神聖国 ―竜の名を冠する者―

あらかわ

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34.  賑やかな出立

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 表面上和やかに話ながら正門まで向かい、レンリやナナと離れることに名残惜しそうな表情を浮かべたアニールに別れを告げ、外に待たせていた馬車に乗りこむ彼を見送った。
 その馬車が離れていくのを見ながら、テイトはようやく大きく息を吐いた。
 そんなテイトを労うように、リゲルがぽんとテイトの肩を叩いた。

「テイト、お疲れ」
「……うん」
「テイト、さっきの優男は一体? ……レンリさんと親しげに話していたようだが」

 ルゴーが訝しげにテイトに尋ねた。
 大方、女神と信仰しているレンリの交友関係が気になるのだろう。

「あの人はアニールさん、この拠点を用意してくれた人なんです。教団の人だから、竜の子であるレンリさんとナナに優しくて」
「なるほど、では同志だな」

 ルゴーは安心したように頷いた。

「――ルゴーさん達もご一緒なんですね」
「レ、レンリさんっ」

 ルゴーに気付いたレンリが微笑みながら声をかけると、ルゴーは顔を紅潮させた。
 会うのはあの襲撃日以来になるが、レンリもしっかりルゴーのことを覚えていたようだ。

「よろしくお願いしますね」
「ハ、ハイ」
「……レンリちゃん、もう外だからそろそろフード被りなよ。ナナちゃんも」

 リゲルに指摘されるとレンリは素直にフードを被り、ナナも聞いていたのか無言のままフードを深く被った。

「っふ、あはははっ、ごめっ」

 突如聞こえた笑い声の方に目を向けると、ラキドの隊の紅一点である女性が俯きながら体を震わせていた。
 体の揺れに合わせ、無造作に一つに括られた髪も揺らめいた。

「……カノン」
「ラキド、ごめんって、っく、ルゴーさんのあんな顔っふふ」

 咎めるように名前を呼ばれて一度は笑いを抑えようとしたようだが、ルゴーの赤らめ顔を思い出したのか、カノンは更に大きく体を揺らした。

「……ルゴー、すまない。カノンには後で俺からよく言っておく」
「お、おう」

 ルゴーは何故自分が笑われているのか、いまいち理解していないようだった。
 それがまたカノンのツボを刺激したようで、彼女は咳き込むほどに笑っていた。

「――あぁ、しんど。こんなに笑ったの久しぶりかも。ってか、リゲルも過保護すぎるよね。あ、私も自己紹介したい」

 カノンはにっと笑ってレンリとナナの方に近付いた。
 普段は頼れるお姉さんといった感じの彼女がその顔いっぱいに笑顔を浮かべると、子供のように無邪気な印象を与えた。

「女神様だよね、私はカノン。会うのは初めてだけど、噂は色々聞いてるよ。でも実際見たら、噂以上で正直びっくりした」

 レンリの前に手を差し出し握手を求めるカノンに、レンリは少し戸惑ったように手を差し出した。

「初めまして、カノンさん。レンリと申します。……あの、それは本当に私のことで合っていますか?」
「レンリちゃん以外いないでしょ! てか、カノンでいいし、なんなら姉御って呼んでくれても良いよ。――で、そっちがツンデレナナちゃんで、あっちが無愛想魔法使いでしょ?」

 一歩間違えれば悪口とも取られないことをあっけらかんと告げるカノンに、テイトはあわあわと手を振った。

「貴女、失礼じゃありませんこと! お里が知れますわね。――レンリ様、こんな女と話す必要ありませんわ」

 ものすごい剣幕で捲し立てながら、ナナはカノンから遠ざけようとレンリの手を引っ張った。

「あれ? ごめんね。そう怒らないでよ、可愛い顔が台無しだよ?」
「……可愛いのは認めますわ」

 ナナが照れたように小さな声で肯定を示すと、カノンは口を押さえながら顔を背けた。

「レンリちゃんとナナちゃんの竜の子ズは有名も有名。神々しくて目の保養って」
「まぁ、それも認めますわ」
「っふふ、あはは、ダメだ、ナナちゃん、ちょー可愛いね」
 二人とも噂通り、とカノンは堪えきれず噴き出していたが、ナナは褒められて気を良くしたようで、それを注意することはなかった。

「……あの、カノンさん、噂というのは?」
「あ、噂? もうすごいよ、女神やら天使やら、いい年した男達が浮かれちゃってさ。容赦なく初恋を泥棒していくんだって話を聞いた時には流石に笑い飛ばしたんだけど、実際見たら笑えないね、納得納得」
「はつこいどろぼう?」
「教団が竜の子を大切にする気持ちも理解できたわ。今誘われたらきっと私も入団しちゃう」
「は、はぁ」
「まぁ、レンリちゃんは気にせず、うちの隊の奴の初恋も奪ってあげてよ。ほら、ナナちゃんも」

 カノンはニヤニヤと笑いながらレンリとナナの手を引いて、自分の隊の方へと誘導しようとした。

「ちょっと、二人とも困ってるから……」
 
 引き留めたのはリゲルだった。
 難しそうな顔をしているリゲルを見て、カノンは笑みを深くした。

「ははーん、リゲル君も初恋泥棒された口だね」
「なっ」
「嫉妬は見苦しいぞ。ただの挨拶じゃんか」
「っ違うって、俺はただ……」

 顔を染めていくリゲルに比例して、ナナのリゲルを見る目が冷たい物へと変化していった。

「邪な気持ちであたし達に近付こうだなんて……。金輪際、話しかけないでくださる?」

 言い返すこともせず赤い顔のまま口の開閉を繰り返すリゲルに、カノンはとうとう笑い声をあげた。
 カノンが歩みを再開すると、彼女に手を引かれているレンリは勿論困惑した様子であったが、それ以上の困惑を見せたのはラキドの隊のメンバーだった。

「あ、姐さん、いいいいいですって」
「遠くから見てるだけで十分っすよ!」
「カノンさん、無理です! 話せません!」
「えーなんでー? 話してみたいって言ってたじゃん」
「それとこれとは話が別なんですぅ!」

 大きな声で叫ぶように抗議していた声は、カノンによってレンリとナナが前に押し出されるとぴたりと止まった。

「……ナナですわ」
「レンリと申します。よろしくお願いいたします」

 レンリが困ったように微笑みながら告げると、フードがあるから直視したわけでもないだろうに、男達は徐々に顔を赤く染めながら、は、はいと小さく返事をした。
 カノンはその様子に笑いながら、次はこっちとラキドの方へとレンリとナナを引っ張った。

「ラキドー、噂のレンリちゃんとナナちゃん」
「分かったから、あまり迷惑をかけるな」

 ラキドは一つ溜息を吐くと、二人に向かって申し訳なさそうな表情を浮かべた。

「すまない、カノンには後で言っておく。――ラキドだ。今回の旅路はよろしく頼む」
「あら、少しは話ができそうな方ですわね」

 ナナの上からの物言いに怒る様子もなく、カノンはにっと笑った。

「そう思う? 私の彼だから当然だね!」

 カノンの発言に一拍を置いて、一番に反応を返したのは意外にもナナだった。

「まぁ、まぁまぁ! 本当ですの?」
「ほんとほんと」
「出会いは? 付き合ってどれぐらいですの? 告白の言葉はどちらからですの!?」

 詰め寄る勢いのナナの食い付きっぷりに、カノンは一瞬呆気にとられたようだったが、すぐに笑い声を上げた。

「っふふ、興味あるの? ナナちゃん女の子だね。いいよ、歩きながら話そうか」
「……カノン」

 ラキドが困ったような声で名を呼んだが、それは完全に無視されたようである。
 人の色恋沙汰には詳しくないため、二人が恋人関係にあることをテイトも今初めて知ったわけだが、まさかナスタチウム地方への旅路で二人の馴れ初めを詳しく知ることになるとは、この時はまだ想像もしていなかった。
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