神聖国 ―竜の名を冠する者―

あらかわ

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【テイトの覚悟 5】

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 それからは少し忙しかった。

 《クエレブレ》の人達がコルネを離れる前に、できるだけ村の復興を手伝い、それと平行して体術を習った。
 試しでユーリさんに持たせてもらった剣はとても重くて、今の僕では振るうことも叶わなかった。
 剣に振り回される僕を見て、ユーリさんは笑って、お前はこれだな、と短剣をくれた。
 それはとても軽くて、鏡のように綺麗で、それなのに人を傷付ける道具なのだと、少しだけ怖かった。

 そして、妹の赤いリボンだけを形見で貰って、両親と妹を村の墓地に埋葬した。
 復興途中の村では十分な用意なんてできるわけもなく、簡素な墓標を立てることしかできなかったが、ステラさんが花を供えてくれたので見られるものにはなったと思う。
 その墓前で手を合わせて、家族に自分の覚悟を伝えた。

 彼らについて行って医者に目を見てもらって、その後はそのまま仲間にしてもらうつもりだと村の人に告げると、大半が無謀だと反対した。
 その理由の殆どは僕を心配してくれるものだったので、僕は更に決意を固くした。
 隣の家に住んでいたおじいさんは、自分が面倒を見るからやめなさいと最後まで言ってくれたが、僕の決意が変わらないのを知ると、いつでも戻ってきなさいと片腕だけで抱きしめてくれた。
 僕の他にも志願した者が数人いるらしく、何かあったら言うんだぞと親切に声をかけてくれた。

 村の人達に別れを告げながら、僕は《クエレブレ》の出発に付き従った。
 《クエレブレ》の人達も子供の僕を気遣ってしきりに声をかけてくれた。
 その道中もユーリさんの指導は続き、立ち止まって皆が休む時でさえ、これを読めと分厚いボロボロの本を渡された。

「これは?」
「化学の本だ。魔法を使うならこの内容を理解しなきゃならねぇ。一ヶ月で覚えろ」
「一ヶ月……」

 本を開いて見てみると、内容が難しすぎて殆ど意味が分からなかった。

「お前は覚えなきゃいけないことが多い。魔法も体術も剣の使い方も、そして知識も入れていかなきゃいけねぇんだ。できるな?」
「……努力します」
「よし」
「よし、じゃないわよ、あんた詰め込み教育にも程があるわよ!」

 ステラさんが駆け寄ってきてユーリさんの後頭部を叩いた。

「っ仕方ねぇだろ! 自分を守るぐらいはできるようになってもらわねぇと」
「ふーん。じゃあ、あんたは何歳で魔法使えるようになったの? 言ってごらん?」

 ユーリさんが横で歯軋りするのを見て、僕は思わず声を上げた。

「僕が教えてほしいって言ったんです。大丈夫です、やれます」
「……ほら、こいつもこう言ってる」
「あんたが言わせてんでしょ」
「仲間になろうとしてる奴をいつまでも子供扱いするのもどうかと思うぜ」

 ステラさんは大きくため息を吐くと僕に視線を合わした。

「無理な時はちゃんと無理って言いなさい、あなたが苦しくなるだけよ」
「でも、僕が望んだことですし……」
「俺たちの集団に魔法を使える奴は多くない。お前が使いこなせるようになったら戦力になる。期待してるぜ、テイト」
「だから、あんたは!」

 ステラさんは怒っていたが、僕は少し嬉しかった。
 ユーリさんは僕を子供ではなく仲間として見てくれている。
 その期待に応えたいと思った。

 街へと向かう道中で、別の道へと切り替える隊が幾つかあった。
 彼らはどこに行くのかと尋ねると、いつどこが襲われるか分からないため、できるだけ各地に仲間を分散させることで、何かあった時に近い者がすぐに迎え打てるようにしているのだ、とステラさんが教えてくれた。
 僕たちの村が襲われた時も、近くの村に滞在していた者から順に集まり、今のこの人数になったとのことだった。

 医者がいる街は遠く、途中訪れた村で夜を過ごす毎に人数はどんどんと減り、三日程かけて街に着く頃には数十人いた集団も十人程になっていた。

 僕にとって初めての街に着いたが、大きな建造物や、綺麗に整備された道に感動を覚える間もなく、すぐに病院に連れて行かれた。
 そこで僕の左目の状態を見た医者はすぐに摘出を行うと決定し、当日中に手術が行われた。

 僕は麻酔をかけられていたため起きたら全てが終わっていたが、感染症にかかりかけていて危ない状態だったと後から教えられた。
 ステラさんがユーリさんに無茶をさせるからだと怒っていたが、僕自身自覚はなかったのでなんだか申し訳なかった。

 取り敢えず、魔法で保護はしているが一ヶ月は安静にして抗生剤を飲むように、と医者に言われ僕の訓練は一時お預けとなった。
 一ヶ月後の経過を見て運動の可否は判断されるらしく、僕はそれまで魔法の勉強に集中することになった。

 街での滞在先は、宿ではなくこの街に自宅を構える仲間達の家を借りることとなった。
 集団はまた二つに分かれ、東西にある家へとそれぞれ向かった。
 僕は病院の近い東に位置する家で絶対安静と言われ化学の本と共に部屋に押し込まれた。

 魔法をしっかりと勉強し始めて分かったのだが、僕の魔法は強くなかった。
 父しか魔法が使えなかったので、父より劣ることは分かっていたが、とても戦いに使えるようなレベルではなかった。

 ユーリさんやステラさんは合間を縫って頻繁に僕の様子を見に来てくれたので、その度にそのことを伝えようとした。

「ステラさん、あの、僕……」
「どうしたの? ユーリがまた無茶でも言った?」
「……いえ、あの、ステラさんは、どうして医療魔法が使えるんですか? あれ、凄く難しいですよね?」
「よく怪我する奴がいたから、仕方なく勉強したのよ」

 しかし、二人に失望されるのが怖くて、結局伝えることはできなかった。

「向こうは魔法を使える奴が多くて厄介なんだよ。しかも、威力が強いから尚更。ただ、魔法だけで体の使い方は下手くそだから、そこが狙い所だな」

 僕の様子を見に来た際にそう話すユーリさんに、また伝える機会を失った。
 もう少し勉強して知識を得て、それでも威力が上がらなかったら、その時は正直に話そうとまた先延ばしにした。

 そうして伝えられぬまま一ヶ月が過ぎ、いよいよ明日が通院の日だという時に、近くの町が襲われているという情報が入ったとユーリさんが告げた。

「一週間は帰って来れねぇと思うが、勉強サボんなよ」
「病院付き添えなくてごめんね」

 もちろん、僕は留守番だった。
 慌ただしく出て行く皆を見送って、僕は真面目に魔法の練習に取り組んだが、その威力が向上するなんて奇跡は当然起こらなかった。
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