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5. 竜の子 4
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「――ただ、レンリちゃんが俺たちのことを考えてくれてることも分かったし、俺はまだ信じてはあげられないから嫌な思いをさせちゃうかもしれないけど、それでもよければこれからよろしく」
その言葉にテイトはばっと顔を上げてリゲルを見遣った。
「……よろしいのですか?」
「俺がレンリちゃんを疑った目で見ちゃうけどね」
「私も自分の何を信じたらいいか分からないので、リゲル様が疑ってくれる方が安心します」
「……そう言われちゃうと罪悪感が」
リゲルは胸に手を当てて顔を背けた。
その後で様付けされていたことに気付いたようで、狼狽えた様子で様付けなんて止めてくれとレンリに訴えた。
テイトは話に付いて行けずに呆然とリゲルを見た。
「……リゲル、いいの?」
「いいも何も、最初から決めてたんだろ。お前が優しい奴なのは知ってるし、しょうがないから俺が嫌な役を引き受けてやるよ」
美少女に嫌われるかもしれないんだからきちんとフォローしろよ、と悪戯っぽくリゲルが目を細めるので、テイトの頬も次第に緩んだ。
「嫌われるも何も、好かれる可能性があるかどうか……」
「テイト、てめー」
いつもの調子に戻り安堵したところで、テイトは自分たちのことを説明しなければ、とレンリに向き直った。
「あの、僕たちと一緒にいると危険に巻き込む可能性があるから、話しておかないといけないことがあって、」
テイトは《クエレブレ》という自組織についての説明を行った。
この国に一年半程前から虐殺や破壊を行う魔法を扱う集団が現れたこと。
自分達はその者達を《アノニマス》と呼んでいること。
襲撃される場所に共通点などはなく、次、いつどこが襲われるかも分からず、国は貴族の直轄領しか守ってくれないこと。
そのため、《クエレブレ》という対抗組織を創って義勇兵を募り、各地に仲間を分散させて情報を集め、有力な情報が入ったらその場所に赴き《アノニマス》と戦っていること。
ただ、現状後手に回った行動しかできていないため、被害状況はなかなか改善されず、寧ろ、相手の魔法が強力なために仲間を失うことも少なくないのだと告げた。
そして、自分たちが属する《クエレブレ》のリーダーがテイトであることを伝えると、レンリは驚いたように目を瞬かせた。
「意外ですよね、僕も数日前に任命されたばかりで驚いてるところです」
「意外と申しますか……テイトは十一歳だと仰っていませんでしたか?」
「その気持ちも分かるけど、前のリーダーの希望なんだよ」
あの人、テイトにご執心だったもんなぁ、とリゲルが発言する横で、レンリは心配そうにテイトを見つめていた。
テイトは安心させるように微笑んだ。
「僕は一年前から自分の意志でここに属しているから大丈夫です。そりゃ、流石にリーダーになるとは思ってませんでしたけど……」
「急なことだったんだ、前のリーダーが敵の竜の子に殺されて。……魔法が強い集団だとは思ってたけど、あいつのは桁違いだったな」
その時のことを思い出したのか、リゲルが眉を顰め、テイトも同じように顔を歪めた。
「そう、なんですね」
「僕たちは魔法力で相手に負けてる、これ以上被害を拡大しないためにも強力な魔法の使い手が必要で、それでここに――」
そこでテイトはふ、と思い当たった。
「――もしかして、レンリさんも迷いの森の魔法使いを探しに?」
「え?」
レンリは困惑したように首を傾げた。
しかしテイトは、その考えが正解な気がした。
ここは本当に何もない村だ。
《迷いの森》を越えたところに少し大きな街があるため、わざわざこんな不便なところにいるとしたら、それは街への往復のために通りがかった人か、魔法使いを目的にしている者しか思い当たらない。
例えば、レンリがテイトの仮定通り本当に貴族だとしたら、貴族は魔法の強さがそのまま爵位に関わるぐらい重要視されているというし、強力な魔法を使える存在を探していても別段不思議ではない。
ただ、そうだとしても何故護衛すらつけずに一人でいたかの疑問は解消されない。
記憶を失っている理由の答えにもならない。
仮に貴族の側仕えで、それこそ貴族お抱えの魔導師団の一員だとしても、それなら可能性としては単独行動していても可笑しくないが、レンリの言動や雰囲気からそれは否定せざるを得なかった。
テイトは、光が見えた矢先に考えが振り出しに戻ってしまい頭を抱えた。
「なんでテイトはそう思うんだ?」
「……この村にいる理由って限られると思うんだよね。森の向こうの街に用事があるか、僕たちみたいに魔法使いに興味があるか」
「だったら街に用事がある、もしくはあったと考える方が普通じゃないか?」
「僕、レンリさんって貴族じゃないかなって思ってて」
「あー、ね」
リゲルはその答えに納得したように頷いた。
「ただ、それだと一人でいる理由も分からないし。……違うのかなぁ」
独り言のように呟くテイトの横で、リゲルも考えるように顎に手を置いた。
「俺は、あるとしたら、レンリちゃんは教団の関係者かなって思ったけど。なんたって竜の子だし。でも確かにそう言われたら貴族っぽいな、気品があるって言うか」
教団、とテイトは口の中で呟いた。
教団は竜を神と崇める宗教団体だ。
古来、人間は竜に助けられながら生きていたと主張し、竜が人の形を取っていた時の姿から由来し、人間が持たない色を持って生まれてくる者を《竜の子》と呼称したのも彼らが起源だ。
そして、教団は《竜の子》を神の使いとして重宝しているという噂も聞いたことがある。
全国各地に残る遺跡や、遺品から竜は実在するとの説を推し、その説を広めようとしているらしいが、テイトは今まで関わったことがないので詳しいことは分からなかった。
竜の存在はどの文献にもいつも正義のように記載され、《クエレブレ》も竜の神話に基づいてつけられた名称らしいが、多くの人間にとっての共通認識は、おとぎ話に頻繁に登場する正の存在程度で、テイトにとってもただそれだけの存在であった。
テイトはレンリを窺い見た。
彼女の容姿は人間離れしているし、普通の人にはない紫色の瞳もそんな彼女によく似合っている。
そんな彼女が教団で神の使いとして祀られている姿は、教団のことについて詳しくないとはいえ、容易に想像できる気がした。
「……教団は考えつかなかったなぁ」
「あり得るでしょ?」
「確かに」
しかし、同じ疑問に辿り着く。
それは、レンリが一人でいたことの理由にはならない。
「すみません、教団とはなんでしょうか?」
「あ、すみません。教団は――」
尋ねられて、テイトは今まさに頭に思い浮かんだことをそのまま伝えた。
とは言っても、自分は信者な訳ではないので詳細は違うかも知れませんと最後にやんわりとはぐらかした。
レンリはそれに真剣に耳を傾け、一通り説明を聞くと、ある程度理解をしたようだった。
「では、教団には竜の子が集まるのですか?」
「集まるって言うか、集めてるって言うか……」
リゲルが言いづらそうに、言葉を濁した。
教団からはいい噂をあまり聞かない。
《竜の子》を大事にしているのは間違いないが、お金で《竜の子》を買っていると言う話もある。
人身売買までして《竜の子》を集めているとすれば、その執念には恐ろしい物がある。
そんなリゲルに気付いたのか、レンリはそれ以上言及することはなかった。
「――とにかく、レンリさんも一緒に魔法使いを探しませんか?」
話を変えるようにテイトは一度手を叩いた。
今日もテイト達は魔法使いの手掛かりを探しに《迷いの森》に行く予定だった。
レンリが記憶を失くす前の目的が何にしろ、部屋でただ話しているだけでは何の解決にもならない。
「私が一緒に行って、お邪魔にはなりませんか?」
「邪魔になんかなるわけないです。て言うか、そもそも、魔法使いに会えるかどうかも実は怪しくて……」
テイトは言いながら居心地が悪くなって視線を逸らした。
この五日間、森に入ることすら叶わなかったのだ。
邪魔になるも何も骨折り損になる可能性の方が高い、と寧ろ誘ってしまったことを後悔し始めた。
「あ、やっぱり、会えるか分からないし、レンリさんはここにいてもらっても……」
「是非ご一緒させてください。私にもできることがあればお手伝いさせて頂きたいです」
「あ、はい、ありがとうございます……」
きっぱりと言い切ったレンリに、テイトはそれ以上何も言えなかった。
リゲルに九時には出るから皆にも伝えてとだけ指示を出して、自身も出発の準備を始めた。
その言葉にテイトはばっと顔を上げてリゲルを見遣った。
「……よろしいのですか?」
「俺がレンリちゃんを疑った目で見ちゃうけどね」
「私も自分の何を信じたらいいか分からないので、リゲル様が疑ってくれる方が安心します」
「……そう言われちゃうと罪悪感が」
リゲルは胸に手を当てて顔を背けた。
その後で様付けされていたことに気付いたようで、狼狽えた様子で様付けなんて止めてくれとレンリに訴えた。
テイトは話に付いて行けずに呆然とリゲルを見た。
「……リゲル、いいの?」
「いいも何も、最初から決めてたんだろ。お前が優しい奴なのは知ってるし、しょうがないから俺が嫌な役を引き受けてやるよ」
美少女に嫌われるかもしれないんだからきちんとフォローしろよ、と悪戯っぽくリゲルが目を細めるので、テイトの頬も次第に緩んだ。
「嫌われるも何も、好かれる可能性があるかどうか……」
「テイト、てめー」
いつもの調子に戻り安堵したところで、テイトは自分たちのことを説明しなければ、とレンリに向き直った。
「あの、僕たちと一緒にいると危険に巻き込む可能性があるから、話しておかないといけないことがあって、」
テイトは《クエレブレ》という自組織についての説明を行った。
この国に一年半程前から虐殺や破壊を行う魔法を扱う集団が現れたこと。
自分達はその者達を《アノニマス》と呼んでいること。
襲撃される場所に共通点などはなく、次、いつどこが襲われるかも分からず、国は貴族の直轄領しか守ってくれないこと。
そのため、《クエレブレ》という対抗組織を創って義勇兵を募り、各地に仲間を分散させて情報を集め、有力な情報が入ったらその場所に赴き《アノニマス》と戦っていること。
ただ、現状後手に回った行動しかできていないため、被害状況はなかなか改善されず、寧ろ、相手の魔法が強力なために仲間を失うことも少なくないのだと告げた。
そして、自分たちが属する《クエレブレ》のリーダーがテイトであることを伝えると、レンリは驚いたように目を瞬かせた。
「意外ですよね、僕も数日前に任命されたばかりで驚いてるところです」
「意外と申しますか……テイトは十一歳だと仰っていませんでしたか?」
「その気持ちも分かるけど、前のリーダーの希望なんだよ」
あの人、テイトにご執心だったもんなぁ、とリゲルが発言する横で、レンリは心配そうにテイトを見つめていた。
テイトは安心させるように微笑んだ。
「僕は一年前から自分の意志でここに属しているから大丈夫です。そりゃ、流石にリーダーになるとは思ってませんでしたけど……」
「急なことだったんだ、前のリーダーが敵の竜の子に殺されて。……魔法が強い集団だとは思ってたけど、あいつのは桁違いだったな」
その時のことを思い出したのか、リゲルが眉を顰め、テイトも同じように顔を歪めた。
「そう、なんですね」
「僕たちは魔法力で相手に負けてる、これ以上被害を拡大しないためにも強力な魔法の使い手が必要で、それでここに――」
そこでテイトはふ、と思い当たった。
「――もしかして、レンリさんも迷いの森の魔法使いを探しに?」
「え?」
レンリは困惑したように首を傾げた。
しかしテイトは、その考えが正解な気がした。
ここは本当に何もない村だ。
《迷いの森》を越えたところに少し大きな街があるため、わざわざこんな不便なところにいるとしたら、それは街への往復のために通りがかった人か、魔法使いを目的にしている者しか思い当たらない。
例えば、レンリがテイトの仮定通り本当に貴族だとしたら、貴族は魔法の強さがそのまま爵位に関わるぐらい重要視されているというし、強力な魔法を使える存在を探していても別段不思議ではない。
ただ、そうだとしても何故護衛すらつけずに一人でいたかの疑問は解消されない。
記憶を失っている理由の答えにもならない。
仮に貴族の側仕えで、それこそ貴族お抱えの魔導師団の一員だとしても、それなら可能性としては単独行動していても可笑しくないが、レンリの言動や雰囲気からそれは否定せざるを得なかった。
テイトは、光が見えた矢先に考えが振り出しに戻ってしまい頭を抱えた。
「なんでテイトはそう思うんだ?」
「……この村にいる理由って限られると思うんだよね。森の向こうの街に用事があるか、僕たちみたいに魔法使いに興味があるか」
「だったら街に用事がある、もしくはあったと考える方が普通じゃないか?」
「僕、レンリさんって貴族じゃないかなって思ってて」
「あー、ね」
リゲルはその答えに納得したように頷いた。
「ただ、それだと一人でいる理由も分からないし。……違うのかなぁ」
独り言のように呟くテイトの横で、リゲルも考えるように顎に手を置いた。
「俺は、あるとしたら、レンリちゃんは教団の関係者かなって思ったけど。なんたって竜の子だし。でも確かにそう言われたら貴族っぽいな、気品があるって言うか」
教団、とテイトは口の中で呟いた。
教団は竜を神と崇める宗教団体だ。
古来、人間は竜に助けられながら生きていたと主張し、竜が人の形を取っていた時の姿から由来し、人間が持たない色を持って生まれてくる者を《竜の子》と呼称したのも彼らが起源だ。
そして、教団は《竜の子》を神の使いとして重宝しているという噂も聞いたことがある。
全国各地に残る遺跡や、遺品から竜は実在するとの説を推し、その説を広めようとしているらしいが、テイトは今まで関わったことがないので詳しいことは分からなかった。
竜の存在はどの文献にもいつも正義のように記載され、《クエレブレ》も竜の神話に基づいてつけられた名称らしいが、多くの人間にとっての共通認識は、おとぎ話に頻繁に登場する正の存在程度で、テイトにとってもただそれだけの存在であった。
テイトはレンリを窺い見た。
彼女の容姿は人間離れしているし、普通の人にはない紫色の瞳もそんな彼女によく似合っている。
そんな彼女が教団で神の使いとして祀られている姿は、教団のことについて詳しくないとはいえ、容易に想像できる気がした。
「……教団は考えつかなかったなぁ」
「あり得るでしょ?」
「確かに」
しかし、同じ疑問に辿り着く。
それは、レンリが一人でいたことの理由にはならない。
「すみません、教団とはなんでしょうか?」
「あ、すみません。教団は――」
尋ねられて、テイトは今まさに頭に思い浮かんだことをそのまま伝えた。
とは言っても、自分は信者な訳ではないので詳細は違うかも知れませんと最後にやんわりとはぐらかした。
レンリはそれに真剣に耳を傾け、一通り説明を聞くと、ある程度理解をしたようだった。
「では、教団には竜の子が集まるのですか?」
「集まるって言うか、集めてるって言うか……」
リゲルが言いづらそうに、言葉を濁した。
教団からはいい噂をあまり聞かない。
《竜の子》を大事にしているのは間違いないが、お金で《竜の子》を買っていると言う話もある。
人身売買までして《竜の子》を集めているとすれば、その執念には恐ろしい物がある。
そんなリゲルに気付いたのか、レンリはそれ以上言及することはなかった。
「――とにかく、レンリさんも一緒に魔法使いを探しませんか?」
話を変えるようにテイトは一度手を叩いた。
今日もテイト達は魔法使いの手掛かりを探しに《迷いの森》に行く予定だった。
レンリが記憶を失くす前の目的が何にしろ、部屋でただ話しているだけでは何の解決にもならない。
「私が一緒に行って、お邪魔にはなりませんか?」
「邪魔になんかなるわけないです。て言うか、そもそも、魔法使いに会えるかどうかも実は怪しくて……」
テイトは言いながら居心地が悪くなって視線を逸らした。
この五日間、森に入ることすら叶わなかったのだ。
邪魔になるも何も骨折り損になる可能性の方が高い、と寧ろ誘ってしまったことを後悔し始めた。
「あ、やっぱり、会えるか分からないし、レンリさんはここにいてもらっても……」
「是非ご一緒させてください。私にもできることがあればお手伝いさせて頂きたいです」
「あ、はい、ありがとうございます……」
きっぱりと言い切ったレンリに、テイトはそれ以上何も言えなかった。
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