379 / 415
第二十一節・凍てつく大地での戦い編
第360幕 静かなる準備
しおりを挟む
雪に潜んでの奇襲。補給路を狙うようなゲリラ戦。皇帝の指揮する軍とは思えないほどの散発的でねちっこい攻撃を行ってきていた。護衛を付けたり、防具を強化したり……その甲斐もあってか、なんとか体勢を整え、先へと進むことが出来た。
万年雪が降り積もるというシアロル。それがより激しく降りしきり、視界を染めていく冬の季節を迎え……俺たちはようやく帝都が目視出来るところまで歩みを進めていた。グランセストからここまで、思えば長い旅路だった。それもここで終わる。厳しい寒気が襲いかかる今……それが明けた時、最後の戦いが始まる。
……この寒さってのが厄介な相手だからな。それを知ってて攻撃を仕掛けてくるロンギルス皇帝の嫌らしさには反吐が出る。が、それが効果的な成果を上げてるんだから、彼のやっている事は正しいんだろうけどな。
――
視界を遮る吹雪に足を取られる程の豪雪。それが止んで、ようやく軍がまともに行動できる程の緩やかな気候になった時、いつものように兵士は慌てて俺が休んでいた宿屋の部屋に入ってきた。
「グ、グレリア様! 大変です!」
お前がやってくる時、大変じゃなかったことはほとんどなかったんだが? と愚痴を言いそうになったのをぐっとこらえて、努めて平静を保っていた。
「落ち着け。『大変だ』とだけ言われても伝わってこないぞ」
「す、済みません。……帝都のクワドリスに動きがありました。こちらに呼応するように、軍を展開してきました」
とうとう来たか。向こうも極寒の冬が収まるのを待っていたというわけだな。
「敵の戦力は? 大将――皇帝は出張ってきているのか?」
「ゴーレム、一般兵を全て合わせるとおよそ七万。こちらの軍勢が五万ですので……」
こちらのほうが不利。しかし、向こうは市街戦行うつもりはないらしく、帝都の外に軍勢を展開しているらしい。帝都の中に篭もられたほうが厄介だったが、向こうもこちらと決着をつけることを優先してくれている……と思っておきたい。
「わかった。こちらの状況はどうなっている?」
「はい。現時点で『防御』に関連した魔方陣を刻んだ防具の配備は完了しました」
それは朗報だが……やはり戦力は向こうの方が上。戦争ってのは数=力だからな。シアロルはこれに加えて戦車や攻撃機なんかも加わるのだから普通だったら頭を抱えたくなるだろう。
「司令官はなんと言っている?」
「こちらの方も応戦するべきだと首脳陣の話し合いで決まり、現在戦場になるであろう場所付近に軍を展開しております」
まぁ、そうなるだろうな。何度か敗走しているとはいえ、なんとかここまで侵攻出来ている。それに次の攻略が帝都という事で兵士たちの士気も高まりつつある。最後に……魔人にとっての英雄である俺の存在。ここで二万の差がついたから後退なんて事にはならないだろう。
それにしても――
「……妙だな」
「え? 何かおかしいところ、ありましたか?」
俺の呟きに兵士は挙動不審……というか、結構怪しく動揺している。この男はあまり自分に自信がなく、ちょっとしたことでもこういう風に慌てふためく癖がある。もう少し堂々とすればいいのに……と思うのだが、中々上手くいかないな。
それより、今はこのおかしなところ……シアロルの防衛軍に視線を向けた。七万の大軍。だが、ここ帝都。言わばこの国の要となる存在のはずだ。地下都市の方が重要だと言われればそれまでだが、大きな国。町や村に配置されている兵士の少なさ。それを考えると、七万という数は少なく見える。しかもゴーレムが混在してるって事は現実に戦う兵士はもっと少ないはずだ。
この期に及んでまだ出し惜しみしてるのか……そう考えると不気味な雰囲気を感じる。
何か忘れている……そんな思いが胸の奥から湧き上がってくる。そしてそれは、すぐに現実になった。
先程の兵士以上に慌ただしい様子で入ってきた彼は、しっかりとした衣服に身を包み、どこか礼儀正しさがあった。
「失礼致します! グレリア様に緊急の伝言を報告しにまいりました!」
「緊急?」
「はい! 現在、シアロルで確立した補給路よりイギランス軍が侵攻中! 今まで現れる気配はなかったのですが、突如として出現したとのことです!」
その報告を受けてから、俺はしまったと悔しい気持ちでいっぱいになった。今までイギランスの事なんて気にかけてもいなかった。いや、最初は注意を向けていた。だけど、実際攻めてくるのはシアロルだけで、イギランスは一切関与せずに沈黙を保っていた。ヘルガの『空間』の魔方陣を使って一気にやってきたのだろう。
完全にやられてしまった。思わず歯噛みして、今からやるべき事を考える。前方ではシアロル。後方ではイギランスがこちらに向かってきている。かなり不味い状況だ。
「兄貴……」
心配そうに俺のことを見ているが、そう案ずることはない。
ようやくここまで来たんだ。今更勝てませんでしたで終わるわけにはいかない。
ここから打開するには……やはり危険な橋を渡るしかない。どうあがいても犠牲が出るなら、出来る限り被害を抑えられるように動くことが最善だ。
万年雪が降り積もるというシアロル。それがより激しく降りしきり、視界を染めていく冬の季節を迎え……俺たちはようやく帝都が目視出来るところまで歩みを進めていた。グランセストからここまで、思えば長い旅路だった。それもここで終わる。厳しい寒気が襲いかかる今……それが明けた時、最後の戦いが始まる。
……この寒さってのが厄介な相手だからな。それを知ってて攻撃を仕掛けてくるロンギルス皇帝の嫌らしさには反吐が出る。が、それが効果的な成果を上げてるんだから、彼のやっている事は正しいんだろうけどな。
――
視界を遮る吹雪に足を取られる程の豪雪。それが止んで、ようやく軍がまともに行動できる程の緩やかな気候になった時、いつものように兵士は慌てて俺が休んでいた宿屋の部屋に入ってきた。
「グ、グレリア様! 大変です!」
お前がやってくる時、大変じゃなかったことはほとんどなかったんだが? と愚痴を言いそうになったのをぐっとこらえて、努めて平静を保っていた。
「落ち着け。『大変だ』とだけ言われても伝わってこないぞ」
「す、済みません。……帝都のクワドリスに動きがありました。こちらに呼応するように、軍を展開してきました」
とうとう来たか。向こうも極寒の冬が収まるのを待っていたというわけだな。
「敵の戦力は? 大将――皇帝は出張ってきているのか?」
「ゴーレム、一般兵を全て合わせるとおよそ七万。こちらの軍勢が五万ですので……」
こちらのほうが不利。しかし、向こうは市街戦行うつもりはないらしく、帝都の外に軍勢を展開しているらしい。帝都の中に篭もられたほうが厄介だったが、向こうもこちらと決着をつけることを優先してくれている……と思っておきたい。
「わかった。こちらの状況はどうなっている?」
「はい。現時点で『防御』に関連した魔方陣を刻んだ防具の配備は完了しました」
それは朗報だが……やはり戦力は向こうの方が上。戦争ってのは数=力だからな。シアロルはこれに加えて戦車や攻撃機なんかも加わるのだから普通だったら頭を抱えたくなるだろう。
「司令官はなんと言っている?」
「こちらの方も応戦するべきだと首脳陣の話し合いで決まり、現在戦場になるであろう場所付近に軍を展開しております」
まぁ、そうなるだろうな。何度か敗走しているとはいえ、なんとかここまで侵攻出来ている。それに次の攻略が帝都という事で兵士たちの士気も高まりつつある。最後に……魔人にとっての英雄である俺の存在。ここで二万の差がついたから後退なんて事にはならないだろう。
それにしても――
「……妙だな」
「え? 何かおかしいところ、ありましたか?」
俺の呟きに兵士は挙動不審……というか、結構怪しく動揺している。この男はあまり自分に自信がなく、ちょっとしたことでもこういう風に慌てふためく癖がある。もう少し堂々とすればいいのに……と思うのだが、中々上手くいかないな。
それより、今はこのおかしなところ……シアロルの防衛軍に視線を向けた。七万の大軍。だが、ここ帝都。言わばこの国の要となる存在のはずだ。地下都市の方が重要だと言われればそれまでだが、大きな国。町や村に配置されている兵士の少なさ。それを考えると、七万という数は少なく見える。しかもゴーレムが混在してるって事は現実に戦う兵士はもっと少ないはずだ。
この期に及んでまだ出し惜しみしてるのか……そう考えると不気味な雰囲気を感じる。
何か忘れている……そんな思いが胸の奥から湧き上がってくる。そしてそれは、すぐに現実になった。
先程の兵士以上に慌ただしい様子で入ってきた彼は、しっかりとした衣服に身を包み、どこか礼儀正しさがあった。
「失礼致します! グレリア様に緊急の伝言を報告しにまいりました!」
「緊急?」
「はい! 現在、シアロルで確立した補給路よりイギランス軍が侵攻中! 今まで現れる気配はなかったのですが、突如として出現したとのことです!」
その報告を受けてから、俺はしまったと悔しい気持ちでいっぱいになった。今までイギランスの事なんて気にかけてもいなかった。いや、最初は注意を向けていた。だけど、実際攻めてくるのはシアロルだけで、イギランスは一切関与せずに沈黙を保っていた。ヘルガの『空間』の魔方陣を使って一気にやってきたのだろう。
完全にやられてしまった。思わず歯噛みして、今からやるべき事を考える。前方ではシアロル。後方ではイギランスがこちらに向かってきている。かなり不味い状況だ。
「兄貴……」
心配そうに俺のことを見ているが、そう案ずることはない。
ようやくここまで来たんだ。今更勝てませんでしたで終わるわけにはいかない。
ここから打開するには……やはり危険な橋を渡るしかない。どうあがいても犠牲が出るなら、出来る限り被害を抑えられるように動くことが最善だ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
213
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる