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第十二節 人の国・裏の世界 セイル編
第203幕 帝王の箱庭
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食事を終えた俺たちは、肝心の箱庭の区画に足を踏み入れた。
研究施設の方にはさすがに立ち入る事は出来ないため、広場の方に来たんだけど……。
「みんな楽しそうに滑ってるね」
そこで見たのは氷の上を気持ちよさそうに滑る子どもや大人の集団だった。
どうやらこの国で流行っている『スケート』と呼ばれる遊びらしく、人工的に整えられた氷を専用の靴で滑るものなのだとか。
他では見たことのない物珍しさにスパルナは目をキラキラと輝かせて魅入ってるようだった。
……まあ、気持ちはわかる。
中には練習中なのか、上手いと呼ぶには遠い者もいるけど……氷上を軽やかに滑る姿は本当に楽しそうだ。
なんてスパルナと二人でのんきにそれを眺めていると、他とは違う独特な髪型をしている女の人がそのスケート場に現れ、踊るように滑り出した。
金髪の縦にロールを巻いた人で、白い防寒具が彼女の美しさを際立たせている。
くるくると回りながら滑るその様は妖精を思わせる。
「あの人、きれいだよねー」
「ああ……」
「どうしたの? お兄ちゃん」
「いや……」
どうにも気の入ってない返事をしている俺を、スパルナは『仕方がないなー』みたいな顔で見ていたけど……彼の考えてることとは全く別のことを俺は考えていた。
スケート場で優雅に滑っている彼女の姿を、俺はどこかで見たことがあるような気がしたのだ。
……ほとんど見覚えのないはずなんだけれど、あの縦ロールの髪の女の人には昔、会ったことがあるような気がする。
だけどどうしても思い出せない。
一瞬ラグズエルに弄られたのかもとも思ったけど、それならもっと知られたくないことや重要なことに関する記憶を弄るはずだ。
どうにももどかしい気分になりながらも、俺はその人が滑る様をただただ眺めていたのだった――
――
その女性が疲れを覚えたのか、スケート場を離れ、一息ついていたところを見計らって声を掛けることにした。
「遠くから見せてもらったけど、随分上手に滑るんだな」
「……そうですか? 慣れると結構簡単なものですよ」
あまり気の利いた言い回しもできなかった俺は、仕方なく思いついた事をそのまま言ったんだけど……やっぱりあまりよろしくなかったらしく、警戒するように彼女は俺のことを見ていた。
「お兄ちゃん、口説くならもう少し――」
「そういうのじゃないから。
子どもは黙ってなさい」
スパルナが呆れたような声を上げて抗議してきた。
そのせいで余計にその女性から怪しい目で見られてしまったけど……仕方ないだろう。
大体二年間各地を転々として修行してきた俺が、気の利いた台詞なんて言えるわけない。
もう少し考えてから声を掛ければよかったと反省することもあるけど、もはや今更だ。
「あの……」
「え、ああ、悪い。
昔、何処かで会ったような気がしたんだけど……うん、どうやら気のせいだったみたいだ。すまなかった」
「あ、ちょっと待ってください……」
そそくさとその場を去ろうとしていた俺のことを彼女はどこか思い詰めた顔で見つめていた。
その物憂げな表情に思わず足を止めて女性の方を見たのだけれど、どう話そうか迷っているようにも思えた。
「実はわたくしも……貴方とはどこかでお会いしたような、そんな気がするんですの。
互いにそんな風に思うなんて、なんだか不思議な気分ですわね」
「……そうだな。本当に、奇妙な偶然だ」
儚げな笑みを浮かべてみせる彼女にどう答えていいものかと悩んだ末、またもや無難な返し方をしてしまった。
どうにか話を続けることが出来たのはいいのだけれど……なにを話すべきか……。
「こんなところではなんですから、別の場所でゆっくりとお話しいたしませんか?」
「え? あ、ああ」
虚をつかれるような展開が続いているが、向こうから話をしたいというのなら、こんなに都合の良い事はない。
なんとか事態を把握して頷いた俺は、大きな袋を担いだ彼女に先導されるような形でついていくことになった。
「お兄ちゃん、頑張ってねー」
スパルナの方はついてくる気がないのか、手をふりふりして見送ってくれたけど……別に彼が思っていそうな事は一切起きないだろう。
そうして俺は金髪縦ロールの女性に案内されるまま、この箱庭の中を歩いていったのだけれど……どんどんと人気のないところに連れて行かれているようだった。
迷わずに奥へと進む彼女は、やがて人通りの少ない……というかないところで立ち止まって俺の方を振り向いた。
「貴方と会うのは二年ぶりぐらいでしょうか」
「……なに?」
「貴方は覚えていないようですけれども、わたくしはきちんと覚えておりますわ。
……忘れることもできない、と言った方が正しいのかも知れませんわね」
くるりと回るように俺と向かいあった彼女は、さっきまでとは一変して鋭く刺すような殺気を放っていた。
いきなりの出来事に戸惑いを覚えるけど、向こうはそれを許してはくれなさそうだ。
「貴方に恨みはありませんが、その命、渡してもらいます……!」
真剣な表情でそれだけ言うと、女性は袋の中から大きな鎌を取り出して構えてきた。
……なんでこうも厄介な事態に陥るのかと嘆きましたが、今はそんな事より目の前の事態をなんとかする方が先だろう。
研究施設の方にはさすがに立ち入る事は出来ないため、広場の方に来たんだけど……。
「みんな楽しそうに滑ってるね」
そこで見たのは氷の上を気持ちよさそうに滑る子どもや大人の集団だった。
どうやらこの国で流行っている『スケート』と呼ばれる遊びらしく、人工的に整えられた氷を専用の靴で滑るものなのだとか。
他では見たことのない物珍しさにスパルナは目をキラキラと輝かせて魅入ってるようだった。
……まあ、気持ちはわかる。
中には練習中なのか、上手いと呼ぶには遠い者もいるけど……氷上を軽やかに滑る姿は本当に楽しそうだ。
なんてスパルナと二人でのんきにそれを眺めていると、他とは違う独特な髪型をしている女の人がそのスケート場に現れ、踊るように滑り出した。
金髪の縦にロールを巻いた人で、白い防寒具が彼女の美しさを際立たせている。
くるくると回りながら滑るその様は妖精を思わせる。
「あの人、きれいだよねー」
「ああ……」
「どうしたの? お兄ちゃん」
「いや……」
どうにも気の入ってない返事をしている俺を、スパルナは『仕方がないなー』みたいな顔で見ていたけど……彼の考えてることとは全く別のことを俺は考えていた。
スケート場で優雅に滑っている彼女の姿を、俺はどこかで見たことがあるような気がしたのだ。
……ほとんど見覚えのないはずなんだけれど、あの縦ロールの髪の女の人には昔、会ったことがあるような気がする。
だけどどうしても思い出せない。
一瞬ラグズエルに弄られたのかもとも思ったけど、それならもっと知られたくないことや重要なことに関する記憶を弄るはずだ。
どうにももどかしい気分になりながらも、俺はその人が滑る様をただただ眺めていたのだった――
――
その女性が疲れを覚えたのか、スケート場を離れ、一息ついていたところを見計らって声を掛けることにした。
「遠くから見せてもらったけど、随分上手に滑るんだな」
「……そうですか? 慣れると結構簡単なものですよ」
あまり気の利いた言い回しもできなかった俺は、仕方なく思いついた事をそのまま言ったんだけど……やっぱりあまりよろしくなかったらしく、警戒するように彼女は俺のことを見ていた。
「お兄ちゃん、口説くならもう少し――」
「そういうのじゃないから。
子どもは黙ってなさい」
スパルナが呆れたような声を上げて抗議してきた。
そのせいで余計にその女性から怪しい目で見られてしまったけど……仕方ないだろう。
大体二年間各地を転々として修行してきた俺が、気の利いた台詞なんて言えるわけない。
もう少し考えてから声を掛ければよかったと反省することもあるけど、もはや今更だ。
「あの……」
「え、ああ、悪い。
昔、何処かで会ったような気がしたんだけど……うん、どうやら気のせいだったみたいだ。すまなかった」
「あ、ちょっと待ってください……」
そそくさとその場を去ろうとしていた俺のことを彼女はどこか思い詰めた顔で見つめていた。
その物憂げな表情に思わず足を止めて女性の方を見たのだけれど、どう話そうか迷っているようにも思えた。
「実はわたくしも……貴方とはどこかでお会いしたような、そんな気がするんですの。
互いにそんな風に思うなんて、なんだか不思議な気分ですわね」
「……そうだな。本当に、奇妙な偶然だ」
儚げな笑みを浮かべてみせる彼女にどう答えていいものかと悩んだ末、またもや無難な返し方をしてしまった。
どうにか話を続けることが出来たのはいいのだけれど……なにを話すべきか……。
「こんなところではなんですから、別の場所でゆっくりとお話しいたしませんか?」
「え? あ、ああ」
虚をつかれるような展開が続いているが、向こうから話をしたいというのなら、こんなに都合の良い事はない。
なんとか事態を把握して頷いた俺は、大きな袋を担いだ彼女に先導されるような形でついていくことになった。
「お兄ちゃん、頑張ってねー」
スパルナの方はついてくる気がないのか、手をふりふりして見送ってくれたけど……別に彼が思っていそうな事は一切起きないだろう。
そうして俺は金髪縦ロールの女性に案内されるまま、この箱庭の中を歩いていったのだけれど……どんどんと人気のないところに連れて行かれているようだった。
迷わずに奥へと進む彼女は、やがて人通りの少ない……というかないところで立ち止まって俺の方を振り向いた。
「貴方と会うのは二年ぶりぐらいでしょうか」
「……なに?」
「貴方は覚えていないようですけれども、わたくしはきちんと覚えておりますわ。
……忘れることもできない、と言った方が正しいのかも知れませんわね」
くるりと回るように俺と向かいあった彼女は、さっきまでとは一変して鋭く刺すような殺気を放っていた。
いきなりの出来事に戸惑いを覚えるけど、向こうはそれを許してはくれなさそうだ。
「貴方に恨みはありませんが、その命、渡してもらいます……!」
真剣な表情でそれだけ言うと、女性は袋の中から大きな鎌を取り出して構えてきた。
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