最凶聖女の地獄指導で覚醒した冴えない社畜、勇者パーティーに放り込まれダンジョン無双し魔王軍に挑む

ワスレナ

文字の大きさ
14 / 46
本編

第10話 砕かれた誇り、魔王軍の脅威

しおりを挟む
 カルシミール大聖堂の中広間。
 私が転移を完了すると、そこに私を待つエレノーラ様の姿があった。

「エレノーラ様、状況はどうなんですか?」

「タクト、大変です。今朝出発した斥候部隊が……壊滅状態という知らせが入りました」

 その言葉に、胸の奥が冷たく締め付けられる感覚が走る。
 嫌な予感が、最悪の形で現実となってしまった。

「詳しい状況は……?」

「情報は断片的ですが、生き残りから緊急の魔法通信がありました。どうやら魔王軍の幹部クラスの魔物が現れたようです」

 巡礼で得た安堵感など、瞬く間に霧散していく。
 現実は容赦なく牙をいてくるのだ。

「……一刻の猶予もなりません。今から現地へ転移します」

「わかりました。お願いします」

 エレノーラ様は静かにうなずくと、彼女の掌に光の魔法陣が展開される。
 行き先は王都から北西に二十キロ、森と渓谷が入り混じる魔王国領の国境付近。

「テレポート!」

 空間が歪み、次の瞬間、私たちは血生臭い風が吹きすさぶ戦場跡へと降り立った。
 そこに広がっていたのは――無残に打ち砕かれた斥候陣地だった。
 木々はなぎ倒され、地面には巨大な爪痕のような裂け目が走っている。

 辺りには兵士たちが血に染まった姿で倒れている。
 中には痛みでうめき声を漏らす者もいる。

「一刻を争います。一気に行きますわ」

 エレノーラ様が聖杖ルミエール・クラリオンを出現させ、呪文を唱える。
 澄んだ声が祈りとなって響き渡った。

「大いなる癒しを!『範囲高位回復魔法エリアハイヒール』」

 魔法は即座に広範囲に発動し、聖なる光が地面を包む。
 淡い輝きが傷ついた兵士たちの身体を完全に癒す。

 しかし、魔王軍の猛威に晒され、植え付けられたショックは、身体が癒えども深く心に刻まれていた。

「次は死んだ者たちの処置に入ります」

 迅速に詠唱を開始する。

「力尽き命を絶たれた者たちに、大いなる神の祝福を。『範囲蘇生魔法エリアリザレクション』!」

 再び澄んだ声が森全体にこだまする。
 巨大な魔法陣が死者のいる地面に浮かび上がり、光が舞い上がる。

 神の奇跡が森に散った兵士たちに及んでいく。
 大きく損壊した肉体は全快し、心臓の鼓動が甦り、二度と開かなかったはずの目が見開かれる。

 回復して立ち上がる兵士たちの中に、私はイグノールたちの姿を見つける。

「イグノール……!」

 イグノールは傷の癒えた自分の腕をぐっと握りしめながら顔を上げた。

「タクト……来たのか……」

 その声は、力無くかすれていた。
 彼の目ににかつての鋼の意志は消え失せている。

「……無念だ。俺たちの力は途中までは届いていたんだが、奴が現れてからだ。ボス級の……いや、あれは悪魔だ。形勢が逆転したんだ……」

 イグノールの拳が震えている。

「俺は甘かった……タクト、お前の言う通りだった」

 誇り高き彼の心が、魔王軍の圧倒的な暴力の前に砕かれてしまったことを、私は痛いほど理解した。

「言うな、イグノール。ここから立て直せばいいんだ」

「いや、奴らはまだ近くにいる。タクト、お前だけでも逃げるんだ」

 どれだけ強がった言葉を並べても、目の前の現実がそれを拒絶しているようだった。

「それはお前の方だ、イグノール。みんなを連れて後退するんだ」

 イグノールの目に、恐怖心と安堵が入り混じっている。

「すまん、タクト。だが、気をつけろ。お前の言っていた通り、奴らはとんでもなく強い」

「ああ、わかってるさ。だけどこのままやられっぱらしじゃ悔しいだろ」

 私の言葉にイグノールの目から涙の筋が流れ落ちる。

「もちろんだ! 今はお前に託す。タクト……頼んだぞ」

 私は笑って応えた。

「任せろ!」

 イグノールたちが撤退準備に入るのを確認し、エレノーラ様の元へ駆け寄る。

「魔王軍はまだ近くにいるらしいです。ひと泡吹かせに行ってきます」

「この状況では致し方ありませんね……。ただし、あまり手の内を見せないようにしなさい。敵も情報を欲しています」

「わかりました。行ってきます」

 私は深く呼吸を整え、魔力感知を発動させる。

 ――いた。
 この瘴気しょうき、この圧……間違いない。
 魔王軍がまだこの森に潜んでいる。

「よし……見つけた。待ってろ」

 森の奥――約三百メートル先。
 まるで“見せつける”かのように堂々と瘴気しょうきを放っている。
 奴らはこちらを待ち構えている。

「……待たせたな」

 私は座標を調整して呪文を唱える。

「テレポート!」

 人間が敗北を喫した地の血生臭い空気が淡い光に満ちる。
 視界が一瞬にして白く塗りつぶされた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

追放されたら無能スキルで無双する

ゆる弥
ファンタジー
無能スキルを持っていた僕は、荷物持ちとしてあるパーティーについて行っていたんだ。 見つけた宝箱にみんなで駆け寄ったら、そこはモンスタールームで。 僕はモンスターの中に蹴り飛ばされて置き去りにされた。 咄嗟に使ったスキルでスキルレベルが上がって覚醒したんだ。 僕は憧れのトップ探索者《シーカー》になる!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

処理中です...