聖黒の魔王

灰色キャット

文字の大きさ
167 / 337
第7章・南西地域での戦い

150・貴方に捧ぐ忠誠

しおりを挟む
「な、なにが起こってるのにゃ?」

 ガッファ王は驚いた様子で周囲を確認してるようだけど、そんな見え透いたことはやめてほしいにゃー。
 彼の軍にはなんともないのにぼく達の陣営に次々と巻き起こる爆発が、ガッファ王の軍が火属性の爆発系魔法を連発しているのは一目瞭然にゃー。

「どういうことにゃー……ぼくらとガッファ王の勝負じゃなかったのかにゃー!」
「それは……」

 所詮決闘としてルールを決めた戦いでない以上、なにをやってもいいって……そういうことかにゃー。
 ぼくらを逃げることが出来ないようにして……それで全て踏みにじる! これが、上位魔王のやることかにゃー!

 怒りがふつふつと湧き上がってきて、とてもじゃないけど冷静でいられなくなってきたにゃー……。
 ぼくらは結局、ガッファ王の言葉を多少なりとも信頼してしまって、有りもしない希望に……ケルトシルが国として残るというささやかな願いまで踏みにじって……!

「あああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 怒り悲しみ……ただただ悔しさがこの胸を埋め尽くしていくにゃー。
 フェーシャさまに軍を連れて行ったほうがいいと打診したのはこのぼくにゃー。
 最悪でもフェーシャさまのお命だけは守るために。貴方はケルトシルの……ぼくらの旗。いざとなったらフェーシャさまだけでも逃がすために軍を引き連れてきたのに、完全に裏目に出てしまったにゃー。

 そのせいでこんなに被害が……。
 魔法の威力を緩和させるため、鎧には魔石を少し練り込んでいたはずなのに、それをあざ笑うかのように兵士達が傷ついていくにゃー。
 この、ぼくのせいで……。

 ……覚悟を決めたにゃー。
 ぼくは……ぼくは……例え死んででもこの魔王を討つにゃー!

「指令だにゃー! 全軍落ち着いて防御するにゃー! 回復兵は重傷の者から治療していくにゃー!」

 爆発にも負けないよう出来る限り大声で叫んで、ぼくは軍の混乱の鎮圧化を図ったにゃー。
 ぼくが指令をだしている間に爆発が止んだのか、次第に落ち着きを取り戻してきたにゃー。

 そうすると次に湧き上がってくるのは――怒り。
 ガッファ王の不意をつくような……ぼくらを騙したことに対する怒りが徐々に支配していくにゃー。

 ぼくらの様子に気付いたのか、ガッファ王はさっきのような余裕ぶった表情は消え、無表情でこっちを見据えてきてるにゃー。

「……これは決闘じゃないにゃー。だからお前を責めるのは筋違いだにゃー。だけど……だけど、こんな卑怯なことをされて、黙っていられるわけがないにゃー!」
「ふん、戦争に綺麗も汚いもないにゃー。勝つ為になんでもする……それが魔王としての努めにゃ!」
「よくもやってくれたにゃー! 全軍、戦えるものは抜剣するにゃー! フェーシャさまを守りつつ後退! ガッファ王の兵士達がいくら強くても……いくら優れていても! このままやられっぱなしで済ませるわけにはいかないにゃー!」
「「「「にゃあああああ!!」」」」

 ぼくの檄の一つで兵士達は盛り上がりを見せ、熱気が辺りを包むにゃー。
 まともに動ける兵士達は全員地面を踏み鳴らし、まるで地震を引き起こしているかのような一体感に包まれるにゃー。

 ぼくは自分の持っているマギナスナイフを天高く掲げて、力強く振り下ろしたにゃー。

「ガッファ王にはぼくが当たるにゃー! ガッファ王の兵士達に対し、一人五人以上で対峙し、隙を逃さぬように攻めるにゃー! 傷ついた者は万全の兵士とすぐさま入れ替わり、回復兵は魔力を切らすにゃー! 全軍……突撃にゃああああああああ!!」
「「「「にゃあああああああ!!!!」」」」

 こうしてぼくらは……当初の二対一の状況から、本格的な戦争に向かって進んでいったのにゃー。





 ――





 戦場は一気に混沌に包まれていたにゃー。
 ガッファ王は応戦を指示して以降、ぼくを睨みつけてきてるのにゃー。どうやら、彼は兵士達の戦いには加わらず、ぼくを仕留めにかかろうということみたいだにゃー。

 フェーシャさまは少し離れた場所で回復兵の治療を受けているようで、戦線復帰までまだもうしばらくかかりそうだにゃー。

「ふん、結局はこうなるのかにゃ。まあいいにゃ。不穏分子の排除が出来るのなら、それに越したことはないからにゃあ」

 ニヤッとぼくの方に嫌な笑みを向けてきて……本当に腹が立ってくるにゃー。
 でも、彼のそんな振る舞いも仕方ないだろうにゃー……。ぼく一人でどこまでやれるかわからないけど、戦うしかないなら……。

「『アースニードル』!」

 ぼくの放つ土の針がまるで適当に飛んできた石ころを払うような仕草で振り払われるのを見ながら、時間を稼ぎながら少しずつ体中から魔力を絞り出すように力を溜めるにゃー。
 普通に使った魔法で歯が立たないなら……最初で最後の一撃。体力が尽き果てるまで力を込めた一撃を与えれば、倒すことは出来ないにしても、傷つけることくらいは出来るはずだにゃー。

 ガッファ王の部隊に後方支援を担当する回復兵と妨害兵の姿が見えなかったところからも、ぼくらを相当なめてるか……自分のやることに絶対の自信をもってるか……まあ、両方だろうと思うけどにゃー。
 それなら、傷ついた身体で戦うことは嫌がるはずにゃー。彼がいくら上位魔王だと言っても……倒せない道理はないはずにゃー!

「小癪な真似をするにゃ! 『ガンブレイズ』!」

 さっき解き放ってきた『ガンブレイズ』よりもずっと強烈な熱線が飛んできたけど、間一髪で回避することに成功したにゃー。
 それでもその熱さがぼくの肌……というか毛を軽く炙るようになでるにゃー。……なんて熱量だにゃー。あんなの食らったら全身燃え尽きてしまってもおかしくないにゃー。

「ほらほら、もっと逃げるにゃあ! 『ガンコルド』!!」

 炎の次は氷かにゃー……全く、なんて使い勝手のいい魔法かにゃー。猫人族の力でこれなら、エルフ族はもっと凄いんだろうにゃー。
 なんて、自分が常に死地に身を置いているというこの現状を俯瞰ふかんするように眺めている自分がいることに気付いて……随分と余裕があるなと我ながらにおかしくなってきたにゃー。

 死と隣り合わせどころか、首の所まで死の沼にどっぷりと浸かったような感覚に襲われているせいか、妙に現実的じゃないせいかにゃー。

 余裕たっぷりで『ガン』系の魔法を連発しているガッファ王に対して、『アバタール』や『クイック』を使って魔力の消費を抑えながら絶好の機会を着々と狙っていくぼく。

 まだ……まだにゃー。
 ぼくの最大の一撃を浴びせなければ意味がないのにゃー。
 冷や汗を流しながらガッファ王の一挙手一投足を確かめながら慎重に機会を伺っているぼくは、段々と焦ってきたにゃー。
 まるで狩りを楽しんでるかのように徐々にぼくを追い詰めていくガッファ王に対し――一か八かの行動を打って出ることにしたにゃー。

「『ブラストボム』!」

 地面に風属性の魔法を放ち、爆発を巻き起こして土煙を辺りに回せる。
 そのまま『アバタール』で分身を設置し、自分は姿勢を低くしてガッファ王がいるである場所に向かって突き進んでいったにゃー。

『アバタール』に向かって紫電の光線が走っていったのを確認したぼくは、そのまま一気に詰め寄って、ガッファ王の懐に飛び込んだにゃー。

「な、にゃにぃ!?」
「食らうがいいにゃー……『フレアボム』!!!」

 その瞬間――ガッファ王の近くにいたぼくを巻き込んで、大きな音と衝撃が走ってきたにゃー。
 目を閉じて痛みに堪えるんだけど、しきりに色んな所を打ってぼくは軽く悲鳴を上げそうになったにゃー。
 魔力を全て注ぎ込んだせいか、完全に暴発してしまったにゃー……。
 おかげで全身火傷だらけの傷だらけ。満身創痍の状態でなんとか一撃を与えられたけど……ガッファ王は……。

「くっははは……やってくれたにゃあ。オレに一撃を与えるためにここまでするとはにゃー」

 姿を表したガッファ王は傷ついてはいるようだったけど……それは本当にかすり傷で……ぼくとは対極といっていい状態だったにゃー。

 ここまでやって……これだけやってこの程度なのかにゃー……これじゃ、笑い話にもならないにゃー……。

 煤を払うように身体をはたいていたガッファ王は、余裕の笑みを取り戻して……ぼくの今の状態を嘲笑ったにゃー。

「無様だにゃあ。それが落ちぶれた者の限界。お前たち一族の限界だにゃ」
「い、言って、くれる、にゃー」

 ズタボロになってもあの程度の傷を負わせることで精一杯だなんて……なら、ぼくに残された手はもう……。

「見てみるにゃ。後ろの連中を」

 くいっと顎を向けるガッファ王の言われるまま後ろを見てみると、そこには苦戦している兵士達の姿があったにゃー。

「オレの連れた4000の手勢。お前の所は一万以上はあるかにゃ? あれだけのハンデがあってまだ足りないのかにゃあ? にゃっはは、惨め。惨めだにゃ」
「……笑うが良いにゃー」
「……なに?」

 事ここに至って事態は最悪にゃー。苦戦しているっていうより均衡が取れている――この数差でこれだけ善戦されてるってことは苦戦してるのと同義だにゃー。
 こうなったら、やがて形勢逆転されるのは目に見えてるにゃー。

 それでも、それでもまだ残されてる手があるんだにゃー。
 だけど……これを使えばぼくは……。

 ふらふらのままなんとか立ち上がるぼくは、大声で指示を飛ばしたにゃー。

「傷ついた兵士たちは、後退するにゃー! 急ぐにゃー! 回復兵、魔力を温存しようと考えるにゃー!」

 ガッファ王はぼくがまだなにか出来るのかと興味津々で見ているようで、ぼくにトドメを刺さずにいるにゃー。
 ……それが間違いだと、思い知らせてやるにゃー!

 軍が引いている最中にフェーシャさまの方を向くと、あの方はぼくがなにをしようとしているのか理解されたのか、麻痺している身体を奮い立たせようと懸命に足掻いてましたにゃー。
 顔は震え、首を横に振り、涙目でただただぼくを射抜くように見据える彼に……ぼくは最大限の敬意を払い、笑顔でお別れを口にしたにゃー。

「フェーシャさま、どうか……」

 どうか、貴方の行く道が、途絶えないよう――。

 フェーシャさまと共に段々と後退していくぼくたちの軍を追いかけるガッファ軍。
 彼らがぼくに向かって武器を振り上げようとした瞬間――生命を魔力に変換した、最期の魔法を発動したにゃー。

「『貴方に捧ぐ最期の忠誠ライフ・デスソング』!!」

 ぼくの声がまるで敵を刈り取る意思を具現化したかのように、次々とガッファ軍の兵士たちに苦しみを与え、彼らは倒れていったにゃー。

 ぼくはそれを見届け、ゆっくりと身体を地面に預け……開けるのも面倒な目を閉じて……。

 レディ、クア……約束、守れなくて……ごめん……にゃー……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

処理中です...