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第9章・上位魔王達の世界戦争
257・動き出す世界
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――ティファリス視点――
フェーシャの件は私たちが話し合いをしている最中にノワルとアシュルが乱入し、ちょっとした告白合戦をした結果、無事丸く収まった。
二人共現金なもので、互いが互いを想っていることをわかったことを知ってからは急にでれでれいちゃいちゃとしだして、一気にその場を一変させてきた。
……本当は結構重要な話をしていたはずなんだけど、彼女たちに全て持っていかれた感がするほどだ。
「フェーシャさまぁ……」
「ノワル……」
「はいはい、ごちそうさま」
私がヒューリ王の対策について真剣に話し合っていた最中にいちゃいちゃとした甘ったるい空気を出されてはたまったものじゃない。
なにかある度に二人で見つめ合いだすんだから文句の一つも言いそうになった。
……が、アシュルがそれを見て羨ましそうにしている姿を目に留めてしまったからか……私の方も偶には彼女とゆっくりする時間を作らないとなぁ……と思わず思ってしまった。
少し、私の方も毒されたのかも知れない。
とりあえずその日は途中で話を打ち切り、再び後日話そう、ということにした。
今頃はノワルと一緒にいちゃいちゃしてることだろう。
「二人共、本当に良かったです」
アシュルがあんまりにも嬉しそうに達成感に満ち溢れた表情をしていたから、無粋なことは言えなかった。
もう少し私の事も考えてほしいものだ。
――
そしてその次の日。
私はまずこちらに来たワイバーンが持ってきてくれた情報をケルトシルの客室で情報を整理していたところだ。
――コンコン、コンコン。
「空いてるわよ」
「失礼しますにゃ」
入ってきたのはなぜかフェーシャの方だった。
これから彼とは応接室で話し合いをする予定だったはずなんだけど……。
「まずはお礼を言わせてほしかったのですにゃ
今回は本当にありがとうございますにゃ」
「別に構わないわ。貴方があんな調子だったら下の者も困るでしょうからね」
「にゃ……にゃっははは……心が痛くなるお話ですにゃ……」
皮肉めいたように少々冷めた目で見ると、左胸を苦しそうに抑えているフェーシャ。
レディクアもこれじゃ、本当に大変だろうな……。
「で、ですにゃ。せっかくですからぼくが応接室に案内しようと思いましてにゃ」
「そう? せっかくだし、もうここで話をしてもいいと思ってたんだけど」
本当だったら昨日一日使ってじっくり話し合って、今日はケルトシルを観光するつもりだったのだ。
ヒューリ王の軍勢の動きに変化があったし、さっさと話を終わらせておきたい……というのが本音だ。
「そんな適当に済ませようとしないでくださいにゃ。
ぼくにももう少し格好つけさせてくださいにゃ」
「今更格好もなにもないでしょうに……」
散々甘ったるいものを見せつけて格好つけようとされても困るというものだ。
しかし……一応体裁というものがあるだろう。
私の方もちょっと楽したい精神が出てきてしまったかも知れない。
「わかった。それじゃあその場で話したいこともあるし、早く行きましょう」
「……はいですにゃ!」
フェーシャはぱああっ、と表情が明るくして……本当にわかりやすい猫だ。
「一応契約スライムを供にしましょう。貴方のところのノワルも呼んでちょうだい。
……わかってると思うけど――」
「にゃは、昨日のような事は絶対にしませんにゃ。
ちょっと空気読まなさすぎましたからにゃ……」
乾いた笑いを浮かべながら冷や汗をかいていそうなぎこちない動きで顔を逸らしてるけど……本当にわかってるのだろうか……?
「さ、早く行きましょうにゃ! アシュルもノワルも、すぐに呼びますにゃ!」
話題を逸らすかのように促してくるフェーシャに苦笑しながら、私は彼の案内の元、応接室に行くことにした――。
――
私とフェーシャが入ってからしばらく後、アシュルとノワルも応接室に入ってきて……私たちは今後の動きについて話を始めることにした。
「まず、現状の確認なんだけれど……私が調べた最新の情報だと、ヒューリ王の軍は南の西と東……どちらにもいけるような位置取りをして動きを止めてしまった……このことから今彼らはそこで軍備を整えてると考えてるわ」
「それが妥当な考え方だと思いますにゃ。
問題は……どこに攻めてくるか、ということにゃ」
そう、フェーシャの言う通りだ。
ここで西にくるか東にくるか……分かれ道と言ってもいいだろう。
「西ならセツキ王の支援に。東ならクルルシェンドで迎え撃つ……ということですかね?」
「そうね。こちら側に来られた場合、セツキからの支援を受けられないでしょうから、ここにいる魔王たちで対処することになるわね」
「ジークロンド王、ビアティグ王、アストゥ女王とフォイル王……それとぼくたち二人ですにゃ」
「で、でも……セントラル側の覚醒魔王とまともに戦えるのは……フェーシャ様とティファリス様だけですニャ。
実質、二人の魔王でヒューリ王を迎え撃つようなものですニャ」
ノワルの言うことは的を得ている。
南東地域は普通の……正直に言ってしまえば弱い魔王の方が多い。
少なくともジークロンド、ビアティグ、フォイルは魔王としては戦力外だと言ってしまうしかない。
「アストゥにはまだ奥の手があるからまだいいのだけれど……残った魔王たちには連携を密にして兵士たちをまとめ上げる役目を担ってもらおうと思っているわ。
そこで……もし、ヒューリ王が攻めてきた場合、先端を切り拓いていくのは私とフェーシャの二人だと思っているの」
「……それはぼくが覚醒魔王で、上位魔王の一人であるガッファ王を討ち倒したからですにゃ?」
「その通りよ」
「現状、クルルシェンドさえ防衛出来れば他の国に攻めてこられることはありえませんからね。
海も南西地域の外はそれなりに荒れていて、上陸が難しい場所も多いですし、現実的ではありません」
「かといって空は私の庭。ワイバーンに見つからずに国に攻めてくるなんて、不可能に近いってこと」
だからこそ最も可能性が高く、現実的なのは陸しかないのだ。
セツオウカほどの鉄壁さは無いけれど、それでもクルルシェンドのみを防衛すればいいというのは他の国にとっても強みと言えるだろう。
最悪、撤退できる場所が残っているのだから。
「でも、それをしてしまったら守れるものがいない……もしくは少なくなってしまいますにゃ。
ティファリス様の軍勢は個々で上位魔王と互角以上に戦えるフレイアールとアシュルもいますし、鬼族の故魔王の契約スライムであるカヅキもいますにゃ。
ここでぼくが行くのは……過剰だと思うのですけどにゃ」
フェーシャがうんうんと両腕を組んで悩みながら、自分の意見を言ってくれる。
……正直、私も最初はそれを考えた。
リーティアスが攻め、ケルトシルが守る……だけどそれは防衛の方に過剰に振っていると言えるのではないだろうか?
確かにフレイアール・アシュル・カヅキであれば覚醒魔王程度であれば問題なく相手に出来る程の実力を持っている。だけどそれだけでは妙に不安が残るのだ。
なぜかはわからないし……正直こんな気持ちは初めてだ。
聖黒族としての勘……とでも言うのだろうか? 私にはどうしてもリーティアスだけでは戦力が足りないように感じるのだ。
「……私もそう思うわ。だけど今回の戦争……守っていては勝てない。
なぜヒューリ王はたった一人になっても戦争をやめずに戦っているの?
いくら彼が上位魔王とはいえ、私・セツキ・フワロークの三人の上位魔王を相手にして勝算があるとでも?
なにか切り札を隠している……そう思って間違いないわ」
「だからそれを切る前にこちらが押しつぶす……そういうことですかにゃ?」
「……」
それもある。だけど……彼は既にそれを切っているような気がするのだ。
あの進軍速度、そして急に止まった軍勢……全てが憶測でしかないが、今彼らとぶつかるのであれば防衛には最低限残しておいて、こちらのほぼ最大戦力をぶつけるしかない。
しかし、私はその憶測を口に出来るほど確証があるわけではないのだ。
だからこそ口を閉ざしていたのだけれど……フェーシャはそれを感じ取ってくれたのか仕方がないという表情を浮かべていた。
「貴女が何を思ってそう言ってるのかはわかりませんにゃ。
ですが、貴女は今まで自分の国を、この地域を守ったという確かな実績がありますにゃ。
僕や他の国に手を差し伸べてくれましたにゃ。
そんな貴女の為に……ぼくがお役に立てるのでしたら戦いますにゃ」
「フェーシャ……ありがとう」
私のことを信じてくれて……本当にありがとう。
そんな深い気持ちを表した感謝の言葉に、彼は笑顔で答えてくれた。
ならば私はその信頼に応えなくてはならない。
全力で……この地域を守る。
――それが例え、数少ない聖黒族の同胞を討滅することになろうとも。
今の私には、フェーシャたちこそが――彼らこそが同胞であり、仲間なのだから。
フェーシャの件は私たちが話し合いをしている最中にノワルとアシュルが乱入し、ちょっとした告白合戦をした結果、無事丸く収まった。
二人共現金なもので、互いが互いを想っていることをわかったことを知ってからは急にでれでれいちゃいちゃとしだして、一気にその場を一変させてきた。
……本当は結構重要な話をしていたはずなんだけど、彼女たちに全て持っていかれた感がするほどだ。
「フェーシャさまぁ……」
「ノワル……」
「はいはい、ごちそうさま」
私がヒューリ王の対策について真剣に話し合っていた最中にいちゃいちゃとした甘ったるい空気を出されてはたまったものじゃない。
なにかある度に二人で見つめ合いだすんだから文句の一つも言いそうになった。
……が、アシュルがそれを見て羨ましそうにしている姿を目に留めてしまったからか……私の方も偶には彼女とゆっくりする時間を作らないとなぁ……と思わず思ってしまった。
少し、私の方も毒されたのかも知れない。
とりあえずその日は途中で話を打ち切り、再び後日話そう、ということにした。
今頃はノワルと一緒にいちゃいちゃしてることだろう。
「二人共、本当に良かったです」
アシュルがあんまりにも嬉しそうに達成感に満ち溢れた表情をしていたから、無粋なことは言えなかった。
もう少し私の事も考えてほしいものだ。
――
そしてその次の日。
私はまずこちらに来たワイバーンが持ってきてくれた情報をケルトシルの客室で情報を整理していたところだ。
――コンコン、コンコン。
「空いてるわよ」
「失礼しますにゃ」
入ってきたのはなぜかフェーシャの方だった。
これから彼とは応接室で話し合いをする予定だったはずなんだけど……。
「まずはお礼を言わせてほしかったのですにゃ
今回は本当にありがとうございますにゃ」
「別に構わないわ。貴方があんな調子だったら下の者も困るでしょうからね」
「にゃ……にゃっははは……心が痛くなるお話ですにゃ……」
皮肉めいたように少々冷めた目で見ると、左胸を苦しそうに抑えているフェーシャ。
レディクアもこれじゃ、本当に大変だろうな……。
「で、ですにゃ。せっかくですからぼくが応接室に案内しようと思いましてにゃ」
「そう? せっかくだし、もうここで話をしてもいいと思ってたんだけど」
本当だったら昨日一日使ってじっくり話し合って、今日はケルトシルを観光するつもりだったのだ。
ヒューリ王の軍勢の動きに変化があったし、さっさと話を終わらせておきたい……というのが本音だ。
「そんな適当に済ませようとしないでくださいにゃ。
ぼくにももう少し格好つけさせてくださいにゃ」
「今更格好もなにもないでしょうに……」
散々甘ったるいものを見せつけて格好つけようとされても困るというものだ。
しかし……一応体裁というものがあるだろう。
私の方もちょっと楽したい精神が出てきてしまったかも知れない。
「わかった。それじゃあその場で話したいこともあるし、早く行きましょう」
「……はいですにゃ!」
フェーシャはぱああっ、と表情が明るくして……本当にわかりやすい猫だ。
「一応契約スライムを供にしましょう。貴方のところのノワルも呼んでちょうだい。
……わかってると思うけど――」
「にゃは、昨日のような事は絶対にしませんにゃ。
ちょっと空気読まなさすぎましたからにゃ……」
乾いた笑いを浮かべながら冷や汗をかいていそうなぎこちない動きで顔を逸らしてるけど……本当にわかってるのだろうか……?
「さ、早く行きましょうにゃ! アシュルもノワルも、すぐに呼びますにゃ!」
話題を逸らすかのように促してくるフェーシャに苦笑しながら、私は彼の案内の元、応接室に行くことにした――。
――
私とフェーシャが入ってからしばらく後、アシュルとノワルも応接室に入ってきて……私たちは今後の動きについて話を始めることにした。
「まず、現状の確認なんだけれど……私が調べた最新の情報だと、ヒューリ王の軍は南の西と東……どちらにもいけるような位置取りをして動きを止めてしまった……このことから今彼らはそこで軍備を整えてると考えてるわ」
「それが妥当な考え方だと思いますにゃ。
問題は……どこに攻めてくるか、ということにゃ」
そう、フェーシャの言う通りだ。
ここで西にくるか東にくるか……分かれ道と言ってもいいだろう。
「西ならセツキ王の支援に。東ならクルルシェンドで迎え撃つ……ということですかね?」
「そうね。こちら側に来られた場合、セツキからの支援を受けられないでしょうから、ここにいる魔王たちで対処することになるわね」
「ジークロンド王、ビアティグ王、アストゥ女王とフォイル王……それとぼくたち二人ですにゃ」
「で、でも……セントラル側の覚醒魔王とまともに戦えるのは……フェーシャ様とティファリス様だけですニャ。
実質、二人の魔王でヒューリ王を迎え撃つようなものですニャ」
ノワルの言うことは的を得ている。
南東地域は普通の……正直に言ってしまえば弱い魔王の方が多い。
少なくともジークロンド、ビアティグ、フォイルは魔王としては戦力外だと言ってしまうしかない。
「アストゥにはまだ奥の手があるからまだいいのだけれど……残った魔王たちには連携を密にして兵士たちをまとめ上げる役目を担ってもらおうと思っているわ。
そこで……もし、ヒューリ王が攻めてきた場合、先端を切り拓いていくのは私とフェーシャの二人だと思っているの」
「……それはぼくが覚醒魔王で、上位魔王の一人であるガッファ王を討ち倒したからですにゃ?」
「その通りよ」
「現状、クルルシェンドさえ防衛出来れば他の国に攻めてこられることはありえませんからね。
海も南西地域の外はそれなりに荒れていて、上陸が難しい場所も多いですし、現実的ではありません」
「かといって空は私の庭。ワイバーンに見つからずに国に攻めてくるなんて、不可能に近いってこと」
だからこそ最も可能性が高く、現実的なのは陸しかないのだ。
セツオウカほどの鉄壁さは無いけれど、それでもクルルシェンドのみを防衛すればいいというのは他の国にとっても強みと言えるだろう。
最悪、撤退できる場所が残っているのだから。
「でも、それをしてしまったら守れるものがいない……もしくは少なくなってしまいますにゃ。
ティファリス様の軍勢は個々で上位魔王と互角以上に戦えるフレイアールとアシュルもいますし、鬼族の故魔王の契約スライムであるカヅキもいますにゃ。
ここでぼくが行くのは……過剰だと思うのですけどにゃ」
フェーシャがうんうんと両腕を組んで悩みながら、自分の意見を言ってくれる。
……正直、私も最初はそれを考えた。
リーティアスが攻め、ケルトシルが守る……だけどそれは防衛の方に過剰に振っていると言えるのではないだろうか?
確かにフレイアール・アシュル・カヅキであれば覚醒魔王程度であれば問題なく相手に出来る程の実力を持っている。だけどそれだけでは妙に不安が残るのだ。
なぜかはわからないし……正直こんな気持ちは初めてだ。
聖黒族としての勘……とでも言うのだろうか? 私にはどうしてもリーティアスだけでは戦力が足りないように感じるのだ。
「……私もそう思うわ。だけど今回の戦争……守っていては勝てない。
なぜヒューリ王はたった一人になっても戦争をやめずに戦っているの?
いくら彼が上位魔王とはいえ、私・セツキ・フワロークの三人の上位魔王を相手にして勝算があるとでも?
なにか切り札を隠している……そう思って間違いないわ」
「だからそれを切る前にこちらが押しつぶす……そういうことですかにゃ?」
「……」
それもある。だけど……彼は既にそれを切っているような気がするのだ。
あの進軍速度、そして急に止まった軍勢……全てが憶測でしかないが、今彼らとぶつかるのであれば防衛には最低限残しておいて、こちらのほぼ最大戦力をぶつけるしかない。
しかし、私はその憶測を口に出来るほど確証があるわけではないのだ。
だからこそ口を閉ざしていたのだけれど……フェーシャはそれを感じ取ってくれたのか仕方がないという表情を浮かべていた。
「貴女が何を思ってそう言ってるのかはわかりませんにゃ。
ですが、貴女は今まで自分の国を、この地域を守ったという確かな実績がありますにゃ。
僕や他の国に手を差し伸べてくれましたにゃ。
そんな貴女の為に……ぼくがお役に立てるのでしたら戦いますにゃ」
「フェーシャ……ありがとう」
私のことを信じてくれて……本当にありがとう。
そんな深い気持ちを表した感謝の言葉に、彼は笑顔で答えてくれた。
ならば私はその信頼に応えなくてはならない。
全力で……この地域を守る。
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