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26.自分から言えないのなら、試すのもありなのだろうか?
「あの……望月先生?」
「どうしたの?」
どうか少し落ち着いてくれませんか? と基臣は言葉に思いを込めたが目の前にいる先生はとても冷静で興奮しているようにもやけを起こしているようにも見えない。
それがまた基臣には厄介ではあったが何故そんなことを言い出したのかを聞きださなくてはならないことに変わりはない。
「ラトヴィッジさんのことが好きだと自分で分かっているのに『伴侶候補の鑑定』をするのは何故でしょうか……しかも、俺まで」
――もしかして嫉妬で止めに来てくれる映画的なやつを期待しているのか?
なんて考えが一瞬基臣の脳裏を過ったが望月先生はそんなタイプではなさそうだとすぐに思い至る。
そうするとやはり基臣の疑問は目の前で涼しい顔をしている望月先生本人の口から説明してもらうしか解決する方法はなさそうだ。
「強いて言うなら『確認』と純粋な『探求心』かな?」
「……」
さらっと言った望月先生は基臣の前で悪戯っぽく笑って続ける。
「オミくんも気にならない? この世界では地球に存在しない『魔法』や『種族』が当たり前に存在する。……そんな基本中の基本が僕たちの認識とは根底から異なる世界で構築されたマッチングシステムにどこまでの信憑性があるのか、って」
「確かに『魔力相性』について疑問に思う点は多々あります。個々の魔力の性質に限定した相性の良し悪しと個人の趣味嗜好や価値観は全く別問題であるにも関わらず『魔力相性』の一点だけで相手を決めて、ただでさえ長いこちらの世界の生を捧げるにはあまりにもリスクが高すぎる」
「……その通りだね。でも、こっちの世界でそのことを否定する人間は0.01%以下だ」
望月先生の言葉を聞いて考える基臣の前で望月先生は優雅にお茶を飲む。
そして基臣にもお茶やお菓子を進めた後、また穏やかな声で話し出した。
「だから、試してみようと思う。……厳密に言うと、この世界で絶対的な信頼度を誇る『魔力相性』で選ばれた相手に他ならぬ僕自身が何を感じるかを知るために」
「それは危険です。……その危険性を誰よりも知っているのは望月先生のはずだ」
基本的に基臣は望月先生を応援したいと思っている。
望月先生のことを尊敬していることもそうだが、こっちの世界に来てすぐにジルナークという身勝手な獣人に一方的に番認定されて命の危機すら感じる熱量のストーカー行為を長年受けた先生がやりたいことは本当なら諸手を挙げて応援したい。
そして自分で出来ることなら力になりたいと思っている。それは嘘じゃない。
本当に嘘じゃないが……望月先生の今言った内容なとてもじゃないが簡単に賛同できるものではなかった。
「心配してくれるの?」
「当り前でしょう」
真顔で言い切る基臣を見て望月先生は優しく微笑む。
しかし意見を変えるつもりがないのは基臣の目から見ても明白だった。
「君が反対する理由は理解出来るし、適当に流さないでちゃんと反対の意思を示してくれることはとっても嬉しいよ」
「なら危険なことは止めてください。『魔力相性』について研究がしたいならもっと他に安全な手段はいくらでもあると思いますし、ラトヴィッジさんという気になる存在がいるならなおのこと望月先生自身が『伴侶候補の鑑定』を体験する必要性は低い筈です」
お互い感情的にはなっていないが会話自体はとても真剣だ。
真面目に視線を合わせたまま話す基臣を望月先生は穏やかに見詰めて、それまでとは少し違う表情を浮かべる。
「僕はね、ちゃんと『知った』上で自分で選びたいんだ」
「……え?」
ふと弱くなった先生の言葉に基臣が止まる。
目の前のソファーに座っている先生の外見年齢は基臣と同じくらいだが、実際に生きている年月で言うと親子ほど違う。
そして本人は記憶を失っているけれど日本での望月先生の最期を知っている基臣には、望月先生のその願いを自分が心配だからという理由だけで跳ねのけることは出来ない。
「勿論相手のいることだから自分の感情だけで動くことは良くないとは思うよ。でも、僕たち『異世界人』の『伴侶候補の鑑定』は色々と融通を利かせて貰えるじゃない?」
「聞いた話だと……そう、ですね」
基臣は拒否したが説明を受けた時は確かに『異世界人』側への配慮が大きかったと思う。
その具体例を挙げると、相手が『番認定』する種族だった場合は匂いや魔力を相手に感知させない閉鎖された空間でこちらだけが相手を確認する方法も取れると言われたりもしたからだ。
それに見付かった相手が『番認定』しない種族の時は「断られたら二度と会いません」という内容が記載された魔法誓約書へのサインが必須だとも説明された。
「一番良いのは彼が僕の相手だったら、ってことだろうけれどそんな漫画みたいな話はないだろうからさ。この世界が一番おススメする相手を見て……その上で自分で『選んで』生きて行きたいんだ。オミくんはどう? 君はこちらの世界での長い時間をどう生きるか考えたりしている?」
「……――」
ハッキリとした決意に満ちた先生の言葉を聞いて、基臣の頭の中であの図鑑に書かれている何度も何度も読み返した文章が頭の中に鮮明に浮かぶ。
――『クトゥラ族:空中戦ではほぼ敵なしと言われるほど強い少数種族。理性的であり好戦的な人間は多く無いがその分本気で怒らせたら命懸けだと心得た方が良い。』
――『恋愛観:死ぬほど一途。本能で惹かれる番認定ではなく理性をもって自ら唯一の番を定めるタイプの種族。成人までに魔術で翼を隠す方法を体得するが翼の内側に一枚だけ各自色が異なる特別な羽根を持ち、それを自らが定めた相手に渡すことで相手を番と定め生涯番だけを愛し抜く。』
自分から言えないのなら、試すのもありなのだろうか?
クレイヴァルが伴侶候補の登録をどうしているのかを基臣は知らないけれど『もし』があったら。
自分達『異世界人』はこちらの世界の高魔力保持者たちと相性が良い可能性が高いらしいから、もしかしたらアイツと……。
クレイヴァルと、もしかしたらうまくマッチするかもしれない。
そんな卑怯な考えが基臣の脳内に浮かんだ。
確かに浮かんだけれど、口から迷いなく出た言葉は全く違うものだった。
「望月先生すみません。俺はもう、決めた相手がいます」
「どうしたの?」
どうか少し落ち着いてくれませんか? と基臣は言葉に思いを込めたが目の前にいる先生はとても冷静で興奮しているようにもやけを起こしているようにも見えない。
それがまた基臣には厄介ではあったが何故そんなことを言い出したのかを聞きださなくてはならないことに変わりはない。
「ラトヴィッジさんのことが好きだと自分で分かっているのに『伴侶候補の鑑定』をするのは何故でしょうか……しかも、俺まで」
――もしかして嫉妬で止めに来てくれる映画的なやつを期待しているのか?
なんて考えが一瞬基臣の脳裏を過ったが望月先生はそんなタイプではなさそうだとすぐに思い至る。
そうするとやはり基臣の疑問は目の前で涼しい顔をしている望月先生本人の口から説明してもらうしか解決する方法はなさそうだ。
「強いて言うなら『確認』と純粋な『探求心』かな?」
「……」
さらっと言った望月先生は基臣の前で悪戯っぽく笑って続ける。
「オミくんも気にならない? この世界では地球に存在しない『魔法』や『種族』が当たり前に存在する。……そんな基本中の基本が僕たちの認識とは根底から異なる世界で構築されたマッチングシステムにどこまでの信憑性があるのか、って」
「確かに『魔力相性』について疑問に思う点は多々あります。個々の魔力の性質に限定した相性の良し悪しと個人の趣味嗜好や価値観は全く別問題であるにも関わらず『魔力相性』の一点だけで相手を決めて、ただでさえ長いこちらの世界の生を捧げるにはあまりにもリスクが高すぎる」
「……その通りだね。でも、こっちの世界でそのことを否定する人間は0.01%以下だ」
望月先生の言葉を聞いて考える基臣の前で望月先生は優雅にお茶を飲む。
そして基臣にもお茶やお菓子を進めた後、また穏やかな声で話し出した。
「だから、試してみようと思う。……厳密に言うと、この世界で絶対的な信頼度を誇る『魔力相性』で選ばれた相手に他ならぬ僕自身が何を感じるかを知るために」
「それは危険です。……その危険性を誰よりも知っているのは望月先生のはずだ」
基本的に基臣は望月先生を応援したいと思っている。
望月先生のことを尊敬していることもそうだが、こっちの世界に来てすぐにジルナークという身勝手な獣人に一方的に番認定されて命の危機すら感じる熱量のストーカー行為を長年受けた先生がやりたいことは本当なら諸手を挙げて応援したい。
そして自分で出来ることなら力になりたいと思っている。それは嘘じゃない。
本当に嘘じゃないが……望月先生の今言った内容なとてもじゃないが簡単に賛同できるものではなかった。
「心配してくれるの?」
「当り前でしょう」
真顔で言い切る基臣を見て望月先生は優しく微笑む。
しかし意見を変えるつもりがないのは基臣の目から見ても明白だった。
「君が反対する理由は理解出来るし、適当に流さないでちゃんと反対の意思を示してくれることはとっても嬉しいよ」
「なら危険なことは止めてください。『魔力相性』について研究がしたいならもっと他に安全な手段はいくらでもあると思いますし、ラトヴィッジさんという気になる存在がいるならなおのこと望月先生自身が『伴侶候補の鑑定』を体験する必要性は低い筈です」
お互い感情的にはなっていないが会話自体はとても真剣だ。
真面目に視線を合わせたまま話す基臣を望月先生は穏やかに見詰めて、それまでとは少し違う表情を浮かべる。
「僕はね、ちゃんと『知った』上で自分で選びたいんだ」
「……え?」
ふと弱くなった先生の言葉に基臣が止まる。
目の前のソファーに座っている先生の外見年齢は基臣と同じくらいだが、実際に生きている年月で言うと親子ほど違う。
そして本人は記憶を失っているけれど日本での望月先生の最期を知っている基臣には、望月先生のその願いを自分が心配だからという理由だけで跳ねのけることは出来ない。
「勿論相手のいることだから自分の感情だけで動くことは良くないとは思うよ。でも、僕たち『異世界人』の『伴侶候補の鑑定』は色々と融通を利かせて貰えるじゃない?」
「聞いた話だと……そう、ですね」
基臣は拒否したが説明を受けた時は確かに『異世界人』側への配慮が大きかったと思う。
その具体例を挙げると、相手が『番認定』する種族だった場合は匂いや魔力を相手に感知させない閉鎖された空間でこちらだけが相手を確認する方法も取れると言われたりもしたからだ。
それに見付かった相手が『番認定』しない種族の時は「断られたら二度と会いません」という内容が記載された魔法誓約書へのサインが必須だとも説明された。
「一番良いのは彼が僕の相手だったら、ってことだろうけれどそんな漫画みたいな話はないだろうからさ。この世界が一番おススメする相手を見て……その上で自分で『選んで』生きて行きたいんだ。オミくんはどう? 君はこちらの世界での長い時間をどう生きるか考えたりしている?」
「……――」
ハッキリとした決意に満ちた先生の言葉を聞いて、基臣の頭の中であの図鑑に書かれている何度も何度も読み返した文章が頭の中に鮮明に浮かぶ。
――『クトゥラ族:空中戦ではほぼ敵なしと言われるほど強い少数種族。理性的であり好戦的な人間は多く無いがその分本気で怒らせたら命懸けだと心得た方が良い。』
――『恋愛観:死ぬほど一途。本能で惹かれる番認定ではなく理性をもって自ら唯一の番を定めるタイプの種族。成人までに魔術で翼を隠す方法を体得するが翼の内側に一枚だけ各自色が異なる特別な羽根を持ち、それを自らが定めた相手に渡すことで相手を番と定め生涯番だけを愛し抜く。』
自分から言えないのなら、試すのもありなのだろうか?
クレイヴァルが伴侶候補の登録をどうしているのかを基臣は知らないけれど『もし』があったら。
自分達『異世界人』はこちらの世界の高魔力保持者たちと相性が良い可能性が高いらしいから、もしかしたらアイツと……。
クレイヴァルと、もしかしたらうまくマッチするかもしれない。
そんな卑怯な考えが基臣の脳内に浮かんだ。
確かに浮かんだけれど、口から迷いなく出た言葉は全く違うものだった。
「望月先生すみません。俺はもう、決めた相手がいます」
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