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62. オブリオ島へ 1
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自分たちが出陣していた間に、拠点では何が起こっていたのか。
その報告のために、数刻前に解散を告げたはずの隊長達にテイトは再度招集をかけた。
集まってくれた隊長達は、昨夜の会議の時よりも人数が減っていた。
サラファでの被害がそれだけ大きかったということを改めて実感し、テイトは唇を噛み締めた。
サラファに大軍が送り込まれたのは、どうやら《アノニマス》が《竜の子》であるレンリを誘い出そうとしていたからのようだとシンは口火を切った。
しかし、結局はサラファにレンリが現れなかったため、敵の魔道士の一人が拠点に侵入を試みたことが、今回の中枢館の惨劇に繋がったのだろうと語った。
そして、不幸にもレンリの意識が喪失していたことなど、これは偶然が幾重にも重なって起きた悲劇であり、事前防ぐことは難しかっただろうと続けた。
リゲル、イザミ、レンリに魔法をかけたのは貴族であるルゥの仕業で間違いないが、ルゥもまた操られて魔法をかけていたのだろうと告げられた時、テイトは何とも言えない気持ちになった。
操ったのは彼の家族である、ワカという人物。
その全てが、ルゥから預かった手帳によって明らかとなった。
シンはそこまで説明すると、先にテイトに告げたように、自分は《クエレブレ》を抜けてレンリの救出に行くと宣言した。
また、組織としては今まで通り《アノニマス》から街を守ることを続けた方がいい、と無表情のままに述べた。
それに追随するように、テイトは自分もシンについていくと声を上げた。
もしこの行動がリーダーに相応しくないのであれば、他の者をリーダーに据えてくれて構わない、そうきっぱりと想いを告げた。
「俺も、レンリさんを助けることに賛成だ!」
間髪入れずに力強く賛同したのはルゴーだった。
彼はまるでアニールのようにレンリを崇拝していたので、その言葉は予想の範囲内であった。
「……その方が、いいだろうな」
他にも賛同の声が聞こえた。
「他の仲間のように殉職したと考える方が、あんた達の行動理念に叶っていると思うがな」
「でも、生きているのだろう?」
「……おそらくな」
「それに、やはり魔道士相手には魔道士の仲間がいる方が心強い。……自分たちだけでは限界があることを改めて実感した」
今日の戦いでその考えはより深まった、そう言って暗い表情を浮かべる仲間を見ると、やはり戦場でのレンリの不在が相当堪えたのだと理解した。
確かに、テイトも同じことを考えてしまった。
レンリがあの戦場にいれば、帰ることのできた仲間がもっといたはずだ、と。
同時に、彼女が戦場に立つことを肯定してしまっている自分に、内心複雑な気持ちを抱いた。
隊長達の殆どがレンリの救出に意欲を見せたため、それに向けて準備をする隊と、《アノニマス》の襲撃に備える隊、拠点の守りを固める隊に分かれて行動しようと話し合いに決着をつけた。
取り敢えず今日は先ず休むことを優先しようとその場を解散し、テイトは暫定的にリーダーを継続することとなった。
翌朝、シンの許可が下りたためリゲルとイザミを地下から解放した。
リゲルは先ず一番にラキドの元へと出向き、頭を深く下げて謝罪を行った。
ラキドは終始困った様子で対応をしていたが、リゲルが出てこられてよかった、と心底安心したように微笑んだため、リゲルは言葉を詰まらせながら涙で顔を濡らしていた。
リゲルは再びテイトの隊に復帰することとなり、テイトは今後の予定とそうなるに至った経緯を共有した。
リゲルは怒りなのか悲しみなのかよく分からない表情を浮かべたが、特に何かを言うことはなく、ただ静かに数回頷くのみであった。
レンリの救出に向けて動くテイトの隊と行動を共にしたい、とルゴーが声高に主張したため、テイト達はルゴーの隊とオブリオ島に向かうこととなった。
ハルファ川を下った一番下流にある港町マーレが第一の目標地点だが、その前にルフェールに寄らなければいけないことを伝えると、ルゴーは懐疑的な視線をテイトに向けた。
その道程が本当にレンリの救出に関係があるのか、とその視線が執拗に訴えていたためテイトは頬を掻いた。
オブリオ島には魔道士を探しに、そして、ルフェールにはアニールを訪ねにというのがシンの計画であり、テイトもそれ以上の詳細は分からないのだと告げると、一応は納得してくれたようであった。
長旅になる可能性もあるから準備は念入りにと話していたところで、なんと見計らったかのようにアニールの来訪が伝えられた。
凄いタイミングだと思いながら、テイトはシンと共にアニールの迎えに出向いた。
「皆様お久しぶりですね。本日も僅かながら救援物資を届けに――」
「いいところに来た。あんたに頼みがある」
アニールの言葉を遮りシンが割り込むと、アニールは笑顔のまま眉だけをピクリと動かした。
「……お急ぎのようですね。いかがなさいましたか?」
「あんたの親族の誰かがアノニマスと関わっている。誰かまでは分からないから、全員を尋問して奴らをどこに匿っているのか調べだして欲しい」
アニールは目を瞠り、不審げにシンを睨んだ。
「……何を、仰っているのですか?」
「紫髪の竜の子。それを隠している奴がいると言っている」
「以前、貴方が尋ねた御使い様のことですか。それについては、知らないと連絡が来たと伝えたはずですが、上手く伝達できていませんでしたか」
「きちんと対面して嘘を吐いていないかまで確認したのか?」
「……鳥を飛ばしての確認のみですが」
「嘘の連絡をした奴がいる」
アニールは眉を顰め、シンの言葉を疑うように閉口した。
「一から十まで丁寧に説明する時間が惜しい。レンリの身に危険が迫っているから、早急に割り出してほしい」
「レンリ様の身に……」
アニールはレンリの名を聞いた途端に表情を変え、居住まいを正した。
「……父か兄が、私に嘘の報告をした、と。正気ですか?」
「望んで嘘を吐いたのか、そうでないのかは分からないがな。アノニマスは従わない者に死を与える魔法を付与している」
「だからと言って、何故私達を疑うのですか?」
「アノニマスは貴族の直轄領を襲っていないと同時に、教団のある街も襲っていない。この意味は?」
テイトは息を呑んでシンとアニールを見つめた。
それはテイトの知らない情報であった。
アニールはその事実に思うところがあったのか、視線を彷徨わせながら口を噤んでしまった。
「直轄領には魔導師団が居て厄介だ、これは分かる。じゃあ、教団は?」
「……偶然ではありませんか?」
「偶然ね、まぁその可能性はまだ捨て切れてはいないが」
「もしくは、竜神様の加護があるからでは」
「本気で言ってるのか?」
シンの冷たい視線に、アニールは一度大きく息を吐いた。
「……分かりました。家族の元に出向き確認いたしましょう。それで、レンリ様の身に危険が迫っているというのは?」
「昨日アノニマスに攫われた。わざわざ攫うという選択をしたということは、すぐに殺すつもりはないということだが、確証はない」
アニールは動揺したようによろめき、胸を押さえた。
「……やはり、レンリ様の意思を無視してでも、教団にお迎えすべきでした」
「今はつべこべ言ってる暇はない。レンリの無事を願うなら、分かり次第連絡を貰いたい」
シンは以前と同じように魔法で小鳥を創り出すと、乱暴な手つきでアニールに押しつけた。
アニールは家族を疑わなければいけないことについては納得していないようであったが、レンリの名前を出されてしまえば唇を強く噛んで黙り込むことしかできないようであった。
力なく小鳥を受け取ったアニールはしかし、キッとシンとテイトを睨み付けた。
まるで般若のようなその表情に、テイトは思わず竦み上がった。
「っ貴方達は、レンリ様の身に危険が訪れていた時に、一体何をしていたのですかっ!」
「サラファの襲撃を迎え撃ちに行っていた」
「私は貴方達を信じて、御使い様を託していたのに……それなのにっ」
「恨み言なら後で聞く。――頼む」
アニールは悔しそうな表情を浮かべたが、何も言わないままに踵を返した。
荒々しく立ち去るアニールの周囲を、小鳥だけが所在なさげに飛び回っていた。
「時間の節約ができたな。このまま直接マーレに向かう」
シンもその場を立ち去ったため、テイトは予定の変更を伝えるために慌ただしく拠点内を駆け回った。
その報告のために、数刻前に解散を告げたはずの隊長達にテイトは再度招集をかけた。
集まってくれた隊長達は、昨夜の会議の時よりも人数が減っていた。
サラファでの被害がそれだけ大きかったということを改めて実感し、テイトは唇を噛み締めた。
サラファに大軍が送り込まれたのは、どうやら《アノニマス》が《竜の子》であるレンリを誘い出そうとしていたからのようだとシンは口火を切った。
しかし、結局はサラファにレンリが現れなかったため、敵の魔道士の一人が拠点に侵入を試みたことが、今回の中枢館の惨劇に繋がったのだろうと語った。
そして、不幸にもレンリの意識が喪失していたことなど、これは偶然が幾重にも重なって起きた悲劇であり、事前防ぐことは難しかっただろうと続けた。
リゲル、イザミ、レンリに魔法をかけたのは貴族であるルゥの仕業で間違いないが、ルゥもまた操られて魔法をかけていたのだろうと告げられた時、テイトは何とも言えない気持ちになった。
操ったのは彼の家族である、ワカという人物。
その全てが、ルゥから預かった手帳によって明らかとなった。
シンはそこまで説明すると、先にテイトに告げたように、自分は《クエレブレ》を抜けてレンリの救出に行くと宣言した。
また、組織としては今まで通り《アノニマス》から街を守ることを続けた方がいい、と無表情のままに述べた。
それに追随するように、テイトは自分もシンについていくと声を上げた。
もしこの行動がリーダーに相応しくないのであれば、他の者をリーダーに据えてくれて構わない、そうきっぱりと想いを告げた。
「俺も、レンリさんを助けることに賛成だ!」
間髪入れずに力強く賛同したのはルゴーだった。
彼はまるでアニールのようにレンリを崇拝していたので、その言葉は予想の範囲内であった。
「……その方が、いいだろうな」
他にも賛同の声が聞こえた。
「他の仲間のように殉職したと考える方が、あんた達の行動理念に叶っていると思うがな」
「でも、生きているのだろう?」
「……おそらくな」
「それに、やはり魔道士相手には魔道士の仲間がいる方が心強い。……自分たちだけでは限界があることを改めて実感した」
今日の戦いでその考えはより深まった、そう言って暗い表情を浮かべる仲間を見ると、やはり戦場でのレンリの不在が相当堪えたのだと理解した。
確かに、テイトも同じことを考えてしまった。
レンリがあの戦場にいれば、帰ることのできた仲間がもっといたはずだ、と。
同時に、彼女が戦場に立つことを肯定してしまっている自分に、内心複雑な気持ちを抱いた。
隊長達の殆どがレンリの救出に意欲を見せたため、それに向けて準備をする隊と、《アノニマス》の襲撃に備える隊、拠点の守りを固める隊に分かれて行動しようと話し合いに決着をつけた。
取り敢えず今日は先ず休むことを優先しようとその場を解散し、テイトは暫定的にリーダーを継続することとなった。
翌朝、シンの許可が下りたためリゲルとイザミを地下から解放した。
リゲルは先ず一番にラキドの元へと出向き、頭を深く下げて謝罪を行った。
ラキドは終始困った様子で対応をしていたが、リゲルが出てこられてよかった、と心底安心したように微笑んだため、リゲルは言葉を詰まらせながら涙で顔を濡らしていた。
リゲルは再びテイトの隊に復帰することとなり、テイトは今後の予定とそうなるに至った経緯を共有した。
リゲルは怒りなのか悲しみなのかよく分からない表情を浮かべたが、特に何かを言うことはなく、ただ静かに数回頷くのみであった。
レンリの救出に向けて動くテイトの隊と行動を共にしたい、とルゴーが声高に主張したため、テイト達はルゴーの隊とオブリオ島に向かうこととなった。
ハルファ川を下った一番下流にある港町マーレが第一の目標地点だが、その前にルフェールに寄らなければいけないことを伝えると、ルゴーは懐疑的な視線をテイトに向けた。
その道程が本当にレンリの救出に関係があるのか、とその視線が執拗に訴えていたためテイトは頬を掻いた。
オブリオ島には魔道士を探しに、そして、ルフェールにはアニールを訪ねにというのがシンの計画であり、テイトもそれ以上の詳細は分からないのだと告げると、一応は納得してくれたようであった。
長旅になる可能性もあるから準備は念入りにと話していたところで、なんと見計らったかのようにアニールの来訪が伝えられた。
凄いタイミングだと思いながら、テイトはシンと共にアニールの迎えに出向いた。
「皆様お久しぶりですね。本日も僅かながら救援物資を届けに――」
「いいところに来た。あんたに頼みがある」
アニールの言葉を遮りシンが割り込むと、アニールは笑顔のまま眉だけをピクリと動かした。
「……お急ぎのようですね。いかがなさいましたか?」
「あんたの親族の誰かがアノニマスと関わっている。誰かまでは分からないから、全員を尋問して奴らをどこに匿っているのか調べだして欲しい」
アニールは目を瞠り、不審げにシンを睨んだ。
「……何を、仰っているのですか?」
「紫髪の竜の子。それを隠している奴がいると言っている」
「以前、貴方が尋ねた御使い様のことですか。それについては、知らないと連絡が来たと伝えたはずですが、上手く伝達できていませんでしたか」
「きちんと対面して嘘を吐いていないかまで確認したのか?」
「……鳥を飛ばしての確認のみですが」
「嘘の連絡をした奴がいる」
アニールは眉を顰め、シンの言葉を疑うように閉口した。
「一から十まで丁寧に説明する時間が惜しい。レンリの身に危険が迫っているから、早急に割り出してほしい」
「レンリ様の身に……」
アニールはレンリの名を聞いた途端に表情を変え、居住まいを正した。
「……父か兄が、私に嘘の報告をした、と。正気ですか?」
「望んで嘘を吐いたのか、そうでないのかは分からないがな。アノニマスは従わない者に死を与える魔法を付与している」
「だからと言って、何故私達を疑うのですか?」
「アノニマスは貴族の直轄領を襲っていないと同時に、教団のある街も襲っていない。この意味は?」
テイトは息を呑んでシンとアニールを見つめた。
それはテイトの知らない情報であった。
アニールはその事実に思うところがあったのか、視線を彷徨わせながら口を噤んでしまった。
「直轄領には魔導師団が居て厄介だ、これは分かる。じゃあ、教団は?」
「……偶然ではありませんか?」
「偶然ね、まぁその可能性はまだ捨て切れてはいないが」
「もしくは、竜神様の加護があるからでは」
「本気で言ってるのか?」
シンの冷たい視線に、アニールは一度大きく息を吐いた。
「……分かりました。家族の元に出向き確認いたしましょう。それで、レンリ様の身に危険が迫っているというのは?」
「昨日アノニマスに攫われた。わざわざ攫うという選択をしたということは、すぐに殺すつもりはないということだが、確証はない」
アニールは動揺したようによろめき、胸を押さえた。
「……やはり、レンリ様の意思を無視してでも、教団にお迎えすべきでした」
「今はつべこべ言ってる暇はない。レンリの無事を願うなら、分かり次第連絡を貰いたい」
シンは以前と同じように魔法で小鳥を創り出すと、乱暴な手つきでアニールに押しつけた。
アニールは家族を疑わなければいけないことについては納得していないようであったが、レンリの名前を出されてしまえば唇を強く噛んで黙り込むことしかできないようであった。
力なく小鳥を受け取ったアニールはしかし、キッとシンとテイトを睨み付けた。
まるで般若のようなその表情に、テイトは思わず竦み上がった。
「っ貴方達は、レンリ様の身に危険が訪れていた時に、一体何をしていたのですかっ!」
「サラファの襲撃を迎え撃ちに行っていた」
「私は貴方達を信じて、御使い様を託していたのに……それなのにっ」
「恨み言なら後で聞く。――頼む」
アニールは悔しそうな表情を浮かべたが、何も言わないままに踵を返した。
荒々しく立ち去るアニールの周囲を、小鳥だけが所在なさげに飛び回っていた。
「時間の節約ができたな。このまま直接マーレに向かう」
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