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33・休日の使い方
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お母様に怒られて少し早い昼食を食べた私は、町の中を散策する事にした。久しぶりに学園に通う以外の目的で外に出るけれど、特に目的のないっていうのは自由な気がして気持ちがいい。
身体の中に空気を満たすように深呼吸すると、ほんのり香る海の匂いが心地よく感じるくらい。
「エールティア様! お散歩ですかい?」
「ええ。ルルダはまだ仕事中?」
「これから少し休んで、また仕事でさぁ。エールティア様も毎日学園に通うのも大変でしょうね」
「そんな事ないわ。結構楽しんでるし――」
一休みしてた漁師のルルダと少しだけ話した私は、それからも他の人に度々話しかけられて……気がついたらそれなりに時間が経ってた。
小腹が空いた時に餌付けされるように渡された魚の串焼きを食べながら、のんびりと景色を楽しむように歩く。ちょっと行儀が悪いかも……とは思うけど、屋台の料理にはそれに沿ったマナーがある。私はそれを忠実に守ってるだけだ。
食べながら歩いて景色を楽しむ。昔の私じゃ考えられなかった事だ。暖かな陽気に誘われるように歩いてると、一人の女の子を見つけた。私よりずっと小さいゴブリン族の子だ。
「どうしたの?」
「え?」
おろおろと困ったように周囲を見回していたのが気になって、思わず声をかけると、びくっと全身を震わせて恐る恐るこっちを見た女の子はどうしようかと怯えてるようだった。
「ああ、大丈夫。何もしないから」
私は女の子の視線に合わせるようにしゃがんで、まっすぐ彼女を見るけど……それでも女の子は俯いてちらちらっと視線をこっちに向けてくるだけで何も言ってこなかった。
「貴女はどこからきたの? 迷子?」
だんまりを続けてるけれど、迷子かどうか聞いた瞬間、女の子の眉根が下がって泣きそうになってしまう。
「大丈夫。一緒に探してあげるから、ね?」
「で、でも……しらない人についていっちゃいけませんって……」
たどたどしく話す彼女の言葉に、思わず頷いてしまう。確かに、私も小さい頃、お母様によく言われたっけなぁ……。
「それじゃあ、自己紹介しましょう。私はエールティア・リシュファス。貴女は?」
「カティナ……」
「そう、じゃあカティナ。迷子になったんだったらお姉ちゃんが一緒に探してあげる」
「ほん……とう……?」
「ええ。本当よ」
出来る限り優しい口調で言ってあげるとカティナも少しは安心したのか、ようやく少しだけ笑みを見せてくれた。
「えと、ありが――」
カティナがお礼を言おうとした瞬間、彼女のお腹の中から声が聞こえてきた。それを恥ずかしそうにお腹を押さえて……つい、おかしくて思わず笑ってしまった。
「む……なんでわらうの?」
「ふふっ、ごめんなさい。ほら、近くに屋台があるから、行きましょう? お姉さんがごちそうしてあげる」
「……いいの?」
「ええ」
私の言葉を聞いたカティナは嬉しそうに笑ってくれた。そのまま近くでイルベルト豚の煮込みを売ってる屋台に行って、彼女にごちそうしてあげた。流石に私は魚を食べたばかりだから見てるだけだけど……よっぽどお腹が減ってたのか、すごい勢いで食べてた。
「美味しい?」
「うん!」
あどけない笑顔を向けてくれるカティナは、やっぱり子供らしくて可愛い。のんびりとその様子を眺めてると……遠くから声が聞こえてきた。
そっちの方に視線を向けてみると、ゴブリン族の男の子みたいで……って、どっかで見たことあるような気がする。どこだっけか……。
「お……い! ――ィナ――!」
ちょっと遠いから上手く聞き取れなかったけど、多分、誰かを探してるみたいだ。
「ね、カティナ」
「んぅー?」
「あのゴブリン族の子、知ってる?」
カティナはもごもごと肉を口の中に入れながら私が指差してる方向を見て――驚きの声が上がった。
「あ! お兄ちゃん!」
どうやらカティナのお兄さんのようだった。カティナが大声でお兄さんを呼んで手を振ってると、向こうもこっちに気付いたのか、少しずつ近づいてくる。顔が見えた辺りで、安心したような表情を浮かべてるのがわかって……次に私の方に気付いて驚きの表情を浮かべていた。
「エ、エールティア様!」
「……私を知ってるの?」
「僕ですよ。貴方の決闘の司会をした、ヘリッド・ホフマッツです!」
……あー、思い出した。そういうのもいたなぁ……。
「今、すっかり忘れていましたよね?」
「ええ」
「この問答で堂々とそう言い切れるのは貴女様だけですよ……」
苦笑いしてるヘリッド……先輩? は私に話しかけた後、怒るようにカティナを睨んだ。
「こら、お兄ちゃんから離れたらダメだって言ってるだろうが」
「……だってぇ」
何か言いたげなカティナは怒られると思ってるのか、シュン……とした表情で落ち込んでいた。
だけど、ヘリッド先輩は、カティナを優しく撫でて笑っていた。
「あんまり心配かけるな」
「……ごめんなさい」
謝ったカティナをどこか慈しむ様に見てるヘリッド先輩は、私の事を思い出したように頭を下げてきた。
「エールティア様、妹が迷惑をかけたみたいで、すみません」
「ううん。こっちも楽しかったから、大丈夫よ」
私の方もカティナを無事にヘリッド先輩に引き渡すことが出来たし、本当に良かった。
身体の中に空気を満たすように深呼吸すると、ほんのり香る海の匂いが心地よく感じるくらい。
「エールティア様! お散歩ですかい?」
「ええ。ルルダはまだ仕事中?」
「これから少し休んで、また仕事でさぁ。エールティア様も毎日学園に通うのも大変でしょうね」
「そんな事ないわ。結構楽しんでるし――」
一休みしてた漁師のルルダと少しだけ話した私は、それからも他の人に度々話しかけられて……気がついたらそれなりに時間が経ってた。
小腹が空いた時に餌付けされるように渡された魚の串焼きを食べながら、のんびりと景色を楽しむように歩く。ちょっと行儀が悪いかも……とは思うけど、屋台の料理にはそれに沿ったマナーがある。私はそれを忠実に守ってるだけだ。
食べながら歩いて景色を楽しむ。昔の私じゃ考えられなかった事だ。暖かな陽気に誘われるように歩いてると、一人の女の子を見つけた。私よりずっと小さいゴブリン族の子だ。
「どうしたの?」
「え?」
おろおろと困ったように周囲を見回していたのが気になって、思わず声をかけると、びくっと全身を震わせて恐る恐るこっちを見た女の子はどうしようかと怯えてるようだった。
「ああ、大丈夫。何もしないから」
私は女の子の視線に合わせるようにしゃがんで、まっすぐ彼女を見るけど……それでも女の子は俯いてちらちらっと視線をこっちに向けてくるだけで何も言ってこなかった。
「貴女はどこからきたの? 迷子?」
だんまりを続けてるけれど、迷子かどうか聞いた瞬間、女の子の眉根が下がって泣きそうになってしまう。
「大丈夫。一緒に探してあげるから、ね?」
「で、でも……しらない人についていっちゃいけませんって……」
たどたどしく話す彼女の言葉に、思わず頷いてしまう。確かに、私も小さい頃、お母様によく言われたっけなぁ……。
「それじゃあ、自己紹介しましょう。私はエールティア・リシュファス。貴女は?」
「カティナ……」
「そう、じゃあカティナ。迷子になったんだったらお姉ちゃんが一緒に探してあげる」
「ほん……とう……?」
「ええ。本当よ」
出来る限り優しい口調で言ってあげるとカティナも少しは安心したのか、ようやく少しだけ笑みを見せてくれた。
「えと、ありが――」
カティナがお礼を言おうとした瞬間、彼女のお腹の中から声が聞こえてきた。それを恥ずかしそうにお腹を押さえて……つい、おかしくて思わず笑ってしまった。
「む……なんでわらうの?」
「ふふっ、ごめんなさい。ほら、近くに屋台があるから、行きましょう? お姉さんがごちそうしてあげる」
「……いいの?」
「ええ」
私の言葉を聞いたカティナは嬉しそうに笑ってくれた。そのまま近くでイルベルト豚の煮込みを売ってる屋台に行って、彼女にごちそうしてあげた。流石に私は魚を食べたばかりだから見てるだけだけど……よっぽどお腹が減ってたのか、すごい勢いで食べてた。
「美味しい?」
「うん!」
あどけない笑顔を向けてくれるカティナは、やっぱり子供らしくて可愛い。のんびりとその様子を眺めてると……遠くから声が聞こえてきた。
そっちの方に視線を向けてみると、ゴブリン族の男の子みたいで……って、どっかで見たことあるような気がする。どこだっけか……。
「お……い! ――ィナ――!」
ちょっと遠いから上手く聞き取れなかったけど、多分、誰かを探してるみたいだ。
「ね、カティナ」
「んぅー?」
「あのゴブリン族の子、知ってる?」
カティナはもごもごと肉を口の中に入れながら私が指差してる方向を見て――驚きの声が上がった。
「あ! お兄ちゃん!」
どうやらカティナのお兄さんのようだった。カティナが大声でお兄さんを呼んで手を振ってると、向こうもこっちに気付いたのか、少しずつ近づいてくる。顔が見えた辺りで、安心したような表情を浮かべてるのがわかって……次に私の方に気付いて驚きの表情を浮かべていた。
「エ、エールティア様!」
「……私を知ってるの?」
「僕ですよ。貴方の決闘の司会をした、ヘリッド・ホフマッツです!」
……あー、思い出した。そういうのもいたなぁ……。
「今、すっかり忘れていましたよね?」
「ええ」
「この問答で堂々とそう言い切れるのは貴女様だけですよ……」
苦笑いしてるヘリッド……先輩? は私に話しかけた後、怒るようにカティナを睨んだ。
「こら、お兄ちゃんから離れたらダメだって言ってるだろうが」
「……だってぇ」
何か言いたげなカティナは怒られると思ってるのか、シュン……とした表情で落ち込んでいた。
だけど、ヘリッド先輩は、カティナを優しく撫でて笑っていた。
「あんまり心配かけるな」
「……ごめんなさい」
謝ったカティナをどこか慈しむ様に見てるヘリッド先輩は、私の事を思い出したように頭を下げてきた。
「エールティア様、妹が迷惑をかけたみたいで、すみません」
「ううん。こっちも楽しかったから、大丈夫よ」
私の方もカティナを無事にヘリッド先輩に引き渡すことが出来たし、本当に良かった。
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