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52・初めて見る飛竜
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リュネーに返信の手紙を出した次の日。ペストラの3の日に私達は町の外れの方にあるワイバーン発着場にやってきた。
「私、ここまで来るの初めてです」
「そうでしょうね。ここは他国に行く方や貿易商などの者達が使う施設ですからね。エールティアはワイバーンに乗るの、初めてでしょう?」
「はい。ですから、少し楽しみです」
珍しい物がいっぱいで、ついきょろきょろと視線を向けていると、お母様が子供を見るような優しい眼差しを私に向けてきていた。
「二人とも、準備が整ったぞ」
ワイバーンの方で荷物の運搬を見ていたお父様が、私達の方に歩いてきた。
「エールティア、行きましょう」
「はい」
「こっちだ。付いてきなさい」
お父様の案内を受けて、私は自分が乗る予定のワイバーンと対面した。つやつやと光る緑色の鱗が綺麗で、良い食事をして良質な睡眠をとってるんだろうな、と思わせる程。
「クルルルル……」
ワイバーンはどこか甘えたような声を出して、のんびりしてるように見える。それが三頭。違いはあまり……というか全くないと言ってもいい。
「あれ、なんで三頭なんですか?」
「私はアルシェラと。エールティアはジュールとそれぞれ乗る予定だ。最後の一頭はエンデに乗ってもらい、その分荷物を積み込んである」
「わ、わわわ、私がエールティア様の!?」
今さっきまで積み込みを手伝っていたジュールは、こっちに戻ってくると慌てたような声を上げていた。
丁度よくお父様の話を聞いていたみたいで、照れるように顔を赤くしていた。
「必要以上にワイバーンを借り受けると、いざという時に対応出来ないからな」
「ですが、王族公爵のお父様がわざわざ外の国に行くのですから、見栄というのが必要なのでは?」
貴族っていうのは侮られるのが我慢ならない上に、他人を見下したいって種族のようなもので……だから見栄を張りたがる。例外もいるけどね。お父様がそんな輩に見下されるのはちょっと――いや、かなり嫌だ。
「出雲大将軍はそのような小さい事で人を嘲るようなことはしない。むしろ余計な見栄を張るものを哀れむような御方だ。だからこそ、私も懇意にしているのだよ」
安心しろとでも言うかのように笑ってくれたお父様のおかげで、少しは不安が薄れていった。お父様がそこまで褒めるのも珍しい。
「そうですね。私も会ったことはありますが、中々の御方でしたね」
「それよりも早く乗りなさい。これから中継都市に行って、そこで一泊した後、雪桜花を目指すぞ」
颯爽と乗り込んだお父様は、お母様に手を差し伸ばしてワイバーンの背中に乗せてあげた。
その一瞬――あの時の光景が脳裏に蘇る。手を伸ばした私を払い退けた彼。求めた者に拒絶された苦悩。
「エールティア様?」
「え? あ、ごめんなさい」
それをぼーっと見てるとジュールが不思議そうに声を掛けてきた。流石に見惚れてたなんて言えないからね。私の方もさっさと乗り込んでジュールを後ろに乗せてあげる。……お父様と違ってかなり不器用になっちゃったけれど、苦労してなんとか乗せると、彼女はすごく喜んでくれた。
「わぁ……景色が変わって見えますね!」
私の方も普段だったら喜んだりするんだけれど、あの出来事がフラッシュバックしてしまって素直に喜べない。
「よし、全員乗ったな。手綱をしっかり握って、そこに付いてる魔道具に話しかけたら、ワイバーンが勝手にルートを辿ってくれる。もちろん、手綱を使ってある程度操作する事も出来るが、慣れないうちは握るだけにしておくように」
お父様が私の方を向いて忠告してくれてるから、素直に頷いておく。私としてもいきなりワイバーンを操ってくれと言われても無理だから絶対にしない。
魔道具――マイクに向かって雪桜花に向かうように話しかけると、ワイバーンは大きく一鳴きして、その身体を大空へと舞い上げた。一瞬、身体全体に負荷がかかったけれど……それもすぐになくなって、広がるのは一面の青と白の世界。
「うわあ……」
思わず感嘆の声が漏れて、その光景を眺めていた。
――これが、空の世界。
もっと風を感じるものかと思ったけど、不思議とほとんどない。むしろそよ風程度かな。別に圧を感じる事もないし、転生前に乗ったことのある馬のような感じだけど、目の前に広がる光景の爽快感はそれ以上だ。
「すごいです……これが、空を移動するって事なんですね……」
後ろの方でも感動したような声が漏れている。ジュールの方もこの光景に目を奪われてるみたい。
ここが空の上じゃなかったら様子を窺うことくらいしたかったけど、流石に怖い。私なら落ちても死なないだろうけど、それとこれとはまた別の問題だからね。
ワイバーン達はある程度距離を保ちながら飛行を続けているから、お父様達に話しかけても声が届くことはない。ジュールの方も景色に見惚れているようで、さっきの一言以外はあまり言葉が出ないようだし……しばらくの間はこの空の旅を満喫することに集中しようかな。
「私、ここまで来るの初めてです」
「そうでしょうね。ここは他国に行く方や貿易商などの者達が使う施設ですからね。エールティアはワイバーンに乗るの、初めてでしょう?」
「はい。ですから、少し楽しみです」
珍しい物がいっぱいで、ついきょろきょろと視線を向けていると、お母様が子供を見るような優しい眼差しを私に向けてきていた。
「二人とも、準備が整ったぞ」
ワイバーンの方で荷物の運搬を見ていたお父様が、私達の方に歩いてきた。
「エールティア、行きましょう」
「はい」
「こっちだ。付いてきなさい」
お父様の案内を受けて、私は自分が乗る予定のワイバーンと対面した。つやつやと光る緑色の鱗が綺麗で、良い食事をして良質な睡眠をとってるんだろうな、と思わせる程。
「クルルルル……」
ワイバーンはどこか甘えたような声を出して、のんびりしてるように見える。それが三頭。違いはあまり……というか全くないと言ってもいい。
「あれ、なんで三頭なんですか?」
「私はアルシェラと。エールティアはジュールとそれぞれ乗る予定だ。最後の一頭はエンデに乗ってもらい、その分荷物を積み込んである」
「わ、わわわ、私がエールティア様の!?」
今さっきまで積み込みを手伝っていたジュールは、こっちに戻ってくると慌てたような声を上げていた。
丁度よくお父様の話を聞いていたみたいで、照れるように顔を赤くしていた。
「必要以上にワイバーンを借り受けると、いざという時に対応出来ないからな」
「ですが、王族公爵のお父様がわざわざ外の国に行くのですから、見栄というのが必要なのでは?」
貴族っていうのは侮られるのが我慢ならない上に、他人を見下したいって種族のようなもので……だから見栄を張りたがる。例外もいるけどね。お父様がそんな輩に見下されるのはちょっと――いや、かなり嫌だ。
「出雲大将軍はそのような小さい事で人を嘲るようなことはしない。むしろ余計な見栄を張るものを哀れむような御方だ。だからこそ、私も懇意にしているのだよ」
安心しろとでも言うかのように笑ってくれたお父様のおかげで、少しは不安が薄れていった。お父様がそこまで褒めるのも珍しい。
「そうですね。私も会ったことはありますが、中々の御方でしたね」
「それよりも早く乗りなさい。これから中継都市に行って、そこで一泊した後、雪桜花を目指すぞ」
颯爽と乗り込んだお父様は、お母様に手を差し伸ばしてワイバーンの背中に乗せてあげた。
その一瞬――あの時の光景が脳裏に蘇る。手を伸ばした私を払い退けた彼。求めた者に拒絶された苦悩。
「エールティア様?」
「え? あ、ごめんなさい」
それをぼーっと見てるとジュールが不思議そうに声を掛けてきた。流石に見惚れてたなんて言えないからね。私の方もさっさと乗り込んでジュールを後ろに乗せてあげる。……お父様と違ってかなり不器用になっちゃったけれど、苦労してなんとか乗せると、彼女はすごく喜んでくれた。
「わぁ……景色が変わって見えますね!」
私の方も普段だったら喜んだりするんだけれど、あの出来事がフラッシュバックしてしまって素直に喜べない。
「よし、全員乗ったな。手綱をしっかり握って、そこに付いてる魔道具に話しかけたら、ワイバーンが勝手にルートを辿ってくれる。もちろん、手綱を使ってある程度操作する事も出来るが、慣れないうちは握るだけにしておくように」
お父様が私の方を向いて忠告してくれてるから、素直に頷いておく。私としてもいきなりワイバーンを操ってくれと言われても無理だから絶対にしない。
魔道具――マイクに向かって雪桜花に向かうように話しかけると、ワイバーンは大きく一鳴きして、その身体を大空へと舞い上げた。一瞬、身体全体に負荷がかかったけれど……それもすぐになくなって、広がるのは一面の青と白の世界。
「うわあ……」
思わず感嘆の声が漏れて、その光景を眺めていた。
――これが、空の世界。
もっと風を感じるものかと思ったけど、不思議とほとんどない。むしろそよ風程度かな。別に圧を感じる事もないし、転生前に乗ったことのある馬のような感じだけど、目の前に広がる光景の爽快感はそれ以上だ。
「すごいです……これが、空を移動するって事なんですね……」
後ろの方でも感動したような声が漏れている。ジュールの方もこの光景に目を奪われてるみたい。
ここが空の上じゃなかったら様子を窺うことくらいしたかったけど、流石に怖い。私なら落ちても死なないだろうけど、それとこれとはまた別の問題だからね。
ワイバーン達はある程度距離を保ちながら飛行を続けているから、お父様達に話しかけても声が届くことはない。ジュールの方も景色に見惚れているようで、さっきの一言以外はあまり言葉が出ないようだし……しばらくの間はこの空の旅を満喫することに集中しようかな。
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