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後編:もっと早く……。
え?!
とお互いが驚く。
ここは井上君の会社の最寄り駅じゃない。奎吾が住んでいるマンションに近いホテルだ。
前置きに五千文字近く使ってごめんなさい。ここで、冒頭部分の会話に戻りますね。
「何してるんですか、高瀬さん」
「――井上君」
明らかに怒っている井上君に問答無用で略奪されて、駅とは逆の住宅街の方向に引っ張られて歩く。
「い、井上君偶然だね? お仕事の帰り?」
ぐんぐんと歩く井上君の背中に声を掛けてみたけど、返事は無かった。
そのまま見知らぬマンションに到着して、エレベーターに押し込まれる。井上君は無言のまま五階のボタンを押した。
「入って下さい」
「……あ、うん」
井上君のお家だと思う。
玄関からして物が少なくて彼らしいな、と一瞬考えた間を井上君は拒絶と取ったのか彼らしくない雑な動作で靴を脱ぎ捨ててまた腕を引かれた。
「い、井上君靴、くつ」
「どうでも良いですから」
どうにか脱いだ靴は廊下に離れて落ちているけど、井上君は視線を向けもしない。
ドアを一枚潜るとよくある1Kタイプの部屋だったけどちょっと広めでしっかりとしたデスクとパソコンがあった。
そう言えば在宅ワークの日も多いって言ってたな。
大好きな井上君のお部屋をじっくり眺めたいのに、あっさりと奎吾はベッドに放り込まれてしまう。
ご、強引な井上君はレアだ!
だって彼はいつも優しくて「大丈夫だって!」って強く何度も言っても奎吾に触れる時は繊細だったから。
井上君は奎吾を押し倒して、いつもとは真逆の位置関係から言葉を落として来た。
「あの人もセフレですか?」
質問されたので奎吾は真面目に答える。
「違うよ? 普通の行きずりのひと。俺のセフレは井上君だけだよ」
「……なんで行きずりの男と普通にホテルに入るんですか? 危ないとか思わないんですか?!」
――あ、心配してくれてるんだ。
こんな状況でも奎吾の胸はきゅんとした。
言って無いけど、こう見えて奎吾は極真空手黒帯である。素人に手を上げることは当然ご法度だが、非常時やルール違反の愚か者にちょっとしたオイタを食らわせる位は訳が無いのだ。
だから自由気ままにセックスライフを送れているのである。それを知らない井上君はぱっと見は弱そうな奎吾を心配してくれたんだな。やっぱり井上君は優しい!
大丈夫だと理由を説明しようとして……奎吾は驚いた。
大丈夫だよ、俺こう見えてね! その言葉が出せなかった。
「え?」
お、押さえ込まれてる?
まさか……俺今、完璧に押さえ込まれてない?! い、井上君……何者?!!!?
「身体付きで何か格闘技をやってるのは知ってます。でも、相手だって何かを嗜んでる可能性もあるんですよ」
ぐっと軽く体重を掛けられて――不覚にも奎吾は完全にきゅんきゅんしていた。
井上君のギャップがエグイ♡ まさかここでこんな雄味を出してくるなんて……ずるい!!!
「僕の方が身長も体重もあります。そんな相手にこうされたら、打撃だって簡単に出来ないでしょう? 自分のやっている事がどれだけ危ないか分かってるんですか本当に?」
「井上君……かっこいい」
惚けてそう返すと、井上君は呆れた様に溜息を吐いた。
***
「ちょ、井上君?! ちょと待ってくれないかな?」
「駄目です。ほら、動かない」
ぺちん、と軽く尻を叩かれて奎吾は思わず喘いだ。
まさか……まさかあの元ピカピカ童貞井上君が完全に主導権を握るセックスを経験出来るなんて夢にも思っていなかった。
押さえ込まれたままあっさりと服を剥かれて、奎吾がサクサクセックスの為にしてきた準備に気付いた時井上君は過去一で怖い顔と声だった。
「……なんです? この準備万端具合は」
「だって! だって普通井上君みたいに優しい人はいないから、自分で準備して行ってサクッとチンコだけ借りて済ませて来るのが早いから!」
ぐっと背中に体重を掛けられて思わず喉から息が漏れた。
苦痛を感じるか感じないかのギリギリのラインの責め苦に彼の怒りの深さと格闘技を嗜む者が必ず最初に叩き込まれる理念のせめぎ合いを感じる。
確実に本気で怒ってる。
自分より強いであろう男が、怒ってる。
本当なら恐れても良い状況なのに、奎吾は思いっ切り興奮していた。
それは奎吾が基本的にアホなのと、それと同じくらいに井上君への信頼があるからだ。
絶対に井上君は奎吾を傷付けない。どれだけ怒ってても、彼と言う優しい人間は誰かを痛めつけたりは出来ない人種だと奎吾は知っている。
そしてもう一つの気持ちがあった。
「や、……やきもち、妬いてくれてたら俺、嬉しいなあ」
「――少し黙ってて貰えますか」
「お゛お゛っ??!!!!」
ちょっときつめの押し潰すような後背位の体勢で首の真後ろを鷲掴みされて思いっ切り根元まで一気に貫かれた。
完全に油断していたせいで刺激に耐えられず崩れ落ちると寝バックになってしまう。
これは……ちょっと待って欲しい。
「おっ?! 待っ、待って! 俺うごく」
「駄目ですよ。僕なりに高瀬さんを分析した結果、あなたが好きそうな場所を刺激するにはきっとこの体勢が一番だと思うんです」
「あー、あ、こねるのやめて! こねるのほんとに、無理だから!!!!」
バチュバチュと今まで一度も無かった一切の容赦の無い突き上げに奎吾は汚く鳴いた。
――ヤバい。これはヤバい。
耳に聞こえる自分の上げる汚い喘ぎ声とは別に、心が警鐘を鳴らす。
このセックスは駄目だ。
完全に主導権を取られて、気持ちいいを逃がせない。奎吾が理性をもって楽しめる「ほどほど処理セックス」の域を逸脱している。
こんなモノを教え込まれたら戻れなくなるじゃないか!
適当な男を引っかけて、他人のチンコを借りてオナニーするような気軽さで行う処理セックスなんかじゃ、駄目になるじゃないか!!!
「嫌だ! 嫌だ嫌だ嫌だ――嫌だぁ! あ、あーいぐいぐいやだいぐぅ」
夢中でもがいても無意味だ。相手と体勢と状況が悪過ぎてなんの抵抗も出来ない。
そんな奎吾を見下ろしながら井上君は今までの彼とは別人のように奎吾の弱点を徹底的に攻め続けた。
イってもイってもやめてくれないし、泣いて詫びても返事もしてくれない。
呼んでも無視だ。
表情が見えない、相手のリアクションが分からない自分だけが酔っているセックスは……さすがの奎吾でも悲しい。
これが別の人間だったら「レイププレイ、略してレイプレ」なんておどけて楽しめたが相手が井上君では、無理だった。
だから奎吾は泣きながら唯一出来る小さな抵抗、顔を微かに左右に振る事だけを続けながら叫んだ。
「――ごめんなさい! もうしないから! しないから、顔見せて! むし、しないでぇ!!!」
そこまで言うとようやく井上君は止まってくれた。
完全に体力を無くし自分の腕も満足に動かせなくなった奎吾の身体を簡単に裏返して、正常位挿入手前の体勢で停止して至近距離からしっかりと目線を合わせて来る。
「もうしませんか? 行きずりの男と軽々ホテルに行きませんか?」
「行かない……絶対に、行かない」
べそべそと出て来る情けない涙を井上君は優しく拭って、そこでようやくいつも通りに微笑んでくれた。
「セックスしたい時はまず僕を呼んでくれますか?」
その穏やかな笑顔に、奎吾の抑えていた感情が零れる。
――ずるいじゃないか。
ノンケのくせに! 俺が、俺が本気で恋をしたってセフレのくせに! セフレにしかしてくれないくせに、こんなセックス教え込んでそんな言葉まで言ってそんな表情まで見せて、結局女に行くくせに!!!
泣きながらなけなしのプライドと根性を振り絞ってそう叫びながら暴れたら、井上君はあっさりと奎吾をまた押さえ込んだ。
親猫が子猫の首をかぷっとして問答無用で持ち上げる位の実力の差が確かにそこにある。
遣り切れなさから目に涙を溜めたまま自分を睨む奎吾の頬をまた優しく撫でて、井上君は言った。
「僕はセックスが上達して高瀬さんから身を委ねても良いっていう合格点を貰えたならすぐにでも告白してお付き合いをしたいなってずっと思ってました。――あなたのこと、とっくに大好きです。女性とはお付き合いどころか話もまともにしたことが無いのでなんとも言えません」
その言葉に奎吾は別の意味で泣いた。
そんなの童貞貰ったその日からとっくにそうなんだけど――もっと早く言ってよ。
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