234 / 676
234・広がる噂
しおりを挟む
ロスミーナとの会話が聞かれたのか、外からの噂が徐々にこちらまで来たのか……学園の方でもちらほらと耳に入ってくるようになった。
出来ればレイア達に知られたくなかったから、出来るだけ情報をシャットアウトしていたのだけれど……全部は無理だったみたいだ。
あまり良い噂じゃなかったから、どう転ぶか不安だったけれど、そもそも私の人となりを知っている子達は信じてなかった。
こういうのを信じているのは大体私の事を嫌いな子か、一年生くらいだ。後者の方は上級生に話を聞いたり、変な正義感を振りかざして決闘を挑んできて、後で誤解だと気付いたり……多少大変ではあったけれど、なんとかなった。
それよりも不安なのはレイアもリュネーも、何も聞いてこない事に関してだ。
いや、私自身、その方がありがたいんだけど……今までの事を考えると、逆に不安になってくるっていうか……素直に安心できない。
かと言って自分で聞きだすのもおかしいし、ジュールとは相変わらず最小限の言葉しか交わしていない。
「……なに、やってるんだろう」
日が過ぎる度に自己嫌悪が強くなっていく。過ぎたことはどうする事も出来ない。
わかってはいる。もっと上手くやれたら。もっと自分の感情に素直になれたら。もっと、もっと……。
――貴女は独りぼっちの女王になるつもり?
ロスミーナの言葉を思い出す。彼女は私の本質を見抜いているみたいだった。それが尚更、心の波をざわつかせる。
前の世界では、まさに独りぼっちの女王だった。魔物だって、魔導で操っていただけで、私の為に付いてきてくれた子は誰もいなかった。どれだけ一緒に過ごしても、決して心が交じり合う事はない。あの時、私は永遠の孤独の中にいた。
……また、あの道を進もうとしてるのだろうか。
……違うはずなのに、その全部を否定する事が出来ない。
光を得た。友を得た。『大切』だと。『愛している』と言える人達が出来た。そのはずなのに、気付いたら元の場所に戻ろうとしている。まるで、自分のいるべき場所がそこであるかのように。
最近では貴族達との手紙のやり取りに、他国の協力者との連携。色々とやる事が多くて、中々彼女達との時間が取れない。
前はあんなに一緒にいたのに、気付いたらジュール以外ほとんど誰もいなくて……そのジュールの心も、今は離れかけている。
こんなんじゃ、自分が一体何をしたいのかわからなくなってしまう。
悶々とした気持ちを抱えながら、それでも前に進むしかない。わかってはいるんだけど、でも……これじゃあ前に進んでいるのか後ろに進んでいるのかわからない。
……この胸の痛みが晴れるのは、まだ大分先のようだ。
――
月日は経って、レキールラの月の17日。結局何も話せないまま、一か月以上が経過してしまった。
「エールティア様。そろそろ学園に向かいましょう」
「……ええ、わかったわ」
相変わらずジュールとの距離は遠い。前は『ティア様』だったのに、今は『エールティア様』になっていて、私の心にチクチクと蝕んでくる。
「ジュール……その――」
「そ、それでは……私は下でお待ちしておりますね」
そのままそそくさと部屋から出て行って、館の入り口に行ってしまった。それがどこか寂しくて、思わずため息を吐いてしまう。
「……この関係も、どうにかしないとね」
とは言っても、もう戻れないような気がする。それだけ自分が酷い事をしたという自覚があるから、余計に辛く感じる。
……こうなるのはわかってた。覚悟しているつもりだった。だけど、実際直面するとまた別の感情が湧き上がるものだ。
そんな風に最近では恒例となった反省をしていると、ノックの音が聞こえてきた。
一瞬ジュールかと思ったけれど、彼女は下に行くと言ったし、またノックをするなんて考えられない。
「どうぞ」
「失礼いたします」
静かに扉を開けたのは、魔人族のメイドだった。そこには手紙の束がいっぱいで……また貴族共の面倒な手紙ばかりだろう。どうせどちらの陣営にも付かずに静観してもらうか、こちらを裏切るなって内容で送りつけただけ手紙だったし、返答も二つに分かれる。お父様に言われたからやっている事だし、後回しで問題ない。
「そこの机に置いておいてくれる?」
「はい。……それと、こちらを」
メイドは手紙の束とは別に、もう一つ手紙を持っていた。黒い手紙。金の刺繍が入っていて、他の物とは明らかに風格が違う。
その手紙だけ自分で受け取って、確認すると……シルケットの封蝋がされていた。
「ベルンから……ということは、向こうも確認が取れたみたいね」
封を切って中身を見ると、そこには今のティリアースの情勢や、私達が置かれている状況を調べた事が書かれていた。
その上で、今後とも変わらない付き合いを……といった感じの文章だ。
私としてはリュネーをシルケットに戻してくれるのが一番理想だったんだけれど、流石に望み過ぎたみたいだ。
――
『例えどのような者と縁を持とうと、それは当人の意思であり、シルケット王家は自主性を重んじるものとする。如何なる理由であっても、それを阻害せず、また、する事はあってはならない』
――
その文章から読み取れるのは、リュネーが望むならこのままの関係を続けるし、こちらとしては国の事情で引く事はない。そういう意思だった。
……参ったな。これじゃあ、いざとなった時の逃げ道が作ってあげられない。どうしよう? どうすれば……。
頭の中で問答を繰り返しながら……この手紙の意味を理解して少しだけ、笑みが溢れた。
出来ればレイア達に知られたくなかったから、出来るだけ情報をシャットアウトしていたのだけれど……全部は無理だったみたいだ。
あまり良い噂じゃなかったから、どう転ぶか不安だったけれど、そもそも私の人となりを知っている子達は信じてなかった。
こういうのを信じているのは大体私の事を嫌いな子か、一年生くらいだ。後者の方は上級生に話を聞いたり、変な正義感を振りかざして決闘を挑んできて、後で誤解だと気付いたり……多少大変ではあったけれど、なんとかなった。
それよりも不安なのはレイアもリュネーも、何も聞いてこない事に関してだ。
いや、私自身、その方がありがたいんだけど……今までの事を考えると、逆に不安になってくるっていうか……素直に安心できない。
かと言って自分で聞きだすのもおかしいし、ジュールとは相変わらず最小限の言葉しか交わしていない。
「……なに、やってるんだろう」
日が過ぎる度に自己嫌悪が強くなっていく。過ぎたことはどうする事も出来ない。
わかってはいる。もっと上手くやれたら。もっと自分の感情に素直になれたら。もっと、もっと……。
――貴女は独りぼっちの女王になるつもり?
ロスミーナの言葉を思い出す。彼女は私の本質を見抜いているみたいだった。それが尚更、心の波をざわつかせる。
前の世界では、まさに独りぼっちの女王だった。魔物だって、魔導で操っていただけで、私の為に付いてきてくれた子は誰もいなかった。どれだけ一緒に過ごしても、決して心が交じり合う事はない。あの時、私は永遠の孤独の中にいた。
……また、あの道を進もうとしてるのだろうか。
……違うはずなのに、その全部を否定する事が出来ない。
光を得た。友を得た。『大切』だと。『愛している』と言える人達が出来た。そのはずなのに、気付いたら元の場所に戻ろうとしている。まるで、自分のいるべき場所がそこであるかのように。
最近では貴族達との手紙のやり取りに、他国の協力者との連携。色々とやる事が多くて、中々彼女達との時間が取れない。
前はあんなに一緒にいたのに、気付いたらジュール以外ほとんど誰もいなくて……そのジュールの心も、今は離れかけている。
こんなんじゃ、自分が一体何をしたいのかわからなくなってしまう。
悶々とした気持ちを抱えながら、それでも前に進むしかない。わかってはいるんだけど、でも……これじゃあ前に進んでいるのか後ろに進んでいるのかわからない。
……この胸の痛みが晴れるのは、まだ大分先のようだ。
――
月日は経って、レキールラの月の17日。結局何も話せないまま、一か月以上が経過してしまった。
「エールティア様。そろそろ学園に向かいましょう」
「……ええ、わかったわ」
相変わらずジュールとの距離は遠い。前は『ティア様』だったのに、今は『エールティア様』になっていて、私の心にチクチクと蝕んでくる。
「ジュール……その――」
「そ、それでは……私は下でお待ちしておりますね」
そのままそそくさと部屋から出て行って、館の入り口に行ってしまった。それがどこか寂しくて、思わずため息を吐いてしまう。
「……この関係も、どうにかしないとね」
とは言っても、もう戻れないような気がする。それだけ自分が酷い事をしたという自覚があるから、余計に辛く感じる。
……こうなるのはわかってた。覚悟しているつもりだった。だけど、実際直面するとまた別の感情が湧き上がるものだ。
そんな風に最近では恒例となった反省をしていると、ノックの音が聞こえてきた。
一瞬ジュールかと思ったけれど、彼女は下に行くと言ったし、またノックをするなんて考えられない。
「どうぞ」
「失礼いたします」
静かに扉を開けたのは、魔人族のメイドだった。そこには手紙の束がいっぱいで……また貴族共の面倒な手紙ばかりだろう。どうせどちらの陣営にも付かずに静観してもらうか、こちらを裏切るなって内容で送りつけただけ手紙だったし、返答も二つに分かれる。お父様に言われたからやっている事だし、後回しで問題ない。
「そこの机に置いておいてくれる?」
「はい。……それと、こちらを」
メイドは手紙の束とは別に、もう一つ手紙を持っていた。黒い手紙。金の刺繍が入っていて、他の物とは明らかに風格が違う。
その手紙だけ自分で受け取って、確認すると……シルケットの封蝋がされていた。
「ベルンから……ということは、向こうも確認が取れたみたいね」
封を切って中身を見ると、そこには今のティリアースの情勢や、私達が置かれている状況を調べた事が書かれていた。
その上で、今後とも変わらない付き合いを……といった感じの文章だ。
私としてはリュネーをシルケットに戻してくれるのが一番理想だったんだけれど、流石に望み過ぎたみたいだ。
――
『例えどのような者と縁を持とうと、それは当人の意思であり、シルケット王家は自主性を重んじるものとする。如何なる理由であっても、それを阻害せず、また、する事はあってはならない』
――
その文章から読み取れるのは、リュネーが望むならこのままの関係を続けるし、こちらとしては国の事情で引く事はない。そういう意思だった。
……参ったな。これじゃあ、いざとなった時の逃げ道が作ってあげられない。どうしよう? どうすれば……。
頭の中で問答を繰り返しながら……この手紙の意味を理解して少しだけ、笑みが溢れた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
149
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる