秋風に誘われて

剣世炸

文字の大きさ
20 / 60
けやき商編 第6章 美琴

第1話 けやき祭

しおりを挟む

「お姉!約束通り参加しに来たよ!!」

 私は嶋尻美琴。中学3年生。

 今日は、真琴お姉ちゃんが通う「都立けやき商業高等学校」の文化祭を訪れ、パソコン部主催『第1回けやき商入力スピード大会』に参加するため、パソコン部の部室に来ていた。

 お姉ちゃんは、けやき商の「パソコン部」に所属していて、今年の夏に行われた日文新聞社主催「日文パソコン入力スピード大会」の全国大会で個人3位に入賞した強者。私もそこそこパソコンの入力スピードは速いのだけれど、私が追い付きそうになる度に、お姉ちゃんの入力スピードは速くなっていて、いつまでも追いつけずにいた。

「美琴!「お姉」はないでしょ、お姉は!」

「じゃあ、「お姉さま」ならいいの?」

「もう、こんなところで冗談言うのはやめて!」

「はいはい。!もしかして、この人たちが…」

 私は、お姉ちゃんの席の前列に座っている男の先輩方を見て、お姉ちゃんに尋ねた。

「そうよ。テレビでも見たでしょ。この前の大会で優勝した部長さんと副部長の煉先輩よ」

 お姉ちゃんがそう言うと、部長さんと煉さんがその場に立ち上がり、私の方を見る。

「こんにちは。真琴ちゃんから、いろいろ話は聞いているよ。今年、けやき商を受験するんだって!?」

「部長さん!それに煉さん!とても光栄です。自己紹介が遅れました。私、真琴お姉ちゃんの妹で、嶋尻美琴って言います。今年、けやき商を受験する予定ですっ。よろしくお願いします!」

「そうなんだ。真琴の妹ってことは、さぞ入力スピードも速いんだろうね」

「いいえ。お姉ちゃんほどではありません」

「そうそう。美琴が私に追いつくのは、百年早いんだから!」

「そんなことないもん。お姉ちゃんが高校卒業するまでに、追いついてみせるんだから」

「いいねぇ。これで、我がけやき商パソコン部の将来は安泰だな」

「部長さん、まだ美琴はけやき商を受験すらしていないんですよ」

「そうだったな。美琴ちゃん。受験勉強もしっかりね。けやき商は商業高校だけど、偏差値は普通高校の中の上くらいのレベルだったはずだよ」

「はいっ。今受験勉強も頑張っている最中です」

「そうなんだ。頑張って受験戦争を突破して、俺たちと一緒に頑張ろう!」

「煉さん!いえ、煉先輩、ありがとうございますっ!」

「(テレビで見た時も感じたけど、部長さん、カッコいいなぁ。でも、煉さんはもっと…)」

 4人で会話をしている間に、教室内はあっという間に人で埋まっていて、もうこれ以上は入れませんって状態になっていた。

「間もなく、『第1回けやき商入力スピード大会』を始めさせていただきます。選手の皆さんは、所定の端末の席にお着き下さい」

「ほらっ、もうすぐ始まるわよ。美琴も、指定されて場所に着席して!」

「美琴ちゃん、また後でね。結果を期待しているよ!」

「部長さん、ありがとうございます!」

 私は、部長さんと煉さんの座る方向に向かって手を振りながら、指示された席まで歩き、着席した。

「(煉さんに恥ずかしい成績は見せられないわ!この大会、優勝するぞって位頑張ってみるんだから!)」

「それでは、第1回けやき商入力スピード大会を始めます。皆様、お手元にある問題をご覧下さい…」

 大会が始まった…。


***


 大会が終わり参加者の採点が行われている間、私は一緒に来ていた友人と一緒に他のブースを見て回ることにした。

 けやき商は部活が大変盛んで、パソコン部以外にも多くの部活が全国大会に参加をしている。

 文化祭でも、クラスでの出店を始め、部活動主催のブースも多く参加していて、飽きるようなことはなかった。

 しばらくすると、校内放送が私の耳に入ってきた。

“ご来場の皆様に連絡致します。間もなく、先ほど行われましたパソコン部主催第1回けやき商入力スピード大会の結果発表が行われます。ご参加頂いた方々は、大変恐れ入りますが第2OA教室までお戻り頂きますよう、お願い致します…”

「美琴、私、この用事があるの。あなたも結果を見に戻るんでしょ?ここで別れましょう」

「そうね。わかったわ。それじゃ、また学校でね」

 私は一緒に来ていた友人と別れると、パソコン部の部室へと戻った。

「美琴!遅かったじゃない!」

「お姉。ごめんごめん。でも、結果はまだでしょ」

「今、部長さんから発表されるところよ」

 私は大会の際に使った場所に着席すると、結果発表を待つ。

「それでは発表します。第1回けやき商入力スピード大会 第3位は…市立銀杏第一中学校3年の嶋尻美琴さんです。嶋尻さんは、前に出て下さい!」 

「(!!えっ、私!?)」

 満員になったパソコン室に木霊する拍手の音に恐縮しながらも、私はその場に立つと一礼し、部長さんのいる場所へと向かった。

 第1回けやき商入力スピード大会の結果は、準優勝がお姉ちゃんで、優勝は煉さんだった。

 表彰式が終わり、一気に人気のなくなったパソコン室には、私、お姉ちゃん、部長さん、そして煉さんが残っていた。

 私は表彰式で授与された賞状と入賞カップを持ち、お姉ちゃんのいるところに向かった。

「お姉!すごいでしょ~!私、3位に入ったよ!」

「だから、お姉ちゃん、でしょ!3位に入ったのは凄いと思うけど、やっぱり、私には勝てなかったわね!」

「いやいや、まさか私が煉や真琴にだけでなく、中学生の美琴ちゃんにまで負けるとは…」

「練習も満足にしていないのに、4位になった部長は、やはり凄いと思いますよ、俺は」

「そうです!一緒に練習していたら、煉先輩や私、それに美琴は足元にも及びませんでしたよ」

「(そうか…私が入賞できたのは、部長さんが練習不足だったからか…。受験勉強も頑張らなきゃだけど、入力練習も怠らないようにしないと…)」

「それにしても、煉さん、いえ、煉先輩!さすが次期部長ですね!今回は、一緒に参加できて本当に嬉しかったです♪私、けやき商に絶対合格して、お姉や煉先輩と一緒の舞台に立てるよう、頑張りますから!」

 私がそう煉さんに言い切ると同時に、背後から嫌な気配を感じ取った。その気配がなんだったのか、この後すぐに判明することになる。

「はいはい。けやき商入力スピード大会は終了しました。部外者の方は、OA教室から退室して下さい!」

 端末とディスプレイの電源をOFFにしながら、まだ部外者である私に対して、その気配は退室を勧告してきた。

「…亜美先輩!少しぐらい、いいじゃないですか。片付けなら、私たち1年でもできますし」

「そうだよ亜美。それに、入賞した美琴ちゃんは、来年けやき商に入学する予定らしいしさ」

「そうは言っても、まだ部外者は部外者です。そうですよね、部長」

「まあ、そういうことにはなりそうだが、もう私は引退しているし、やはり、こういうことはもう煉の判断でいいんじゃないのか?」

「…分かりました。でも、部外者であることに変わりはありません。早めに退室して頂きます!」

「おい、亜美。なんなんだよ!」

「別に!それに、次期部長さん。あなたが私のことを「亜美」と、いつから呼べるようになったんです?」

「…それは…」

「はい、それじゃ片付けがありますから、部外者の方は退室願います」

「…」

 私は一連のやり取りに、一瞬放心状態になった。それを察してか、お姉ちゃんが私の肩を叩き、正気に戻してくれた。

「そういう訳だから、美琴、外に行きましょう」

「…えっ、ええ。分かったわ」

 お姉ちゃんは私の手を取ると、引っ張るようにOA教室の出口に向かい始めた。

「…それじゃ、後片付け、宜しく頼んだよ」

 煉さんは、ばつが悪そうに片付けを始めたマネージャーの方々にそう言い放つと、私とお姉ちゃんの数歩後ろから、部長さんと一緒にOA教室の出口へと向かい始めた。

 私は、煉さんと部長さんに聞こえない程度の声量で、お姉ちゃんに話しかけた。

「それにしても、あの人、一体だれなの?それに、煉先輩にも何だか可笑しな事言っていたようだし…」

「あの人は、鳳城亜美。煉先輩と同じ2年生で、パソコン部のマネージーさんよ」

「へぇ。で、あれはどういうこと?「亜美」と呼べるとか呼べないとか…」

「ああ、そのことね。煉先輩は、どうやら亜美先輩のことが好きで、数か月前に想いを告げたようだけど、返事してもらえていないらしいの。で、亜美先輩は自分の彼氏にしか、呼び捨てにしてもらいたくないみたいで、煉先輩はそこを逆手に利用して、私たちと同じようにわざと下の名前で呼んでいるようだけど…」

「そうなんだ、片思いの相手、ね…」

 私はふと後ろを振り返ると、煉さんと部長さんも話をしている様子だった。私が歩きながら手を振ると、それに気づいた煉さんが軽く手を振り替えしてくれた。

「…美琴、ずいぶん煉先輩のことを気にしているようだけど…。あなた、もしかして…」

「そんなんじゃないよ。そりゃ、とってもカッコいい人だとは思ったけど…」

「そう!」

「…もう、私をからかったのね」

 他愛もないやりとりをお姉ちゃんとしていると、不意に部長さんが私達の横まで来ていた。

「真琴ちゃんに美琴ちゃん。今日はこれで部活のイベントは終了したから、特にクラスとかで問題がなければ、煉と一緒に校内を回るといい」

「はい。分かりました」

「えっ、煉さんと一緒に校内を回れるんですか…」

「そうだ。煉は来年度の部長だから、自分が来年入学して、所属しようと思っている長を、少しでも観察していくといい。それじゃ、私はこれで…」

 そういうと、部長さんは手を振りながら、雑踏の中へと消えていった。

 その後、後から私とお姉ちゃんに追いついた煉さんと一緒に、けやき祭の各ブースを回ることとなった。

 模擬店で飲食したり、展示ブースで趣向を凝らした展示を見て楽しんでいるうちに、夕日もすっかり落ちて、あっという間にけやき祭の終了時刻となった。

「煉さん、今日は本当にありがとうございました!私、一生懸命受験勉強頑張って、来年けやき商に入学します。そして、煉さんの下で一緒に部活動を頑張ります!」

「美琴ちゃん。その日が来ることを、俺も願っているよ」

「煉さん…ありがとうございます!」

「私はクラスの後片付けがあるから一緒には行けないけど、気をつけて帰るのよ」

「分かったよお姉。煉さんもお元気で!」

 私は煉さんと固い握手を交わし、その思いを再度胸に誓うと、けやき商を後にした。

 …月日は流れ、私はけやき商の入学試験に合格。入学式での新入生誓いの言葉の大役をなぜか任され、入学式当日を迎えたのだった…。


 第2話 に続く
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

再会した幼馴染は××オタクになっていました。

星空永遠
恋愛
小さい頃から幼なじみの黒炎(こくえん)くんのことが好きな朱里(あかり)。そんな彼は引っ越してしまい、気持ちは伝えられず。しかし、高校で再会することができ、それを喜ぶ朱里だったが、彼は以前とは変わっていて……。 だけど、黒炎くんのお家にお泊りしたり、遊園地では朱里にとっては驚くハプニングが!?二人の距離はどんどん近づいて……。イケメンの幼なじみにドキドキが止まらない!じれったい二人の恋の行方は……? この恋は本気なんです……! 表紙絵=友人作。

一条さん結婚したんですか⁉︎

あさとよる
恋愛
みんなの憧れハイスペックエリートサラリーマン『一条 美郷(※超イケメン)』が、結婚してしまった⁉︎ 嫁ラブの旦那様と毒舌地味嫁(花ちゃん)....とっ!その他大勢でお送りしますっ♡ ((残念なイケメンの一途過ぎる溺愛♡))のはじまりはじまり〜 ⭐︎本編は完結しております⭐︎ ⭐︎番外編更新中⭐︎

処理中です...