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29. 拠点アスバルド 1
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「テイト、大丈夫ですか? 顔色が優れないような……」
馬車を降りてすぐ、レンリにそう声をかけられた。
心配そうな声音に癒やされたテイトが答えるよりも早く、アニールが口を挟んだ。
「テイト殿は、慣れない馬車旅にお疲れのようでした」
「……ソウナンデス」
「御使い様は体調いかがでしょうか?」
「私たちは何とも……」
「えぇ、とても快適でしたわ」
「それは重畳です」
満足そうなナナの顔に、アニールも満面の笑みを浮かべた。
そんなアニールから顔を背け、テイトは改めてアスバルドの町を臨んだ。
人の気配のないその小さな町は、周囲を平原で囲まれており、見晴らしは良いように感じた。
町全体を囲むように白い壁が建ち、その東西に水門、そして南北に大門が設置されていた。
町の中には均等な大きさの白い建物が並び立っているが、中心にだけ一際大きく、そしてこちらも真っ白な建物がそびえ立っていた。
いつから人が住んでいないのかは分からないが、人がいない割には建物に目立った汚れなどは見当たらず、必要な物資さえ準備してしまえばすぐにでも生活できそうであった。
町の西から東へかけてはハルファ川という大きな川が流れており、その水源を利用して町のあちこちに水路が張り巡らされているため、どこにいても水の流れる気持ちのいい音が聞こえてきた。
その水路は町内の移動を楽にするだけではなく、その大元であるハルファ川を下れば隣街にも三十分程で行けるらしいので、交通の便を考えると町から町への移動は想像するよりも遙かに簡単なようであった。
《クエレブレ》に属する者だけで使うには持て余してしまいそうな広さだが、立地的にも十分にシンの要望を満たしていると感じた。
当のシンも興味深そうに町のあちこちに目を向けている様子であった。
「アスバルドは隣街のサラファを模して創られた町だと聞いております。サラファの人口が少なくなった際に、この町の者全員が利便性の高いサラファに移り住んだため、今は誰も住んでおりません。この白く輝く建物こそ竜神様が創られし証なため、我が教団で管理しておりました。御使い様に使って頂けるなら、竜神様もさぞお喜びになることでしょう」
石畳の町を歩き進めながら、アニールはニコニコとそう語った。
「暮らすために必要な物資もすぐに用意しましょう、少しお時間頂きますが」
「……さすがにそこまでは」
口を挟むとアニールから鋭い視線を感じたため、テイトは勢いよく顔を逸らした。
「お気持ちは有難いのですが、自分たちが暮らしていくのですから、必要なものも自分たちで用意いたします。これ以上ご迷惑はかけられません」
レンリが代弁すると、アニールは滅相もないと手を振った。
「迷惑などそのようなことは決してありません。御使い様の心身を思ってこそです」
「ですが、クエレブレは危険な方を相手にしていますし、これ以上お手伝い頂いてその矛先が教団の皆様に向いてしまうことがあっては……」
レンリの言葉はまさにテイトが危惧していたことだったため、テイトは全力で首を縦に振った。
支援は確かに有難いが、ここだけの話これ以上アニールと関わりたくないのもまた事実であった。
アニールは感極まったかのように目頭を押さえた。
「なんて、慈悲深いお言葉……」
アニールは意を決したように、真剣な瞳でレンリを見つめた。
「それでは、教団関係なく、私個人的に支援させて頂くのはどうでしょうか?」
「嬉しいですが、そのご厚意に返せるものがありません……」
「返す必要などございません。私が勝手にすることですから」
勢い込むアニールを見て、レンリは困ったようにテイトに目を向けた。
アニールに譲歩する気はなさそうなため、ここらが落としどころかも知れない、とテイトはゆっくり頷いた。
「……それでは、お願いいたします」
「かしこまりました」
アニールは嬉しそうに恭しく一礼をした。
彼との縁はまだ暫く続きそうで、テイトは人知れず溜息を吐いた。
町の中心に辿り着き、大広場の真ん中に建つ大きな建物を見上げた。
この町で一番大きく、繊細な彫刻が施されて美しく光るそこは中枢館と呼ばれているらしい。
ここが拠点になるのかと感慨深い気持ちで眺めていると、シンがアニールの説明も聞かぬままその建物の中に入り込んで行くのが見えた。
その後を追いかけてテイトも中に入った。
外観通り中もかなり広いようで、中央の吹き抜けからは三階まであることが確認できた。
目に入るだけでもかなりの数の扉が見えることから、部屋も複数存在するようである。
中庭まで設けられており、その創りに思わず立ち止まって感嘆していると、シンが真剣な顔でテイトを見つめてきた。
「――おい」
「は、はい」
「あんたの仲間をできるだけ早くここに集めろ」
「はい……え?」
テイトがシンを見返すとシンは依然真剣な顔で続けた。
「全員が持つ情報を合わせて、敵の行動パターンを分析する」
すぐにしろと急かされ、テイトは《アノニマス》との戦いの局面が変化するような期待にも似た気持ちが湧き上がるのを感じた。
「――分かりました」
何かが起ころうとしている、そんな予感めいた確信があった。
馬車を降りてすぐ、レンリにそう声をかけられた。
心配そうな声音に癒やされたテイトが答えるよりも早く、アニールが口を挟んだ。
「テイト殿は、慣れない馬車旅にお疲れのようでした」
「……ソウナンデス」
「御使い様は体調いかがでしょうか?」
「私たちは何とも……」
「えぇ、とても快適でしたわ」
「それは重畳です」
満足そうなナナの顔に、アニールも満面の笑みを浮かべた。
そんなアニールから顔を背け、テイトは改めてアスバルドの町を臨んだ。
人の気配のないその小さな町は、周囲を平原で囲まれており、見晴らしは良いように感じた。
町全体を囲むように白い壁が建ち、その東西に水門、そして南北に大門が設置されていた。
町の中には均等な大きさの白い建物が並び立っているが、中心にだけ一際大きく、そしてこちらも真っ白な建物がそびえ立っていた。
いつから人が住んでいないのかは分からないが、人がいない割には建物に目立った汚れなどは見当たらず、必要な物資さえ準備してしまえばすぐにでも生活できそうであった。
町の西から東へかけてはハルファ川という大きな川が流れており、その水源を利用して町のあちこちに水路が張り巡らされているため、どこにいても水の流れる気持ちのいい音が聞こえてきた。
その水路は町内の移動を楽にするだけではなく、その大元であるハルファ川を下れば隣街にも三十分程で行けるらしいので、交通の便を考えると町から町への移動は想像するよりも遙かに簡単なようであった。
《クエレブレ》に属する者だけで使うには持て余してしまいそうな広さだが、立地的にも十分にシンの要望を満たしていると感じた。
当のシンも興味深そうに町のあちこちに目を向けている様子であった。
「アスバルドは隣街のサラファを模して創られた町だと聞いております。サラファの人口が少なくなった際に、この町の者全員が利便性の高いサラファに移り住んだため、今は誰も住んでおりません。この白く輝く建物こそ竜神様が創られし証なため、我が教団で管理しておりました。御使い様に使って頂けるなら、竜神様もさぞお喜びになることでしょう」
石畳の町を歩き進めながら、アニールはニコニコとそう語った。
「暮らすために必要な物資もすぐに用意しましょう、少しお時間頂きますが」
「……さすがにそこまでは」
口を挟むとアニールから鋭い視線を感じたため、テイトは勢いよく顔を逸らした。
「お気持ちは有難いのですが、自分たちが暮らしていくのですから、必要なものも自分たちで用意いたします。これ以上ご迷惑はかけられません」
レンリが代弁すると、アニールは滅相もないと手を振った。
「迷惑などそのようなことは決してありません。御使い様の心身を思ってこそです」
「ですが、クエレブレは危険な方を相手にしていますし、これ以上お手伝い頂いてその矛先が教団の皆様に向いてしまうことがあっては……」
レンリの言葉はまさにテイトが危惧していたことだったため、テイトは全力で首を縦に振った。
支援は確かに有難いが、ここだけの話これ以上アニールと関わりたくないのもまた事実であった。
アニールは感極まったかのように目頭を押さえた。
「なんて、慈悲深いお言葉……」
アニールは意を決したように、真剣な瞳でレンリを見つめた。
「それでは、教団関係なく、私個人的に支援させて頂くのはどうでしょうか?」
「嬉しいですが、そのご厚意に返せるものがありません……」
「返す必要などございません。私が勝手にすることですから」
勢い込むアニールを見て、レンリは困ったようにテイトに目を向けた。
アニールに譲歩する気はなさそうなため、ここらが落としどころかも知れない、とテイトはゆっくり頷いた。
「……それでは、お願いいたします」
「かしこまりました」
アニールは嬉しそうに恭しく一礼をした。
彼との縁はまだ暫く続きそうで、テイトは人知れず溜息を吐いた。
町の中心に辿り着き、大広場の真ん中に建つ大きな建物を見上げた。
この町で一番大きく、繊細な彫刻が施されて美しく光るそこは中枢館と呼ばれているらしい。
ここが拠点になるのかと感慨深い気持ちで眺めていると、シンがアニールの説明も聞かぬままその建物の中に入り込んで行くのが見えた。
その後を追いかけてテイトも中に入った。
外観通り中もかなり広いようで、中央の吹き抜けからは三階まであることが確認できた。
目に入るだけでもかなりの数の扉が見えることから、部屋も複数存在するようである。
中庭まで設けられており、その創りに思わず立ち止まって感嘆していると、シンが真剣な顔でテイトを見つめてきた。
「――おい」
「は、はい」
「あんたの仲間をできるだけ早くここに集めろ」
「はい……え?」
テイトがシンを見返すとシンは依然真剣な顔で続けた。
「全員が持つ情報を合わせて、敵の行動パターンを分析する」
すぐにしろと急かされ、テイトは《アノニマス》との戦いの局面が変化するような期待にも似た気持ちが湧き上がるのを感じた。
「――分かりました」
何かが起ころうとしている、そんな予感めいた確信があった。
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