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銀杏大学編 第2章 旅行
第7話 あの時…
しおりを挟む夕暮れに染まる浜辺散歩を小1時間ほど満喫した俺と美琴がホテルの入口に戻ると、郷土資料館から帰ってきた真琴と紗代の2人と一緒になり、10分後には夕食の時間ということもあって、各々自室に戻り館内着に着替えてから食堂で合流することとなった。
このホテルの食事は朝夕共に食堂でのブュッフェ形式となっていて、熱沼の海の幸山の幸を存分に味わうことのできる品揃えが定評だと、銀杏大学が制作した保養所のパンフレットには掲載されていた。
自室で館内着に着替えた俺は、スマホとカード式のルームキーを手に自室を出ると、食堂に向かった。
「あっ!先輩!!こっちこっち!!」
食堂に入ってきた俺を目敏く見つけた美琴が、隣の席を指差して手を振っている。
「(この光景、どこかで見た気が…)」
記憶の片鱗を辿りながら、美琴に指定された席に座る俺。
「美琴達はずいぶん早いんだな(あれっ!?前にもこんなセリフを言った気が…)」
「はい、先輩よりも先に鍵を貰いましたから…」
「それに、先輩と歩き回ってお腹ペコペコだしね!」
「(…早く来たところで、俺を待っていたんじゃ先に食事は出来ないんじゃ…)」
「(んっ!?この会話のやり取り…確かにどこかで…)」
辿っていた記憶の片鱗に、更に新たな情報が追加され、俺の頭中は混乱に苛まれた。
その時、美琴の何気ない一言が、俺の頭中を解放することになる。
「そう言えば、『あの時』もこんな感じでしたね。先輩!!」
「(あの時?………)」
***
同じ部屋に宿泊する他の男子部員3名に、真琴達と食事をとることを告げ別れる俺。
「(同じ部屋に宿泊?するっていうと…これは…)」
「…真琴達はずいぶん早いんだな」
「はい、鍵を一番早くもらえたので、部屋にも早く行けましたから…」
「それに、お腹ペコペコだしね」
そして『早く来たところで、食事は出て来ないんじゃ』と思いながらも、その思いを胸の奥底に押し返し、美琴の席の隣に座る俺。
***
「(そうか!宇都宮に遠征に行った時と同じなんだ!!)」
記憶の海に漕ぎ出した俺の船は、無事に片鱗をかき集めることに成功し、一つのパズルを完成させた。
「美琴…あれは確か去年の今頃、美琴が入部して直ぐの遠征の時の話…よく覚えていたな!」
***
「ピンポーン!!大正解!先輩も、覚えていてくれたんですね♪」
「ああ。あの時、凹んでいた俺を、ホテルの屋上で励ましてくれたんだよな」
「はいっ♪でも、あの時は正直辛かったですけど…」
「…やっぱり、あの時瞳に浮かべた涙っていうのは…」
話の流れで、私は記憶の海へと船を出航させた。
***
「…そうだよな。鳳城に告白して、もう1年位になる。鳳城は、俺の告白にYESともNOとも答えなかった。何回か答えの催促も試みているけど、未だに答えを俺は聞いていない」
「先輩、それって…」
「こんな話を聞けば、誰でも「それはもう脈なし」って言うよな。俺だって、友達からこんな相談されたら、それはもう脈はないだろうって助言するさ。でも、俺は亜美からはっきりと断られるか、俺の想い自体を断ち切ることのができないと、どうやら先へは進めないみたいだ」
先輩の言葉に、一瞬だけ気持ちが落ち込む私。
「…先輩!私は先輩と鳳城先輩のことを応援してますよ!だから、諦めないで下さい!1年も片思いのまま、相手のことを想い続けていられるなんて、私はとっても素敵なことだと思います。鳳城先輩も、煉先輩からこんなに想われているのに、どうして…」
「(あれっ。何でだろう?涙が勝手に…)」
瞳に浮かんできた涙をこぼすまいと、私は必死で目に力を入れる。
刹那、あの時の私は、煉先輩に対する「好き」という気持ちが間違いでないことを確信した。
「…美琴?どうしたんだ?」
「…何でもありません。私も、煉先輩と同じような経験をしたことがあるんで、それで…」
「そうか…」
「煉先輩。私で良ければ、これからもこんな時間を作って下さい。先輩より人生経験は短いけど、女の子の気持ち位は、先輩にお伝えできると思うんです!」
「美琴。ありがとう。美琴に話したお陰で、少し気持ちが楽になったよ」
***
記憶の海から戻った私の瞳には、大粒のダイアモンドが蓄えられていた。
「美琴?大丈夫か!?」
でも、今その先に映るのは、他の女を愛する片思いの相手ではなく、相思相愛の相手だった。
「はいっ。ちょっとあの時のことを思い出しただけです」
「美琴ちゃん、その後部屋に帰って来る間に泣いていたみたいなんですよ!」
「ちょっと紗代!」
「そうそう。酷い顔で展望台から帰ってきた美琴を心配した私と三枝さんに、この娘『大丈夫!ちょっと悲しいことがあっただけだ』って、詳しいことを話さなかったんですから」
「そうだったのか…」
「ちょっとお姉まで、余計なことを…」
「美琴。すまなかった。あの時、美琴の気持ちに気付かず、俺は美琴のことを傷つけていたんだな」
「…いいんです先輩!もう終わったことですし。それに、その時があるから、今があるんじゃないですか♪もし、あの時先輩が私の気持ちに気付いていたら、運命が変わってしまって、今先輩とこうやって旅行に来れていないかも知れないんですから♪」
先輩の腕に抱きつく私。
「ありがとう美琴!」
「はいはい。結局こういう展開になるのね。ご馳走様!」
「部長!料理が運ばれて来たみたいです。熱々カップルは放っておいて、私たちは料理を取りに行きましょう」
「そうね三枝さん」
本気で席を立ち、料理を取りに行くお姉と紗代。
「ちょっと待ってよお姉!ほらっ、先輩も料理を取りに行きましょうよ♪」
「そうだな!」
先輩と一緒に料理を取りながら『運命って、やっぱり自ら作り出すものなんだ。先輩のこと、諦めなくて本当に良かった』と、心の底から思う私なのでした。
第8話へ続く
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