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32・お休みの朝
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「ん……ふぁぅ……んゅ……」
リュネーと一緒に寄り道した次の日。丁度学園は休みで、昨日の精神的疲れのせいか、私はいつもよりも惰眠を貪ってた。
時期はまだ春で、窓から射してくる陽気もぽかぽかと温かくて……私は――
「……様! ――ィア様!」
「ぁう……?」
何か大きな声が聞こえて揺さぶられた私は、重たい目を開けて――そこにはいつも私の世話をしてくれてるメイドの姿があった。
「エールティア様、お目覚めですか?」
「……私、どれくらい……?」
「もうお昼も近くなっていますよ。アルティラ様も少しお怒りですよ」
それを聞いた私は、寝起きの頭にじわーっと沁み込んでいって……その意味も理解した瞬間、サッと頭から血がなくなっていくような気がした。
――捨てられる。
そんな事は絶対にないはずなのに、一瞬でも頭にそれがよぎったら、忘れる事なんて出来る訳なかった。メイドに着替えを手伝ってもらって、すぐに着替える。彼女も私が急いでるのに合わせて手伝ってくれる。その時、なんでかちょっと大人びた黒いワンピースを着せられたけど……まあ、特別悪いってわけでもないからあまり気にしたら負けかも。
着替え終わった私は、そのまま急いでお母様の部屋に行って……優雅にお茶をしてるお母様を見つける。
「あ――」
何か言おうとしたけれど……自分の出した声が震えかけてるのに気づいて、慌てて息を整える。
――大丈夫。普段通り。いつも通りに振舞えば、何にも問題ないはず……。
「……お母様。おはようございます」
「エールティア。特待生クラスでも勉強することになって色々と忙しく、疲れているのもわかります。ですが、これは少し惰性が過ぎるのではありませんか?」
「はい……言い訳しようもありません」
深いため息をついて、叱りつけるように視線を向けてきたお母様にすごく申し訳ない気持ちになってくる。
「……わかっているのでしたら、次から気を付けなさい。貴女はこのティリアース王家の――リシュファス家の一人娘なのですからね」
お母様は『しょうがないわね』みたいな優しい顔つきで私に来るように手で催促してきた。それにふらふらと吸い寄せられるように近づくと、お母様は私の頭に優しく手を乗せて撫でてくれた。
「……はい」
いつものお母様の雰囲気に戻って、私の方も少し肩の荷が下りた……っていうか、すごく楽になった。
「ふふっ、エールティアってば、本当に怖がりさんね。怒られるの、苦手ですものね」
からかうように微笑んでくるお母様に困惑しながら笑うことくらいしかできなかった。叱られる度にこんなやり取りをしてるものだから、お母様もすっかり慣れたようだった。
「あ、あはは……お母様にはお見通しって事ですね」
「当たり前です。私は貴女の母なのですからね」
その言葉を聞いた瞬間――温かいものと冷たいものが同時に襲い掛かってくる。
私の事を理解してくれてるっていう優しさ。前の世界での事も含めて、お母様でも私の事は理解できるわけがないっていう孤独。同時に襲ったそれらが混ざって、自分の中でよくわからない、複雑な気持ちに仕上がっていく。
「エールティア、どうしましたか?」
なるべく表情には出さないようにしてたんだけど……お母様は何か感づいたような顔で私を心配するような目をしてた。
「……いえ、やっぱり叱られるのは慣れませんから」
「……そう? それならいいんですけど」
お母様は『それだけじゃないでしょう?』とでも言いたそうだったけど、それ以上何も言わないでいてくれた。
「さあ、それじゃあお昼も近いし、早めの食事にしましょうか」
「あ、はい」
お茶を飲み干したお母様は、そのまま私を案内するように部屋の外へと出る。食堂の方に行くと……既にお父様が席についていた。
「あら? なんでお父様が?」
「貴女が中々起きてこないから、準備させていたんですよ。ほら、お父様に言う事があるでしょう?」
お母様に背中を押された私は、お父様のところに歩み寄って行った。
「お父様。遅れましたが、おはようございます」
「ああ、おはよう……とは言うが、少し遅いのではないか?」
「申し訳ございません。連日の疲れのせいか、すっかり遅くなってしまいました」
「そうか。アルティラからも十分叱られてるだろうから、早く席に着きなさい」
お父様は私が二度の決闘を制覇した結果、特待生クラスに行くことになったって事を知ってる。だから思うところはあるだろうけど、それを抑えて微笑んでくれた。
「はい。それにしても……よくこんなに早く用意できましたね?」
「貴女が起きてくるのが遅いから、ですよ」
こういう気配りが出来るのは、本当に嬉しくなってくる。
昼と言うには早くて、お昼というには遅い。いつ来るかわからないのに、目の前には出来立ての料理があるんだもの。私の事を大切にしてくれている証拠で……自然と心が温かくなったような気がした。
朝から怒られて色々とあったけれど、今日は良い日になるかもしれない――そんな予感を抱かせるような一日が、今始まろうとしていた。
リュネーと一緒に寄り道した次の日。丁度学園は休みで、昨日の精神的疲れのせいか、私はいつもよりも惰眠を貪ってた。
時期はまだ春で、窓から射してくる陽気もぽかぽかと温かくて……私は――
「……様! ――ィア様!」
「ぁう……?」
何か大きな声が聞こえて揺さぶられた私は、重たい目を開けて――そこにはいつも私の世話をしてくれてるメイドの姿があった。
「エールティア様、お目覚めですか?」
「……私、どれくらい……?」
「もうお昼も近くなっていますよ。アルティラ様も少しお怒りですよ」
それを聞いた私は、寝起きの頭にじわーっと沁み込んでいって……その意味も理解した瞬間、サッと頭から血がなくなっていくような気がした。
――捨てられる。
そんな事は絶対にないはずなのに、一瞬でも頭にそれがよぎったら、忘れる事なんて出来る訳なかった。メイドに着替えを手伝ってもらって、すぐに着替える。彼女も私が急いでるのに合わせて手伝ってくれる。その時、なんでかちょっと大人びた黒いワンピースを着せられたけど……まあ、特別悪いってわけでもないからあまり気にしたら負けかも。
着替え終わった私は、そのまま急いでお母様の部屋に行って……優雅にお茶をしてるお母様を見つける。
「あ――」
何か言おうとしたけれど……自分の出した声が震えかけてるのに気づいて、慌てて息を整える。
――大丈夫。普段通り。いつも通りに振舞えば、何にも問題ないはず……。
「……お母様。おはようございます」
「エールティア。特待生クラスでも勉強することになって色々と忙しく、疲れているのもわかります。ですが、これは少し惰性が過ぎるのではありませんか?」
「はい……言い訳しようもありません」
深いため息をついて、叱りつけるように視線を向けてきたお母様にすごく申し訳ない気持ちになってくる。
「……わかっているのでしたら、次から気を付けなさい。貴女はこのティリアース王家の――リシュファス家の一人娘なのですからね」
お母様は『しょうがないわね』みたいな優しい顔つきで私に来るように手で催促してきた。それにふらふらと吸い寄せられるように近づくと、お母様は私の頭に優しく手を乗せて撫でてくれた。
「……はい」
いつものお母様の雰囲気に戻って、私の方も少し肩の荷が下りた……っていうか、すごく楽になった。
「ふふっ、エールティアってば、本当に怖がりさんね。怒られるの、苦手ですものね」
からかうように微笑んでくるお母様に困惑しながら笑うことくらいしかできなかった。叱られる度にこんなやり取りをしてるものだから、お母様もすっかり慣れたようだった。
「あ、あはは……お母様にはお見通しって事ですね」
「当たり前です。私は貴女の母なのですからね」
その言葉を聞いた瞬間――温かいものと冷たいものが同時に襲い掛かってくる。
私の事を理解してくれてるっていう優しさ。前の世界での事も含めて、お母様でも私の事は理解できるわけがないっていう孤独。同時に襲ったそれらが混ざって、自分の中でよくわからない、複雑な気持ちに仕上がっていく。
「エールティア、どうしましたか?」
なるべく表情には出さないようにしてたんだけど……お母様は何か感づいたような顔で私を心配するような目をしてた。
「……いえ、やっぱり叱られるのは慣れませんから」
「……そう? それならいいんですけど」
お母様は『それだけじゃないでしょう?』とでも言いたそうだったけど、それ以上何も言わないでいてくれた。
「さあ、それじゃあお昼も近いし、早めの食事にしましょうか」
「あ、はい」
お茶を飲み干したお母様は、そのまま私を案内するように部屋の外へと出る。食堂の方に行くと……既にお父様が席についていた。
「あら? なんでお父様が?」
「貴女が中々起きてこないから、準備させていたんですよ。ほら、お父様に言う事があるでしょう?」
お母様に背中を押された私は、お父様のところに歩み寄って行った。
「お父様。遅れましたが、おはようございます」
「ああ、おはよう……とは言うが、少し遅いのではないか?」
「申し訳ございません。連日の疲れのせいか、すっかり遅くなってしまいました」
「そうか。アルティラからも十分叱られてるだろうから、早く席に着きなさい」
お父様は私が二度の決闘を制覇した結果、特待生クラスに行くことになったって事を知ってる。だから思うところはあるだろうけど、それを抑えて微笑んでくれた。
「はい。それにしても……よくこんなに早く用意できましたね?」
「貴女が起きてくるのが遅いから、ですよ」
こういう気配りが出来るのは、本当に嬉しくなってくる。
昼と言うには早くて、お昼というには遅い。いつ来るかわからないのに、目の前には出来立ての料理があるんだもの。私の事を大切にしてくれている証拠で……自然と心が温かくなったような気がした。
朝から怒られて色々とあったけれど、今日は良い日になるかもしれない――そんな予感を抱かせるような一日が、今始まろうとしていた。
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