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08.実質的死刑宣告が突然来た。
――こんにちは、翔太です。
俺はジェルデラートに無事に到着してから何事もなく数日が過ぎ、今日は神殿に向かっています。
なんて旅番組風のナレーションが翔太の脳裏を過る。
なんでも異世界人はやはり固有の『神からの祝福』を持っていて、それを鑑定して貰う為に馬車で神殿に向かっている真っ只中だ。
「その『祝福』って言うの、チラルレットで全然誰からも教えて貰わなかったけど、なんで?」
「……」
いつもは自分の愛馬(念の為言うと雄)での行動を選択しているアレグレンも今日は一緒に馬車移動だ。
意味不明な位長い脚がゆったりと収まるレベルの馬車になると翔太にとっては必然的にとっても広い。
足を無駄にプラプラさせながら翔太が言った何気ない言葉にアレグレンは少しだけ間を置いて、小さく息を吐いてから教えてくれた。
「昔来たお前と同じ落ち人は大層稀有な『祝福』を持っていた。それはとても有名でチラルレットの誰もが知っている」
「じゃあなおさらなんで?」
「――稀有な力を持っていたその落ち人はお前と同じ感性を持っていたようでな。『世話になっている礼』だと言ってその力を惜しみなくチラルレットの為に使った。……そして、使い過ぎて早逝した」
「……成程ね」
あの心配になるほど善良な国民たちにとってそれはとても痛ましい記憶となったのだろう。
だから翔太にはわざと『祝福』の存在を隠し、ただただ優しく温かく見守ってくれていたのか。
「別に俺、そんな気を使って貰わなくても良かったのに」
「その優しさがあの国が神に愛される所以でもあるだろう。しかし、我々も『落ち人』の力を利用しようと考える程腐ってはいない」
「そうなん?」
てっきり便利な力があるならアルバイト的な範囲でなら使っても良いと考えていた翔太は驚く。
しかしアレグレンはしっかりと視線を合わせて「大事なことだからちゃんと聞いて欲しい」と前置きしてから続ける。
真剣な空気の中大変申し訳無いが、なんとなく視界の端に入った景色が乗っている馬車の関係上日本にいた時見た馬とはサイズ感がまるで違う強靭な馬が引いていることもありちょっと心配になる速度で流れていくのが気になったりもしてしまう。
「『落ち人』はこちらでも『神からの贈り者』とされる関係でどうしても注目される。そして俺も将軍職に就いているから以前から誰と婚姻を結ぶかは色々と詮索されていた。だから注目は避けられない……ならばいっその事きちんと鑑定を受けて、その結果でこれからの対応を協議することになった」
「へぇ」
「勝手に段取りを組んでここまで連れて来ていることは申し訳無いが、結果的に翔太を守ることにも繋がるんだ……どうか本当に今更ではあるが協力して欲しい」
「うん、良いよ」
アッサリと言い切った翔太を見てアレグレンはまた目を丸くした。
冷静沈着で表情は基本固定の男だと思っていたが翔太と一緒にいるとこんな風に時折可愛い素と思われる部分を見せてくれる。
それがちょっと嬉しい翔太は機嫌よく朗らかに笑いながら続けた。
「俺は一応でもアレグレンの奥さんになるんだからさ、お前は俺のこと悪くはしないだろう? それに、アレグレンは色々相談してくれるタイプみたいだから今回の決定はアレグレンだけの意志じゃなかったんだろ?」
「……」
沈黙は肯定でもある。
いくら将軍職という一般ぺーぺーから見ればお偉いさんでももっと上がいるのなら意見が通らないことがあるのも命令に従わなければいけないことがあるのも当然だ。
規模も影響力も全く話にならない程違うけれど一応勤め人をしていた翔太にもそれくらいは分かる。
口元に笑みを浮かべたままの翔太を見てアレグレンは困ったように息を吐いた。
「俺個人としては『祝福』なんて持ち合わせていなくて良いんだ」
「――え?」
翔太からすると意外な言葉に今度は翔太が目を丸くした。
それを見たアレグレンが優しく笑って、翔太が大好きな国宝ボイスで続ける。
「お前を縛るものが少なければ少ないほど自由にさせてやれる。一般市民よりは多少制限はあるが、単なる『俺の配偶者』というだけならある程度の自由は約束出来るからな」
「アレグレン……お前、本当に良い奴だよな! マジでなんで恋人作らないの? あ、訳アリとかなら全然秘密で良いんだけど、お前良い奴だから勿体ないよ!」
叶わない恋をしているとか大切な人を過去に喪っている可能性もゼロでは無いから翔太としてはあまり踏み込みたくなかったが、どうしてもこれだけは言いたかった。
「好きな相手が出来たらマジですぐに教えてくれよ? 俺、速攻で身を引くからさ! あ……でもその時はちょっと多めに慰謝料持たせてくれよ? 俺残りの人生質素に暮らすからさ!」
ニカッと邪気の無い笑顔を浮かべる翔太を見てアレグレンは呆れたように笑った。
「……まだ正式な婚姻を済ませてもいない相手に離縁後の慰謝料額を交渉してどうする」
「大事だろ? 婚前契約書もなんでか知らないけれど殿下が作ってくれるって言ってたし!」
本当に何故か知らないけれど本当なら当事者同士で作るべき婚前契約書の草案を恐れ多くも王太子殿下が作ると自分から言ってくれたのだ。
流石に理由を問うと翔太が異世界人でありこちらの世界(特に貴族の感覚)が全く分からないことを理由に挙げてくれた。それもそうだな、と思った翔太は素直に王太子の厚意に甘えることにして今日その草案を受け取ることになっている。
なんでもそれとは別にしても『落ち人』の祝福の確認には何故か王族から一人立会人が出るらしく忙しい筈の王太子がわざわざきてくれるらしい。有難いことだ。
「翔太? どうした、不安か?」
「いや、全然」
ふと考え込んだ翔太の顔をアレグレンは心配そうに覗き込んでくれたが本当に何一つ不安なんて無いので即否定する。
するとアレグレンはほっとしたように笑ってくれて、そこから二人は下らない話をして移動時間を過ごした。
***
「それでは『祝福』の鑑定を開始いたします」
「よろしくお願いします」
翔太が案内されたのは大きな神殿の奥にある静謐な空間だった。
そこには石畳の床に実物は初めて見るのに脳内イメージではよくお目に掛かっていた魔法陣的なモノが描かれていて翔太はその中央で膝を着いて祈りのポーズをしているだけで良いらしい。
神官が祈りのような呪文を唱えると目の前にある馬鹿みたいにデカい大水晶に翔太が持つ祝福が表示される、という流れだった。
魔法があることは実際見て知っていたけれど神様関連のことはいまいち信用していなかった翔太だったが神官が祈りを捧げ魔法陣が光ると身体の中を温かい何かが通り抜けたのが分かった。
「っ」
驚きで声が出そうになるが必死で堪えると水晶の中に光の文字がピーっと走る。
それを目で追っていると神官の内の一人が声を上げた。
「どうやら二つの『祝福』をお持ちのようですが、文字が異国の物です」
「非常に珍しいことですよ! しかし、我々でも読解できない文字となると――ショウタ殿の世界の文字やもしれません。解読は可能ですか?」
興奮気味に言って来る二人の神官を見て翔太はかなり気まずい心でいっぱいだった。
そんな翔太を見て立会人として部屋の隅にいた王太子とアレグレンも心配そうな表情を浮かべる。しかし……翔太の頭の中は恐らく王太子たちの想像とは真逆の結果が出ていることで非常に混乱していた。
――自分は、コレを……コレを、この厳かな空気の中で読み上げなければならないのだろうか。
【祝福 その①】
【“能天気”――ちょっとやそっとじゃくじけない。細かいことは気にならない、鋼のメンタル!】
【祝福 その②】
【“健康優良児”――大きな病気にかからない。ちょっとした体調不良も、一晩寝れば大丈夫! 怪我の治りも超早い!!】
……。
…………。
いや、内容はすごくありがたいと思う。
こちらなりの医療技術が発展していても翔太の身体にも適応するのかとか分からないから、本当にありがたいものを与えて頂けたと思う。
でも……でもさ。
ちょっとアホっぽ過ぎないか?!
「翔太、どうした? 一体何が書かれている?」
一応婚約者のアレグレンが控えめに口を開いたから翔太が複雑な気持ちを抱えつつも内容を読み上げようとした時、室内なのに何故か花びらのようなものが降って来た。
「――花びら? なんで?」
落ちて来るそれを何の気なしに受け止めると少し落ち着きを取り戻していた神官たちのテンションがまた爆上がりしたから翔太はちょっと素で引いてしまう。
「ご神託だ!」
「素晴らしい、神のお声だ!!! 皆様、どうか礼の姿勢を!」
神官の言葉を合図に全員がさっと床に跪く。
右に倣え精神の日本人魂が無事に作動して翔太も同じポーズを取ると花びらはどうやら光のような物で出来ていて、翔太の周りだけスポットライトが当たったように光っていた。
それに驚くと並行して耳と言うよりは脳内に直接優しい女性の声が響く。
女性の声は聞き間違える余地すら無いほどハッキリとこう言った。
―― 心身ともに結ばれた 睦まじい夫婦にお成りなさい。
あなたと、あなたの伴侶に 神の祝福を。 ――
……え? ちょっと待って?
翔太がそう言葉に出すより先に光は消えてしまい、興奮気味に何かを言い合う神官たちと神託が下りたことに何らかの理由で気付いて駆け込んで来た別の神官たちで現場はちょっと騒然とした。
しかし皆が口々に語り合う内容から否が応でも翔太が聞いた声がここに居る全員の脳に同じように届いていたことが分かる。
しかし翔太は今それどころではなかった。
「翔太、大丈夫か?」
こちらにさらに歩み寄りながら声を掛けてくれるアレグレンを翔太は思わず掌で制してしまう。
そして翔太の視線は顔ではなく、思いっ切りアレグレンの下半身を見詰めていた。
失礼だとか露骨だとか言ってる余裕は今の翔太には無いのだが、周囲からはきっとただ俯いているように見えているに違いない。
――なんつった? さっき、あの神様的ポジションの女の人なんて言った?
『心身ともに結ばれた睦まじい夫婦にお成りなさい』?
馬鹿言ってんじゃねえぞ?!
翔太は便秘で固くなったうんこを無理矢理力んで出して尻がちょっと切れてしまったあの嫌な記憶を思い出す。
健康的な人間のウンコは、直径三~四センチだとヤホージャペンが言っていたが、体感的にはもう少し翔太のウンコは細いと思う。うん、絶対細い。
そして何より! 何より大事なことは、翔太のケツは永遠の中→外という一方通行であるという点だ。あ、念の為言っておくと純然たる医療行為(投薬及び検査)はこの限りでは無いからな!
「翔太? どうした、顔色が悪い」
「ごめん、ちょっと待ってくれ!」
心配で近寄って来ようとするアレグレンをもう一度強い言葉で押し留めて、翔太は自分の顔が青ざめて指先から熱が失われていく感覚をこれでもかと味わう。
だってチラルレットのゴリラーズのあの赤黒いズル剥けバズーカが、キャンバスを目の前に用意して貰えればそこそこ正確にスケッチできる自信が謎に湧いてくるくらいハッキリと脳裏に浮かんでいるのだ。
――無理だ! 無理無理無理無理絶対無理!
精神的に無理とかそんな話をする前に、物理的に絶対! ぜーったい無理! だって死んでしまう。
アレの上位互換と思われるアレグレン所有のバズーカEX(推定)なんて入れられた日には、死んでしまう。
即死だ即死!
だから【健康優良児】なんてふざけた祝福は意味を成さない。だって即死だから!!!
今更だけど『児』ってなんだよ、大人だよ舐めんな!!!
「翔太、お前には何が聞こえたんだ? 少し落ち着いて話をしよう」
「そうだ、とにかく落ち着け。一体突然どうした?」
アレグレンと王太子の言葉にも翔太は頭を激しく振りながら同じ言葉を繰り返すだけだった。
「とにかく、無理! 無理だ、無理! 死ぬ! マジで死ぬからな!!!!!」
神託を受けて突然激しく錯乱した『落ち人』。
――当然、ちょっとした騒ぎになった。
俺はジェルデラートに無事に到着してから何事もなく数日が過ぎ、今日は神殿に向かっています。
なんて旅番組風のナレーションが翔太の脳裏を過る。
なんでも異世界人はやはり固有の『神からの祝福』を持っていて、それを鑑定して貰う為に馬車で神殿に向かっている真っ只中だ。
「その『祝福』って言うの、チラルレットで全然誰からも教えて貰わなかったけど、なんで?」
「……」
いつもは自分の愛馬(念の為言うと雄)での行動を選択しているアレグレンも今日は一緒に馬車移動だ。
意味不明な位長い脚がゆったりと収まるレベルの馬車になると翔太にとっては必然的にとっても広い。
足を無駄にプラプラさせながら翔太が言った何気ない言葉にアレグレンは少しだけ間を置いて、小さく息を吐いてから教えてくれた。
「昔来たお前と同じ落ち人は大層稀有な『祝福』を持っていた。それはとても有名でチラルレットの誰もが知っている」
「じゃあなおさらなんで?」
「――稀有な力を持っていたその落ち人はお前と同じ感性を持っていたようでな。『世話になっている礼』だと言ってその力を惜しみなくチラルレットの為に使った。……そして、使い過ぎて早逝した」
「……成程ね」
あの心配になるほど善良な国民たちにとってそれはとても痛ましい記憶となったのだろう。
だから翔太にはわざと『祝福』の存在を隠し、ただただ優しく温かく見守ってくれていたのか。
「別に俺、そんな気を使って貰わなくても良かったのに」
「その優しさがあの国が神に愛される所以でもあるだろう。しかし、我々も『落ち人』の力を利用しようと考える程腐ってはいない」
「そうなん?」
てっきり便利な力があるならアルバイト的な範囲でなら使っても良いと考えていた翔太は驚く。
しかしアレグレンはしっかりと視線を合わせて「大事なことだからちゃんと聞いて欲しい」と前置きしてから続ける。
真剣な空気の中大変申し訳無いが、なんとなく視界の端に入った景色が乗っている馬車の関係上日本にいた時見た馬とはサイズ感がまるで違う強靭な馬が引いていることもありちょっと心配になる速度で流れていくのが気になったりもしてしまう。
「『落ち人』はこちらでも『神からの贈り者』とされる関係でどうしても注目される。そして俺も将軍職に就いているから以前から誰と婚姻を結ぶかは色々と詮索されていた。だから注目は避けられない……ならばいっその事きちんと鑑定を受けて、その結果でこれからの対応を協議することになった」
「へぇ」
「勝手に段取りを組んでここまで連れて来ていることは申し訳無いが、結果的に翔太を守ることにも繋がるんだ……どうか本当に今更ではあるが協力して欲しい」
「うん、良いよ」
アッサリと言い切った翔太を見てアレグレンはまた目を丸くした。
冷静沈着で表情は基本固定の男だと思っていたが翔太と一緒にいるとこんな風に時折可愛い素と思われる部分を見せてくれる。
それがちょっと嬉しい翔太は機嫌よく朗らかに笑いながら続けた。
「俺は一応でもアレグレンの奥さんになるんだからさ、お前は俺のこと悪くはしないだろう? それに、アレグレンは色々相談してくれるタイプみたいだから今回の決定はアレグレンだけの意志じゃなかったんだろ?」
「……」
沈黙は肯定でもある。
いくら将軍職という一般ぺーぺーから見ればお偉いさんでももっと上がいるのなら意見が通らないことがあるのも命令に従わなければいけないことがあるのも当然だ。
規模も影響力も全く話にならない程違うけれど一応勤め人をしていた翔太にもそれくらいは分かる。
口元に笑みを浮かべたままの翔太を見てアレグレンは困ったように息を吐いた。
「俺個人としては『祝福』なんて持ち合わせていなくて良いんだ」
「――え?」
翔太からすると意外な言葉に今度は翔太が目を丸くした。
それを見たアレグレンが優しく笑って、翔太が大好きな国宝ボイスで続ける。
「お前を縛るものが少なければ少ないほど自由にさせてやれる。一般市民よりは多少制限はあるが、単なる『俺の配偶者』というだけならある程度の自由は約束出来るからな」
「アレグレン……お前、本当に良い奴だよな! マジでなんで恋人作らないの? あ、訳アリとかなら全然秘密で良いんだけど、お前良い奴だから勿体ないよ!」
叶わない恋をしているとか大切な人を過去に喪っている可能性もゼロでは無いから翔太としてはあまり踏み込みたくなかったが、どうしてもこれだけは言いたかった。
「好きな相手が出来たらマジですぐに教えてくれよ? 俺、速攻で身を引くからさ! あ……でもその時はちょっと多めに慰謝料持たせてくれよ? 俺残りの人生質素に暮らすからさ!」
ニカッと邪気の無い笑顔を浮かべる翔太を見てアレグレンは呆れたように笑った。
「……まだ正式な婚姻を済ませてもいない相手に離縁後の慰謝料額を交渉してどうする」
「大事だろ? 婚前契約書もなんでか知らないけれど殿下が作ってくれるって言ってたし!」
本当に何故か知らないけれど本当なら当事者同士で作るべき婚前契約書の草案を恐れ多くも王太子殿下が作ると自分から言ってくれたのだ。
流石に理由を問うと翔太が異世界人でありこちらの世界(特に貴族の感覚)が全く分からないことを理由に挙げてくれた。それもそうだな、と思った翔太は素直に王太子の厚意に甘えることにして今日その草案を受け取ることになっている。
なんでもそれとは別にしても『落ち人』の祝福の確認には何故か王族から一人立会人が出るらしく忙しい筈の王太子がわざわざきてくれるらしい。有難いことだ。
「翔太? どうした、不安か?」
「いや、全然」
ふと考え込んだ翔太の顔をアレグレンは心配そうに覗き込んでくれたが本当に何一つ不安なんて無いので即否定する。
するとアレグレンはほっとしたように笑ってくれて、そこから二人は下らない話をして移動時間を過ごした。
***
「それでは『祝福』の鑑定を開始いたします」
「よろしくお願いします」
翔太が案内されたのは大きな神殿の奥にある静謐な空間だった。
そこには石畳の床に実物は初めて見るのに脳内イメージではよくお目に掛かっていた魔法陣的なモノが描かれていて翔太はその中央で膝を着いて祈りのポーズをしているだけで良いらしい。
神官が祈りのような呪文を唱えると目の前にある馬鹿みたいにデカい大水晶に翔太が持つ祝福が表示される、という流れだった。
魔法があることは実際見て知っていたけれど神様関連のことはいまいち信用していなかった翔太だったが神官が祈りを捧げ魔法陣が光ると身体の中を温かい何かが通り抜けたのが分かった。
「っ」
驚きで声が出そうになるが必死で堪えると水晶の中に光の文字がピーっと走る。
それを目で追っていると神官の内の一人が声を上げた。
「どうやら二つの『祝福』をお持ちのようですが、文字が異国の物です」
「非常に珍しいことですよ! しかし、我々でも読解できない文字となると――ショウタ殿の世界の文字やもしれません。解読は可能ですか?」
興奮気味に言って来る二人の神官を見て翔太はかなり気まずい心でいっぱいだった。
そんな翔太を見て立会人として部屋の隅にいた王太子とアレグレンも心配そうな表情を浮かべる。しかし……翔太の頭の中は恐らく王太子たちの想像とは真逆の結果が出ていることで非常に混乱していた。
――自分は、コレを……コレを、この厳かな空気の中で読み上げなければならないのだろうか。
【祝福 その①】
【“能天気”――ちょっとやそっとじゃくじけない。細かいことは気にならない、鋼のメンタル!】
【祝福 その②】
【“健康優良児”――大きな病気にかからない。ちょっとした体調不良も、一晩寝れば大丈夫! 怪我の治りも超早い!!】
……。
…………。
いや、内容はすごくありがたいと思う。
こちらなりの医療技術が発展していても翔太の身体にも適応するのかとか分からないから、本当にありがたいものを与えて頂けたと思う。
でも……でもさ。
ちょっとアホっぽ過ぎないか?!
「翔太、どうした? 一体何が書かれている?」
一応婚約者のアレグレンが控えめに口を開いたから翔太が複雑な気持ちを抱えつつも内容を読み上げようとした時、室内なのに何故か花びらのようなものが降って来た。
「――花びら? なんで?」
落ちて来るそれを何の気なしに受け止めると少し落ち着きを取り戻していた神官たちのテンションがまた爆上がりしたから翔太はちょっと素で引いてしまう。
「ご神託だ!」
「素晴らしい、神のお声だ!!! 皆様、どうか礼の姿勢を!」
神官の言葉を合図に全員がさっと床に跪く。
右に倣え精神の日本人魂が無事に作動して翔太も同じポーズを取ると花びらはどうやら光のような物で出来ていて、翔太の周りだけスポットライトが当たったように光っていた。
それに驚くと並行して耳と言うよりは脳内に直接優しい女性の声が響く。
女性の声は聞き間違える余地すら無いほどハッキリとこう言った。
―― 心身ともに結ばれた 睦まじい夫婦にお成りなさい。
あなたと、あなたの伴侶に 神の祝福を。 ――
……え? ちょっと待って?
翔太がそう言葉に出すより先に光は消えてしまい、興奮気味に何かを言い合う神官たちと神託が下りたことに何らかの理由で気付いて駆け込んで来た別の神官たちで現場はちょっと騒然とした。
しかし皆が口々に語り合う内容から否が応でも翔太が聞いた声がここに居る全員の脳に同じように届いていたことが分かる。
しかし翔太は今それどころではなかった。
「翔太、大丈夫か?」
こちらにさらに歩み寄りながら声を掛けてくれるアレグレンを翔太は思わず掌で制してしまう。
そして翔太の視線は顔ではなく、思いっ切りアレグレンの下半身を見詰めていた。
失礼だとか露骨だとか言ってる余裕は今の翔太には無いのだが、周囲からはきっとただ俯いているように見えているに違いない。
――なんつった? さっき、あの神様的ポジションの女の人なんて言った?
『心身ともに結ばれた睦まじい夫婦にお成りなさい』?
馬鹿言ってんじゃねえぞ?!
翔太は便秘で固くなったうんこを無理矢理力んで出して尻がちょっと切れてしまったあの嫌な記憶を思い出す。
健康的な人間のウンコは、直径三~四センチだとヤホージャペンが言っていたが、体感的にはもう少し翔太のウンコは細いと思う。うん、絶対細い。
そして何より! 何より大事なことは、翔太のケツは永遠の中→外という一方通行であるという点だ。あ、念の為言っておくと純然たる医療行為(投薬及び検査)はこの限りでは無いからな!
「翔太? どうした、顔色が悪い」
「ごめん、ちょっと待ってくれ!」
心配で近寄って来ようとするアレグレンをもう一度強い言葉で押し留めて、翔太は自分の顔が青ざめて指先から熱が失われていく感覚をこれでもかと味わう。
だってチラルレットのゴリラーズのあの赤黒いズル剥けバズーカが、キャンバスを目の前に用意して貰えればそこそこ正確にスケッチできる自信が謎に湧いてくるくらいハッキリと脳裏に浮かんでいるのだ。
――無理だ! 無理無理無理無理絶対無理!
精神的に無理とかそんな話をする前に、物理的に絶対! ぜーったい無理! だって死んでしまう。
アレの上位互換と思われるアレグレン所有のバズーカEX(推定)なんて入れられた日には、死んでしまう。
即死だ即死!
だから【健康優良児】なんてふざけた祝福は意味を成さない。だって即死だから!!!
今更だけど『児』ってなんだよ、大人だよ舐めんな!!!
「翔太、お前には何が聞こえたんだ? 少し落ち着いて話をしよう」
「そうだ、とにかく落ち着け。一体突然どうした?」
アレグレンと王太子の言葉にも翔太は頭を激しく振りながら同じ言葉を繰り返すだけだった。
「とにかく、無理! 無理だ、無理! 死ぬ! マジで死ぬからな!!!!!」
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