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第十二節 人の国・裏の世界 セイル編
第204幕 相対する女勇者
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金髪縦ロールの女性は、まっすぐ俺を睨んで一気に鎌を地面から上に振り上げるように襲いかかってくる。
鋭く、空気を裂くように奔る刃が俺に向かって放たれるのだけれど……今の俺にはこれくらいならなんとか避けることができる。
冷静に『グラムレーヴァ』を抜き放ちながら、彼女の鎌の射程から離れるように遠ざか……ったんだけど、不意に嫌な予感がして目の前の攻撃を防ぐように剣を構えた。
するといつの間にか大鎌に風を纏わせていて、俺が避けたと同時に振り切った彼女の一撃から風の刃がこちらに向かって飛んできた。
それを防いでいる間にその女性は離れた間合いを詰め、今度はそのまま鎌を振り下ろしてきた。
再び避けようとすると、今度は俺の足に強烈な暴風が一瞬だけ吹き荒れて動きを阻害されてしまう。
その僅かな時間……瞬時に避けることから防ぐことに思考を切り替え、剣による防御に移ったことが功を奏した。
二度目の攻撃時には風を纏わないただの鎌が迫ってきただけで、なんとか防ぐ事に成功する。
ただ、その後すぐに息もつかさぬ程の怒涛の攻めを受け、こちらは完全に防戦一方に追いやられてしまう。
「随分と風を自在に操るな……!」
攻めに加えてこちらの行動を妨害するような風を繰り出され、思わず舌打ちしながらそんな風に愚痴ってしまう。
それでも彼女は何も言わずにただこちらに殺気を向けるばかりだ。
向こうからすると初対面ではないらしいのだけれど、これほどの苛烈な攻撃を仕掛けてくる人物に全く心当たりがない。
……いや、一人だけいたような気がする。
誰だっけか……彼女は……。
「戦闘中に考え事とは、随分と余裕ですわねっ!」
俺が色々と考えを巡らせながら、絶えない猛攻を避けては防いでいることが心外なのだろう。
女性はイラッとした表情で俺のことを見据え、自分から数歩程度距離を取ってきた。
「これだから、デリカシーのない殿方は……困り、ますわっ」
若干乱れた呼吸を整え、俺のことを睨みながら、忌々しげに吐き捨ててきた。
「もしかして……お前、ルーシーか!?」
そしてその言葉で、ようやく目の前の女性が誰なのか気づいた俺は、思わず大声で叫ぶように話してしまった。
なんでルーシーがこんなところに? という疑問がいっぱいで止まらなかったというのもある。
「改めて……久しぶりに会いますわね。
二年ぶり、と言ったところでしょうか」
結構驚いてる俺に対して、ルーシーの方はいやに冷静だ。
むしろ若干迷惑そうに顔を歪めてすらいる。
「お前は他の民の助けになりたいって一人だけ別の場所に行ったはずだ。
それなのに、どうしてここに? こんな……国に?」
「わたくし、悟ったのですわ」
「悟った……?」
それまでの殺気やら敵意に満ちた顔とは別の……自尊心に満ちた表情を浮かべて、彼女は語りはじめる。
「ええ。わたくし個人がどれだけの事をやったとしても、やがて限界が訪れます。
手の届かないところまで救おうと思うなら……国の力を借りるのが一番ですわ」
「だからシアロルにいる、と?」
「その通りですわ。
身体を鍛えるだけが取り柄の貴方には、分からないことかも知れませんがね」
……俺は正直、ルーシーとはあんまり話したことがなかった。
彼女と一緒にいた期間なんてそもそもジパーニグのダティオにいた間だけだ。
だから彼女はこうなんだ! とか具体的な事をはっきり言えるほど親しくはない。
……だけど。
「あんた、変わったな」
俺は自身の中から湧き上がる何かを止めることが出来なかった。
一緒にグレリアの兄貴の魔方陣講義を受けていたとは思えないほど、変わってしまったんだと思ったのだ。
「いいえ。貴方が変わらないだけですわ。
変わって生きていく事こそ人が生み出した処世術。
貴方はその流れに逆らっているだけに過ぎませんわ」
「……なら」
こうなった原因は彼女にある? いや、きっとそれだけじゃないはずだ。
考えたってきりがない。答えは無数にあるし、正解を探すには情報が足りない。
だったら、今の俺たちはただ……戦う事でしか分かり合えないのだろう。
「諦める事が変わるって事なら、俺は一生変わらないままで構わない」
「……そうですか。では、無知蒙昧な貴方に教えて差し上げますわ。
変わる事によって得られる力があるという事を……!」
ルーシーはそれだけ言い放つと、再度数歩俺から距離を取る。
何をするかはわからないが、今の彼女からあまり離れすぎるべきではないと考えた俺は、一気に距離を詰めようと走り出した。
「吹き荒れろ我が力。眼前に立ち塞がるあらゆる敵を切り刻め――」
ルーシーが唱えているのは……詠唱魔法?
しかし、彼女もすでにそれがあまり役に立たない事を知っているはずだ。
それなのになぜ、今この局面でそれを選択した? ……なにか、嫌な予感がする。
「【スラッシュサイクロン】!!」
――瞬間、魔方陣が同時に発動した。
俺に襲いかかるそれは、普通の詠唱魔法とは比べ物にならない程の力の込められた……全てをなぎ倒し切り刻む暴虐の竜巻だった。
鋭く、空気を裂くように奔る刃が俺に向かって放たれるのだけれど……今の俺にはこれくらいならなんとか避けることができる。
冷静に『グラムレーヴァ』を抜き放ちながら、彼女の鎌の射程から離れるように遠ざか……ったんだけど、不意に嫌な予感がして目の前の攻撃を防ぐように剣を構えた。
するといつの間にか大鎌に風を纏わせていて、俺が避けたと同時に振り切った彼女の一撃から風の刃がこちらに向かって飛んできた。
それを防いでいる間にその女性は離れた間合いを詰め、今度はそのまま鎌を振り下ろしてきた。
再び避けようとすると、今度は俺の足に強烈な暴風が一瞬だけ吹き荒れて動きを阻害されてしまう。
その僅かな時間……瞬時に避けることから防ぐことに思考を切り替え、剣による防御に移ったことが功を奏した。
二度目の攻撃時には風を纏わないただの鎌が迫ってきただけで、なんとか防ぐ事に成功する。
ただ、その後すぐに息もつかさぬ程の怒涛の攻めを受け、こちらは完全に防戦一方に追いやられてしまう。
「随分と風を自在に操るな……!」
攻めに加えてこちらの行動を妨害するような風を繰り出され、思わず舌打ちしながらそんな風に愚痴ってしまう。
それでも彼女は何も言わずにただこちらに殺気を向けるばかりだ。
向こうからすると初対面ではないらしいのだけれど、これほどの苛烈な攻撃を仕掛けてくる人物に全く心当たりがない。
……いや、一人だけいたような気がする。
誰だっけか……彼女は……。
「戦闘中に考え事とは、随分と余裕ですわねっ!」
俺が色々と考えを巡らせながら、絶えない猛攻を避けては防いでいることが心外なのだろう。
女性はイラッとした表情で俺のことを見据え、自分から数歩程度距離を取ってきた。
「これだから、デリカシーのない殿方は……困り、ますわっ」
若干乱れた呼吸を整え、俺のことを睨みながら、忌々しげに吐き捨ててきた。
「もしかして……お前、ルーシーか!?」
そしてその言葉で、ようやく目の前の女性が誰なのか気づいた俺は、思わず大声で叫ぶように話してしまった。
なんでルーシーがこんなところに? という疑問がいっぱいで止まらなかったというのもある。
「改めて……久しぶりに会いますわね。
二年ぶり、と言ったところでしょうか」
結構驚いてる俺に対して、ルーシーの方はいやに冷静だ。
むしろ若干迷惑そうに顔を歪めてすらいる。
「お前は他の民の助けになりたいって一人だけ別の場所に行ったはずだ。
それなのに、どうしてここに? こんな……国に?」
「わたくし、悟ったのですわ」
「悟った……?」
それまでの殺気やら敵意に満ちた顔とは別の……自尊心に満ちた表情を浮かべて、彼女は語りはじめる。
「ええ。わたくし個人がどれだけの事をやったとしても、やがて限界が訪れます。
手の届かないところまで救おうと思うなら……国の力を借りるのが一番ですわ」
「だからシアロルにいる、と?」
「その通りですわ。
身体を鍛えるだけが取り柄の貴方には、分からないことかも知れませんがね」
……俺は正直、ルーシーとはあんまり話したことがなかった。
彼女と一緒にいた期間なんてそもそもジパーニグのダティオにいた間だけだ。
だから彼女はこうなんだ! とか具体的な事をはっきり言えるほど親しくはない。
……だけど。
「あんた、変わったな」
俺は自身の中から湧き上がる何かを止めることが出来なかった。
一緒にグレリアの兄貴の魔方陣講義を受けていたとは思えないほど、変わってしまったんだと思ったのだ。
「いいえ。貴方が変わらないだけですわ。
変わって生きていく事こそ人が生み出した処世術。
貴方はその流れに逆らっているだけに過ぎませんわ」
「……なら」
こうなった原因は彼女にある? いや、きっとそれだけじゃないはずだ。
考えたってきりがない。答えは無数にあるし、正解を探すには情報が足りない。
だったら、今の俺たちはただ……戦う事でしか分かり合えないのだろう。
「諦める事が変わるって事なら、俺は一生変わらないままで構わない」
「……そうですか。では、無知蒙昧な貴方に教えて差し上げますわ。
変わる事によって得られる力があるという事を……!」
ルーシーはそれだけ言い放つと、再度数歩俺から距離を取る。
何をするかはわからないが、今の彼女からあまり離れすぎるべきではないと考えた俺は、一気に距離を詰めようと走り出した。
「吹き荒れろ我が力。眼前に立ち塞がるあらゆる敵を切り刻め――」
ルーシーが唱えているのは……詠唱魔法?
しかし、彼女もすでにそれがあまり役に立たない事を知っているはずだ。
それなのになぜ、今この局面でそれを選択した? ……なにか、嫌な予感がする。
「【スラッシュサイクロン】!!」
――瞬間、魔方陣が同時に発動した。
俺に襲いかかるそれは、普通の詠唱魔法とは比べ物にならない程の力の込められた……全てをなぎ倒し切り刻む暴虐の竜巻だった。
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