神聖国 ―竜の名を冠する者―

あらかわ

文字の大きさ
6 / 117

6.  迷いの森 1

しおりを挟む
 時間になり、テイトはレンリと共に宿の出入り口へと向かった。
 既に集まっていた仲間達が落ち着きなくそわそわとしている姿に、テイトはレンリに自分の外套を羽織らせてよかったと切に感じた。
 
 彼女の目立つ容姿を見た仲間が使い物にならないことを心配して、念のためにとフード付きの外套をレンリに渡しておいたのだ。
 フードまでしっかり被るようにお願いすると、レンリは困ったように笑いながらも大人しくそれに従ってくれた。
 彼女も自分の容姿が与える影響を理解していたようである。

(まぁ、あれだけ食堂でデレデレされれば分かるよなぁ……)

 食堂での仲間の様子を思い出し、テイトは顔を顰めた。
 緩みきった顔でレンリを見ながら、彼女と視線が合うと顔を赤らめて硬直していた。
 改めて思えば大の男がするには些か気持ちの悪いリアクションだったと思う。
 そう思う反面、テイト自身もレンリと目を合わせて話すのはドキドキするし、微笑まれたら頬が熱くなるので、人のことを言っていられないのが実情だ。

 外套を頭から被ってくれたことでレンリの顔も少し隠れたので、これ以上自分も醜態をさらすことはないだろう、とテイトは人知れず安堵のため息をついた。

「レ、レンリちゃんも一緒に行くのかい?」
「はい、もしお邪魔になるようなら言ってください」
「と、とんでもない」
「重たい荷物とかあったら言って、俺力持ちだから」
「ふふ、ありがとうございます」

 レンリは慣れたように仲間の言動を躱していた。
 仲間達は初め、レンリが綺麗すぎて近寄り難さを感じていたようだが、話してみてその雰囲気の柔らかさに気付いたらしく、今では積極的に彼女に話しかけていた。
 積極性が増したのはおそらく、自分の貸した外套も一因になったのだろうと推測し、テイトは少し申し訳なく思った。
 ぼんやりとレンリを眺めていると、横を歩いていたリゲルがテイトの肩を掴み、耳打ちするように顔を寄せた。

「テイト、あいつら見ろよ。もし彼女が敵なら俺たち終わりだな」
「リゲル、そういうことは――」
「分かってるって」
 リゲルはヒラヒラと手を振って体を離した。

 軽薄な態度に少しムッとしながらも、テイトはそれ以上リゲルを咎めることはなかった。
 テイトの代わりに、リゲルが彼女を疑ってくれていることを知っているからだ。

「俺ちょっと前から思ってんだけど、レンリちゃんがいれば、教団の協力とかも簡単に得られそうじゃないか?」
「……それ、絶対レンリさんの前で言わないで」

 テイトは声を潜めて返した。
 まだ少ししかレンリと話していないが、テイトには確信があった。
 こちらから協力を依頼すれば、レンリは助けられたことに恩を感じて、それを断らないだろうという確信が。

 教団がどういう場所かは分からないが、必ず教団はレンリのことを歓迎するだろうし、《竜の子》である彼女が手荒に扱われる可能性も皆無だろう。
 だが、協力を得るためにレンリを差し出すことは人身売買と何が違うというのか。

 テイトはリゲルを睨んだが、リゲルはヘラヘラと分かってるよと言うだけであった。

 道中、レンリの倒れていた湖の横を通った。
 昨夜のような幻想的な空間ではなくなったそこは、明るい中で見ても彼女の手掛かりなどが落ちている様子はなかった。
 レンリは何か思うところはないのだろうか、とテイトはちらと視線を遣ったが、レンリがそこに特別意識を向けることはなかった。

 そのまま何もなく通過し、森の手前まで来たところで、今日はどうすると一人がテイトに尋ねた。

「取り敢えず、中に入れない以上また手分けして周囲を確認しましょう。昨日は見つけられなかったけど、魔道具の手掛かりがあるかもしれないし、もしかしたら、中に入れるポイントがあるかもしれない」

 森は周りを一週歩いて約三時間という大きさだ。
 二手に分かれて普通に歩けば、一時間半後には今ある場所の反対地点で合流できることになる。
 周囲を確認しながらゆっくり歩いても、二時間後には必ず合流できるだろう。

「僕とリゲルとレンリさんで左から回るから、そっちは右からお願い」

 テイトの指示に、なんでリゲルがそっちなんだと口々に文句の声が上がったが、リゲルは口笛を吹きながらそれを受け流した。
 せめて公平にくじをと訴える仲間に若干引きながら、テイトはもう一度お願いねと念を押した。
 レンリとリゲルの背を押して強引に進もうとするテイトの背中には、薄情者!と罵る声が聞こえたが、テイトはそれを完全に無視して進んだ。

 レンリが気遣わしげに後ろを見遣るので、テイトは苦笑を返した。
「ごめん、騒がしい奴らで」
「皆、レンリちゃんみたいな女の子らしい女の子に飢えてて」
 俺たちの仲間の女子は気が強そうな奴しかいないから、と続けるリゲルの言葉をテイトは否定しなかった。

「でも、テイトは気が強い年上の女性が好きなんだよね」
「え、何急に?」
 突然振られた話題に、テイトは心底驚いてリゲルを凝視した。

「だって、ステラさんにずっとべったりだったじゃん」
「え、いや、あれは違うよ、色々教えてもらってただけで」
 テイトは言いながら顔が赤くなるのを自覚した。

 あれは自分が子供で、戦いのたの字も知らず、知識も疎かった故に色々教えてもらっていただけであって、テイト自身決してそんなつもりはなかった。
 それなのに、揶揄われているだけだとしてもそんな風に見られていたことが気恥ずかしかった。

「でも、ステラさん絶対リーダーが好きだったよな、俺テイトに同情してたんだぜ」
「だから違うってば」
 テイトは必死に否定するが、リゲルには逆効果のようでニヤニヤとした笑みを強めるだけだった。

「女性のお仲間もいらっしゃるのですね」
「俺たちと一緒にいたらその内会えるかもね。ただ、レンリちゃんと違って、なんて言うか、たくましい人達ばっかだから、びっくりするかも」
「是非お会いしてみたいです、そのステラさんという方にも」

 レンリの何気ない一言に、リゲルはあーと声を上げて、気まずそうに頬をポリポリと掻いた。

「名前出しといて悪いんだけど、ステラさんも亡くなってるんだよね」
「すみません、軽率な発言でした」
「いやいや、俺の方こそ」

 リゲルはちらりとテイトに視線を向けたが、テイトはその視線から逃れるように森を眺めた。

 リゲルがステラの死から、時折何か知りたそうな顔で自分を見ることにテイトは気付いていた。
 彼を含めて仲間達は皆あの時敵から逃げることに必死で、ステラの最期を看取ったのはテイトだけだと思っているからだ。
 しかし、テイトはまだ誰にも何も話せずにいた。
 自分のしたことが正しかったのかそうでなかったのかの答えが出るまでは、誰にもステラの最期のことを話すつもりがなかった。

 リゲルが諦めたように別の話題に切り替えるのを聞きながら、テイトはこっそり息を吐いた。
 いつか話そうとは思っているが、それでも今はまだ答えが出ていないのだ。

「――話すのもいいけど、ちゃんと森の確認もしてよ」
「はーい、リーダー」
「すみません、どういったことを確認すればいいでしょうか」

 レンリからの問いに、テイトは驚いたように目を見開いた。

「あ、えと、何か違和感があったら教えて欲しいというか……でも、レンリさんは自分のことを優先してもらったらいいので、その」
「ふふ、お気遣いありがとうございます。違和感ですね、わかりました」

 レンリに微笑まれ、テイトは顔が熱くなった。
 フードで顔の半分が隠れているとは言えレンリの可憐さは健在で、かろうじてオネガイシマスと言葉を紡ぐテイトの視界の端に、リゲルが肩を竦める姿が飛び込んだ。

「……気の強い年上のお姉様はどうしたんだよ」

 それに否定を返す余裕は、テイトにはまだなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

魔法使いの国で無能だった少年は、魔物使いとして世界を救う旅に出る

ムーン
ファンタジー
完結しました! 魔法使いの国に生まれた少年には、魔法を扱う才能がなかった。 無能と蔑まれ、両親にも愛されず、優秀な兄を頼りに何年も引きこもっていた。 そんなある日、国が魔物の襲撃を受け、少年の魔物を操る能力も目覚める。 能力に呼応し現れた狼は少年だけを助けた。狼は少年を息子のように愛し、少年も狼を母のように慕った。 滅びた故郷を去り、一人と一匹は様々な国を渡り歩く。 悪魔の家畜として扱われる人間、退廃的な生活を送る天使、人との共存を望む悪魔、地の底に封印された堕天使──残酷な呪いを知り、凄惨な日常を知り、少年は自らの能力を平和のために使うと決意する。 悪魔との契約や邪神との接触により少年は人間から離れていく。対価のように精神がすり減り、壊れかけた少年に狼は寄り添い続けた。次第に一人と一匹の絆は親子のようなものから夫婦のようなものに変化する。 狂いかけた少年の精神は狼によって繋ぎ止められる。 やがて少年は数多の天使を取り込んで上位存在へと変転し、出生も狼との出会いもこれまでの旅路も……全てを仕組んだ邪神と対決する。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。 全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった! ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。 一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。 落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!

家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。

希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。 手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。 「このまま死ぬのかな……」 そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。 ​そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。 試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。 ​「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」 ​スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。 たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。

処理中です...