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198・奇妙な符号点
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襲撃があった次の日の朝。私にシャラと名乗った鬼人族の男は、綺麗さっぱりと姿を消していた。私の【バインドソーン】を焼き切った後があるから、多分あの後誰かが助けに来たのだろう。
私が兵士を呼びに行っている間に、シャラはいなくなっていた。雪風とジュールは、襲撃者が逃げた事実に心底残念そうな顔をしていたけれど、お父様は別に何とも思っていなかった。
……いや、心配そうな表情をして「大丈夫か?」とか聞いてくれたり、甘いお菓子や私が好きな料理を持って来てくれたりはしてくれたかな。
少なくとも、襲撃者については何とも思っていないみたいだった。普通だったら何か思うところがあると思うんだけれど……。
もしかしたら、既に何らかの策を打っているのかもしれない。私の知るところではないけどね。
問題は……シャラを差し向けた者よりも、彼が所属している組織の存在だろう。
彼が単独で暗殺依頼を引き受けるようなタイプであれば、私が感じたようなちぐはぐさはなかったはずだ。素人の殺し屋に要人暗殺を依頼するような間抜けな貴族なんてまず存在しない。なんの実績も持っていない輩を雇うなんて正気の沙汰じゃない。
だとしたら、誰かの紹介か……そういう組織からの刺客かのどちらかだ。どっちにしても裏で操っている連中がいるって訳だ。だからこそ、シャラを助けに来た誰かがいる訳なんだけど。
何はともあれ、私が考えても仕方のない事なのは確かだろう。これ以上何か出来る訳でもないし、するつもりもない。いつも通り、敵がやってきたら戦って打ち倒せばいい。それだけしかやる事はないんだしね。
――
シャラが敗れた事がわかってすぐに攻めてくるかも……なんて思ったけど、そんな事は全くなかった。最後の一日は何事もなく、平穏な監視体制の中で過ごすことが出来た。
「ようやく、この町ともお別れですね」
その最後を噛み締めるように、私と一緒にティータイムを楽しんでいるジュールは呟くような言葉を口にした。
「とても一日前に襲撃されたなんて、想像もできませんね」
「そうね……やっぱり平穏なのが一番ね」
私のそんな一言に、呆れた視線が向けられるのはきっと気のせいだろう。私自身、何らかのトラブルを招きやすい体質なのくらい自覚している。だからこそ、尚更この平穏が大切に思えてくるのだ。
「そういえば、全然聞く暇がなかったのですが、襲撃者はどういう人物だったんですか?」
てっきり話したと思ったんだけれど……どうやら、今まで気を張っていたせいで忘れていたみたいだ。
「鬼人族の男よ。確か……名前はシャラ」
「シャラ……ですか。奇妙な偶然ですね」
「え?」
雪風はまるで知っているかのような口ぶりで話しているけれど……何か関係してるのだろうか?
「雪風さん。知ってるんですか?」
「お二人はセツキ王の事はご存知ですよね。それ以前に王を務めていた鬼人族の中に、シャラ王がいらっしゃったという記録が残っています。紫色の瞳に、黒く長い髪を結っている細身の方ですね。【首落丸】と呼ばれる魔刀を持っていて、首を落として敵を仕留める――そういう逸話が僅かながら残っています」
雪風の説明を聞いて確かに奇妙な偶然だと感じた。私が戦ったシャラにも確か刀の事を【首落丸・弐式】と呼んでいたし、髪と目の色も大体合っている。
それに……門の番をしていた兵や見回りをしていた者達の全員が首を斬り落とされていた。これも逸話の内容と一致する。
「なんだか……知れば知るほど似ているわね」
「もしかして、死人が生き返って、ティア様の御命を狙ったって事?」
「いいえ。それは無いと思う」
ジュールの創造を、真面目な顔で否定した。笑って済ませる事が出来ないのは、かつて聖黒族同士の戦争で、死者を蘇らせて戦わせた王がいるからだ。
現代では失われた古代の魔導。それを何らかの形で復活させる事が出来たのなら……可能性は十分にある。だけど、蘇らせるには足りないものがある。
「まず、セツキ王の時代ですら神話に近い時代の話なのに、それより前なんて……そもそも死体が残っているとは思えない。初代魔王様の時代のものだって、そもそも遺体は世界に還っていったんだもの。有り得ない話ね」
それに、頭に残ってなくても、身体に残っているものがあるはずだ。筋肉の使い方。力の入れ方……危険察知能力。あのシャラには、それらすら無いように見えた。
「だったら、そっくりさんですかね。この世には自分に似ている顔をした人が五人はいるって言われてますし」
「偶然……の一言で片付けるには、一致する点が多いですが……他には何も有りませんよね……」
結局、何もわからない。それが私達が導き出した結論だった。
でも、それでもいいと思う。あまり難しい事に頭を悩ませるのは向いていない。それはジュールや雪風にも言える事だ。何か裏の方で蠢いているような気持ち悪さはあるけれど……あまり益体の無い事に思考を傾けても仕方がないというものだ。
それより――今月の中ごろから始まる試験の方が、私達には重要なんじゃないかと思う。
私が兵士を呼びに行っている間に、シャラはいなくなっていた。雪風とジュールは、襲撃者が逃げた事実に心底残念そうな顔をしていたけれど、お父様は別に何とも思っていなかった。
……いや、心配そうな表情をして「大丈夫か?」とか聞いてくれたり、甘いお菓子や私が好きな料理を持って来てくれたりはしてくれたかな。
少なくとも、襲撃者については何とも思っていないみたいだった。普通だったら何か思うところがあると思うんだけれど……。
もしかしたら、既に何らかの策を打っているのかもしれない。私の知るところではないけどね。
問題は……シャラを差し向けた者よりも、彼が所属している組織の存在だろう。
彼が単独で暗殺依頼を引き受けるようなタイプであれば、私が感じたようなちぐはぐさはなかったはずだ。素人の殺し屋に要人暗殺を依頼するような間抜けな貴族なんてまず存在しない。なんの実績も持っていない輩を雇うなんて正気の沙汰じゃない。
だとしたら、誰かの紹介か……そういう組織からの刺客かのどちらかだ。どっちにしても裏で操っている連中がいるって訳だ。だからこそ、シャラを助けに来た誰かがいる訳なんだけど。
何はともあれ、私が考えても仕方のない事なのは確かだろう。これ以上何か出来る訳でもないし、するつもりもない。いつも通り、敵がやってきたら戦って打ち倒せばいい。それだけしかやる事はないんだしね。
――
シャラが敗れた事がわかってすぐに攻めてくるかも……なんて思ったけど、そんな事は全くなかった。最後の一日は何事もなく、平穏な監視体制の中で過ごすことが出来た。
「ようやく、この町ともお別れですね」
その最後を噛み締めるように、私と一緒にティータイムを楽しんでいるジュールは呟くような言葉を口にした。
「とても一日前に襲撃されたなんて、想像もできませんね」
「そうね……やっぱり平穏なのが一番ね」
私のそんな一言に、呆れた視線が向けられるのはきっと気のせいだろう。私自身、何らかのトラブルを招きやすい体質なのくらい自覚している。だからこそ、尚更この平穏が大切に思えてくるのだ。
「そういえば、全然聞く暇がなかったのですが、襲撃者はどういう人物だったんですか?」
てっきり話したと思ったんだけれど……どうやら、今まで気を張っていたせいで忘れていたみたいだ。
「鬼人族の男よ。確か……名前はシャラ」
「シャラ……ですか。奇妙な偶然ですね」
「え?」
雪風はまるで知っているかのような口ぶりで話しているけれど……何か関係してるのだろうか?
「雪風さん。知ってるんですか?」
「お二人はセツキ王の事はご存知ですよね。それ以前に王を務めていた鬼人族の中に、シャラ王がいらっしゃったという記録が残っています。紫色の瞳に、黒く長い髪を結っている細身の方ですね。【首落丸】と呼ばれる魔刀を持っていて、首を落として敵を仕留める――そういう逸話が僅かながら残っています」
雪風の説明を聞いて確かに奇妙な偶然だと感じた。私が戦ったシャラにも確か刀の事を【首落丸・弐式】と呼んでいたし、髪と目の色も大体合っている。
それに……門の番をしていた兵や見回りをしていた者達の全員が首を斬り落とされていた。これも逸話の内容と一致する。
「なんだか……知れば知るほど似ているわね」
「もしかして、死人が生き返って、ティア様の御命を狙ったって事?」
「いいえ。それは無いと思う」
ジュールの創造を、真面目な顔で否定した。笑って済ませる事が出来ないのは、かつて聖黒族同士の戦争で、死者を蘇らせて戦わせた王がいるからだ。
現代では失われた古代の魔導。それを何らかの形で復活させる事が出来たのなら……可能性は十分にある。だけど、蘇らせるには足りないものがある。
「まず、セツキ王の時代ですら神話に近い時代の話なのに、それより前なんて……そもそも死体が残っているとは思えない。初代魔王様の時代のものだって、そもそも遺体は世界に還っていったんだもの。有り得ない話ね」
それに、頭に残ってなくても、身体に残っているものがあるはずだ。筋肉の使い方。力の入れ方……危険察知能力。あのシャラには、それらすら無いように見えた。
「だったら、そっくりさんですかね。この世には自分に似ている顔をした人が五人はいるって言われてますし」
「偶然……の一言で片付けるには、一致する点が多いですが……他には何も有りませんよね……」
結局、何もわからない。それが私達が導き出した結論だった。
でも、それでもいいと思う。あまり難しい事に頭を悩ませるのは向いていない。それはジュールや雪風にも言える事だ。何か裏の方で蠢いているような気持ち悪さはあるけれど……あまり益体の無い事に思考を傾けても仕方がないというものだ。
それより――今月の中ごろから始まる試験の方が、私達には重要なんじゃないかと思う。
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