き始めた…

***

「…んぱい?先輩?煉先輩?」

 夜景の魔力で回想の世界に浸っていた俺は、またもや馴染みの声に呼び戻された。

「…美琴?どうしてここへ?」

「ここのホテルの夜景がとっても綺麗だと聞いて、来てみたんです。先輩は?」

「俺か?俺は…ちょっと考え事をしててな…」

「鳳城先輩のことですか?」

「…まあな」

「部員のみんなが噂してますよ。部長とマネージャーリーダーがうまくいっていないって…」

「…そもそも、『うまくいく』とか『いかない』とかのレベルの話じゃないんだけどな…」

「えっ?」

「事情を詳しく知っている真琴や美琴以外の部員は、きっと俺と鳳城が付き合っていると思っているよな」

「はい。きっとそう思っていると思います。お姉から「誰にも言うな」って言われてるから、私も紗代以外には誰にも話していませんし…。あっ、でも私も詳しい話までは知りませんけど…」

「…そうだよな。鳳城に告白して、もう1年位になる。鳳城は、俺の告白にYESともNOとも答えなかった。何回か答えの催促も試みているけど、未だに答えを俺は聞いていない」

「先輩、それって…」

「こんな話を聞けば、誰でも「それはもう脈なし」って言うよな。俺だって、友達からこんな相談されたら、それはもう脈はないだろうって助言するさ。でも、俺は亜美からはっきりと断られるか、俺の想い自体を断ち切ることのができないと、どうやら先へは進めないみたいだ」

 俺の言葉に一瞬だけ陰りを見せる美琴だったが、その陰りが何を意味するのか、俺には全く理解することができなかった。

「…先輩!私は先輩と鳳城先輩のことを応援してますよ!だから、諦めないで下さい!1年も片思いのまま、相手のことを想い続けていられるなんて、私はとっても素敵なことだと思います。鳳城先輩も、煉先輩からこんなに想われているのに、どうして…」

 応援しているというのに、目に涙を浮かべる美琴。

「…美琴?どうしたんだ?」

「…何でもありません。私も、煉先輩と同じような経験をしたことがあるんで、それで…」

「そうか…」

「煉先輩。私で良ければ、これからもこんな時間を作って下さい。先輩より人生経験は短いけど、女の子の気持ち位は、先輩にお伝えできると思うんです!」

「美琴。ありがとう。美琴に話したお陰で、少し気持ちが楽になったよ」

 俺の言葉に、美琴は笑顔で答えてくれた。

 それからしばらく、展望フロアで恋愛とは関係ない世間話をした俺と美琴は、消灯時間ギリギリで各部屋に戻り、翌日に備えることにした。

 そして、帰りの電車のことを考え午前中のみの練習となった遠征2日目。美琴に悩みを打ち明け、気持ちが少し軽くなった俺の調子は回復し、光陵高校に約100点差をつけ勝利したのだった。

 第4章 に続く
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