115 / 415
第六節 リアラルト訓練学校編
幕間・王の魔法
しおりを挟む
グレリアがミシェラたちを率いてヒッポグリフの棲まう草原に向かっている最中……人側の国では彼らが知らぬ悪意の波が押し寄せようとしていた。
これはそう――くずはたちがアリッカルに行くことになった時まで遡る……別の場所での話。
――
王の言葉は魔法を宿している。
それは善きことであれ、悪しきことであれ、彼の言葉の一つ一つは魔力を帯びている。
例を上げるのであれば、イギランスの王が言えるだろう。
彼を知らぬ者は、彼の国の動きはまるで一個の意思で動いているように見える。
例えそれで利益が出ようと損害が出ようと……一切の揺るぎない鋼のような意思により、動いている。
他の国では起こりうる反乱もこの国には存在しない。
王が彼らと出会い、落ち着いて話し合いをすれば、彼らは不思議と矛を収めるのだ。
それはまるで予定調和ですらあったかのように。
最初から彼のシナリオ通りだったとでも言うかのように存在するのがイギランスと呼ばれる国なのだ。
そこにあるのは民の意思であり、兵の感情であり、王の言葉なのだ。
もう一度ここに記そう。
王の言葉は魔法を宿している。
これが本当かどうか……確かめる術はない。
だが一つ言えることは彼の言葉……を……き――聞くべきである。
それこそが唯一幸せに通じる道であり、彼の魔法は、常に正しく有り続ける。
――『魔法に宿る物』一部抜粋――
――
夜の青い闇が世界を覆い、月明かりの元全てが優しく包まれている。
闇は全てを隠してくれる。悲しみであれ、痛みであれ……例えそれが悪意であれ。
「事態は上手く運んでいるようだな」
『……そうだな』
「どうした? 全て我らが思うままではないか」
そして今、イギランス――エンデハルト王の部屋で話されていることすら、闇は覆い隠してくれる。
部屋には明かりを灯さず、ただ一つ光るは淡い青の玉。
そこに響くのは男の声。高いのか低いのか、響きながら周囲にぼそぼそと聞こえてくるそれは誰の声かはエンデハルト王ですら知っていなければ判断することは出来ないだろう。
しかしその声はどこか面白くなさそうな感情を声に乗せて表していた。
『王よ、貴様は障害というものを何だと思っている?』
「は? いきなり何を……」
『答えよ』
有無を言わさない男の言葉に、エンデハルト王は少々考え込む。
何も考えずに適当を言えるものではない……彼とはその程度の薄い付き合いではないからだ。
当然、嘘も吐けない。ならば必然として、エンデハルト王は本音でそれを語らなければならないだろう。
「不要であればそれに越したことはないものだと考えている。
障害というものに万が一躓きでもすれば、それは立ち止まり、停滞することに繋がるだろう」
『……浅いな』
鼻で笑うかのような一言。だがそれは、たしかにエンデハルト王の怒りにほんの少し、触れたと言ってもいいだろう。
その不愉快な感情を表に出さないだけでも大したものだ。
「では、貴殿はどう考えているのだ? 参考がてら、お聞かせ願いたいものだな」
『障害とは乗り越える為にある』
エンデハルト王は思わず鼻で笑い返しそうになるのを必死で堪えた。
障害は乗り越える為にあるものであることくらい最初からわかっているのだ。
だが、それを口に出せば、彼と話している男の癇に障ってしまう可能性が僅かながら存在する。
たとえ極小の可能性であっても、エンデハルト王にとってそれは致命的なことなのだ。
彼の怒りに触れるということは、すなわちこの世界で生きる資格を失うということ。
万が一であろうと、それはあってはならない出来事だということを彼自身が心底理解しているからこそ、決して馬鹿にすることなく黙っていたのだ。
『ふっ、浅はかだ、と思うであろう?』
「それは……」
『取り繕わなくとも良い。
だが続けよう。障害とは、未来への贈り物なのだよ。
それは乗り越えてこそ新しい道へ……より高い世界へ我らを押し上げてくれる。
障害というのは世界が我らに与えた贈り物と呼べるものなのだ』
それは父が子に言い聞かせるように。
師が弟子へと伝えるように……自然と心の中に入っていく。
彼の言葉こそ至言であるというかのように。
「あの者にそれだけの力があるとは思えぬが……彼がいずれままならぬ事態を引き起こすのを願っている……と?」
『我らの今の流れ……それすら断ち切りここまで迫るのであれば、それは正しく真の障害と言えるだろう。
故に、彼にはより、頑張ってもらわなければならない』
「……では」
ゴクリ、と喉を鳴らすエンデハルト王は男の言葉の続きを促す。
その答えを、既に知っているはずなのに、男の口から聞かなければならないと感じたからだ。
『……やはり、盛り上げなくてはならないだろう。
今、彼らは……アリッカルか』
「既に私の言葉を聞いている者たちだな。後は……仕上げをすればすぐにでも使えるだろう」
『ならば、それでよし。必要であればこちらからも兵を向かわせよう』
「いや、その必要はない。あれらの仕上がりは順調なのであろう?」
『……報告通りであれば、男の方は既に完成していると聞く。
なるほど、ならば問題ないな』
男の満足したかのような愉快そうな笑い声が響き渡る。
『ならば後は――』
「ああ、貴殿のご随意のままに」
青い光はゆっくりと消え、今は最早何も照らさぬ大きな玉がそこにあるのみ。
「『王の言葉には魔法が宿っている』……か。
正に、その通りだな」
呟かれた言葉は誰に向けたものなのか……それはエンデハルト王のみが知っていることだった。
闇に深く消え、何も残らなかったかのように……その会話も全ては包み隠されていく。
事態はゆっくりと動き出す。
重い腰を上げ、それを知らぬ者を翻弄するために――。
これはそう――くずはたちがアリッカルに行くことになった時まで遡る……別の場所での話。
――
王の言葉は魔法を宿している。
それは善きことであれ、悪しきことであれ、彼の言葉の一つ一つは魔力を帯びている。
例を上げるのであれば、イギランスの王が言えるだろう。
彼を知らぬ者は、彼の国の動きはまるで一個の意思で動いているように見える。
例えそれで利益が出ようと損害が出ようと……一切の揺るぎない鋼のような意思により、動いている。
他の国では起こりうる反乱もこの国には存在しない。
王が彼らと出会い、落ち着いて話し合いをすれば、彼らは不思議と矛を収めるのだ。
それはまるで予定調和ですらあったかのように。
最初から彼のシナリオ通りだったとでも言うかのように存在するのがイギランスと呼ばれる国なのだ。
そこにあるのは民の意思であり、兵の感情であり、王の言葉なのだ。
もう一度ここに記そう。
王の言葉は魔法を宿している。
これが本当かどうか……確かめる術はない。
だが一つ言えることは彼の言葉……を……き――聞くべきである。
それこそが唯一幸せに通じる道であり、彼の魔法は、常に正しく有り続ける。
――『魔法に宿る物』一部抜粋――
――
夜の青い闇が世界を覆い、月明かりの元全てが優しく包まれている。
闇は全てを隠してくれる。悲しみであれ、痛みであれ……例えそれが悪意であれ。
「事態は上手く運んでいるようだな」
『……そうだな』
「どうした? 全て我らが思うままではないか」
そして今、イギランス――エンデハルト王の部屋で話されていることすら、闇は覆い隠してくれる。
部屋には明かりを灯さず、ただ一つ光るは淡い青の玉。
そこに響くのは男の声。高いのか低いのか、響きながら周囲にぼそぼそと聞こえてくるそれは誰の声かはエンデハルト王ですら知っていなければ判断することは出来ないだろう。
しかしその声はどこか面白くなさそうな感情を声に乗せて表していた。
『王よ、貴様は障害というものを何だと思っている?』
「は? いきなり何を……」
『答えよ』
有無を言わさない男の言葉に、エンデハルト王は少々考え込む。
何も考えずに適当を言えるものではない……彼とはその程度の薄い付き合いではないからだ。
当然、嘘も吐けない。ならば必然として、エンデハルト王は本音でそれを語らなければならないだろう。
「不要であればそれに越したことはないものだと考えている。
障害というものに万が一躓きでもすれば、それは立ち止まり、停滞することに繋がるだろう」
『……浅いな』
鼻で笑うかのような一言。だがそれは、たしかにエンデハルト王の怒りにほんの少し、触れたと言ってもいいだろう。
その不愉快な感情を表に出さないだけでも大したものだ。
「では、貴殿はどう考えているのだ? 参考がてら、お聞かせ願いたいものだな」
『障害とは乗り越える為にある』
エンデハルト王は思わず鼻で笑い返しそうになるのを必死で堪えた。
障害は乗り越える為にあるものであることくらい最初からわかっているのだ。
だが、それを口に出せば、彼と話している男の癇に障ってしまう可能性が僅かながら存在する。
たとえ極小の可能性であっても、エンデハルト王にとってそれは致命的なことなのだ。
彼の怒りに触れるということは、すなわちこの世界で生きる資格を失うということ。
万が一であろうと、それはあってはならない出来事だということを彼自身が心底理解しているからこそ、決して馬鹿にすることなく黙っていたのだ。
『ふっ、浅はかだ、と思うであろう?』
「それは……」
『取り繕わなくとも良い。
だが続けよう。障害とは、未来への贈り物なのだよ。
それは乗り越えてこそ新しい道へ……より高い世界へ我らを押し上げてくれる。
障害というのは世界が我らに与えた贈り物と呼べるものなのだ』
それは父が子に言い聞かせるように。
師が弟子へと伝えるように……自然と心の中に入っていく。
彼の言葉こそ至言であるというかのように。
「あの者にそれだけの力があるとは思えぬが……彼がいずれままならぬ事態を引き起こすのを願っている……と?」
『我らの今の流れ……それすら断ち切りここまで迫るのであれば、それは正しく真の障害と言えるだろう。
故に、彼にはより、頑張ってもらわなければならない』
「……では」
ゴクリ、と喉を鳴らすエンデハルト王は男の言葉の続きを促す。
その答えを、既に知っているはずなのに、男の口から聞かなければならないと感じたからだ。
『……やはり、盛り上げなくてはならないだろう。
今、彼らは……アリッカルか』
「既に私の言葉を聞いている者たちだな。後は……仕上げをすればすぐにでも使えるだろう」
『ならば、それでよし。必要であればこちらからも兵を向かわせよう』
「いや、その必要はない。あれらの仕上がりは順調なのであろう?」
『……報告通りであれば、男の方は既に完成していると聞く。
なるほど、ならば問題ないな』
男の満足したかのような愉快そうな笑い声が響き渡る。
『ならば後は――』
「ああ、貴殿のご随意のままに」
青い光はゆっくりと消え、今は最早何も照らさぬ大きな玉がそこにあるのみ。
「『王の言葉には魔法が宿っている』……か。
正に、その通りだな」
呟かれた言葉は誰に向けたものなのか……それはエンデハルト王のみが知っていることだった。
闇に深く消え、何も残らなかったかのように……その会話も全ては包み隠されていく。
事態はゆっくりと動き出す。
重い腰を上げ、それを知らぬ者を翻弄するために――。
0
あなたにおすすめの小説
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活
髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。
しかし神は彼を見捨てていなかった。
そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。
これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる