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34・苛立つ瞳
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ヘリッド先輩の妹と遊んでから数日。私は相変わらず午前は一年。午後は二年の特待生クラスでの授業を受けていた。一年の座学はまだ退屈だけど、まだ復習だと思えばなんとかなった。特待生の授業は戦いと魔導で……こっちの方も微妙だった。
いや、一年生のクラスじゃ見れない光景が繰り広げられてるし、特待生という身分を名乗るだけはあると思う。私から見てもしっかりとした戦闘技術を持ってる。人を殺したことがない事を除いたら、向こうの世界の兵士よりはずっと強い。純粋に技術だけを磨いてるのを見るのは、輝いてる物を見るようで気持ちが良かった。
ただ一つ……私の事を憎むような視線で睨んでくるハクロ先輩の事を除いて……だけど。
彼は相変わらず事あるごとに私の事を睨んできて、居心地の悪さを感じてしまう。他の先輩方から聞いた話だと……ハクロ先輩は平民の出で、一年生の頃に貴族に絡まれた事があるらしい。それでその貴族をぼこぼこにした結果、疎まれて貴族グループから標的にされた……らしい。それでめげずに頑張って、一年生の成績を座学・戦闘全てにおいて優秀な成績を残して特待生クラスへ。嫌がらせしてきた貴族すべてに決闘を挑んで、全員に自分に二度と手を出さないように約束させた……とか。
そんな経緯があるから、王族の私が自分の領域に踏み込んできたことに怒りを覚えてる――それが先輩達が私に教えてくれた事の全てだった。
確かに、それなら気持ちはわかるけれど……あの人の目はそんなんじゃなかった。なんていうか……そういう淀んだ感じじゃない気がした。
「何考えてるのー?」
頭を抱えそうになるのを堪えて悩んでる私に、心配そうな目でシェイン先輩が声を掛けてくれた。相変わらず眠そうで、どこかのんびりしたような声色だけど、この人はいつもこんな感じだからもう気にしてない。
「ハクロ先輩の事なんですけれど……」
「あー……」
シェイン先輩は困ったような声で視線をハクロ先輩に向けていた。ハクロ先輩は私達が見てるのも気にしてない様子で本を読んでた。窓際からの明かりが差し込んでるところに風が優しく吹き抜けて……どこか知的で雰囲気があった。
「ぼくも気になるけどさー。こればっかりは時間が解決するってねー」
「とてもそうには思えないんですけどね」
「だったらー……戦っちゃうー?」
「……なんでそうなるんですか?」
私は別にハクロ先輩が憎い訳じゃないし、敵って訳でもない。それなのに戦うなんて訳がわからない。
「拳や剣を交える事によって育まれる友情もあると申しますしな。実際、戦ってみれば互いの気持ちもわかる事でしょう」
私とシェイン先輩の会話に混ざってきた蒼鬼先輩もおんなじ事を言ってきた。そんな戦闘種族みたいな事を言われてもなぁ……。
しかも周りで見物してた生徒の何人かも同じように頷いてるように見えた。
「ハクロー、エールティアちゃんが君の事を良く知りたいから決闘したいってさー」
「ちょ!? シェイン先輩!?」
私の想いとか悩みとか全部無視するようにシェイン先輩がとととーっとハクロ先輩のところに行ってしまった。
「……僕と、だと?」
鼻で笑って見下すような視線を私に向けてきたハクロ先輩に、私はまたムッとしてしまう。だけど、ここで余計な事を言ったら、また決闘することになるから黙って視線だけを逸らし続けた。
「笑わせないでくれ。僕はそんなくだらない事に時間を費やしている暇はない」
「そう言わないで受けてあげれば良いでしょう? 拙僧達とはよく手合わせするではありませぬか」
「それは君達が僕が持ってない物を持ってるからだ。一年生の……しかも入学して半年も経たない奴と戦って得られる物などあるものか」
そこまで言い切られると、私の方も思うところがある。だけど別に何か被害に遭った訳でもないし……ぐっと我慢してちらっとハクロ先輩の方を見ると――
「なんだ? 睨む事だけは一人前か」
「前から思ってたんですけど、そんなに私の事、気に入らないですか?」
「ああ。気に食わないね。お前みたいなのがここにいるだけでも虫唾が走る」
吐き捨てるように見下してくるハクロ先輩の言葉には、カチンとくるものがあった。なんでそこまで言われなきゃならないんだって。
「……貴方にそこまで言われる筋合いないわ。私は先生方に認められてここにいる。それが気に入らないっていうのなら、ここから追い出してみなさいよ。他の貴族の子達にやったように、ね。もっとも、その度胸がないから睨むだけで終わってるんでしょうけど」
「……良いだろう。そこまで出ていきたいというのなら、やってやろうじゃないか」
売り言葉に買い言葉。火花が散るんじゃないかって程睨みつけて……結局私は、また決闘をすることになった。今度はルドゥリア先輩やクリム先輩との時とは違う。特待生の――それもみんなに一目置かれてる先輩との戦い。一筋縄じゃいかなさそうだけど……こっちも引っ込みがつかない。
戦うって決めてから逃げるなんて……そんなの絶対に嫌だからね。
いや、一年生のクラスじゃ見れない光景が繰り広げられてるし、特待生という身分を名乗るだけはあると思う。私から見てもしっかりとした戦闘技術を持ってる。人を殺したことがない事を除いたら、向こうの世界の兵士よりはずっと強い。純粋に技術だけを磨いてるのを見るのは、輝いてる物を見るようで気持ちが良かった。
ただ一つ……私の事を憎むような視線で睨んでくるハクロ先輩の事を除いて……だけど。
彼は相変わらず事あるごとに私の事を睨んできて、居心地の悪さを感じてしまう。他の先輩方から聞いた話だと……ハクロ先輩は平民の出で、一年生の頃に貴族に絡まれた事があるらしい。それでその貴族をぼこぼこにした結果、疎まれて貴族グループから標的にされた……らしい。それでめげずに頑張って、一年生の成績を座学・戦闘全てにおいて優秀な成績を残して特待生クラスへ。嫌がらせしてきた貴族すべてに決闘を挑んで、全員に自分に二度と手を出さないように約束させた……とか。
そんな経緯があるから、王族の私が自分の領域に踏み込んできたことに怒りを覚えてる――それが先輩達が私に教えてくれた事の全てだった。
確かに、それなら気持ちはわかるけれど……あの人の目はそんなんじゃなかった。なんていうか……そういう淀んだ感じじゃない気がした。
「何考えてるのー?」
頭を抱えそうになるのを堪えて悩んでる私に、心配そうな目でシェイン先輩が声を掛けてくれた。相変わらず眠そうで、どこかのんびりしたような声色だけど、この人はいつもこんな感じだからもう気にしてない。
「ハクロ先輩の事なんですけれど……」
「あー……」
シェイン先輩は困ったような声で視線をハクロ先輩に向けていた。ハクロ先輩は私達が見てるのも気にしてない様子で本を読んでた。窓際からの明かりが差し込んでるところに風が優しく吹き抜けて……どこか知的で雰囲気があった。
「ぼくも気になるけどさー。こればっかりは時間が解決するってねー」
「とてもそうには思えないんですけどね」
「だったらー……戦っちゃうー?」
「……なんでそうなるんですか?」
私は別にハクロ先輩が憎い訳じゃないし、敵って訳でもない。それなのに戦うなんて訳がわからない。
「拳や剣を交える事によって育まれる友情もあると申しますしな。実際、戦ってみれば互いの気持ちもわかる事でしょう」
私とシェイン先輩の会話に混ざってきた蒼鬼先輩もおんなじ事を言ってきた。そんな戦闘種族みたいな事を言われてもなぁ……。
しかも周りで見物してた生徒の何人かも同じように頷いてるように見えた。
「ハクロー、エールティアちゃんが君の事を良く知りたいから決闘したいってさー」
「ちょ!? シェイン先輩!?」
私の想いとか悩みとか全部無視するようにシェイン先輩がとととーっとハクロ先輩のところに行ってしまった。
「……僕と、だと?」
鼻で笑って見下すような視線を私に向けてきたハクロ先輩に、私はまたムッとしてしまう。だけど、ここで余計な事を言ったら、また決闘することになるから黙って視線だけを逸らし続けた。
「笑わせないでくれ。僕はそんなくだらない事に時間を費やしている暇はない」
「そう言わないで受けてあげれば良いでしょう? 拙僧達とはよく手合わせするではありませぬか」
「それは君達が僕が持ってない物を持ってるからだ。一年生の……しかも入学して半年も経たない奴と戦って得られる物などあるものか」
そこまで言い切られると、私の方も思うところがある。だけど別に何か被害に遭った訳でもないし……ぐっと我慢してちらっとハクロ先輩の方を見ると――
「なんだ? 睨む事だけは一人前か」
「前から思ってたんですけど、そんなに私の事、気に入らないですか?」
「ああ。気に食わないね。お前みたいなのがここにいるだけでも虫唾が走る」
吐き捨てるように見下してくるハクロ先輩の言葉には、カチンとくるものがあった。なんでそこまで言われなきゃならないんだって。
「……貴方にそこまで言われる筋合いないわ。私は先生方に認められてここにいる。それが気に入らないっていうのなら、ここから追い出してみなさいよ。他の貴族の子達にやったように、ね。もっとも、その度胸がないから睨むだけで終わってるんでしょうけど」
「……良いだろう。そこまで出ていきたいというのなら、やってやろうじゃないか」
売り言葉に買い言葉。火花が散るんじゃないかって程睨みつけて……結局私は、また決闘をすることになった。今度はルドゥリア先輩やクリム先輩との時とは違う。特待生の――それもみんなに一目置かれてる先輩との戦い。一筋縄じゃいかなさそうだけど……こっちも引っ込みがつかない。
戦うって決めてから逃げるなんて……そんなの絶対に嫌だからね。
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