320 / 415
第十七節・落日の国編
第303幕 不安な先行き
しおりを挟む
ジパーニグで数日が経過したが、やはり問題は多そうだった。俺からはよくわからないが、アリッカルの執政官には疲れの色が濃く見える。
「お疲れのようだが……大丈夫か?」
「ええ。あちらもクリムホルン王を亡くなっているのです。出来る限り混乱は避けたいことでしょう。ですが……」
「問題になってるのは俺たちが魔人――アンヒュルだってことか?」
「そうなりますね」
やはりそれが一番の問題か。ジパーニグ……というよりもヒュルマの歴史はアンヒュルとの闘争の歴史だ。アリッカルのように半ば力で降伏し、ヘンリーが仕切っているのとはまたわけが違う。
「やはり、ヘンリー殿が話されるのが一番良いのかもしれません。私たちの話ではどうしても嘘臭さが抜けないようでして……」
「……そうだろうな」
アスクード王を倒し、親衛隊の兵士たちを降伏させた後の話なのだが、ヘンリーは俺たち魔人を次々と改心させていっている……という話で周囲を納得させている。もちろん嘘なのだが……彼が言うには――
「日本――くずはさんたちの国のことわざに『嘘も方便』という言葉があります。真実を告げること……それが全て正しいわけではないのですよ。一の真実、千の嘘。物事を穏便かつ迅速に進めていく為には、そういう事も必要というわけですよ」
――らしい。言っていることはわかるが、実際やれるかどうかはまた別問題だ。
だが、それのおかげでアリッカルは静かに戦争を続けているような状況になっているというわけだ。少し間違えれば一気に城の方まで攻められてしまうというのに、よくやっていると言えるだろう。
ジパーニグにもそれを広めながら国を手中に収めようとしていたのだけれど……やはり上手くは行かないか。
改心させている(という事になっている)本人がアリッカルで広めても嘘臭さは拭えなかったのに、本人のいないジパーニグでそれが通じる訳もないだろう。
「やはり必要なのは証拠……それと本人の実力といったところか」
「はい。人は……特に軍に関わる者は実力主義が多いです。中には話だけで信じていただける方や、現状をよく思っていない方々からもいらっしゃいます。彼らはこちらに乗ってくれる可能性はあるのですが……」
そう思い通りにならないのが前者――兵士や勇者に連なる家系の……いわゆる武闘派と言った連中のことだろう。ジパーニグは平気で勇者に土地を与えていたからなぁ……。しかもそれが正しいことのように学ばせているのだから更にたちが悪い。
結局、今駄々をこねているのはそういった土地を奪われるかもしれない――利権を失うかもしれないという者たちなのだろう。
「ここに来て邪魔になるのは勇者の家系って訳か。皮肉なものだ」
「そうですね。中でも吉田と呼ばれる家の者が『魔人どもの軍門になぞ降れるか!』と他の貴族階級をまとめ上げてしまってるようでして……」
ある意味予想された展開通りという訳だ。難航するのはわかっていたが、この調子では逆にこちらが飲まれかねない。
「何か策はあるのか?」
「……貴方を差し出せ、とそういう声が強いです。恐らく、処刑する為ではないかと……」
なるほど。実にわかりやすい要求だ。シエラはともかく、俺はこの国の兵士たちに顔が割れている。少なくとも吉田が連れていた兵士たちは知ってるだろう。
見せしめにして、グランセストとアリッカルの動きを確かめる……そういう事も平気でしそうだが、あの無駄に誇り高い吉田がそれで許すとも思えない。奴は自分の手で俺を倒したいと思っているはずだ。あいつは、俺に四度の恥辱を与えられたんだからな。
「それで、俺はどうなる?」
「私は貴方がたとアスクード王が率いる兵隊の戦いを目撃しました。あの外庭は、私の執務室からよく見えたので」
あの戦いをはっきり見ていた……というのも意外だが、彼がヘンリーに引き込まれて上に昇った人物ではなくて、最初からアリッカルでもそれなりの地位に就いていたと考えるべきだろう。
そんな彼は深く息を吐いて少し嫌そうに笑みを浮かべていた。
「彼らに貴方を引き渡して、こっちに飛び火するくらいなら要求を突っぱね続けた方が幾分かマシですね。頭が筋肉で覆われてるような輩は先々の事を考えませんから」
「ははっ、ここの奴らには聞かせられない言葉だな」
「私とて命は惜しいのですよ。ようやく目の上の――こほん! アリッカルが不安定ながらもまとまり掛けている時に、余計な事はしたくありません」
今何か言い掛けたようだが、そこに突っ込まない方が良いだろう。彼も色々と大変そうだしな。
「だが、全く要求を呑まない訳にはいかないのだろう?」
「そうですね。その辺りについては……戦いを重んじる方々らしい解決法を模索しますよ」
それは暗に『戦って納得させろ』と言ってるように聞こえる。まあ、その方が一番手っ取り早いのは事実なんだが……それで本当に納得出来るのか否かを考えると、大分怪しい所だ。
なんだか雲行きが悪い方向に転がっていきそうな予感がするが、なんとか頑張ってほしいところだ。
「お疲れのようだが……大丈夫か?」
「ええ。あちらもクリムホルン王を亡くなっているのです。出来る限り混乱は避けたいことでしょう。ですが……」
「問題になってるのは俺たちが魔人――アンヒュルだってことか?」
「そうなりますね」
やはりそれが一番の問題か。ジパーニグ……というよりもヒュルマの歴史はアンヒュルとの闘争の歴史だ。アリッカルのように半ば力で降伏し、ヘンリーが仕切っているのとはまたわけが違う。
「やはり、ヘンリー殿が話されるのが一番良いのかもしれません。私たちの話ではどうしても嘘臭さが抜けないようでして……」
「……そうだろうな」
アスクード王を倒し、親衛隊の兵士たちを降伏させた後の話なのだが、ヘンリーは俺たち魔人を次々と改心させていっている……という話で周囲を納得させている。もちろん嘘なのだが……彼が言うには――
「日本――くずはさんたちの国のことわざに『嘘も方便』という言葉があります。真実を告げること……それが全て正しいわけではないのですよ。一の真実、千の嘘。物事を穏便かつ迅速に進めていく為には、そういう事も必要というわけですよ」
――らしい。言っていることはわかるが、実際やれるかどうかはまた別問題だ。
だが、それのおかげでアリッカルは静かに戦争を続けているような状況になっているというわけだ。少し間違えれば一気に城の方まで攻められてしまうというのに、よくやっていると言えるだろう。
ジパーニグにもそれを広めながら国を手中に収めようとしていたのだけれど……やはり上手くは行かないか。
改心させている(という事になっている)本人がアリッカルで広めても嘘臭さは拭えなかったのに、本人のいないジパーニグでそれが通じる訳もないだろう。
「やはり必要なのは証拠……それと本人の実力といったところか」
「はい。人は……特に軍に関わる者は実力主義が多いです。中には話だけで信じていただける方や、現状をよく思っていない方々からもいらっしゃいます。彼らはこちらに乗ってくれる可能性はあるのですが……」
そう思い通りにならないのが前者――兵士や勇者に連なる家系の……いわゆる武闘派と言った連中のことだろう。ジパーニグは平気で勇者に土地を与えていたからなぁ……。しかもそれが正しいことのように学ばせているのだから更にたちが悪い。
結局、今駄々をこねているのはそういった土地を奪われるかもしれない――利権を失うかもしれないという者たちなのだろう。
「ここに来て邪魔になるのは勇者の家系って訳か。皮肉なものだ」
「そうですね。中でも吉田と呼ばれる家の者が『魔人どもの軍門になぞ降れるか!』と他の貴族階級をまとめ上げてしまってるようでして……」
ある意味予想された展開通りという訳だ。難航するのはわかっていたが、この調子では逆にこちらが飲まれかねない。
「何か策はあるのか?」
「……貴方を差し出せ、とそういう声が強いです。恐らく、処刑する為ではないかと……」
なるほど。実にわかりやすい要求だ。シエラはともかく、俺はこの国の兵士たちに顔が割れている。少なくとも吉田が連れていた兵士たちは知ってるだろう。
見せしめにして、グランセストとアリッカルの動きを確かめる……そういう事も平気でしそうだが、あの無駄に誇り高い吉田がそれで許すとも思えない。奴は自分の手で俺を倒したいと思っているはずだ。あいつは、俺に四度の恥辱を与えられたんだからな。
「それで、俺はどうなる?」
「私は貴方がたとアスクード王が率いる兵隊の戦いを目撃しました。あの外庭は、私の執務室からよく見えたので」
あの戦いをはっきり見ていた……というのも意外だが、彼がヘンリーに引き込まれて上に昇った人物ではなくて、最初からアリッカルでもそれなりの地位に就いていたと考えるべきだろう。
そんな彼は深く息を吐いて少し嫌そうに笑みを浮かべていた。
「彼らに貴方を引き渡して、こっちに飛び火するくらいなら要求を突っぱね続けた方が幾分かマシですね。頭が筋肉で覆われてるような輩は先々の事を考えませんから」
「ははっ、ここの奴らには聞かせられない言葉だな」
「私とて命は惜しいのですよ。ようやく目の上の――こほん! アリッカルが不安定ながらもまとまり掛けている時に、余計な事はしたくありません」
今何か言い掛けたようだが、そこに突っ込まない方が良いだろう。彼も色々と大変そうだしな。
「だが、全く要求を呑まない訳にはいかないのだろう?」
「そうですね。その辺りについては……戦いを重んじる方々らしい解決法を模索しますよ」
それは暗に『戦って納得させろ』と言ってるように聞こえる。まあ、その方が一番手っ取り早いのは事実なんだが……それで本当に納得出来るのか否かを考えると、大分怪しい所だ。
なんだか雲行きが悪い方向に転がっていきそうな予感がするが、なんとか頑張ってほしいところだ。
0
あなたにおすすめの小説
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活
髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。
しかし神は彼を見捨てていなかった。
そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。
これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる