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51・夏休みの計画
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ジュールと一緒にお父様の執務室に行くと、丁度仕事が終わったのか、書類を持っていく執事と入れ替わるように私達は中に入った。
「お父様、失礼します」
丁度首を回して疲れたような仕草を取っていたお父様は、私の姿を見つけると嬉しそうに微笑んでくれた。
「エールティアか。丁度良かった」
「私に話があるんですよね」
「そうだ……が、お前に手紙を預かっている」
手紙? と思ったけれど、エルデが持ってたそれを受け取って、誰からか眺めていると……シルケット王家の封蝋がされているのが見えた。
「これは……」
「心当たりがあるようだな」
封を切って中身を見ると、やっぱりリュネーからの手紙だった。色々何か書いてあったけど、要は『国に遊びに来てください』ってことだった。
お父様が気にしている様子だったから、そのままエルデに手紙を渡して、彼経由でお父様はリュネーが私に宛てた手紙を確認した。
「……なるほど。シルケット王家の娘か」
お父様の一言で後ろの方から不機嫌のオーラが伝わってくるような気がした。ジュールの頭の中でリュネーの事と結びついたんだろう。あまりお父様達を刺激しないようにして欲しいなぁ……と思っていたけど、それとは別にお父様の表情には笑みが浮かんでいた。
「運が悪い……いや、丁度良いか。シルケットに向かうのは良いが、その前に雪桜花に行くぞ」
「雪桜花?」
確か遥か昔に『セツオウカ』って呼ばれてた鬼人族の国が時を経て、『雪桜花』という国が出来上がったのだとか。他の国とは全く違う独自の文化を築き上げているようで、そのこだわりは魔導車や魔導鉄道と呼ばれるものが走ってる現在でも脈々と受け継がれているらしい。
「そうだ。実は雪桜花の出雲大将軍の招待を受けているのだよ。エールティアやアルシェラも一緒に……ということでな。先にそちらの方に行ってからシルケットに向かう事にすれば、お前が懇意にしている者にも良い土産話が出来る……だろう?」
その言葉に私は驚きの表情を浮かべてたと思う。大将軍っていうのは私達風に言えば『公爵』と同じ位で……最も王族に近い存在だ。雪桜花を統べる覇王の二番目に偉い人ってことだろう。お父様の言う事が本当なら――と言っても、嘘なんて吐かないんだろうけど、そんな人物の誘いを断るわけにはいかないだろう。それに、土産話って事ならリュネーやレイアにも聞かせてあげたいし、私が拒否する理由なんて全くない。
「そうですね……わかりました。私も雪桜花に向かうのは初めての事ですし、不安もありますが……楽しみにさせてもらいますね」
「ああ。今頃の雪桜花であれば、エールティアも十分に楽しめるだろう。出発はペストラの2の日になる。それまでに準備をしておきなさい。……そうそう、ジュールも一緒に連れて行くと良い。その方が良かろう」
後ろの方を見てみると、案の定嬉しそうな顔をしているジュールがそこにはいた。
「……よろしいのですか?」
「無論だ。エールティアの従者として恥ずかしくないようにしておきなさい」
「は、はい!」
ジュールの方も自分が行けるとは思ってもみなかったのか、嬉しそうな声を上げていた。
本当に大丈夫なのかな? って気持ちも強いけれど、お父様に限って危ないところに連れて行く訳がないし、多分大丈夫だろう。
「手紙の主――リュネーと言ったか。その少女への返信にも雪桜花に行く事を書いておきなさい。具体的に何時ごろに行くか伝えてあげれば、彼女の方も準備しやすいだろう?」
「そうですね。では……雪桜花にはいつまで?」
「そうだな……あの国では13の日から15の日まで祭りで賑わっている。移動手段なども考えれば17か18の日にはそちらについているだろう」
お父様の説明を受けた私は、移動手段にワイバーンを使う事になるんだろうな、と頭の中で思った。
陸はラントルオが一番早く、空はワイバーンが最も速い。いや、竜人族の中にはそれ以上に速いのも多いらしいけれど、種族の平均で言えばワイバーンの方に軍配が上がるのだとか。
ずっと昔は高価であまり交通の手段として使われる事は少なかったそうだけど、今では日常的に使われるほどになってる。遠い別の国に行くのには便利だし、ラントルオで雪桜花に行くのなら、どんなに頑張っても十日は掛かる。だけどワイバーンを使ったら、乗り継ぐ事も考えても二日程度で済む。障害物のある陸路と、それが一切ない空路。その差……とも言える。って言っても、私も知識でしか知らないことだし、実際乗るのはこれが初めてになる。
「わかりました。では彼女への手紙には、そのように書いておきますね」
「ああ。明日中に出せば、雪桜花にいる間に届くだろう。もし向こうに返信する気があるのならば、出雲大将軍のところに届くように書くよう、ちゃんと伝えるのだぞ」
「はい」
私は一刻も早くリュネーに色々伝えたい――という気持ちを胸に、お父様の部屋を後にした。転生前でも知らない空の旅に、初めて見るであろう雪桜花やシルケットの光景に想い馳せて――
「お父様、失礼します」
丁度首を回して疲れたような仕草を取っていたお父様は、私の姿を見つけると嬉しそうに微笑んでくれた。
「エールティアか。丁度良かった」
「私に話があるんですよね」
「そうだ……が、お前に手紙を預かっている」
手紙? と思ったけれど、エルデが持ってたそれを受け取って、誰からか眺めていると……シルケット王家の封蝋がされているのが見えた。
「これは……」
「心当たりがあるようだな」
封を切って中身を見ると、やっぱりリュネーからの手紙だった。色々何か書いてあったけど、要は『国に遊びに来てください』ってことだった。
お父様が気にしている様子だったから、そのままエルデに手紙を渡して、彼経由でお父様はリュネーが私に宛てた手紙を確認した。
「……なるほど。シルケット王家の娘か」
お父様の一言で後ろの方から不機嫌のオーラが伝わってくるような気がした。ジュールの頭の中でリュネーの事と結びついたんだろう。あまりお父様達を刺激しないようにして欲しいなぁ……と思っていたけど、それとは別にお父様の表情には笑みが浮かんでいた。
「運が悪い……いや、丁度良いか。シルケットに向かうのは良いが、その前に雪桜花に行くぞ」
「雪桜花?」
確か遥か昔に『セツオウカ』って呼ばれてた鬼人族の国が時を経て、『雪桜花』という国が出来上がったのだとか。他の国とは全く違う独自の文化を築き上げているようで、そのこだわりは魔導車や魔導鉄道と呼ばれるものが走ってる現在でも脈々と受け継がれているらしい。
「そうだ。実は雪桜花の出雲大将軍の招待を受けているのだよ。エールティアやアルシェラも一緒に……ということでな。先にそちらの方に行ってからシルケットに向かう事にすれば、お前が懇意にしている者にも良い土産話が出来る……だろう?」
その言葉に私は驚きの表情を浮かべてたと思う。大将軍っていうのは私達風に言えば『公爵』と同じ位で……最も王族に近い存在だ。雪桜花を統べる覇王の二番目に偉い人ってことだろう。お父様の言う事が本当なら――と言っても、嘘なんて吐かないんだろうけど、そんな人物の誘いを断るわけにはいかないだろう。それに、土産話って事ならリュネーやレイアにも聞かせてあげたいし、私が拒否する理由なんて全くない。
「そうですね……わかりました。私も雪桜花に向かうのは初めての事ですし、不安もありますが……楽しみにさせてもらいますね」
「ああ。今頃の雪桜花であれば、エールティアも十分に楽しめるだろう。出発はペストラの2の日になる。それまでに準備をしておきなさい。……そうそう、ジュールも一緒に連れて行くと良い。その方が良かろう」
後ろの方を見てみると、案の定嬉しそうな顔をしているジュールがそこにはいた。
「……よろしいのですか?」
「無論だ。エールティアの従者として恥ずかしくないようにしておきなさい」
「は、はい!」
ジュールの方も自分が行けるとは思ってもみなかったのか、嬉しそうな声を上げていた。
本当に大丈夫なのかな? って気持ちも強いけれど、お父様に限って危ないところに連れて行く訳がないし、多分大丈夫だろう。
「手紙の主――リュネーと言ったか。その少女への返信にも雪桜花に行く事を書いておきなさい。具体的に何時ごろに行くか伝えてあげれば、彼女の方も準備しやすいだろう?」
「そうですね。では……雪桜花にはいつまで?」
「そうだな……あの国では13の日から15の日まで祭りで賑わっている。移動手段なども考えれば17か18の日にはそちらについているだろう」
お父様の説明を受けた私は、移動手段にワイバーンを使う事になるんだろうな、と頭の中で思った。
陸はラントルオが一番早く、空はワイバーンが最も速い。いや、竜人族の中にはそれ以上に速いのも多いらしいけれど、種族の平均で言えばワイバーンの方に軍配が上がるのだとか。
ずっと昔は高価であまり交通の手段として使われる事は少なかったそうだけど、今では日常的に使われるほどになってる。遠い別の国に行くのには便利だし、ラントルオで雪桜花に行くのなら、どんなに頑張っても十日は掛かる。だけどワイバーンを使ったら、乗り継ぐ事も考えても二日程度で済む。障害物のある陸路と、それが一切ない空路。その差……とも言える。って言っても、私も知識でしか知らないことだし、実際乗るのはこれが初めてになる。
「わかりました。では彼女への手紙には、そのように書いておきますね」
「ああ。明日中に出せば、雪桜花にいる間に届くだろう。もし向こうに返信する気があるのならば、出雲大将軍のところに届くように書くよう、ちゃんと伝えるのだぞ」
「はい」
私は一刻も早くリュネーに色々伝えたい――という気持ちを胸に、お父様の部屋を後にした。転生前でも知らない空の旅に、初めて見るであろう雪桜花やシルケットの光景に想い馳せて――
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