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本編

1 淫乱な俺

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 突然だが俺は魔王に転生した。


 死因は何だか覚えてない。他のこともだいぶ曖昧。まぁ覚えてないことはどうでもいいとして。
 さてそんな俺だが趣味はセックスだった。趣味はセックス、特技もセックス、生きがいもセックス。なかなかのどうしようもないやつだったわけだ。

 セックスと一概に言ってもさまざまな趣味嗜好があるだろう。かくいう俺の趣味はなかなか特殊で、一言で言ってしまえば「ドMのバリネコ」だ。
 もうこれだけでヤバい予感しかしないと思うが、さらにヤバいのは「ご主人様」がいたこと。そう、ご主人様。至極平和な現代日本においてまさかのご主人様である。

 前世の俺はいわゆるウリ専をやって何とか食い繋いでいた。そこを晴海はるみさんって人に拾われた。確か飲食店の経営者。
 その後詳しいことは言わないがいわゆる調教その他はがっつりされた。彼の前にもだいぶ経験があったのでかなりアブノーマルなことにも手を出した。

 それから彼の家で住み、彼の金で生活し、当然のごとくベッドでは泣かされ……ここまで言えば分かるだろうか。そう、俺、どこに出しても恥ずかしくないザ・ヒモだった。
 本当にしょうもないと思う。けれどそんなしょうもない日々に馴染んでいたのも確かで、あー俺セックスするために生きてるわ、と日がな感じていた。


 魔王に転生して数十年。人と魔族の感覚って違うらしいからそんなに時間が経った気がしないが、なぜ今になってそんなことを思い出したのか。
 それは、今の俺がセックスにものすごく飢えていたからである。

 さすがに元ご主人様に未練その他はないのだが、あの頃が懐かしくて俺は悲しくなっていた。あの頃は良かった。手を伸ばせばそこに棒(隠喩)があった。
 それにひきかえ今はどうだ? あの頃手に入らなかったほぼ全てが俺の手中にあるが、棒だけがない。俺の一番大切な棒だけがどこにもないのだ。俺という存在の根幹を占める棒が。
 ぶっちゃけちんこ超欲しい。

 だがこんな俺でも一応魔王。郷に入っては郷に従えという言葉に忠実な俺は、頑張って魔王様をやった。
 もっとも最初から魔王だったんじゃなくて、俺の強すぎる魔力に気づいたやつらにまつりあげられ、こんなクソみたいな国やってられっかー! 魔王に俺はなる!(海賊王風)って感じで色んな仲間を引き連れうっかり前の魔王を倒したのがきっかけだ。

 そしたらまぁ諸外国からは思い切り畏怖されるわ、部下からはキラッキラした崇拝の目を向けられるようになってしまった。
 戦うばかりじゃダメですよと宰相ヒューイが言うから頑張って苦手なりに内政も頑張ってみたら、国民からの崇拝度がさらに上がった。
 言っておくが俺がすごいんじゃない。今までの魔王が本気で戦争以外に興味のないクソだっただけだ。そして相対的に俺が神に見えただけ。
 レジェンド・オブ・ヒモの俺に立派な為政者がやれると思うか? 上手くいったのなんて偶然以外の何物でもない。それと優秀な部下たちのおかげ。

 まぁそんなこんなで、ある事実に気付いた時には遅かった。


「ハーレムだと……?」
「ええ、魔王様の好みがわからなかったので、見目麗しい魔族や人間の女を集めてみました。こちらが――」

 突如紹介され始めたのは目が潰れそうなほどの美女集団。魔族も人間もごっちゃだった。何でも俺のハーレム要員候補らしい。は?
 その後も淡々と宰相の説明は続き、いつまで続くのかなー俺女の子抱くのは営業でしか無理よ? と思いながら途中で遮った。

「必要ない」

 途端、ざわりと女たちがどよめく。せっかく来たのにすまん。俺女は好きじゃないんだ。
 あっこの際女王様ならやぶさかではないかもしれないが。苛めてくれるならまぁ女でも許す。いややっぱ無理かムカついて終わりだわ。

「……魔王様? 何がお気に召さなかったので?」
「女は好かない」

 バッサリ切ると、集まっていた女たちは悲しそうな顔をした。ごめんな魔王の嫁っていう高い地位をあげられなくて。

 そう断ると、女たちは返された。そして少しした後には、俺の目の前に美男がずらっと並んでいた。
 あぁ男ならいいね、なかなかいいよ。俺はその中でもガチムチのイケメンを選んで試しに寝室に連れ込むことにした。ダメでも返品可能です、みたいなことを言われたから気兼ねなく。
 ただ結果は惨敗。赤い顔をしながら服に手をかけた彼に対して俺はこう問いかけたのだ。

「お前は私を抱けるか」

 結構魔王っぽい口調を練習していたらそれが自然になっていたのだ。いやそれはどうでもよくて。
 固まった彼に再度尋ねると、えっ魔王様そっちなの、という顔をし、ついであわあわと青い顔になりながら「魔王様にそのようなことなど畏れ多いです……!」と断られた。なので俺は口止めしてその日はふて寝した。

 ただどの男も結果は同じで断られた。最初のうちは俺やっぱりネコって感じの顔してないのかなーなんて呑気なことを考えていたが、ようやく気付いた。
 世界最強の俺を組み敷こうなんてやつ、多分もうこの世界にいないわ。

 その事実に気づくと俺は絶望した。あまりの絶望に目の前が真っ暗になった。
 もういっそのこと奴隷でも買うか? 奴隷買って抱いてもらう? いやダメだ奴隷制は俺が廃止したんだった! この野郎!
 どうしよう誰も俺を抱いてくれない! 怖がって!

 俺の顔は現世でも人気なのか、それともこの肩書きか、結構俺と一夜を共にしようとするやつはいる。いるのだが、誰も抱いてくれないし苛めてもくれない。
 もう辛すぎて死のうかなとすら思えてきた。一回死んでまた転生するかな。

 そんな馬鹿なことを考えていると、ある日「勇者と名乗る一人の男が破竹の勢いで魔王国を侵略してきています!」という報告を受けた。そして閃いた。

 あっ、魔王の天敵勇者なら俺のこと抱いてくれんじゃね? 

 もう俺本当に馬鹿としか思えない。
 それで密かに軍を導いて勇者を俺のところへ連れてくるよう仕向けた。こんな訳の分からない命令すら従順に従う俺の部下は仏か何かか。
 一応俺の加護みたいな魔法を一人一人に全力でかけ、死にそうになったら戦わず逃げて来いと厳命してある。こんなことで部下に死なれたら夢見が悪いことこの上ないから。
 なのでRPGっぽいことを勇者に味わってもらいつつ、魔王城へ導く。そして出会った俺とセックスだ! ッフゥ!

 あまりに飢えてて本当に馬鹿だった俺は、いや敵の大将といきなりしけこまないだろ、という当たり前のことにすら目が行かなかった。
 そしてそのお粗末な計画は失敗し続け、そのたびに何か変な勘違いを重ねる部下たちはいつも通り放置をしていた。
 だから今回こそはと期待していたんだ、していたのに……!



「……お前が魔王か、懲りずに人々を苦しめやがって。覚悟しろ」

 おきまりのセリフを吐く彼。
 国と国との戦いでは人が傷つくのは当たり前である。というかそもそも講和条約を先に無視してきたのはそっちだ。
 軍じゃなくて勇者単体なら良いとでも思ったのか。俺が宣戦布告しても文句言えないよね。戦争起こしたくないから言わないけど。

 それに俺結構、内政頑張ってると思うんだよね。俺が魔王になったばかりの頃よりずっと魔王国は豊かで穏やかだ。時々ふらっと町や村に出かけるからよく知ってる。
 だからそんなことを言われる筋合いはない。言うならもっと汚い言葉で性的興奮を煽るように罵って! とか思う俺は相当飢えてる。

「ふ、倒せるものなら倒してみろ」

 そう言うと、彼は何だか呪文を唱えて俺に魔法をかけた。状態異常系の魔法みたいだが、そもそも俺には毒や麻痺などすべての属性の耐性があるのだ。それを知らないはずがないだろうに。
 避ける必要もないので俺は玉座に座りながら勇者をただ睥睨していた。ダメかなこいつも期待外れ。俺を抱こうなんて気概はなさそうだ。

「っ……」

 そう思っていたのに。
 俺は急激な身体の火照りを感じて玉座の上に崩れた。呼吸が勝手に荒くなる。
 どうして? なぜ? ぐるぐると疑問符が渦巻くが、それすら熱に侵され――熱?
 そこでようやく気付いた。俺に唯一効く状態異常系の魔法。俺が今後のためにあえて耐性を作らなかった魔法を。

 ――つまるところ催淫魔法。

 そのことに気付いた途端、勝手に身体が僅かに跳ねた。ゾクゾクとしたものが抜ける。
 ああ、ついに、ついに? とうとう俺もヤッちゃう? このまんま魔法で無理やり感じさせられて強姦される? あ、ヤバい、考えただけで勃つ。嫌なのに感じちゃうッビクンビクンッてやつだろ最高かよ。

 息を荒げ、でもこういう時睨んでくる方が興奮するものなんだよね知ってる、と思いながらとりあえず彼を睨む俺をどう思ったんだろう。彼は無言でにじり寄ってきた。

「何を、した……ッ」

 とっくに分かっていたけど聞いてみる。すると彼は片頬を吊り上げた。

「まさか世界最強の魔王が催淫魔法に見事に引っかかるとは。駄目元だったが上手く行ってよかったよ」

 その蔑んだような笑顔好き。もっと。
 あーもう逃げられない。無理。だから早く来いよ俺を犯せよ。

 そのまま彼は俺に向かって聖剣(隠喩ではなく)を目にも留まらぬ速さで斬りおろし――

「はぁ?」

 ――そのまま普通に聖剣で斬られそうになった。訳も分からずとりあえず防御魔法を何重にもかけた片手で真剣白刃取り。
 勇者はポカーンとしていたが俺だって同じ顔をしたい。

「は? 今の殺す流れ? 違くない? 催淫魔法をかけてやることといえば一つだろ? 何で普通に殺そうとすんの? 何で犯そうとか思わねぇの? 時々あんだろ? 快楽堕ちした女騎士を陵辱レイプ♡最強騎士様は俺の雌奴隷♡的なエロ本。それが魔王になっただけじゃん。えっそんなに俺ダメ? 結構俺の顔綺麗じゃね? まぁ男だけど十分勃つ程度にはイケてね? それに今わりとエロい顔してたと思うんだけど? ヤリ捨てた後で殺そうとするなら俺だってそれなりの対処すんのにお前馬鹿だろ。こんなんお前速攻殺すしかねぇだろ。まさかこの催淫魔法ってただ俺の不意をつくためだけ? いや馬鹿だろ犯せよ。俺のこと性奴隷みたいにブチ犯せよ」

 思わず喋り方が素に戻ってしまった。さらに間抜けな顔になる勇者。その顔を見たら無性にイラついて、俺は勇者の顎を掴み吐き捨てた。

「催淫魔法をかけてヤることは一つだろっつってんだよ俺は。あぁ?」
「ひいぃぃッ」

 魔力を込めて軽く威圧すると勇者はガクガクと震えだした。あーダメ完全に萎えた。人の怯える姿を見て興奮しろって方が無理。
 俺は舌打ちして、闇魔法によって創り出した剣で一気に首を刎ねた。殺す時の罪悪感なんてとっくの昔にどっかへ行った。俺が今までどれだけの数を殺してきたと思ってる。

 ぶっちゃけ勇者って別に言うほど強くないし最初から首を刎ねれば一発なんだが、それだとつまらないからわざわざこうして時間を設けているのに、今まで俺の期待に沿えた勇者はいない。シモの具合が良ければそのままここで雇うっていうのに。
 まぁ女神の加護だか何だかで勇者は俺しか殺せないそうなので、こう思うのはもしかすると俺だけなのかも。

「あークソ、マジでクソ。期待した俺が馬鹿だった。あの野郎すっかりキュンキュンしてる俺のケツ穴どうしてくれんだよ……あーちんこ欲しい……犯されてぇ……何で俺奴隷制廃止したかな……もう俺が奴隷になりたい性奴隷……クソみたいな貴族とかに必死にご奉仕したい……使えんやつめとか言われながら足蹴にされたい……あっ考えただけで超興奮するッでも相手がいねぇ……どうして俺は性奴隷じゃなくて魔王なんだクソが……」

 頭をガシガシと掻きながら虚ろな目で呟く俺。
 あのクソ勇者の催淫魔法のせいで身体はすっかりできあがってんのに、相手がいないし別に放置プレイでもないって何これ新種の拷問? もしかして勇者の目的はこれだったのか?

 馬鹿なことを考えながら悶々としていると、「魔王様!」という声と共にずらずらと俺の配下たちが入ってきた。
 皆装備はボロボロだがピンピンしている。俺の加護は死なない限りは時間が経てば回復する魔法なのだ。

「ご無事ですか、魔王様……! 此度の勇者は段違いに強く魔王様の元へ向かわせるまでに極力弱らせようと画策したのですが歯が立たず――あの、勇者はどこに」
「そこの首と胴体の別れた男がそうだ。確かにずる賢い手を使ってはきたが……そうか、強かったのか」

 俺がそこに倒れた元勇者を指差すと、皆は呆気にとられた。
 クソみたいな手を使ってきてムカついたから一発で倒したけど、もしかしたらそれなりに強かったのかもしれない。考えてみればいくら耐性がないからといって俺にバッチリ効く催淫魔法って相当か。

 しばらくその場は静まり返る。そして、一斉に俺に向かって跪きだした。
 魔王様さすがですとか、一生ついていきますとか、何だか配下がわーわー言ってるがいつものことである。
 感極まって泣きそうになるやつが出るのもいつものこと。そのあと妙な勘違いをしだすのもいつものこと。

 魔族は強いやつ至上主義みたいなところがあるので俺なんかが崇拝される。たまたま持って生まれた魔力が多かっただけだろうが。
 それより誰か俺の棒に志願しない? 今なら魔王様を好き勝手に犯すだけで欲しいものなんでももらえちゃうよ? 性欲も満たされ魔王様の寵愛も勝ちとれ欲しいものまでもらえるなんて超お得じゃない?

 まぁそうも言ってられないのでとりあえず真面目に仕事をこなそうと思う。
 とりあえず疲れただろう皆を下がらせ、宰相だけを残す。そして尋ねた。

「それで、此度の勇者による被害状況はどうだ」
「はっ! いつも通り国民には一切被害がなく、また我々も一人たりとも欠けることなく生きております。これも全て魔王様のおかげです」

 宰相ヒューイはいつだって馬鹿がつくほどの真面目で、わりとちゃらんぽらんな俺にとっては非常に助かる人材だ。こういうのを片腕と言うんだろう。
 宰相無くして魔王なし。むしろ魔王の本体は彼だ。彼なしでは到底俺はここまで来れなかった。それくらい優秀。依存しているとも言える。大好き。

 あと顔が好き。言わないけどめっちゃ顔が好き。キリッとした美丈夫で、いつも無表情で眼光が鋭いのだ。睨まれたい。でも俺のことは絶対睨んでくれない。つらい。
 アイスブルーというのが一番近いだろうか、そんな感じの色の髪と瞳もとても綺麗だと思う。
 結構俺のことを尊敬してるみたいだから、いつか本気で命令したら抱いてくれるかもしれない。何をどう考えても宰相の方がすごいのにどうして尊敬されているのかは謎。

 彼は事あるごとに俺の奥さんを探そうとするが、むしろ俺が奥さんというか君が俺を手篭めにすれば一件落着なのよ? 時々俺を見る目が熱っぽくてアレだからそういうことでしょ? と俺は常々思っている。
 勘違いだったらこれほど恥ずかしいものはないが、勘違いじゃないのならいつでも受け入れる準備はできてる。物理的に彼のナニを俺のアレに。
 まぁないとは思うし多分飢えすぎた俺の思い込みだしで、仕事上変に気まずくなるのは嫌だから誘ったことはないが。

「そうか……いい加減かの王国にも困ったものだな……」

 そして俺のケツ穴にも困ったものだ。棒はまだ? ねぇまだ? ってさっきから催促してきている。
 うるせぇこの世界には俺を抱いてくれるような気骨のあるやつなんていねぇんだよ! いい加減平然とした表情を作るのに疲れてきた。

「では宣戦布告を」
「ならん。私がしたいのは人間を滅亡させることではない。魔族たちが幸福に暮らせる国を作ることだ。故に無駄な火種をつくることは不要だ」

 まぁそれは確かに事実で、俺が魔王になるまでは魔王率いる魔族たちは好き放題盗賊みたいなことするし、そうじゃない魔族は人間に奴隷として捕まりこき使われるし、で最悪な世の中だった。
 ぶっちゃけヒモ界のエリートだった俺にとってはしんどすぎる環境だった。精神的に死ぬかと思った。なので必死に改善させて生きやすい世の中を目指したのだ。幸運なことにそうできる力はあったし。

「ですがそうなれば魔王様の身に危険が、」
「私はいくらでも傷ついて構わん。それに、私が勇者に負けるとでも?」

 そう言ってみせると、「いえ。出過ぎた真似を」と宰相は慌てて頭を下げた。俺は怒ってないのに真面目すぎんよ。

 勇者は一度現れてから数年は現れない。おそらく準備期間なんだろう。だからしばらくは安泰だ。
 今回の勇者は強かったらしいからとりあえず皆をねぎらってくるかな、おそらく溜まってる書類の山は明日から片付けよう、そう立ち上がった瞬間、

「~~っ、ぁ……」

 がたんと崩れ落ちてしまった。理由は単純明快。今までただ座っていたからそんなに効果がなかったのかもしれない催淫魔法が、今になって一気に効いてきたのだ。
 不意打ちで、腰にすごいキた。俺はそのままその場にうずくまったが、動けるかは微妙だ。

「魔王様ッ!?」

 宰相の悲痛な声がする。大丈夫だ問題ない、そう言いながらなんとか額を押さえつつ顔を上げたのだが――なぜか宰相に息を呑まれた。

「ま……魔王様、一体、どうなさったのですか」
「大したことは……あの勇者に、催淫魔法を……」

 宰相はさらに驚いた顔をした。魔王なんて呼ばれて尊敬されてる俺だけど、実際ドMの淫乱バリネコなんだわ。幻滅させてごめんな。

「そ、その……魔王様」
「んっ……すまない、今は触らないでくれ」

 助け起こそうとしたのか腰を支えられた俺だが、それにすら感じて声を上げてしまう。魔王失格だ。
 こんなシチュエーションにもたちまち元気になる息子が憎い。お呼びじゃねぇ引っ込んでろ。

「……少し休めば魔法の効果も切れるだろう。すまないが、私は少し休ませてもらう」
「で、でしたらっ! あの、わ、私が、部屋まで支えさせていただきます!」

 普段は冷静沈着な宰相が慌てふためいている。そんなに俺のこの姿は衝撃的だったか。
 休むなんて言い方をしたが実際は一人でハッスルするつもりだ。ごめんな俺のケツ穴、棒はないから指で我慢してくれ。
 だから来られると困る。これ以上上司のあられもない姿に幻滅するのは辛いだろう。

「いらん。一人で……っ」

 立ち上がると、少し体がよろめいた。途端に宰相が駆け寄ってきて、俺の肩を担ぐようにして支えてくれる。
 不本意だが、こうしてもらうほかないかもしれない。身体を触られた時に少しピクンと身体が反応してしまったのは仕方がない。

「魔王様。私が部屋まで」
「あぁ……すまない」

 俺が頷くと、宰相は俺を部屋まで連れてくれた。そして扉の前へ立ったので、そのまま俺が魔法で扉を開け、その中へ入ってベッドの上に腰を下させてもらった。

「助かった。もう下がれ」

 そう追い払おうとしたのだが、宰相はその場から動かない。俺の命令を聞かなかったことなんて初めてじゃないか。

「魔王様……私に何か、お手伝いできることはありますか」

 そう言う宰相の目は、変にギラついていて、どこか暗い欲望を秘めていた。甘美な震えが身体を走る。
 俺は熱に浮かされるように尋ねていた。

「何でも、すると……誓うか」
「ええ、魔王様のためとあらば」

 これ、頼んだら本当に抱いてくれそう。そう思うと俺は正気じゃいられなくなった。
 すぐさま宰相の手を引っ張り俺の側まで引き寄せると、性急に唇を重ねる。

「ん、ふぁ……んぅ……っん……」

 変な声が漏れる。自分から舌を絡めにいってるのに。駄目だ。すごく久々のディープキスは腰にも脳にもすごくクる。とろけそう。
 最初は驚いていたような宰相だったが、次第に彼からも舌を絡めたり口の中を蹂躙したりするようになり、腰を抱いてきた。
 それから唾液を飲ませようとしてくる。何それ興奮する。頑張って全部飲んだ。飲み込みきれなかった唾液が顎を伝うのも興奮を煽る。

 何度も息継ぎをして、キスを繰り返す。この頃にはもう頭の中も下半身もぐずぐずに溶けてしまっていた。
 さらに強く腰を抱かれ、いやらしい手つきで腰や足を撫でられる。うそ、宰相そんなに強引だったの? いつも俺の命令を何でも従順に聞くのに。

「ん……宰相……」

 俺の口と宰相の口が糸を引いて離れた頃には、もうすっかり主導権は向こうに握られていた。俺は多分とろとろに溶けた甘い声で宰相を呼んだ。
 もう魔王の威厳なんてどこにもない。これで抱かなかったらお前本当に承知しないからな。解雇するからな。絶対だぞ。

「はぁっ……何でしょう、魔王様……」

 その目は最早、尊敬する上司を見る目じゃない。獲物を見定めた目だ。
 あーそうそう、こういう目でずっと見られたかった。狙われたかった。

「私を……抱いてくれ」

 その時宰相は口元を吊り上げた。確かに嗜虐的な色が見えた。




「はぁんン……やっ、ひゅーいっ……ぁん、ン……い、イキたい、イカせてぇぇ……!」

 あれからすぐに俺はヒューイに服を脱がされた。そう、宰相じゃなくて名前で呼んでくださいと言われたのだ。
 そういえばずっと昔はヒューイと呼んでいたんだっけ。いつから呼び方が宰相になったんだろう……そう考えて、確かヒューイが俺のことを魔王様と呼ぶようになってからか、と思い至った。

 それからはもう本当に早くて。下穿きまで脱がされて露わになった俺の俺になぜか恍惚とした目を向けると、ぐちぐちと入り口を弄ったり裏筋を扱いたりしてきた。それと同時に、何の前触れもなく穴に舌を突っ込まれた。
 どっちも責められて俺の頭はパンク寸前。ついでにソコもパンク寸前で、すでにダラダラと大量の先走りを流していた。

 わざと音を立てるように舌で入り口を解され、中を蹂躙され、同時に決してイケないような優しい手つきで陰茎を弄ってくるヒューイ。俺がイカせてと懇願し始めるまでは早かった。
 イキたい、イキたい、と縋るように言う俺はヒューイにはどう映ったんだろう。時折顔を上げて俺と目線を合わせては、本当に嬉しそうに笑みをこぼした。その目がまた嗜虐的で、俺はそれにすら感じて。

「イキたいぃ……イキたいよぉ……んっ、ン、ひゅーい、っあ、イカせて……イカせてぇ、ひぃんっ……」

 自分から腰を揺らして懇願するも、ヒューイはますます楽しげに続けるだけ。実はSだったのか? 身体が待ちに待ったセックスに、嬉しすぎて震えっぱなしだ。もう好きにして。
 それからその甘い責め苦はどれだけ続いただろうか。もうぐったりしてきた頃、ようやくヒューイが刺激をやめた。そして服を脱ぎ、俺に自身を見せてきた。

「はぁ……はぁ、魔王様……想像の何百倍も可愛い……欲しいですか? 私のコレ、欲しいですか?」
「あ、ぅ……ほしい……」

 俺の頭は馬鹿になってて、せがむように何度も頷いた。そんなギラついた目で見ないでくれ。ただでさえヒューイの顔が好きなのに、もっとおかしくなりそう。
 棒が、俺が望みに望んで色んな策を講じるも尽く失敗し続けてきた棒が、愛しの棒が、そこにある。我慢しろって方が無理。早く奥まで突っ込んで蹂躙して。

「ならば好きと言ってください……嘘でも何でもいいから、私のこと……」

 ヒューイに熱のこもった視線を向けられ、あれ、と思った。やっぱりヒューイは――。
 考えようとしたが、ヒューイに素股をされ始めて吹っ飛んだ。何でもいい。おちんちんほしい。

「好き、すき……ひゅーい、すきぃ……」
「魔王様ッ……!」

 腰を掴まれ容赦なく奥まで挿入される。あまりの快感に目の前が真っ白になった。はぁ久しぶり、好き、この感覚超好き。
 ふわふわして幸せな感覚を味わっていると、そのままガツガツと掘られ始めた。

「あ、はぁぅんッ……あ、ァ、あぅ! きもちい、ひゅーい……あぁんっ! ひゅーい、きもちいいよぉ……!」
「んっ……魔王様、魔王様ぁ……好きです、愛してます、はぁっ……好き、好き、好き……」

 圧迫感があるほどに質量のあるそれが俺の気持ちいいところを擦りながら出たり入ったりしていく。理性とかもうどっか行っちゃって、俺はひたすらヒューイにしがみついた。
 好きって言われてる気がするけどもう何も分かんない。気持ちいいことしか分かんない。
 でも、ああ、行為中は名前で呼んでほしい。俺は強すぎたのか何なのか知らないが、生まれた時にはもう捨てられていて一人で、だから奏音という女みたいな前世からの名前をそのまま使っていた。

「ひゅーい、ぁんっ! おれ……おれの、なまえっ……! なまえで、あぅ、よんでっ……ひぁんっ……!」

 ヒューイは息を呑むと、それから恐る恐るといった調子で(腰の動きに容赦はなかったが)呼び始めた。

「カ……ノン……カノン、様……っ、カノン様、カノン様、カノン様っ……」
「ぁ、ひゅーい、っ、ひゅーい、ひゅーいぃ……」

 俺の声はもう半分泣いているみたいだった。実際涙もボロボロこぼしていた。ヒューイの声は切羽詰まっていた。激しく俺を求めてくるのが本当にたまらない。
 イク、イッちゃう、ともはや泣き叫ぶように言う俺に、一緒にイキましょうと言いながら腰の動きを早めるヒューイ。

「~~~~ッ!」

 ヒューイのそれが俺のイイところを掠めたその時、視界がホワイトアウトして身体が跳ね、快感が身体を貫いた。声すら出なくて、俺はヒューイに必死にしがみついて快感を享受した。
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