最凶聖女の地獄指導で覚醒した冴えない社畜、勇者パーティーに放り込まれダンジョン無双し魔王軍に挑む

ワスレナ

文字の大きさ
11 / 46
本編

第7話 聖女巡礼~祈りの聖女

しおりを挟む
 イグノールと別れて大聖堂の自室に戻った私は、失意の中にいた。
 彼らの力になれなかったことに対して、自身へのいきどおりを感じている。
 身を清めながら、その事ばかり考えてしまっていた。

「ミレーヌに任されたばかりだというのに、何もできないのか……」

 だが、うじうじ悩んでいても仕方がない。
 今私にできるのは、エレノーラ様にイグノールとのやり取りを報告して、指示を仰ぐことだ。

 エレノーラ様は大聖堂の礼拝堂にいた。
 業務が終わるのを小部屋で待つこと二十分後、エレノーラ様が入室してくる。

「ごめんなさいタクト。随分と早かったですわね」  

 エレノーラ様は少し申し訳なさそうに小さく頭を下げた。

「いえ。師匠、実は……」

 私は事の顛末てんまつをすべて説明した。

「まあ、そうだったのですね。……なるほど、それは大変なことになりましたね」

「はい、どうしたらよいものか、ご相談したくて……」

「心配ですか?」

「はい……正直、不安です。それでも信じています。イグノールたちは強いと」

 エレノーラ様は少し思案してから私に答える。

「タクト、貴方の判断は間違っていない。貴方は自分のなすべきことをするのです。信じなさい。自分の役割を」

「はい、わかりました。師匠」

「何かあれば私も最前線に向かいます。彼らの情報も収集して伝えますね」

「ありがとうございます」

 その時、ふとエレノーラ様は何かを思い出したかの表情になり、私に説明する。

「そうでした、タクト。やっとほかの聖女たちの許可が取れたのです。大変お待たせしましたね」

「聖女……ああ、それはよかった。楽しみです」

 アビス十二本木での経験から疑問に感じ、拝謁はいえつを依頼していた件。
 エレノーラ様にお願いしていた聖女たちへの問いの旅がいよいよ実現する。

 エレノーラ様を含めこの大陸には八人の国家公認の任務に就く聖女が存在する。
 彼女たちに会うことで、聖女、引いてはエレノーラ様のことをもっと知ることができると思ったのだ。

 あの日以来、アビスの出来事を思い返さなかった日はなかった。
 エレノーラ様が見せた、あの天使への冷たい視線。
 私に”鬼畜”を向けるのは構わないが、まさか天使にまで……

 あの出来事が、私が知る“聖女”という存在のイメージを根本からくつがえした。

 ……今までもっと絶対的な聖なる存在だと思っていた。 
 聖女とは、何なのか。
 何のために祈り、何を救うのか――

 ついでに自分に何ができるのかなどを知れたら儲けものだとも思っている。
 いや、この巡礼の旅で、見つけてやろうと思う。

 結果的に勇者たちは魔王軍との戦場へ、私は聖女のもとへ……か。
 滑稽こっけいだなと、心の中で皮肉めいて笑う。

「準備は出来ていますか、タクト?」

「はい、いつから出発でしょうか?」

「それが、夜に来てほしいとの事なのです。ですから、今日は魔法の修練を致しましょう」

「わかりました。では後ほど」

 昼食後、午後からはエレノーラ様に呼ばれ、【次元魔法】の修練にほとんどの時間を費やした。
 『必要な時が来たら迷わず使え』――そう言われた言葉が耳に残っている。


◆◆◆
 

 夕食を取った後、私とエレノーラ様は大聖堂の中広間に移動している。
 今回は見送りに給仕のクララとエレノーラ様の付きメイドのミリエラが来てくれた。

「タクト、そろそろ時間です。準備はいいですね」

「はい」

「タクト様、どうかお気をつけて」

 クララが笑顔で私を送り出そうとしてくれる。

「ありがとう、行ってくるよ」

 エレノーラ様が私に近づき、羊皮紙の書簡を差し出す。

「紹介状の書簡を用意したので、レティシアに渡しなさい」

「わかりました」

 書簡を受け取り、インベントリを出して保管する。
 私の目の前で消える書簡を見て、クララとミリエラが目を丸くしている。
 するとエレノーラ様がそれを見て言った。

「ああ、そう言えば、その機能、私も使えるようになりましたよ」

「え?」

 突然とんでもないことを言い出してきた。

 エレノーラ様は右手を前にかざしてみせる。
 すると、青白い光が出現する。
 私と同じだが、光を放ち具現化しているところが異なっている。

「おお! 見えますね」

 私の言葉にうなずき、中から一冊の魔導書を取り出す。

「便利ですわね、これ。解析するのに結構時間を要しましたが……。貴方が最初の頃言っていた【情報の奔流ほんりゅう】も体験しましたわ。一度だけでしたが」

 あの現象が二度目からなくなったのか……さすがはエレノーラ様だ。 
 魔導書をインベントリにしまってから機能を閉じると、エレノーラ様が私に確認する。

「タクト、必要な地点の座標はすでに設定しましたか?」

「……はい。巡礼地への座標はすべて頭に入れました」

 エレノーラ様が真っ直ぐ私の目を見て言った。

「タクト。レティシアへの巡礼が終われば、一旦戻ってくるのですよ。――聖女の真実を、貴方の納得いくまで確かめなさい」

「はい、師匠。皆さんすべてに会った後は師匠、よろしくお願いします」

 私は軽く頭を下げる。

「フフッ。その時は、話を聞きましょう……」

 最初に向かう先は、サレシアル王国祈りのの聖女――レティシア=グラシア。

 小さく息を整え、私はテレポートの詠唱を唱える。
 空気が淡い光に満ち、視界が一瞬にして白く塗りつぶされた。


 視界が形を成すと、聖騎士団の駐屯する石畳の中庭に立っていた。
 白銀の月光に照らされた祈りの間には、ひときわ荘厳そうごんな気配が漂っている。
 夜だというのに、厳かな雰囲気と煌々こうこうとした魔灯の光に守られている。

 私は書簡を取り出すと、近くにいる警備の騎士に声をかけて見せる。

「聖女エレノーラ様からの……話は聞いております! レティシア様は礼拝堂にいらっしゃいます。すぐにご案内します」

 騎士の手により重厚な扉が静かに開き、礼拝堂に案内される。
 そこには白銀の祭服をまとった少女――聖女レティシア様が祈りを捧げていた。

「レティシア様、タクト殿をお連れいたしました!」 
 
「時間通りでしたね。ようこそ、レティシア=グラシアです」
 
 任務を終えた騎士が去り、レティシア様が立ち上がる。
 
「タクト=ヒビヤです。今宵は貴重なお時間を頂き、感謝いたします」

 私は深々と会釈をすると、レティシア様の方へ歩み寄り封を渡す。
 彼女は封蝋ふうろうを割って目を通す。

「……エレノーラの書簡、確かに受け取りました」

 淡い蝋燭ろうそくの灯りが、彼女の横顔を浮かび上がらせた。
 彼女は書簡を机に置き、ティーカップを取り紅茶を一口飲む。

「私の力が必要だと、エレノーラは言っていますね……」

 レティシア様は引出しに書簡をしまうと、私に向き直る。

「ふぅ……始める前にまず、少し小言を言ってもよいかしら?」

「え? あ、はい。……どうぞ」

 レティシア様の目に少し影が差しているように見えた。

「タクトさん、あなたのおかげで余計な仕事が増えました。――まあ、うちの勇者が弱かったのが原因ですが。正直なところ、すごーーーく迷惑しておりますの」

「は、はぁ。それは大変申し訳ございませんでした!」

 私は面食らったが、深々と頭を下げて謝罪した。

「ほぅ、下げる頭があったとは、見上げたものね。殊勝なことだわ。タクト=ヒビヤ、そこそこ人間性はあり――と」

 レティシア様の言葉に、あっけにとられてしまう。
 おかげで多分、結構なアホ面を見せてしまったかもしれない。

「ふふふ。冗談よ。てっきり反論してくるかと思っていたわ。だけど、国を代表する者としての矜持きょうじはないの?」

 その問いに少し間を置いて答える。

「そうですねぇ……無いです。そもそも代理で出ただけですし」

 レティシア様の目が少し見開く。

「まあ。少しは責任感が必要かもね。今回は大目に見てあげましょう」

 そうして彼女は好奇のまなざしを向けて私に尋ねる。

「それで、あなたは何を知りたい?」

 私はためらいなく視線を返す。

「……聖女が、何を思い、何をを守っているのかを知りたいんです」

 一瞬、レティシア様の瞳にかすかな揺らぎが生まれる。

「……私たちは、神の声を伝える者であり、秩序の鎖でしかない」

 澄んだ声が、どこかで空虚に響いた。

「あなたは秩序をどう思うの?」

 問い返され、短く息を呑んで答える。

「人を守るためのものだと……信じています」

 するとレティシア様の頬がわずかに緩み、かすかに微笑んだ。

「ならば、見ていくといいわ」

 彼女はそっと光結晶の聖杖をかたわらに置く。
 手をかかげると、側近の一人が静かに近づいてくる。

「タクト殿、明朝より、聖女様の視察に同行してください」

 側近が淡々と補足説明し、私に小さな羊皮紙を渡した。
 それは視察の詳細と、巡回の許可証だった。

 レティシア様は視線をそらさずに続ける。

「明日、農村の巡回に付き合ってもらいます。……それが、私の答えです」

 私はうなずき、同意する。
 静かに再び杖を手に取ると、レティシア様はほんの少しだけ頭を下げた。

「あなたが見るに値するか、私が決めるわ」

 祈りのに、祈祷きとうの鐘が小さく鳴り響く。
 私はその音を聞きつつ、彼女の言葉の意味を考えていた。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【まめちしき】

【クララ】……タクトの専属給仕。前作で転移したタクトの身の回りの世話を行っていた女性。

【ミリエラ】……元デーモン・ロードの女性。前作でアビスにてタクトの【聖女の呪い】の効果で人間になってしまう。記憶を無くしたところをエレノーラが引き取り、メイドとして指導する。

【インベントリ】……タクトの能力の一つ。前の世界でのゲーム知識のあるタクトが、異世界でステータスを開こうとしたらこれが出現する。能力値は表示されず、単に所持品を出し入れできるだけだと思われた。だが、収納した物のステータスが表示されたり、書物の内容を記憶できたりコピーが可能だったりと、様々な能力があることが後に判明する。異世界人にはこの能力がなく、見えない。

【あなたのおかげで余計な仕事が増えました】……前作にて勃発したクラヴェール王国とサレシアル王国との間の戦争で、タクトが勇者メルキウスに勝利し、クラヴェール王国が戦勝国となる。その事でサレシアル王国は不利な条件を飲むことになった。具体的な内容は不明だが、恐らく聖女の公務にも支障が出たものと思われる。(ただし、戦争に踏み切ったのはサレシアル王国側であり、タクトとしてはこの話は全くのとばっちりである)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

底辺動画主、配信を切り忘れてスライムを育成していたらバズった

椎名 富比路
ファンタジー
ダンジョンが世界じゅうに存在する世界。ダンジョン配信業が世間でさかんに行われている。 底辺冒険者であり配信者のツヨシは、あるとき弱っていたスライムを持ち帰る。 ワラビと名付けられたスライムは、元気に成長した。 だがツヨシは、うっかり配信を切り忘れて眠りについてしまう。 翌朝目覚めると、めっちゃバズっていた。

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

処理中です...