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第二十一節・凍てつく大地での戦い編
第359幕 奇襲の戦略
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シアロルの帝都を目指してどれくらい経っただろうか? 途中で立ち寄った村や、防衛されている町を侵略して、そこに仮拠点を築きながらなんとか少しずつ目的地に向けて進軍を続けていた。
最初、魔人の兵士たちが略奪をしそうになったり、無意味に敵兵を甚振って殺そうとしたりする者もいたが、銀狼騎士団の団員にきついお仕置きを受けてからはそういう事はなくなっていった。いくらミルティナ女王の元、鍛え上げられている魔人たちと言ってもやるやつはやるからな。それを諌めるのも上官としての役割を持つ銀狼騎士団の使命ってわけだ。
町の住民に悪感情を持たれた挙げ句、敵兵をこっそり侵入させられては目も当てられないからな。礼節を……とは言わないが、最低限やってはいけないことは守らなければならない。
そのおかげで『魔人』である事に恐怖を抱かれてはいるが、反抗心を向けてきている者たちは少なかった。もちろん中には抵抗するものもいるし、地下組織を作って今もなお戦い続ける者もいる。こちらがシアロルの帝都に向かいたいという事情を知っているかのような嫌がらせにうんざりしつつも、出来る限り迅速に物事を進めていき、ゆっくりとだが着実に目的地に向かっている実感はあるが、それ以上に切迫した問題が浮き彫りになってき始めていた――
「奇襲を受けている?」
その報告を聞いたのは四つ目の町を制圧し、民たちを説得しながら復興作業をしていた時のことだった。
町に在留させる兵士や領主の代行が到着するまでのしばらくの間、また足止めを食らうことになるのかと若干うんざりしていた時にこれだ。シアロルに来てから何か問題が途切れた試しがない。
「はい。敵兵はこの地に積もる雪の中に潜むように待ち構えていることがありまして……」
「なら『探索』の起動式を展開して、周囲を見て回る、というのは?」
「それは既に何度も試しているのですが……相手も『隠蔽』の魔方陣を発動しているようで……」
なるほど。という事は、こちらが『探索』の魔方陣に注いでいる魔力量を上回っているということだろう。雪の中に潜んで待ち構えられては、こちらも成すすべがない。地の利は完全にあちらにある。寒さと雪という環境。食事ですらいつもと違うことに戸惑い慣れていないこちらとは違い、向こうはずっとこの国で生活をしていた者たちだ。これについては今すぐ解決する手立てがない。
『探索』の魔方陣に更に魔力を注いで対処することも可能だけれど、そっちに集中してしまって魔力切れを引き起こしたら戦力は大幅に下がる。その状態で敵が攻めてきたら……。
このままでは確実にジリ貧になる。そんな状況でもどうすることが出来ないのがなんとも歯がゆいが……。
「仕方ない。『索敵』が機能しなければ、いっそのこと『防御』の魔方陣に魔力を振ったほうが良い。防寒具にも魔方陣を刻めたんだ。鎧や盾なんかの防具にも同じように刻んで、少しでも被害を抑えよう」
「はいっ!」
ビシッと敬礼をして、兵士は他の者たちにそれを伝える為に外へと出ていってしまった。それを見届けた俺は、どっかりと椅子に腰を降ろす。
「ここで俺が動けば……事態ももっと変わっていくのだろうか」
ぽつりと呟いた俺の言葉は、窓の外に見える寒空に吸い込まれていくように消えていった気がした。
……いや、わかっているさ。何も考えずに前に進むことが出来たらどんなに良いか……そう思うが、それをしたらロンギルス皇帝は迷わず新型のゴーレムを投入してくるだろう。地上に生きている住民なんていくら死んでも問題ない。地下にいる者たちこそかの皇帝が守るべき民たちなのだから。なんの躊躇いもなくここを焼け野原にする。
それがわかっているからこそ、グランセスト軍と共にゆっくりと侵攻するというじれったい事をしているのだ。
今はただひたすら機会を伺って待つ。俺が今、この場所にいる……その事実がある限り、他の場所にもロンギルス皇帝も迂闊に手出しが出来ない。現在のシアロルとの最前線。それを支える補給路に点在する町や村。その中間にいるこここそが、どこにでも素早く駆けつける事が出来る中継点なのだから。
少し進んではこうやって足止めを食らって……かなり焦れったいが、だからこそ落ち着いて――
「兄貴ー!」
バン、と勢いよく扉を開いたのは……声を聞いて分かる通りのセイルだった。スパルナと一緒に買い物を楽しんでいたようで、両手になんか色々と買った物を持ってきていた。
「串肉屋さんがおまけしてくれたんだー。グレリアさんも一緒に食べよう?」
「……ああ」
スパルナは自分の持ってる袋の中から一つ、串肉を取り出して元気よく俺に渡してきた。その様子に苦笑しながら、俺は今さっきまで悩んでいた自分が馬鹿みたいだななんて思ってしまった。
「……どうした?」
「いや、ちょっと根を詰めすぎたからな。少し休憩にしよう」
俺の方は結構思いつめてるってのに、こいつら二人は本当に……だが、こういうのも彼らのいいところなんだろうな。悩みすぎても仕方ない。ちょっと冷静になって頭を冷やす時間があってもいいさ。
笑ってる二人の入り込みながら、そんな事を思っている自分に苦笑しながら、俺は彼らと共に短いながらも有意義な時間を過ごすのだった。
最初、魔人の兵士たちが略奪をしそうになったり、無意味に敵兵を甚振って殺そうとしたりする者もいたが、銀狼騎士団の団員にきついお仕置きを受けてからはそういう事はなくなっていった。いくらミルティナ女王の元、鍛え上げられている魔人たちと言ってもやるやつはやるからな。それを諌めるのも上官としての役割を持つ銀狼騎士団の使命ってわけだ。
町の住民に悪感情を持たれた挙げ句、敵兵をこっそり侵入させられては目も当てられないからな。礼節を……とは言わないが、最低限やってはいけないことは守らなければならない。
そのおかげで『魔人』である事に恐怖を抱かれてはいるが、反抗心を向けてきている者たちは少なかった。もちろん中には抵抗するものもいるし、地下組織を作って今もなお戦い続ける者もいる。こちらがシアロルの帝都に向かいたいという事情を知っているかのような嫌がらせにうんざりしつつも、出来る限り迅速に物事を進めていき、ゆっくりとだが着実に目的地に向かっている実感はあるが、それ以上に切迫した問題が浮き彫りになってき始めていた――
「奇襲を受けている?」
その報告を聞いたのは四つ目の町を制圧し、民たちを説得しながら復興作業をしていた時のことだった。
町に在留させる兵士や領主の代行が到着するまでのしばらくの間、また足止めを食らうことになるのかと若干うんざりしていた時にこれだ。シアロルに来てから何か問題が途切れた試しがない。
「はい。敵兵はこの地に積もる雪の中に潜むように待ち構えていることがありまして……」
「なら『探索』の起動式を展開して、周囲を見て回る、というのは?」
「それは既に何度も試しているのですが……相手も『隠蔽』の魔方陣を発動しているようで……」
なるほど。という事は、こちらが『探索』の魔方陣に注いでいる魔力量を上回っているということだろう。雪の中に潜んで待ち構えられては、こちらも成すすべがない。地の利は完全にあちらにある。寒さと雪という環境。食事ですらいつもと違うことに戸惑い慣れていないこちらとは違い、向こうはずっとこの国で生活をしていた者たちだ。これについては今すぐ解決する手立てがない。
『探索』の魔方陣に更に魔力を注いで対処することも可能だけれど、そっちに集中してしまって魔力切れを引き起こしたら戦力は大幅に下がる。その状態で敵が攻めてきたら……。
このままでは確実にジリ貧になる。そんな状況でもどうすることが出来ないのがなんとも歯がゆいが……。
「仕方ない。『索敵』が機能しなければ、いっそのこと『防御』の魔方陣に魔力を振ったほうが良い。防寒具にも魔方陣を刻めたんだ。鎧や盾なんかの防具にも同じように刻んで、少しでも被害を抑えよう」
「はいっ!」
ビシッと敬礼をして、兵士は他の者たちにそれを伝える為に外へと出ていってしまった。それを見届けた俺は、どっかりと椅子に腰を降ろす。
「ここで俺が動けば……事態ももっと変わっていくのだろうか」
ぽつりと呟いた俺の言葉は、窓の外に見える寒空に吸い込まれていくように消えていった気がした。
……いや、わかっているさ。何も考えずに前に進むことが出来たらどんなに良いか……そう思うが、それをしたらロンギルス皇帝は迷わず新型のゴーレムを投入してくるだろう。地上に生きている住民なんていくら死んでも問題ない。地下にいる者たちこそかの皇帝が守るべき民たちなのだから。なんの躊躇いもなくここを焼け野原にする。
それがわかっているからこそ、グランセスト軍と共にゆっくりと侵攻するというじれったい事をしているのだ。
今はただひたすら機会を伺って待つ。俺が今、この場所にいる……その事実がある限り、他の場所にもロンギルス皇帝も迂闊に手出しが出来ない。現在のシアロルとの最前線。それを支える補給路に点在する町や村。その中間にいるこここそが、どこにでも素早く駆けつける事が出来る中継点なのだから。
少し進んではこうやって足止めを食らって……かなり焦れったいが、だからこそ落ち着いて――
「兄貴ー!」
バン、と勢いよく扉を開いたのは……声を聞いて分かる通りのセイルだった。スパルナと一緒に買い物を楽しんでいたようで、両手になんか色々と買った物を持ってきていた。
「串肉屋さんがおまけしてくれたんだー。グレリアさんも一緒に食べよう?」
「……ああ」
スパルナは自分の持ってる袋の中から一つ、串肉を取り出して元気よく俺に渡してきた。その様子に苦笑しながら、俺は今さっきまで悩んでいた自分が馬鹿みたいだななんて思ってしまった。
「……どうした?」
「いや、ちょっと根を詰めすぎたからな。少し休憩にしよう」
俺の方は結構思いつめてるってのに、こいつら二人は本当に……だが、こういうのも彼らのいいところなんだろうな。悩みすぎても仕方ない。ちょっと冷静になって頭を冷やす時間があってもいいさ。
笑ってる二人の入り込みながら、そんな事を思っている自分に苦笑しながら、俺は彼らと共に短いながらも有意義な時間を過ごすのだった。
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