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本編
第7話 聖女巡礼~祈りの聖女
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イグノールと別れて大聖堂の自室に戻った私は、失意の中にいた。
彼らの力になれなかったことに対して、自身への憤りを感じている。
身を清めながら、その事ばかり考えてしまっていた。
「ミレーヌに任されたばかりだというのに、何もできないのか……」
だが、うじうじ悩んでいても仕方がない。
今私にできるのは、エレノーラ様にイグノールとのやり取りを報告して、指示を仰ぐことだ。
エレノーラ様は大聖堂の礼拝堂にいた。
業務が終わるのを小部屋で待つこと二十分後、エレノーラ様が入室してくる。
「ごめんなさいタクト。随分と早かったですわね」
エレノーラ様は少し申し訳なさそうに小さく頭を下げた。
「いえ。師匠、実は……」
私は事の顛末をすべて説明した。
「まあ、そうだったのですね。……なるほど、それは大変なことになりましたね」
「はい、どうしたらよいものか、ご相談したくて……」
「心配ですか?」
「はい……正直、不安です。それでも信じています。イグノールたちは強いと」
エレノーラ様は少し思案してから私に答える。
「タクト、貴方の判断は間違っていない。貴方は自分のなすべきことをするのです。信じなさい。自分の役割を」
「はい、わかりました。師匠」
「何かあれば私も最前線に向かいます。彼らの情報も収集して伝えますね」
「ありがとうございます」
その時、ふとエレノーラ様は何かを思い出したかの表情になり、私に説明する。
「そうでした、タクト。やっとほかの聖女たちの許可が取れたのです。大変お待たせしましたね」
「聖女……ああ、それはよかった。楽しみです」
アビス十二本木での経験から疑問に感じ、拝謁を依頼していた件。
エレノーラ様にお願いしていた聖女たちへの問いの旅がいよいよ実現する。
エレノーラ様を含めこの大陸には八人の国家公認の任務に就く聖女が存在する。
彼女たちに会うことで、聖女、引いてはエレノーラ様のことをもっと知ることができると思ったのだ。
あの日以来、アビスの出来事を思い返さなかった日はなかった。
エレノーラ様が見せた、あの天使への冷たい視線。
私に”鬼畜”を向けるのは構わないが、まさか天使にまで……
あの出来事が、私が知る“聖女”という存在のイメージを根本から覆した。
……今までもっと絶対的な聖なる存在だと思っていた。
聖女とは、何なのか。
何のために祈り、何を救うのか――
ついでに自分に何ができるのかなどを知れたら儲けものだとも思っている。
いや、この巡礼の旅で、見つけてやろうと思う。
結果的に勇者たちは魔王軍との戦場へ、私は聖女のもとへ……か。
滑稽だなと、心の中で皮肉めいて笑う。
「準備は出来ていますか、タクト?」
「はい、いつから出発でしょうか?」
「それが、夜に来てほしいとの事なのです。ですから、今日は魔法の修練を致しましょう」
「わかりました。では後ほど」
昼食後、午後からはエレノーラ様に呼ばれ、【次元魔法】の修練にほとんどの時間を費やした。
『必要な時が来たら迷わず使え』――そう言われた言葉が耳に残っている。
◆◆◆
夕食を取った後、私とエレノーラ様は大聖堂の中広間に移動している。
今回は見送りに給仕のクララとエレノーラ様の付きメイドのミリエラが来てくれた。
「タクト、そろそろ時間です。準備はいいですね」
「はい」
「タクト様、どうかお気をつけて」
クララが笑顔で私を送り出そうとしてくれる。
「ありがとう、行ってくるよ」
エレノーラ様が私に近づき、羊皮紙の書簡を差し出す。
「紹介状の書簡を用意したので、レティシアに渡しなさい」
「わかりました」
書簡を受け取り、インベントリを出して保管する。
私の目の前で消える書簡を見て、クララとミリエラが目を丸くしている。
するとエレノーラ様がそれを見て言った。
「ああ、そう言えば、その機能、私も使えるようになりましたよ」
「え?」
突然とんでもないことを言い出してきた。
エレノーラ様は右手を前にかざしてみせる。
すると、青白い光が出現する。
私と同じだが、光を放ち具現化しているところが異なっている。
「おお! 見えますね」
私の言葉に頷き、中から一冊の魔導書を取り出す。
「便利ですわね、これ。解析するのに結構時間を要しましたが……。貴方が最初の頃言っていた【情報の奔流】も体験しましたわ。一度だけでしたが」
あの現象が二度目からなくなったのか……さすがはエレノーラ様だ。
魔導書をインベントリにしまってから機能を閉じると、エレノーラ様が私に確認する。
「タクト、必要な地点の座標はすでに設定しましたか?」
「……はい。巡礼地への座標はすべて頭に入れました」
エレノーラ様が真っ直ぐ私の目を見て言った。
「タクト。レティシアへの巡礼が終われば、一旦戻ってくるのですよ。――聖女の真実を、貴方の納得いくまで確かめなさい」
「はい、師匠。皆さんすべてに会った後は師匠、よろしくお願いします」
私は軽く頭を下げる。
「フフッ。その時は、話を聞きましょう……」
最初に向かう先は、サレシアル王国祈りのの聖女――レティシア=グラシア。
小さく息を整え、私はテレポートの詠唱を唱える。
空気が淡い光に満ち、視界が一瞬にして白く塗りつぶされた。
視界が形を成すと、聖騎士団の駐屯する石畳の中庭に立っていた。
白銀の月光に照らされた祈りの間には、ひときわ荘厳な気配が漂っている。
夜だというのに、厳かな雰囲気と煌々とした魔灯の光に守られている。
私は書簡を取り出すと、近くにいる警備の騎士に声をかけて見せる。
「聖女エレノーラ様からの……話は聞いております! レティシア様は礼拝堂にいらっしゃいます。すぐにご案内します」
騎士の手により重厚な扉が静かに開き、礼拝堂に案内される。
そこには白銀の祭服を纏った少女――聖女レティシア様が祈りを捧げていた。
「レティシア様、タクト殿をお連れいたしました!」
「時間通りでしたね。ようこそ、レティシア=グラシアです」
任務を終えた騎士が去り、レティシア様が立ち上がる。
「タクト=ヒビヤです。今宵は貴重なお時間を頂き、感謝いたします」
私は深々と会釈をすると、レティシア様の方へ歩み寄り封を渡す。
彼女は封蝋を割って目を通す。
「……エレノーラの書簡、確かに受け取りました」
淡い蝋燭の灯りが、彼女の横顔を浮かび上がらせた。
彼女は書簡を机に置き、ティーカップを取り紅茶を一口飲む。
「私の力が必要だと、エレノーラは言っていますね……」
レティシア様は引出しに書簡をしまうと、私に向き直る。
「ふぅ……始める前にまず、少し小言を言ってもよいかしら?」
「え? あ、はい。……どうぞ」
レティシア様の目に少し影が差しているように見えた。
「タクトさん、あなたのおかげで余計な仕事が増えました。――まあ、うちの勇者が弱かったのが原因ですが。正直なところ、すごーーーく迷惑しておりますの」
「は、はぁ。それは大変申し訳ございませんでした!」
私は面食らったが、深々と頭を下げて謝罪した。
「ほぅ、下げる頭があったとは、見上げたものね。殊勝なことだわ。タクト=ヒビヤ、そこそこ人間性はあり――と」
レティシア様の言葉に、あっけにとられてしまう。
おかげで多分、結構なアホ面を見せてしまったかもしれない。
「ふふふ。冗談よ。てっきり反論してくるかと思っていたわ。だけど、国を代表する者としての矜持はないの?」
その問いに少し間を置いて答える。
「そうですねぇ……無いです。そもそも代理で出ただけですし」
レティシア様の目が少し見開く。
「まあ。少しは責任感が必要かもね。今回は大目に見てあげましょう」
そうして彼女は好奇のまなざしを向けて私に尋ねる。
「それで、あなたは何を知りたい?」
私はためらいなく視線を返す。
「……聖女が、何を思い、何をを守っているのかを知りたいんです」
一瞬、レティシア様の瞳にかすかな揺らぎが生まれる。
「……私たちは、神の声を伝える者であり、秩序の鎖でしかない」
澄んだ声が、どこかで空虚に響いた。
「あなたは秩序をどう思うの?」
問い返され、短く息を呑んで答える。
「人を守るためのものだと……信じています」
するとレティシア様の頬がわずかに緩み、かすかに微笑んだ。
「ならば、見ていくといいわ」
彼女はそっと光結晶の聖杖を傍に置く。
手を掲げると、側近の一人が静かに近づいてくる。
「タクト殿、明朝より、聖女様の視察に同行してください」
側近が淡々と補足説明し、私に小さな羊皮紙を渡した。
それは視察の詳細と、巡回の許可証だった。
レティシア様は視線をそらさずに続ける。
「明日、農村の巡回に付き合ってもらいます。……それが、私の答えです」
私は頷き、同意する。
静かに再び杖を手に取ると、レティシア様はほんの少しだけ頭を下げた。
「あなたが見るに値するか、私が決めるわ」
祈りの間に、祈祷の鐘が小さく鳴り響く。
私はその音を聞きつつ、彼女の言葉の意味を考えていた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【まめちしき】
【クララ】……タクトの専属給仕。前作で転移したタクトの身の回りの世話を行っていた女性。
【ミリエラ】……元デーモン・ロードの女性。前作でアビスにてタクトの【聖女の呪い】の効果で人間になってしまう。記憶を無くしたところをエレノーラが引き取り、メイドとして指導する。
【インベントリ】……タクトの能力の一つ。前の世界でのゲーム知識のあるタクトが、異世界でステータスを開こうとしたらこれが出現する。能力値は表示されず、単に所持品を出し入れできるだけだと思われた。だが、収納した物のステータスが表示されたり、書物の内容を記憶できたりコピーが可能だったりと、様々な能力があることが後に判明する。異世界人にはこの能力がなく、見えない。
【あなたのおかげで余計な仕事が増えました】……前作にて勃発したクラヴェール王国とサレシアル王国との間の戦争で、タクトが勇者メルキウスに勝利し、クラヴェール王国が戦勝国となる。その事でサレシアル王国は不利な条件を飲むことになった。具体的な内容は不明だが、恐らく聖女の公務にも支障が出たものと思われる。(ただし、戦争に踏み切ったのはサレシアル王国側であり、タクトとしてはこの話は全くのとばっちりである)
彼らの力になれなかったことに対して、自身への憤りを感じている。
身を清めながら、その事ばかり考えてしまっていた。
「ミレーヌに任されたばかりだというのに、何もできないのか……」
だが、うじうじ悩んでいても仕方がない。
今私にできるのは、エレノーラ様にイグノールとのやり取りを報告して、指示を仰ぐことだ。
エレノーラ様は大聖堂の礼拝堂にいた。
業務が終わるのを小部屋で待つこと二十分後、エレノーラ様が入室してくる。
「ごめんなさいタクト。随分と早かったですわね」
エレノーラ様は少し申し訳なさそうに小さく頭を下げた。
「いえ。師匠、実は……」
私は事の顛末をすべて説明した。
「まあ、そうだったのですね。……なるほど、それは大変なことになりましたね」
「はい、どうしたらよいものか、ご相談したくて……」
「心配ですか?」
「はい……正直、不安です。それでも信じています。イグノールたちは強いと」
エレノーラ様は少し思案してから私に答える。
「タクト、貴方の判断は間違っていない。貴方は自分のなすべきことをするのです。信じなさい。自分の役割を」
「はい、わかりました。師匠」
「何かあれば私も最前線に向かいます。彼らの情報も収集して伝えますね」
「ありがとうございます」
その時、ふとエレノーラ様は何かを思い出したかの表情になり、私に説明する。
「そうでした、タクト。やっとほかの聖女たちの許可が取れたのです。大変お待たせしましたね」
「聖女……ああ、それはよかった。楽しみです」
アビス十二本木での経験から疑問に感じ、拝謁を依頼していた件。
エレノーラ様にお願いしていた聖女たちへの問いの旅がいよいよ実現する。
エレノーラ様を含めこの大陸には八人の国家公認の任務に就く聖女が存在する。
彼女たちに会うことで、聖女、引いてはエレノーラ様のことをもっと知ることができると思ったのだ。
あの日以来、アビスの出来事を思い返さなかった日はなかった。
エレノーラ様が見せた、あの天使への冷たい視線。
私に”鬼畜”を向けるのは構わないが、まさか天使にまで……
あの出来事が、私が知る“聖女”という存在のイメージを根本から覆した。
……今までもっと絶対的な聖なる存在だと思っていた。
聖女とは、何なのか。
何のために祈り、何を救うのか――
ついでに自分に何ができるのかなどを知れたら儲けものだとも思っている。
いや、この巡礼の旅で、見つけてやろうと思う。
結果的に勇者たちは魔王軍との戦場へ、私は聖女のもとへ……か。
滑稽だなと、心の中で皮肉めいて笑う。
「準備は出来ていますか、タクト?」
「はい、いつから出発でしょうか?」
「それが、夜に来てほしいとの事なのです。ですから、今日は魔法の修練を致しましょう」
「わかりました。では後ほど」
昼食後、午後からはエレノーラ様に呼ばれ、【次元魔法】の修練にほとんどの時間を費やした。
『必要な時が来たら迷わず使え』――そう言われた言葉が耳に残っている。
◆◆◆
夕食を取った後、私とエレノーラ様は大聖堂の中広間に移動している。
今回は見送りに給仕のクララとエレノーラ様の付きメイドのミリエラが来てくれた。
「タクト、そろそろ時間です。準備はいいですね」
「はい」
「タクト様、どうかお気をつけて」
クララが笑顔で私を送り出そうとしてくれる。
「ありがとう、行ってくるよ」
エレノーラ様が私に近づき、羊皮紙の書簡を差し出す。
「紹介状の書簡を用意したので、レティシアに渡しなさい」
「わかりました」
書簡を受け取り、インベントリを出して保管する。
私の目の前で消える書簡を見て、クララとミリエラが目を丸くしている。
するとエレノーラ様がそれを見て言った。
「ああ、そう言えば、その機能、私も使えるようになりましたよ」
「え?」
突然とんでもないことを言い出してきた。
エレノーラ様は右手を前にかざしてみせる。
すると、青白い光が出現する。
私と同じだが、光を放ち具現化しているところが異なっている。
「おお! 見えますね」
私の言葉に頷き、中から一冊の魔導書を取り出す。
「便利ですわね、これ。解析するのに結構時間を要しましたが……。貴方が最初の頃言っていた【情報の奔流】も体験しましたわ。一度だけでしたが」
あの現象が二度目からなくなったのか……さすがはエレノーラ様だ。
魔導書をインベントリにしまってから機能を閉じると、エレノーラ様が私に確認する。
「タクト、必要な地点の座標はすでに設定しましたか?」
「……はい。巡礼地への座標はすべて頭に入れました」
エレノーラ様が真っ直ぐ私の目を見て言った。
「タクト。レティシアへの巡礼が終われば、一旦戻ってくるのですよ。――聖女の真実を、貴方の納得いくまで確かめなさい」
「はい、師匠。皆さんすべてに会った後は師匠、よろしくお願いします」
私は軽く頭を下げる。
「フフッ。その時は、話を聞きましょう……」
最初に向かう先は、サレシアル王国祈りのの聖女――レティシア=グラシア。
小さく息を整え、私はテレポートの詠唱を唱える。
空気が淡い光に満ち、視界が一瞬にして白く塗りつぶされた。
視界が形を成すと、聖騎士団の駐屯する石畳の中庭に立っていた。
白銀の月光に照らされた祈りの間には、ひときわ荘厳な気配が漂っている。
夜だというのに、厳かな雰囲気と煌々とした魔灯の光に守られている。
私は書簡を取り出すと、近くにいる警備の騎士に声をかけて見せる。
「聖女エレノーラ様からの……話は聞いております! レティシア様は礼拝堂にいらっしゃいます。すぐにご案内します」
騎士の手により重厚な扉が静かに開き、礼拝堂に案内される。
そこには白銀の祭服を纏った少女――聖女レティシア様が祈りを捧げていた。
「レティシア様、タクト殿をお連れいたしました!」
「時間通りでしたね。ようこそ、レティシア=グラシアです」
任務を終えた騎士が去り、レティシア様が立ち上がる。
「タクト=ヒビヤです。今宵は貴重なお時間を頂き、感謝いたします」
私は深々と会釈をすると、レティシア様の方へ歩み寄り封を渡す。
彼女は封蝋を割って目を通す。
「……エレノーラの書簡、確かに受け取りました」
淡い蝋燭の灯りが、彼女の横顔を浮かび上がらせた。
彼女は書簡を机に置き、ティーカップを取り紅茶を一口飲む。
「私の力が必要だと、エレノーラは言っていますね……」
レティシア様は引出しに書簡をしまうと、私に向き直る。
「ふぅ……始める前にまず、少し小言を言ってもよいかしら?」
「え? あ、はい。……どうぞ」
レティシア様の目に少し影が差しているように見えた。
「タクトさん、あなたのおかげで余計な仕事が増えました。――まあ、うちの勇者が弱かったのが原因ですが。正直なところ、すごーーーく迷惑しておりますの」
「は、はぁ。それは大変申し訳ございませんでした!」
私は面食らったが、深々と頭を下げて謝罪した。
「ほぅ、下げる頭があったとは、見上げたものね。殊勝なことだわ。タクト=ヒビヤ、そこそこ人間性はあり――と」
レティシア様の言葉に、あっけにとられてしまう。
おかげで多分、結構なアホ面を見せてしまったかもしれない。
「ふふふ。冗談よ。てっきり反論してくるかと思っていたわ。だけど、国を代表する者としての矜持はないの?」
その問いに少し間を置いて答える。
「そうですねぇ……無いです。そもそも代理で出ただけですし」
レティシア様の目が少し見開く。
「まあ。少しは責任感が必要かもね。今回は大目に見てあげましょう」
そうして彼女は好奇のまなざしを向けて私に尋ねる。
「それで、あなたは何を知りたい?」
私はためらいなく視線を返す。
「……聖女が、何を思い、何をを守っているのかを知りたいんです」
一瞬、レティシア様の瞳にかすかな揺らぎが生まれる。
「……私たちは、神の声を伝える者であり、秩序の鎖でしかない」
澄んだ声が、どこかで空虚に響いた。
「あなたは秩序をどう思うの?」
問い返され、短く息を呑んで答える。
「人を守るためのものだと……信じています」
するとレティシア様の頬がわずかに緩み、かすかに微笑んだ。
「ならば、見ていくといいわ」
彼女はそっと光結晶の聖杖を傍に置く。
手を掲げると、側近の一人が静かに近づいてくる。
「タクト殿、明朝より、聖女様の視察に同行してください」
側近が淡々と補足説明し、私に小さな羊皮紙を渡した。
それは視察の詳細と、巡回の許可証だった。
レティシア様は視線をそらさずに続ける。
「明日、農村の巡回に付き合ってもらいます。……それが、私の答えです」
私は頷き、同意する。
静かに再び杖を手に取ると、レティシア様はほんの少しだけ頭を下げた。
「あなたが見るに値するか、私が決めるわ」
祈りの間に、祈祷の鐘が小さく鳴り響く。
私はその音を聞きつつ、彼女の言葉の意味を考えていた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【まめちしき】
【クララ】……タクトの専属給仕。前作で転移したタクトの身の回りの世話を行っていた女性。
【ミリエラ】……元デーモン・ロードの女性。前作でアビスにてタクトの【聖女の呪い】の効果で人間になってしまう。記憶を無くしたところをエレノーラが引き取り、メイドとして指導する。
【インベントリ】……タクトの能力の一つ。前の世界でのゲーム知識のあるタクトが、異世界でステータスを開こうとしたらこれが出現する。能力値は表示されず、単に所持品を出し入れできるだけだと思われた。だが、収納した物のステータスが表示されたり、書物の内容を記憶できたりコピーが可能だったりと、様々な能力があることが後に判明する。異世界人にはこの能力がなく、見えない。
【あなたのおかげで余計な仕事が増えました】……前作にて勃発したクラヴェール王国とサレシアル王国との間の戦争で、タクトが勇者メルキウスに勝利し、クラヴェール王国が戦勝国となる。その事でサレシアル王国は不利な条件を飲むことになった。具体的な内容は不明だが、恐らく聖女の公務にも支障が出たものと思われる。(ただし、戦争に踏み切ったのはサレシアル王国側であり、タクトとしてはこの話は全くのとばっちりである)
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