神聖国 ―竜の名を冠する者―

あらかわ

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48.  不穏

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 帰路では、気落ちしているテイトを気遣ってか、ひたすらカノンが声をかけてくれた。
 時には代わりに怒りを露わにしてくれたため、テイトは少しだけ救われた気持ちになった。
 ラキドからも「魔道士の仲間もいて拠点もある、貴族の協力がなくても状況は改善されたのだし問題は無い」と慰めるように言われれば本当にその通りな気がした。

 気持ちが落ち着いてきた頃、拠点に到着した。
 船着き場に船をつけて順番に降りていると、近くにリゲルの姿が見えた。
 出迎えに来てくれたのかな、とテイトは顔に笑みを浮かべて大きく手を振った。

「リゲルー。ただいまー」
「あれ、ほんとだ。リゲル君だ」

 カノンも横に並んで手を振った。
 いい報告はできないが、ラキドの言うようにこちらが絶望的な状況に置かれている訳でもないし、そう悲観的になることもないだろう、とテイトはリゲルの方へ歩み寄った。

「――っ危ない!」

 突然、左手を引っ張られ身体は後ろへと傾いた。
 それと入れ替わるかのようにラキドの姿が眼前に躍り出て、今の声はラキドだったのかとテイトは頭の片隅でぼんやりと考えた。

「っ」

 テイトはその場で尻餅をついて、その衝撃に少し呻いた。
 腰に手を遣りながら前に目を向けると、ラキドが左腕を抑えながら蹲る姿が見えた。

「、リゲルを取り押さえろっ!」
「……ラキド?」

 戦う時のように獰猛な顔で声を上げたラキドに、仲間は困惑しながらも駆け足でリゲルの方へと近寄ったが、途中ラキドに視線を向けるとぎょっとしたような表情で口を開いた。

「ラ、ラキドさん、血が……」
「俺のことはいいっ! 早くリゲルを!」

 鬼気迫る様子に、仲間達は数人がかりでリゲルを地面に押しつけた。
 その一連の流れを見て、テイトはハッとしたように立ち上がった。

「な、何をやっているんで、すか……」

 言葉はしぼむように消えていった。
 ラキドの左腕にはリゲルの得物が深々と刺さっており、そこから流れ出る鮮血が地面を赤く染めていた。

「ラキドっ」

 カノンはラキドの傍に駆け寄ると、今にも泣きそうな表情でその左腕を見つめた。
 目の前で起こったことを何一つ理解できぬまま、テイトも半ば呆然とラキドの元へと向かった。
 ラキドは痛みに耐えるように目を瞑っているが、その額には薄らと脂汗が滲んでいた。

「……利き手じゃないから、さして問題はない」
「こんな時まで何強がってんのよ!」

 カノンに背中を叩かれ、ラキドは呻きながら顔を俯けた。
 いつも通りに振る舞ってはいるが、彼の表情は苦しげだ。
 致命傷ではないのかも知れないが、ゆっくり話しているほど楽観的な状態でもない。
 今こうしている間にも、彼の血は止めどなく流れ続けているのだから。

「シンさんを呼んできます!」

 今必要なのは高度な医療魔法を使える存在だ、と駆け足でその場を立ち去った。
 場を離脱する際に、ちらりと横目でリゲルを確認した。
 地面に押しつけられながら言葉にならない声を上げるリゲルは、まるで理性のない獣のように見えた。

 リゲルが狙いを定めて襲いかかった相手は間違いなくテイトだった。
 ラキドが咄嗟に前に出てくれなければ、怪我をしていたのは自分だ。

(なんで、リゲルが……僕を……)

 リゲルとはずっと一緒だった。
 年上ばかりの《クエレブレ》で、ユーリやステラが気を遣って同郷の者や少しでも年が近い者を同じチームに入れてくれていたのだ。
 苦楽を共にしてきた戦友だと思っていた。
 そう思っていたのは、自分だけだったのか。

 考えると涙が出てしまいそうだったため、テイトは頭を振って我武者羅に走った。
 
 暗く、不穏なものが覆い尽くそうとしている、そんな予感がしていた。
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