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233・怪しい魔人族

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 庭園でのいさかいのせいで、再びジュールと疎遠になってしまった。雪風はある程度フォローしてくれたらしいけど、それに効果があったのかはわからない。
 ただ、特待生クラスに行くまでは私の側を頑なに離れようとしないから何か思うところがあったのだろう。

 ……それか、近くに居続ける事で非難しているのか。

「ジュールちゃん、どうかした?」
「いいえ。どうもしないですよ」

 学園でのリュネーとの会話でも、ジュールは私との争いを口にする事はなくて、重く口を閉ざしているだけだった。
 そのついでにリュネーの視線がこちらに向くけれど、何もいう事はない、という態度を取る。そうする事で大体諦めてくれる。

 レイアの方は……何も聞いてこない。逆に不気味になるほど、いつも通りだった。

 ジュールが常に隣にいる事に息が詰まりそうになりながら、授業を切り抜け、昼休み。今日の食事はジュールは用事があると言って離れて行ったので、私一人だ。
 雪風、リュネー、レイアの三人も別の子と食べる約束をしてた事は知ってるし、久しぶりに誰も近くにいない。

「エールティアさん、どうかしましたか?」

 声が聞こえてそちらの方を向くと……そこにはロスミーナがいた。
 相変わらずの美しさを秘めた笑顔をしている。

「どうか……って、どんな顔してた?」
「助かった……と安堵しているように見えましたね」

 見事言い当てられた私は目をパチパチさせてしまう。それがおかしかったのか、更にくすくすと小さく笑うものだから、思わずムッとしてしまった。

「ごめんなさい。あんまり表情豊かでしたから」
「……はぁ、まあいいか。特別変わった事なんてないわよ。ただ、今日は他のみんながいなくて一人だってことくらい」
「なるほど……エールティアさんはあまり人付き合いが得意じゃないんですね」
「そういう訳でも――」

 反論仕掛けて、その口を閉ざした。実際どうなのかは微妙だけど……言い返す事は出来なかった。

「一人で安堵したり、何か悩み事を抱えたり……しているではないですか」
「……どうしてわかるの?」
「え、顔を見たらわかりますよ」

 やんわりとした表情で言ってるけれど、私だって普段以上に意識して注意している。
 特に今みたいに決闘の事でピリピリしている時は尚更注意している。

「ふふっ、怖い顔していますね。ちょっとカマかけてみただけですよ」

 軽く舌をぺろっと出す仕草など、結構イラっとする。普段はそういうことないんだけど、やっぱりピリピリしているみたいだ。

「怖いですね」
「……そんな事、全然思っていないでしょう?」
「ふふっ」

 笑って誤魔化しているけれど、どうにも喰えない子だ。おまけに私を見透かしてくるような視線を向けてくるし……得体のしれないものを感じる。

「……悪いけど、用がないなら行くから」
「そうやって何でも一人で背負って、頑張ってるアピールですか?」

 あまりの言い方にぎろりと睨むけれど、あまり効いてないのか軽く肩を竦めるだけだ。

「そんな怒った顔されると怖いですよ。せっかくの美少女なのですから、もう少し笑顔をみせないと」
「……何を知ってるの?」

 さっきから突っかかってくるけど、まるでこちらの事を全て知ってるかのようで、不気味さを感じる。

「私は自分の知っている事を知っているだけですよ。それに……ティリアースの貴族の中では有名な話ですよ? リシュファス家は決闘委員会と癒着していて、エスリーア家を貶めようとしている……と」
「それは……!!」

 その話は私も聞いている。というか、貴族と手紙のやり取りを頻繁に行っているのはそれが理由と言ってもいい。決闘が承認されて早々、そういう噂が流れ始めた。
 完全に先手を打たれたせいで、火消しに追われているけれど……付き合いの深い貴族の方々が手伝ってくれているからまだなんとかなる。

 だけど中立派はかなりエスリーア派に回ってしまった。中にはかなり力を持ってる貴族も向こうの方についてしまって、嫌がらせを受けたりもしている。
 だけど、まだ外には漏れていないはずだ。という事は彼女はティリアース国の貴族って事になるんだけれど……新年を迎えた時の宴には見なかったはずだ。

「なんで、ティリアースの貴族しか知らない事を知ってるの? 貴方は一体……」
「うふふ、なんでもすぐに答えを知ろうとするのはあまり良くないわ。何事も順番が大事。それに……私の事より、自分の心配をした方がいいですよ。なんでも自分一人で解決する人。貴女は独りぼっちの女王になるつもり?」

 言い方に腹が立つ。言っている事も正しいから尚更だ。

「……そういうつもりはないわ。ただ、あの子達を頼れるような状況じゃない。ただそれだけよ」
「友達を、家族を傷つけたくないから。貴女はそういう理由でこれからもずっと孤独で在り続けるのですか?」
「孤独じゃない。大切な人達が側にいる」
「肝心な時に一緒にいる事も出来ないなんて、随分に頼りないお友達ですね」
「……それ以上は覚悟して口にする事ね」

 いくら貴族の令嬢でも、私の友人を侮辱する事は許さない。それがどんなに位の高い者であってもだ。

「……それだけ怒れるのに、どうして頼る事が出来ないのでしょう? や……り……あ――」
「何をぼそぼそと言ってるの?」
「いえ、何でもありません。私、そろそろ行かないといけませんので、失礼しますね」

 何か言いかけたロスミーナは優し気に微笑んだ後、丁寧におじぎをしてどこかへと去っていった。その直後にチャイムの音が響いて……昼休みの時間が終わった事に気付いた。

 あの子のせいでご飯食べ損ねた……。
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