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49. 緊急会議 1
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シンの到着によって、事態は一旦の収束を得た。
シンは辿り着いた現場の状況に眉を顰めると、第一にラキドの方へと足を向けた。
シンが魔法を施すと見る見るうちにラキドの表情は良くなったが、如何せん血が流れすぎたのか、青白く変化した肌の色だけは戻らなかった。
カノンに付き添われながら休養の為に離れていくラキドを見送り、シンは次にリゲルの傍に寄った。
リゲルは既に気を失っていた。
目を閉じて横たわっている姿は、普段のリゲルと何ら変わりのないように見えた。
シンはリゲルを一瞥すると、地下の小部屋に軟禁しろとラキド隊の者に声をかけた。
テイトは言葉を失い、ただ呆然と連れて行かれるリゲルを見送ることしかできなかった。
その後、隊長格の者が揃うのを待って、慌ただしく緊急会議が開かれた。
あの場にいた者達には箝口令を敷いた筈なのだが、それでも人の口には戸を立てられなかったようで、どこか騒然とした状態で会議が始まろうとしていた。
テイトはこの場に参加しているラキドをちらりと見遣った。
ラキドには休むよう伝えたのだが、彼は頑なに大丈夫だと口にした。
(大丈夫なはず、ないじゃないか……)
神経がやられてしまったのか、ラキドは左腕から指先までの感覚が全くないのだと言う。
シンの魔法を以てしても、一度無くなったものを取り戻すことは出来なかった。
自分を庇ったせいで、と罪悪感に押しつぶされそうになるテイトに気付いたのか、ラキドは困ったように利き腕じゃないから気にすることはない、といつもの調子で告げたのだ。
それが一層、テイトには辛かった。
テイトは泣きそうになっている自分に気付き、振り払うように頭を振った。
今は会議に集中しなければならない。
シンはシンで、テイトの隣で考え込むようにずっと口元を手で覆って視線を下げている。
自分がリゲルのことをきちんと話さなければ、とテイトはキッと顔を上げた。
「――突然の招集に答えて頂いてありがとうございます。先ず、僕から二点お伝えしたいことがあります」
先程までざわついていた室内は、水を打ったように静まりかえった。
「先ずは、貴族への協力打診の件ですが、皆さんの言うとおりでした。こちらの話に興味を持たれることもなく、すげなく断られました」
その内容はある程度予想通りだったようで、特に表立った反応はなかった。
「でも、僕たちには魔道士の仲間と拠点がある。断られたからと言って何かが変わることはない、そう思ってます。――それから、もう一つお伝えしたいことは……」
口の中が乾いて上手く言葉が繋がらなかったため、テイトは一度口を閉じてゆっくりと唾を飲み込んだ。
膝の上で握り込んだ拳は震えていた。
その震えが声にまで表われてしまいそうだった。
「……既にご存じの方もいるかと思いますが、拠点到着後、僕たちは襲撃に遭いました」
テイトは目を伏せた。
「襲ったのは、僕たちの仲間である……リゲルでした」
息を呑んだのは誰だったのか。
テイトは下を向いたまま続けた。
「狙いは僕のようでしたが、実際は分かりません。偶々僕がそこにいたからなのか、それとも違うのかは……」
「……リゲルに聞いていないのか?」
「気絶させて、この地下に軟禁しています。目覚め次第、話を聞くつもりですが、今はまだ何も……」
テイトは顔を上げてラキドを見つめた。
「僕を庇って、ラキドが負傷しました。その傷の深さから、リゲルが明確な殺意を持って僕たちを襲ったのは明らかです」
注目がラキドに集まると同時に、皆が訝しげに眉を顰めた。
ラキドの意識ははっきりとしており、また目に見える外傷もないため、彼が深い傷を負ったことに気付いた者はいなかったようだ。
「負傷は、如何ほどの?」
「左腕が使い物にならなくなった」
「そんな……」
「シン殿に治療をして頂き、今は痛みもないから心配はいらない」
「だからといって」
「あの時、リゲルの様子は見るからに可笑しかった。目が虚ろで何も考えが読めない、そんな顔をしていた。俺がテイトを庇えたのは、偶々光る得物が見えたからだ。武器を出していては間に合わない、その咄嗟の判断で利き腕とは逆の腕を差し出したのは、自分でもいい動きだったと思っている」
ラキドは真面目な顔でそう語った。
仲間達は動揺したようにお互い顔を見合わした。
「いやでも、リゲルがそんな……」
「彼は入ってかれこれ一年になるんだぞ。攻撃する意志があったなら何度だって機会はあったはずだ。それなのに、何故今更」
「……魔道士が仲間に加わって焦ったか?」
「まさか」
口々に好き勝手交わされる言葉に、テイトは耳を覆いたくなった。
リゲルがそんなことをしたなんて信じられないのは、テイトも一緒だった。
「――操られていた可能性もある」
声量は決して大きくはなかったが、その言葉だけは鮮明に耳に届いた。
テイトは驚き半分で声の主を見つめた。
視線を向けられたシンは依然として何かを考えるように目を伏せている。
それでも、光明が差したような、そんな期待が膨らんだ。
「……操られていた、とは?」
仲間も戸惑ったようにシンを見遣った。
「そのままの意味だ。あいつは魔法で誰かに操られて仲間を攻撃するように仕向けられていたのかも知れない。念のため、地下には妨害魔法をかけている。誰一人、地下では魔法を使えないようにな」
「……操られていたって、誰に?」
「この拠点に入り込んでいる誰かに、だろ」
シンの言葉は別の衝撃をもたらした。
「……それは、どういう意味だ」
シンはそこでようやく顔を上げた。
「この拠点に仲間の顔をした裏切り者がいるか、もしくは敵が既に入り込んで潜んでいる可能性がある、と言う意味だ」
皆茫然自失とした様子で黙り込んだ。
「まぁ、あいつが本当に裏切り者だった可能性もゼロではないわけだが、それを確定するのは話を聞いてみてからだな」
ただ一人、シンだけが動揺もせずに話を続けた。
「……敵が潜んでいる可能性があると言ったが、侵入経路なんてどこにもっ、」
「拠点を囲む壁を壊してとも考えられるが、今のところ異常はなかった。とすると、北門は常に閉鎖しているし、東西には水門しかないんだから、入り込むとしたら普通に南門からだろうな」
「しかし、そこには常に門番が!」
シンはすっと目を細めた。
「ただ突っ立ってるだけだろ。魔法で記憶を操作されてしまえば、あいつらは自分が敵を通したことすら覚えていられない。人を操る程の魔法をかけられるんだとしたら、それぐらいきっと容易だ」
「そんなこと……」
「そうだな、そんなことをしなくても、敵は拠点に近付くことを許可されていたんだったな。だが、敵と知らなかったら構わないのか? 門の外だったらセーフなのか? それは、なんともザルな警備だな。あの時だって、あいつが入ろうと思えばいつでも侵入されてたぞ」
シンの言葉に数人が気まずそうに目を逸らしたのが見えた。
「あの、何の話ですか?」
「そう言えばあんたはいなかったな。――一週間前、アノニマスがここに来た」
テイトは目を見開いた。
その話を知らなかっただろう他の者も驚愕の表情を浮かべた。
「き、来たって、大丈夫だったんですか?」
「あぁ、火傷を負った奴は治したし、実害は教団から貰ったあの馬車が丸焦げになったことだけだ」
思った以上の被害に、テイトは口を噤んだ。
「俺を訪ねてきたという言葉を鵜呑みにして、門番は門の近くで待つことを許可していたらしい。まぁ、アノニマスかどうかなんて襲われなきゃ分からないから、彼らを職務怠慢だと責めるつもりはないが……ただ、それがあったからこそ、この拠点には既に何人か入り込んでいても可笑しくはないと思った」
最悪な状況を想像して、皆が一様に顔を歪めた。
テイトはそこでハッと思い出した。
「シンさんが森にかけていた魔法を拠点にもかけられないですか?」
「どう設定するつもりだ?」
「え? 設定?」
シンは溜息を吐いた。
「あの森にかけていた魔法はこうだ。俺とナナ以外の人間の侵入を禁ずる。拠点にはどういった制約をかけるんだ?」
「普通にクエレブレの人以外の入場はダメとかってできないんですか?」
「クエレブレの者のみ入場可能と設定したとしても、既に敵が入り込んでいたらその縛りは無意味だ。それに、クエレブレの者だって基準は何だ? 制約が曖昧すぎると、敵が自分はクエレブレの者だと思いこんでも入れる可能性があるぞ」
テイトは考えるように目を伏せた。
「……悪意のある者の侵入を禁ずる、とか」
「それも曖昧だな。そうかけてもいいが、それだと仲間の中にも入れない奴が出てくるぞ」
「え?」
「たとえば、仲間内で仲違いしてる奴がいたとして、そうやって誰かに嫌悪感を抱いている場合も悪意に適用されるかもしれないってことだ」
簡単そうで難しい問題にテイトが顔を顰めると、シンは再度息を吐き出した。
「まぁ、それは俺が考えるとして今は置いておこう。とにかく奴に話を聞かないことには話し合いも進まないが、これは決して他人事ではなく、次は自分が誰かを襲うかも知れないっていう最悪のパターンを考慮すべきなのは事実だ」
「そうですね。取り敢えず、その場合の対向策を考えましょう」
その言葉の後に沈黙が訪れたが、皆が考えに集中できていないのは明らかだった。
自分たちの中に敵がいるかも知れない、しかもそれが恐ろしく高度な魔法を使う者とあっては、気が気ではないのはテイトも同じだった。
「――簡易的に、二人一組の行動を徹底するのはどうだろうか?」
ラキドが控えめに発言した。
「二人一組なら何かあった時に対処できるだろうし、そうでなくても、ペアの者がいること自体が抑止力になるかも知れない」
それは、とても理にかなっているように思えた。
テイトが頷く横で、シンも首を縦に動かしたのが見えた。
「まぁ、それが一番手っ取り早いかもな」
「では、自分の隊の者にそれを徹底するよう伝えてください。それと、今のところ仲間内に裏切り者がいる可能性や敵が侵入している可能性は、不安や混乱の原因になるかと思うのでここだけの話に留めておいてください」
全員が肯定するように頷いたため、テイトはふぅと息を吐きだした。
「――僕からは以上ですが、皆さんから何か連絡事項はありますか?」
テイトの問いかけに、気まずそうに挙手をする者がいた。
名指しして先を促すと、男はどこか居心地が悪そうに、だがはっきりとした声色で話を切り出した。
「拠点に敵がいるかも知れないという今、言うべきか迷ったが一つお願いがある。――アノニマスとの交戦のために拠点を離れる際は、一人は強い魔道士を同行させてほしい」
テイトは思わず目を丸くした。
「今回も事前に敵を追い払うことは出来たが、負傷者は少なからず出ている。魔道士を相手にするんだ、魔法に詳しい者がいればこちらも心強い。状況を良くしてくれるシン君か、攻撃を防いでくれるレンリさんがいてくれたら、もっと効率よく戦える」
テイトは言うべき言葉が思い浮かばなかった。
彼の言うことは尤もであろう。
それでも。
(……レンリさんは、)
「それは、俺たちに休みなく出陣しろってことか?」
「そこまで言ってないが、せめて交互にでも……」
黙っていたテイトの代わりにシンが答えると、男はしどろもどろな様子で言葉を返した。
やがて、シンは息を吐いた。
「――検討しよう」
「助かる」
ほっとしたように男が胸を撫で下ろした。
テイトは何も言えずに唇を噛んだ。
「……他には、何かありますか」
声を絞り出すと無言が返ってきたため、緊急会議はこれにて解散となった。
仲間達は順に退出していったが、テイトは暫く立ち上がれなかった。
色々なことが短時間に一気に起こり過ぎて、酷く頭が痛かった。
シンは辿り着いた現場の状況に眉を顰めると、第一にラキドの方へと足を向けた。
シンが魔法を施すと見る見るうちにラキドの表情は良くなったが、如何せん血が流れすぎたのか、青白く変化した肌の色だけは戻らなかった。
カノンに付き添われながら休養の為に離れていくラキドを見送り、シンは次にリゲルの傍に寄った。
リゲルは既に気を失っていた。
目を閉じて横たわっている姿は、普段のリゲルと何ら変わりのないように見えた。
シンはリゲルを一瞥すると、地下の小部屋に軟禁しろとラキド隊の者に声をかけた。
テイトは言葉を失い、ただ呆然と連れて行かれるリゲルを見送ることしかできなかった。
その後、隊長格の者が揃うのを待って、慌ただしく緊急会議が開かれた。
あの場にいた者達には箝口令を敷いた筈なのだが、それでも人の口には戸を立てられなかったようで、どこか騒然とした状態で会議が始まろうとしていた。
テイトはこの場に参加しているラキドをちらりと見遣った。
ラキドには休むよう伝えたのだが、彼は頑なに大丈夫だと口にした。
(大丈夫なはず、ないじゃないか……)
神経がやられてしまったのか、ラキドは左腕から指先までの感覚が全くないのだと言う。
シンの魔法を以てしても、一度無くなったものを取り戻すことは出来なかった。
自分を庇ったせいで、と罪悪感に押しつぶされそうになるテイトに気付いたのか、ラキドは困ったように利き腕じゃないから気にすることはない、といつもの調子で告げたのだ。
それが一層、テイトには辛かった。
テイトは泣きそうになっている自分に気付き、振り払うように頭を振った。
今は会議に集中しなければならない。
シンはシンで、テイトの隣で考え込むようにずっと口元を手で覆って視線を下げている。
自分がリゲルのことをきちんと話さなければ、とテイトはキッと顔を上げた。
「――突然の招集に答えて頂いてありがとうございます。先ず、僕から二点お伝えしたいことがあります」
先程までざわついていた室内は、水を打ったように静まりかえった。
「先ずは、貴族への協力打診の件ですが、皆さんの言うとおりでした。こちらの話に興味を持たれることもなく、すげなく断られました」
その内容はある程度予想通りだったようで、特に表立った反応はなかった。
「でも、僕たちには魔道士の仲間と拠点がある。断られたからと言って何かが変わることはない、そう思ってます。――それから、もう一つお伝えしたいことは……」
口の中が乾いて上手く言葉が繋がらなかったため、テイトは一度口を閉じてゆっくりと唾を飲み込んだ。
膝の上で握り込んだ拳は震えていた。
その震えが声にまで表われてしまいそうだった。
「……既にご存じの方もいるかと思いますが、拠点到着後、僕たちは襲撃に遭いました」
テイトは目を伏せた。
「襲ったのは、僕たちの仲間である……リゲルでした」
息を呑んだのは誰だったのか。
テイトは下を向いたまま続けた。
「狙いは僕のようでしたが、実際は分かりません。偶々僕がそこにいたからなのか、それとも違うのかは……」
「……リゲルに聞いていないのか?」
「気絶させて、この地下に軟禁しています。目覚め次第、話を聞くつもりですが、今はまだ何も……」
テイトは顔を上げてラキドを見つめた。
「僕を庇って、ラキドが負傷しました。その傷の深さから、リゲルが明確な殺意を持って僕たちを襲ったのは明らかです」
注目がラキドに集まると同時に、皆が訝しげに眉を顰めた。
ラキドの意識ははっきりとしており、また目に見える外傷もないため、彼が深い傷を負ったことに気付いた者はいなかったようだ。
「負傷は、如何ほどの?」
「左腕が使い物にならなくなった」
「そんな……」
「シン殿に治療をして頂き、今は痛みもないから心配はいらない」
「だからといって」
「あの時、リゲルの様子は見るからに可笑しかった。目が虚ろで何も考えが読めない、そんな顔をしていた。俺がテイトを庇えたのは、偶々光る得物が見えたからだ。武器を出していては間に合わない、その咄嗟の判断で利き腕とは逆の腕を差し出したのは、自分でもいい動きだったと思っている」
ラキドは真面目な顔でそう語った。
仲間達は動揺したようにお互い顔を見合わした。
「いやでも、リゲルがそんな……」
「彼は入ってかれこれ一年になるんだぞ。攻撃する意志があったなら何度だって機会はあったはずだ。それなのに、何故今更」
「……魔道士が仲間に加わって焦ったか?」
「まさか」
口々に好き勝手交わされる言葉に、テイトは耳を覆いたくなった。
リゲルがそんなことをしたなんて信じられないのは、テイトも一緒だった。
「――操られていた可能性もある」
声量は決して大きくはなかったが、その言葉だけは鮮明に耳に届いた。
テイトは驚き半分で声の主を見つめた。
視線を向けられたシンは依然として何かを考えるように目を伏せている。
それでも、光明が差したような、そんな期待が膨らんだ。
「……操られていた、とは?」
仲間も戸惑ったようにシンを見遣った。
「そのままの意味だ。あいつは魔法で誰かに操られて仲間を攻撃するように仕向けられていたのかも知れない。念のため、地下には妨害魔法をかけている。誰一人、地下では魔法を使えないようにな」
「……操られていたって、誰に?」
「この拠点に入り込んでいる誰かに、だろ」
シンの言葉は別の衝撃をもたらした。
「……それは、どういう意味だ」
シンはそこでようやく顔を上げた。
「この拠点に仲間の顔をした裏切り者がいるか、もしくは敵が既に入り込んで潜んでいる可能性がある、と言う意味だ」
皆茫然自失とした様子で黙り込んだ。
「まぁ、あいつが本当に裏切り者だった可能性もゼロではないわけだが、それを確定するのは話を聞いてみてからだな」
ただ一人、シンだけが動揺もせずに話を続けた。
「……敵が潜んでいる可能性があると言ったが、侵入経路なんてどこにもっ、」
「拠点を囲む壁を壊してとも考えられるが、今のところ異常はなかった。とすると、北門は常に閉鎖しているし、東西には水門しかないんだから、入り込むとしたら普通に南門からだろうな」
「しかし、そこには常に門番が!」
シンはすっと目を細めた。
「ただ突っ立ってるだけだろ。魔法で記憶を操作されてしまえば、あいつらは自分が敵を通したことすら覚えていられない。人を操る程の魔法をかけられるんだとしたら、それぐらいきっと容易だ」
「そんなこと……」
「そうだな、そんなことをしなくても、敵は拠点に近付くことを許可されていたんだったな。だが、敵と知らなかったら構わないのか? 門の外だったらセーフなのか? それは、なんともザルな警備だな。あの時だって、あいつが入ろうと思えばいつでも侵入されてたぞ」
シンの言葉に数人が気まずそうに目を逸らしたのが見えた。
「あの、何の話ですか?」
「そう言えばあんたはいなかったな。――一週間前、アノニマスがここに来た」
テイトは目を見開いた。
その話を知らなかっただろう他の者も驚愕の表情を浮かべた。
「き、来たって、大丈夫だったんですか?」
「あぁ、火傷を負った奴は治したし、実害は教団から貰ったあの馬車が丸焦げになったことだけだ」
思った以上の被害に、テイトは口を噤んだ。
「俺を訪ねてきたという言葉を鵜呑みにして、門番は門の近くで待つことを許可していたらしい。まぁ、アノニマスかどうかなんて襲われなきゃ分からないから、彼らを職務怠慢だと責めるつもりはないが……ただ、それがあったからこそ、この拠点には既に何人か入り込んでいても可笑しくはないと思った」
最悪な状況を想像して、皆が一様に顔を歪めた。
テイトはそこでハッと思い出した。
「シンさんが森にかけていた魔法を拠点にもかけられないですか?」
「どう設定するつもりだ?」
「え? 設定?」
シンは溜息を吐いた。
「あの森にかけていた魔法はこうだ。俺とナナ以外の人間の侵入を禁ずる。拠点にはどういった制約をかけるんだ?」
「普通にクエレブレの人以外の入場はダメとかってできないんですか?」
「クエレブレの者のみ入場可能と設定したとしても、既に敵が入り込んでいたらその縛りは無意味だ。それに、クエレブレの者だって基準は何だ? 制約が曖昧すぎると、敵が自分はクエレブレの者だと思いこんでも入れる可能性があるぞ」
テイトは考えるように目を伏せた。
「……悪意のある者の侵入を禁ずる、とか」
「それも曖昧だな。そうかけてもいいが、それだと仲間の中にも入れない奴が出てくるぞ」
「え?」
「たとえば、仲間内で仲違いしてる奴がいたとして、そうやって誰かに嫌悪感を抱いている場合も悪意に適用されるかもしれないってことだ」
簡単そうで難しい問題にテイトが顔を顰めると、シンは再度息を吐き出した。
「まぁ、それは俺が考えるとして今は置いておこう。とにかく奴に話を聞かないことには話し合いも進まないが、これは決して他人事ではなく、次は自分が誰かを襲うかも知れないっていう最悪のパターンを考慮すべきなのは事実だ」
「そうですね。取り敢えず、その場合の対向策を考えましょう」
その言葉の後に沈黙が訪れたが、皆が考えに集中できていないのは明らかだった。
自分たちの中に敵がいるかも知れない、しかもそれが恐ろしく高度な魔法を使う者とあっては、気が気ではないのはテイトも同じだった。
「――簡易的に、二人一組の行動を徹底するのはどうだろうか?」
ラキドが控えめに発言した。
「二人一組なら何かあった時に対処できるだろうし、そうでなくても、ペアの者がいること自体が抑止力になるかも知れない」
それは、とても理にかなっているように思えた。
テイトが頷く横で、シンも首を縦に動かしたのが見えた。
「まぁ、それが一番手っ取り早いかもな」
「では、自分の隊の者にそれを徹底するよう伝えてください。それと、今のところ仲間内に裏切り者がいる可能性や敵が侵入している可能性は、不安や混乱の原因になるかと思うのでここだけの話に留めておいてください」
全員が肯定するように頷いたため、テイトはふぅと息を吐きだした。
「――僕からは以上ですが、皆さんから何か連絡事項はありますか?」
テイトの問いかけに、気まずそうに挙手をする者がいた。
名指しして先を促すと、男はどこか居心地が悪そうに、だがはっきりとした声色で話を切り出した。
「拠点に敵がいるかも知れないという今、言うべきか迷ったが一つお願いがある。――アノニマスとの交戦のために拠点を離れる際は、一人は強い魔道士を同行させてほしい」
テイトは思わず目を丸くした。
「今回も事前に敵を追い払うことは出来たが、負傷者は少なからず出ている。魔道士を相手にするんだ、魔法に詳しい者がいればこちらも心強い。状況を良くしてくれるシン君か、攻撃を防いでくれるレンリさんがいてくれたら、もっと効率よく戦える」
テイトは言うべき言葉が思い浮かばなかった。
彼の言うことは尤もであろう。
それでも。
(……レンリさんは、)
「それは、俺たちに休みなく出陣しろってことか?」
「そこまで言ってないが、せめて交互にでも……」
黙っていたテイトの代わりにシンが答えると、男はしどろもどろな様子で言葉を返した。
やがて、シンは息を吐いた。
「――検討しよう」
「助かる」
ほっとしたように男が胸を撫で下ろした。
テイトは何も言えずに唇を噛んだ。
「……他には、何かありますか」
声を絞り出すと無言が返ってきたため、緊急会議はこれにて解散となった。
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試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。
「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」
スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。
たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。
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