神聖国 ―竜の名を冠する者―

あらかわ

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40.  見えない答え

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「――先ずは、敵が戦闘を避けている理由が分かったわけだが……捕まると死んでしまう呪い染みたものが付与されている相手に、今後あんた達がどう立ち回るつもりなのか聞きたい」

 シンは鋭く目を細めた。

「今日は全員逃がす判断をしたようだが、それはあんた達の総意か?」

 息苦しいほどの空気の重たさに、皆の口も固く閉ざされていくようであった。
 テイトは意を決してシンと視線を合わした。

「……僕は、たとえ敵でも殺したくない」
「敵を逃がすことは根本的な解決にはならないぞ」
「それでも、アノニマスと同じ事はしない」

 テイトは足の上に置いた拳をギュッと握り込んだ。

「……リーダーはこう言っているようだが、他の奴は」
「俺も概ねリーダーと同意見だが……割れるだろうなぁ。拠点に持ち帰って、両者が納得するまで全員で話し合う必要があると思う」

 ルゴーの言葉にシンは静かに息を吐いた。

「確認すべき事はもう一つある。仮に、敵が望まず戦っているとしても、それは同じ答えになるのか?」

 ルゴーは目を丸くし、ラキドは顔を顰めた。

「想像がついてる奴もいるだろうから簡単に言うが、俺の予想が正しければ、奴らに施されている魔法は指示に逆らったら死ぬ、だろうな。街を襲えと指示されていたら襲わないと死ぬし、俺たちに捕まって情報を漏らすような恐れがある場合も死ぬように定められている。指示を破ったかどうかは、魔法を施された本人の感情の変化で簡単に判断が付くから、仕組みとしてはそう複雑じゃない」

 テイトは言葉を失った。
 そんな酷い話は、想像したこともなかったのだ。

「……そんな魔法、可能なんですか?」
「人体を魔道具に見立てれば可能だな。無論、魔力が高くないと無理だろうが……」
 
 シンは考えに耽りそうな様子であったが、既の所でバッと顔を上げた。

「まぁ、これは飽くまで可能性の話だ。確かめようにも、奴らに訊いたところで死んでしまうから、確定は得られないがな」
 言い終えて、シンは肩を竦めた。

 しかし、そんな仮定を聞かされたテイト達は気が気ではなかった。
 《アノニマス》は非人道的で、心ない人間の集まりだと思っていた。
 だからこそ、簡単に受け入れることができなかった。

「で、でもよ、それはまだ、お前の予測の話だろう?」

 戸惑っているのか、ルゴーの声は常よりも少し大きくなっていた。
 心なしか顔色も悪く見えた。

「予測の話だが、あらゆる可能性を考えることは追究の基本だ。完全に否定できるまでは、除外することもできない」
「……それなら、尚更、殺すことなんてできません」

 テイトが絞り出した言葉に、仲間達は微かに頷いてくれたが、シンだけは腕を組んで試すような眼差しを無遠慮に向けてきた。

「じゃあ、どうするんだ? 分かってると思うが、追い払うだけじゃ戦いは終わらないぞ」
「……彼らに、魔法をかけている張本人を見つけ出します」
「どうやって?」
「それは……」

 テイトは自信なく視線を下ろした。
 どうやってなんて、知っていたらとっくにどうにかしていることだろう。
 《アノニマス》の情報をテイトは何も持ち合わせていない。
 シンと話してようやく研究所の職員が関係していると知ったぐらいだから、寧ろ、シンの方が詳しいのではないかと思っているほどだった。

「――そういえば、教団の坊ちゃんから鳥が返ってきた。あんたが敵の中にいると言った竜の子の情報を、教団は持ち合わせてないらしい。これも、本当かは分からないが」
「そう、ですか」
「だが、一石は投じた。嘘を吐いている奴がいるなら、何かしらのアクションとして返ってくるだろう」

 それはつまり、敵の情報を知る糸口が見つかると言うことなのだろうか、とテイトは期待を添えてシンを見遣ったが、返ってきたのは苦い表情だった。

「それも、いつになるかは分からない。教団の関与を疑う意外に、俺に敵を探る手立てはない」

 テイトは唇を噛んで俯いた。
 折角、襲撃される前に街を救うことができたのにも関わらず、抱える問題は増えていく一方であった。
 素直にそれを喜ぶ時間もなく、解決の兆しさえ見えない。

「とにかく、あんた達が敵をどうするつもりなのか、それが決まったらまた教えてくれ。場合によっては、撃退に必要な人数も変わってくるし、何より今日の結果を受けて敵もやり方を変えてくるかも知れない。早めに次の策を講じることに損はないからな」

 テイトは重たく頷いた。
 無理矢理戦わされているかもしれない者を相手に、今まで通り戦えるのかどうか。
 不安ばかりが脳裏を過ぎった。

「俺からは以上だが、あんた達から確認したり、伝えたいことはあるか?」
「……俺から、いいだろうか」

 ラキドが控えめに手を挙げたため、彼に視線が集まった。

「取り敢えず、ヴィオレイを守れたのは事実だ。拠点にいる仲間にその事を早く伝えたいが、危険が完全に去ったと決定づけるにはまだ早急だ。だから、明日は拠点に帰る隊とここに残る隊で別れるのがいいと思うのだが、どうだろう?」
「……そうですね、僕もそれがいいと思います」

 テイトが同意を示すと、シンも頷いたのが見えた。

「それなら、残るのは俺の隊で引き受けよう。それに際して、念のためにシン殿の鳥を再び頂くことは可能だろうか?」
「勿論だ」
「ありがたい」

 シンが手の上に青い鳥を創り出すと、鳥はラキドの方へと軽やかに羽ばたいた。
 淡く発光するその鳥だけは、沈痛な表情を浮かべる仲間達とは対照的に、酷く脳天気に思えた。

 シンは再度他に何かある奴はいるかと尋ねたが、それに無言が返ってくると今日はそのまま解散となった。
 心を浸食するような暗く重たいものを上手く消化する術も分からず、その晩はとても眠れそうになかった。
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