神聖国 ―竜の名を冠する者―

あらかわ

文字の大きさ
89 / 117

62.  オブリオ島へ 1

しおりを挟む
 自分たちが出陣していた間に、拠点では何が起こっていたのか。
 その報告のために、数刻前に解散を告げたはずの隊長達にテイトは再度招集をかけた。

 集まってくれた隊長達は、昨夜の会議の時よりも人数が減っていた。
 サラファでの被害がそれだけ大きかったということを改めて実感し、テイトは唇を噛み締めた。

 サラファに大軍が送り込まれたのは、どうやら《アノニマス》が《竜の子》であるレンリを誘い出そうとしていたからのようだとシンは口火を切った。
 しかし、結局はサラファにレンリが現れなかったため、敵の魔道士の一人が拠点に侵入を試みたことが、今回の中枢館の惨劇に繋がったのだろうと語った。

 そして、不幸にもレンリの意識が喪失していたことなど、これは偶然が幾重にも重なって起きた悲劇であり、事前防ぐことは難しかっただろうと続けた。

 リゲル、イザミ、レンリに魔法をかけたのは貴族であるルゥの仕業で間違いないが、ルゥもまた操られて魔法をかけていたのだろうと告げられた時、テイトは何とも言えない気持ちになった。
 操ったのは彼の家族である、ワカという人物。
 その全てが、ルゥから預かった手帳によって明らかとなった。

 シンはそこまで説明すると、先にテイトに告げたように、自分は《クエレブレ》を抜けてレンリの救出に行くと宣言した。
 また、組織としては今まで通り《アノニマス》から街を守ることを続けた方がいい、と無表情のままに述べた。

 それに追随するように、テイトは自分もシンについていくと声を上げた。
 もしこの行動がリーダーに相応しくないのであれば、他の者をリーダーに据えてくれて構わない、そうきっぱりと想いを告げた。

「俺も、レンリさんを助けることに賛成だ!」

 間髪入れずに力強く賛同したのはルゴーだった。
 彼はまるでアニールのようにレンリを崇拝していたので、その言葉は予想の範囲内であった。

「……その方が、いいだろうな」

 他にも賛同の声が聞こえた。

「他の仲間のように殉職したと考える方が、あんた達の行動理念に叶っていると思うがな」
「でも、生きているのだろう?」
「……おそらくな」
「それに、やはり魔道士相手には魔道士の仲間がいる方が心強い。……自分たちだけでは限界があることを改めて実感した」

 今日の戦いでその考えはより深まった、そう言って暗い表情を浮かべる仲間を見ると、やはり戦場でのレンリの不在が相当堪えたのだと理解した。
 確かに、テイトも同じことを考えてしまった。
 レンリがあの戦場にいれば、帰ることのできた仲間がもっといたはずだ、と。
 同時に、彼女が戦場に立つことを肯定してしまっている自分に、内心複雑な気持ちを抱いた。

 隊長達の殆どがレンリの救出に意欲を見せたため、それに向けて準備をする隊と、《アノニマス》の襲撃に備える隊、拠点の守りを固める隊に分かれて行動しようと話し合いに決着をつけた。

 取り敢えず今日は先ず休むことを優先しようとその場を解散し、テイトは暫定的にリーダーを継続することとなった。


 翌朝、シンの許可が下りたためリゲルとイザミを地下から解放した。
 リゲルは先ず一番にラキドの元へと出向き、頭を深く下げて謝罪を行った。
 ラキドは終始困った様子で対応をしていたが、リゲルが出てこられてよかった、と心底安心したように微笑んだため、リゲルは言葉を詰まらせながら涙で顔を濡らしていた。

 リゲルは再びテイトの隊に復帰することとなり、テイトは今後の予定とそうなるに至った経緯を共有した。
 リゲルは怒りなのか悲しみなのかよく分からない表情を浮かべたが、特に何かを言うことはなく、ただ静かに数回頷くのみであった。

 レンリの救出に向けて動くテイトの隊と行動を共にしたい、とルゴーが声高に主張したため、テイト達はルゴーの隊とオブリオ島に向かうこととなった。
 ハルファ川を下った一番下流にある港町マーレが第一の目標地点だが、その前にルフェールに寄らなければいけないことを伝えると、ルゴーは懐疑的な視線をテイトに向けた。
 その道程が本当にレンリの救出に関係があるのか、とその視線が執拗に訴えていたためテイトは頬を掻いた。
 オブリオ島には魔道士を探しに、そして、ルフェールにはアニールを訪ねにというのがシンの計画であり、テイトもそれ以上の詳細は分からないのだと告げると、一応は納得してくれたようであった。
 長旅になる可能性もあるから準備は念入りにと話していたところで、なんと見計らったかのようにアニールの来訪が伝えられた。

 凄いタイミングだと思いながら、テイトはシンと共にアニールの迎えに出向いた。

「皆様お久しぶりですね。本日も僅かながら救援物資を届けに――」
「いいところに来た。あんたに頼みがある」

 アニールの言葉を遮りシンが割り込むと、アニールは笑顔のまま眉だけをピクリと動かした。

「……お急ぎのようですね。いかがなさいましたか?」
「あんたの親族の誰かがアノニマスと関わっている。誰かまでは分からないから、全員を尋問して奴らをどこに匿っているのか調べだして欲しい」

 アニールは目を瞠り、不審げにシンを睨んだ。

「……何を、仰っているのですか?」
「紫髪の竜の子。それを隠している奴がいると言っている」
「以前、貴方が尋ねた御使い様のことですか。それについては、知らないと連絡が来たと伝えたはずですが、上手く伝達できていませんでしたか」
「きちんと対面して嘘を吐いていないかまで確認したのか?」
「……鳥を飛ばしての確認のみですが」
「嘘の連絡をした奴がいる」

 アニールは眉を顰め、シンの言葉を疑うように閉口した。

「一から十まで丁寧に説明する時間が惜しい。レンリの身に危険が迫っているから、早急に割り出してほしい」
「レンリ様の身に……」

 アニールはレンリの名を聞いた途端に表情を変え、居住まいを正した。

「……父か兄が、私に嘘の報告をした、と。正気ですか?」
「望んで嘘を吐いたのか、そうでないのかは分からないがな。アノニマスは従わない者に死を与える魔法を付与している」
「だからと言って、何故私達を疑うのですか?」
「アノニマスは貴族の直轄領を襲っていないと同時に、教団のある街も襲っていない。この意味は?」

 テイトは息を呑んでシンとアニールを見つめた。
 それはテイトの知らない情報であった。
 アニールはその事実に思うところがあったのか、視線を彷徨わせながら口を噤んでしまった。

「直轄領には魔導師団が居て厄介だ、これは分かる。じゃあ、教団は?」
「……偶然ではありませんか?」
「偶然ね、まぁその可能性はまだ捨て切れてはいないが」
「もしくは、竜神様の加護があるからでは」
「本気で言ってるのか?」

 シンの冷たい視線に、アニールは一度大きく息を吐いた。

「……分かりました。家族の元に出向き確認いたしましょう。それで、レンリ様の身に危険が迫っているというのは?」
「昨日アノニマスに攫われた。わざわざ攫うという選択をしたということは、すぐに殺すつもりはないということだが、確証はない」

 アニールは動揺したようによろめき、胸を押さえた。

「……やはり、レンリ様の意思を無視してでも、教団にお迎えすべきでした」
「今はつべこべ言ってる暇はない。レンリの無事を願うなら、分かり次第連絡を貰いたい」

 シンは以前と同じように魔法で小鳥を創り出すと、乱暴な手つきでアニールに押しつけた。
 アニールは家族を疑わなければいけないことについては納得していないようであったが、レンリの名前を出されてしまえば唇を強く噛んで黙り込むことしかできないようであった。
 力なく小鳥を受け取ったアニールはしかし、キッとシンとテイトを睨み付けた。
 まるで般若のようなその表情に、テイトは思わず竦み上がった。

「っ貴方達は、レンリ様の身に危険が訪れていた時に、一体何をしていたのですかっ!」
「サラファの襲撃を迎え撃ちに行っていた」
「私は貴方達を信じて、御使い様を託していたのに……それなのにっ」
「恨み言なら後で聞く。――頼む」

 アニールは悔しそうな表情を浮かべたが、何も言わないままに踵を返した。
 荒々しく立ち去るアニールの周囲を、小鳥だけが所在なさげに飛び回っていた。

「時間の節約ができたな。このまま直接マーレに向かう」

 シンもその場を立ち去ったため、テイトは予定の変更を伝えるために慌ただしく拠点内を駆け回った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

魔法使いの国で無能だった少年は、魔物使いとして世界を救う旅に出る

ムーン
ファンタジー
完結しました! 魔法使いの国に生まれた少年には、魔法を扱う才能がなかった。 無能と蔑まれ、両親にも愛されず、優秀な兄を頼りに何年も引きこもっていた。 そんなある日、国が魔物の襲撃を受け、少年の魔物を操る能力も目覚める。 能力に呼応し現れた狼は少年だけを助けた。狼は少年を息子のように愛し、少年も狼を母のように慕った。 滅びた故郷を去り、一人と一匹は様々な国を渡り歩く。 悪魔の家畜として扱われる人間、退廃的な生活を送る天使、人との共存を望む悪魔、地の底に封印された堕天使──残酷な呪いを知り、凄惨な日常を知り、少年は自らの能力を平和のために使うと決意する。 悪魔との契約や邪神との接触により少年は人間から離れていく。対価のように精神がすり減り、壊れかけた少年に狼は寄り添い続けた。次第に一人と一匹の絆は親子のようなものから夫婦のようなものに変化する。 狂いかけた少年の精神は狼によって繋ぎ止められる。 やがて少年は数多の天使を取り込んで上位存在へと変転し、出生も狼との出会いもこれまでの旅路も……全てを仕組んだ邪神と対決する。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。 全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった! ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。 一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。 落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!

家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。

希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。 手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。 「このまま死ぬのかな……」 そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。 ​そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。 試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。 ​「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」 ​スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。 たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。

処理中です...