秋風に誘われて

剣世炸

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けやき商編 番外編 亜実の真実

最終話 未来へ続く道

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「功治先輩…その手を離して下さい。少し痛いです…」

「ごっ、ごめん…」

 功治先輩に掴まれていた右手がやっと解放される。

「功治!!なんであなたがここにいるのよ…」

「学校での2人のやり取りを偶然みちゃってね…悪いとは思ったんだけど、後をつけさせてもらったんだ…」

「それじゃあ、私と後輩のやり取りは全部…」

「そんな、探偵じゃあるまいし、2人が何を話していたかなんて、俺には判らないよ…」

「でも、そこにいる煉の彼女が…」

「「美琴」でいいです…」

「そうか!?………つまり、美琴が凄い剣幕で立ち上がるのが見えたものだから、きっと鳳城が煉にしていたことについて話していて、我慢ならなくなったんだろうと思ってね…」

「………あなたの観察力には、いろいろな意味で頭が下がるわ…」

”ワイワイガヤガヤ…”

「…美琴が出した声で、店の回りが騒がしくなっているようだ…」

「ごっ、ごめんなさい…」

「いや、気にすることはないよ…だが、ここで引き続き話をするのは得策じゃなさそうだな…」

「場所を変えましょう。」

”ジーーーーーー…”

「私もそうした方が良いと思います…店員さんも、何だか凄い視線を送っていますし…」

「…」

「…そのようだな…場所を変えよう。」

 私たち3人は、駅前のカラオケボックスに入った。



 中に入ると、功治先輩はカラオケのセットをいじり、音楽やマイクの音量を全て「0」にした。

「…これで、ようやく落ち着いて話ができるな。」

「…私は別にバーガーショップとかでも良かったんだけどね…」

「またさっきみたいに、2人が言い争わないとも限らないからな…続きの話をするなら、人目のつかない場所の方がいい。」

「…それで、煉先輩を苦しませる片棒を担いでいた功治先輩が、一体私にどんな話をしてくれるっていうんですか?」

「見かけの可愛さによらず、質問は鋭利なナイフのようだな…」

「話を逸らさないで下さい。自分の彼氏を苦しめてきた相手2人を前に、『構えずに話をしなさい』って方が間違っていると思いませんか?」

「…まぁ、確かにその通りだな…」

「でも…美琴、さん。少し落ち着いて俺の話を聞いて欲しいんだ。」

「亜美と俺が、結果的に煉を苦しめるようなことをしてしまったのには、理由があるんだよ。」

「どんな理由であれ、私はお2人を許せるとは思えませんけど…とりあえず、話して下さい。」

「ありがとう…」

「まず、鳳城が煉に辛い仕打ちをした理由は、さっき2人で話をしていた時に聞いたと思う。」

「部活のエースの調子をどん底に陥れないよう、お2人が恋愛ごっこをして、煉先輩を鳳城先輩から遠ざけようとした。」

「でも、どんなに辛い仕打ちを強いても言い寄ってくる煉先輩の気持ちを弄んで、自分だけ都合の良い立ち位置に居ようとした。」

「…やっぱり鋭いナイフのような物言いだな…でも、君の言う通り、鳳城は煉を利用した。」

「私には、功治先輩もそこにいる鳳城先輩に利用されているのだと思うんですけど…」

「ちょっと、功治には告白された時にはっきりと断ったって、言ったじゃない!!」

「鳳城!待ってくれ!!」

「確かに、鳳城には断られたよ。」

「でも、きっと俺も煉と同じなんだろうな…」

「鳳城にはっきりと断られても、利用されていると判っていても、俺は鳳城の傍を離れられなかったんだ。」

「今は、利用されているだけでもいい。「友だち」とも思っていなくてもいい。」

「鳳城が、俺が傍にいることを否定しないなら、一緒にいよう…そう決めたんだ。」

「功治…」

「鳳城は、幼くして両親が離婚して父親に育てられたんだ。だが、その父親は鳳城に愛情を注ぐどころか、再婚した相手との間に生まれた子どもにばかり愛情を注いだんだ。」

「ちょっと、功治!!私の身の上話はやめてよ!!」

「いいや、やめないね!!」

「父親の再婚相手は、鳳城にも実の子どもにも平等に愛情を注いだらしい。でも、鳳城と血の繋がらない相手からの愛情は、鳳城には受け入れがたいものだった…」

「…」

「鳳城は、父親からの愛情を知らずに育ってしまったんだ。」

「だからだと俺は思っているけど、自分に好意を寄せる男性からの想いそのものを疑ってしまっているんだ。」

「「男性不信」「男嫌い」と言い換えた方がいいのかも知れない。」

「…そこまで知っていて、功治先輩は鳳城先輩と一緒にいて辛くはないんですか?」

「辛いに決まってるじゃないか!」

「でも、俺は鳳城が否定しない限り、傍に居ようと心に決めたんだ。」

「って、俺のことはどうでもいい。」

「鳳城のことを「許してくれ」とは言わない。」

「そして、鳳城と一緒に煉を苦しめていた俺のことも「許してくれ」とは言わない。」

「でも、これだけは判って欲しいんだ!鳳城も、本当に煉のことを好いていた。」

「決して煉のことを傷つけたり、弄んだりしたいと思っていた訳じゃない…」

「ただ、その表現の仕方が間違っていただけなんだ………って。」

「…」

「鳳城先輩、何も言わないということは、功治先輩の弁解は全て正しい、という風に理解していい訳ですね!」

「好きにすると良いわ…」

「…わかりました。でも、どんな事情があったにせよ、私はお2人のことを許せそうにありません。」

「ああ、それで構わないよ…」

「それから、このことは煉には黙っておいてくれないか?」

「言われなくてもそうします!なんで自分の彼氏に『本当は鳳城先輩は先輩のことが好きみたいですよ!』的なことを言わなきゃいけないんですか!!」

「まぁ、確かにそうだよな…」

「…話は終わったかしら?もう帰りたいんだけど…」

「お前のことで話をしていたんだけどな…」

「何か言った!?」

「いや、別に…」

「………そろそろ時間だな。」

 立ち上がり、鳳城先輩の右手を掴む功治先輩。

「ちょっと、何するのよ…」

「美琴さん、今日はすまなかった。」

「そして、俺の話を聞いてくれてありがとう。」

「もうすぐ、煉がここに到着するはずだ。」

「えっ!?」

「俺が「愛しの美琴さんが駅前のカラオケボックスでお待ちですよ」って、連絡を入れておいたんだ。」

「その呼んだ時間がもう間もなく訪れるって訳さ。」

「そんな…何のために…」

「「罪滅ぼし」って奴かな…こんなもので、俺と鳳城の、煉にした行いが償われるとは思えないけど…」

「帰りがけに、この部屋のルーム代は払っておくから、煉と残りの時間を楽しんで欲しい。」

「…」

「俺たちはもうすぐ卒業する。鳳城はマネージャー長の職責を2年に移行させたから、もう間もなく部活動から姿を消すことだろう。」

「君は君で、一つ上のお姉ちゃんと一緒に部を盛り立てつつ、煉のことをしっかりと支えてやって欲しい。」

「…分かりました…」

「ありがとう!さて、お邪魔虫は退散するとしよう。」

「鳳城!ほら、行くぞ!!」

「ちょっと!私に指図しないでくれる!!」

 功治先輩は、鳳城先輩の腕を引いて、この部屋から出て行った。

「(…鳳城先輩と功治先輩が煉先輩にしたことは、はっきり言って許せない…)」

「(でも、それがあったからこそ、今の私と煉先輩があることも事実…)」

「(鳳城先輩と功治先輩を許せる時は、来るんだろうか…)」

「遅れてすまない、功治…」

「って、何で美琴がここに!?」

「先輩!!」

 この後、うまくこの場の状況を誤魔化した私は、煉先輩と一緒にカラオケを楽しんだのだった…


***


「…どうやら鉢合わせにはならなかったみたいだな…」

「…ちょっと!!これで、私があなたに気持ちが傾くと思ったら大間違いなんだからね!」

「はいはい!そんなつもりでやったんじゃありませんよ!!」

「それじゃ、どうして…あなたが私の罪まで被る必要ないじゃない!!全部、私が悪いってことにしちゃえば良かったのに…」

「そんなこと、できる訳ないじゃないか!!」

「俺の気持ちは、未だ鳳城という檻に囚われてしまっているのだから…」

「…」

「功治、あなたの気持ちに応えられる日が来るって保障は、どこにもないのよ!」

「そうだったとしても、俺と一緒にいることを拒否はしないんだろう!?」

「だったら、俺は鳳城が振り向いてくれる、その日まで待つことにするよ!!」

「煉と違って、俺は鳳城の気持ちをもう知っているんだから、煉みたいな八方塞な訳じゃないんだし…」

「功治…」

「さて、煉達とのことも、とりあえず一区切りついたところだし…」

「目の前にいる綺麗なお嬢さん!わたくしめと一緒に、玉突きなどに興じては頂けないでしょうか?」

「…分かったわ!今日は、功治の思う通りにしてあげる!でも、私のビリヤードの腕は、あなたに負けなくってよ!」


***


 数ヵ月後、けやき商を卒業した私と功治は、煉とは違う大学の門戸を叩いた。

 功治は大学生になってからも、相変わらず私のことだけを見てくれていた。

 だが、功治の想いに応えることができないまま、大学2年の終わりに、私は父の「離職」と、目前に控えた義妹の「私立高校入試」いう変えがたい急激な環境の変化に襲われ、大学を辞めざるを得なくなった。

 大学を辞める時、私は功治にも別れを告げた。

 そうすることが、功治の為になると思ったからだ。

 さすがの功治も、私からのこの提案は受け入れた。

 きっと、叶うかどうかも分からない私への想いを胸に抱き続けることに疲れたんだろう…

 今私は、フリーターという形で給料を稼ぎ、離職した父の代わりに鳳城家を支えている。

 でも、私は時々思うのだ。

 本当にこのままでいいのだろうか?

 高校3年のあの頃、自分の気持ちに素直になって、煉の胸に飛び込んでいっていたら、今この未来は変わっていたのだろうか?と。

 風の便りによれば、今度パソコン部の同窓会が開かれるらしい。

 義理の母が、招待状を私の机の上に置いていたっけ…

 私は、招待状を片手に、懐かしの母校を訪れることにした…



「あっ。沢継君…」


 follows an epilog
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