神聖国 ―竜の名を冠する者―

あらかわ

文字の大きさ
100 / 117

SIDE. ミア 想望 5

しおりを挟む
「――ミア、ごめんなさい。私の所為で怖い目に」

 肩にそっと手が添えられたことで我に返ると、悲しげな表情で目を伏せるレンリの姿が目に入った。

「ち、違いますっ。あれは、ヨン様がっ」

 急いで否定したが、名を出すだけで先程の恐怖心が蘇り、ミアは思わず自分の身体を抱き締めた。
 震えは収まらなかったが、肩に置かれた手の温かさに心は救われた。

「わ、私達の命は、ヨ、ヨン様と、キビル様の手中にあります」
「え?」

 縋るように目の前の華奢な身体に手を伸ばした。

「っお二人の命令に、私達は逆らうことができませんっ」

 天使のような《竜の子》は黙って話を聞いてくれた。

「私達は故郷が襲われた際に、魔法が使えるからとここに連れてこられました。私達は皆、戦いたくもないのに戦うことを強要されているのです。……御使い様、どうか、私達を助けてくださいっ」

 助けて欲しいのはきっと囚われている彼女も同じだろう。
 しかし、願わずにはいられなかった。

「……私にできることがあれば、必ず」

 レンリは優しくミアを抱き留めてくれた。
 ミアは彼女の腕の中で助けてと繰り返しながら泣き続けた。

 どれほどの時間そうしていたのか、いざ泣き止んで冷静になると気まずさが勝ってしまい、逃げるように退出したのはつい先程のことだった。
 トボトボと自室に向かう自身の肩に不意にポンと手が置かれ、ミアは弾かれるように振り返った。
 そこには、ミアと同じ街から同じ理由で連れてこられた男が立っていた。

「……大丈夫か?」
「キース……」

 ミアの泣き腫らした顔に気付いたのか、キースは隈の残る暗い顔を更に歪めてしまった。
 同郷且つ同年代である彼とは、境遇に共感できることが多いため、互いに慰め合って過ごすことが多かった。
 お互いに根拠のない大丈夫を繰り返し、そうして、少しずつ心は疲弊していった。

 キースはついこの間のサラファ襲撃時に利き腕を失ったらしい。
 魔法を使えても利き腕を失くしては上手く立ち回れないとの理由で、彼はミアと同様小間使いとして扱われることが多くなったと聞いた。
 その際ミアが心配して大丈夫かと尋ねた時も、彼は全く大丈夫そうではない顔で大丈夫だと言い聞かせていた。

「最近、三階の用事を押しつけられていると聞いたから……心配で」
「それは本当。でも、私は大丈夫」

 いつもと同じ言葉を繰り返すと、キースはそうかと返事するのみであった。
 たとえ大丈夫ではなかったとしても大丈夫と言う。
 それが、暗黙の了解だった。

「あ、違うの。本当に大丈夫」

 ミアは誤解を解くように続けた。
 勿論今日もヨンは怖かったし、死にそうな目にも遭った。
 でも、御使い様が傍にいてくれたのだ。

「あのね、あ、でも、これ言っていいのかな」

 キースに伝えようとしたが、囚われている彼女のことを話すのはヨンの神経を逆なでするかも知れないと思い当たった。
 顔を青ざめさせるミアに、キースはゆっくりと首を振った。

「大丈夫なら、いいんだ」
「……うん、ありがとう。キースにも、いつか教えてあげたい」

 そう言うと、キースは少しだけ目を見開いた。

「え、何」
「今、ミア、笑って……」
「……え」

 ミアは自分の耳を疑ってしまった。
 ここに来てからは、笑うことなんて出来なくなっていた。
 キビルのように狂ってしまった者は笑うが、え、まさか自分も。
 そう考えて顔からさーっと血の気が引いたが、キースの考えは違うようであった。

「本当に大丈夫そうだな。安心した」
「え、あ、うん。竜神様が、見ていてくれるから」
「竜神様、か。俺は信者じゃないから分かんないけど、でも、それでミアが笑えるなら、よかった」

 キースは安心したように、しかし暗い顔はそのままに去って行ってしまった。
 ミアは彼にも自分の僅かな希望を分けてあげたいと願った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

魔法使いの国で無能だった少年は、魔物使いとして世界を救う旅に出る

ムーン
ファンタジー
完結しました! 魔法使いの国に生まれた少年には、魔法を扱う才能がなかった。 無能と蔑まれ、両親にも愛されず、優秀な兄を頼りに何年も引きこもっていた。 そんなある日、国が魔物の襲撃を受け、少年の魔物を操る能力も目覚める。 能力に呼応し現れた狼は少年だけを助けた。狼は少年を息子のように愛し、少年も狼を母のように慕った。 滅びた故郷を去り、一人と一匹は様々な国を渡り歩く。 悪魔の家畜として扱われる人間、退廃的な生活を送る天使、人との共存を望む悪魔、地の底に封印された堕天使──残酷な呪いを知り、凄惨な日常を知り、少年は自らの能力を平和のために使うと決意する。 悪魔との契約や邪神との接触により少年は人間から離れていく。対価のように精神がすり減り、壊れかけた少年に狼は寄り添い続けた。次第に一人と一匹の絆は親子のようなものから夫婦のようなものに変化する。 狂いかけた少年の精神は狼によって繋ぎ止められる。 やがて少年は数多の天使を取り込んで上位存在へと変転し、出生も狼との出会いもこれまでの旅路も……全てを仕組んだ邪神と対決する。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。 全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった! ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。 一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。 落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!

家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。

希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。 手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。 「このまま死ぬのかな……」 そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。 ​そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。 試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。 ​「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」 ​スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。 たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。

処理中です...