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254・逆鱗
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一歩ずつ近づいてくる悪魔族の男とは対照的に、ジュールとリュネーを人質に取っている兵士はじりじりと後ろに後退していく。姿を確認させたから、後は距離を取るだけ……ってことだろう。
「……雪風は、どうしたのかしら?」
「彼女には早々にご退場願いましたヨ。四肢を切り落としても向かってきそうな気迫がありましたからネ」
怖い怖いとわざとらしい身震いをしているけれど、その言葉には、一応真実味があった。
雪風なら、きっとそうだろう。辱めに遭うくらいなら、自害しかねない性格だしね。
「それより……どうしますカ? あの距離で魔導を使えば巻き込むことになえうでしょウ。私を倒して彼女達を救うにしても、多少はいためつけられるでしょウ」
精神的に傷を残す。それがどんな行為かは知る気も起きないけれど、下卑た男がこういう時何考えてるかなんて大体想像がつく。転生前は私も何度かそういう目に遭いかけたし。
「あの子達が貴方が用意した偽物……という事も考えられるんじゃない?」
「だったら、いくつか質問しますカ? 疑う気持ちもわかりますし、ネ」
悪魔族の男が、ジュールを捕えている方の男がゆっくりと近づいてくる。私の契約スライム。彼女からの情報が正しかったら、それは本物である証拠……という事なのだろう。
一人、というのは仮に近づきすぎて片方を奪われても、もう一人が人質として機能する。そういう事なのだろう。
「そう。それじゃあ……私があげたリボン、あまり着けてくれないのね」
「? え、えっと……わ、私はティア様からそのような物を頂いた事はないと思うのですが……」
「そう? よく思い出してちょうだい。この前喧嘩したお詫びにあげたじゃない。一生懸命選んだんだけれど……」
首筋に刃物を突き付けられながら、お尻の方に手を当てられているジュールは、不安と羞恥からか、戸惑いが強かった。ちらちらっと自分を縛っている兵士を気にしながら答えてくれていた。
「え、えっと……すみません。やはり記憶に……」
「そう。それじゃあ……私がラポルタルトを作っていた事は覚えてる?」
「そ……それは……」
必死に考えるジュール。質問とはいえ、今の状況とはかけ離れた私の言葉に、困惑しているようだ。
……それか、別の事で考えを巡らせているのかもしれない。
「覚えてない? ほんの半月前の事なんだけれど……」
「あ、いえ、覚えてます! 確か、ティア様は失敗していましたよね」
「そうそう。それを貴女に見られたときは、本当に恥ずかしかった」
「ふ、ふふふ、ティア様らしいです」
少し気を紛らわせる事に成功したようだけれど、完全に墓穴を掘っている事に気付いていないみたいだ。
……まあ、こんな事しなくても魔導で調べれば一発でわかるんだけど。
「【エイクリゼージョン】」
偽りを見破る魔導を発動した私の目には、ジュールとリュネーのフリをしている女性の悪魔族と、魔人族の兵士のフリをしている男の悪魔族の姿が映し出される。
魔導や魔法による発動を見破るこの魔導には、悪魔族固有の魔法【偽物変化】なんてなんの意味もなさない。
ただ、彼らがあまりにも自信満々だから、少し乗ってあげただけだ。
それに、少なくとも一ヶ月前ぐらいからは記憶の更新をしていない事が確認できたし、成果はあった。
「……気は済みましたカ?」
「ええ」
「そうですカ。それでは……」
ぺろりと舌舐めずりをしてこちらに近づいてくるその動きは、少し嫌なものがある。
「そうね。さようなら」
「――あ?」
私はその横を通り過ぎて、迷う事なくジュールの偽物に迫って、顔面を鷲掴みにするように添える。
「【インシネレーション】」
偽物のジュールは、そのまま私が放った魔導の直撃を受け、瞬く間に全身が炎に包まれた。
この世のものとは思えない痛みと熱さと苦しみをじっくりと味わいながら、やがて死に至るだろう。そしてそれは、偽物の兵士も同じだった。
身体中の空気を放出するような惨めな叫び声を上げている二人を尻目に、そのままリュネーの偽物まで急接近して、同じように顔を掴む。
「あ、あの、ティ、ティアちゃん……そん、な事、し、ししし、しない、よね?」
次に自分がどのような末路を辿るのか見せつけられた偽リュネーは、身体を震わせながら、涙目で私を見ていた。
「お前達は私の怒りに触れた。その報いだ。【インシネレーション】」
「あ……ああ、ああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
想像を絶する痛みを味わっているであろう叫び声というのは……特に何も感じない。昔もそうだったけれど、耳障りなだけだ。
残ったのは、ぽかんと口を開けて私の所業を眺めていた悪魔族の男だけ。
……この程度の速度に反応出来ない分際で、調子にのるからこういう事になる。身の程を知らない愚か者は、炎に焦がされるのがお似合いだろう。
「な、なぜ……彼女達ハ……!」
「偽物が私の友人を騙るな。反吐が出るやり方をした事を後悔するといい。存分に苦しみを味合わせてあげる」
これ以上、あんな愚物と話すことなんて無い。むしろ目障りだし、さっさと苦しみを与えてアルティーナのところに行こう。
彼女には……本当に後悔させてあげないといけないみたいだからね。
「……雪風は、どうしたのかしら?」
「彼女には早々にご退場願いましたヨ。四肢を切り落としても向かってきそうな気迫がありましたからネ」
怖い怖いとわざとらしい身震いをしているけれど、その言葉には、一応真実味があった。
雪風なら、きっとそうだろう。辱めに遭うくらいなら、自害しかねない性格だしね。
「それより……どうしますカ? あの距離で魔導を使えば巻き込むことになえうでしょウ。私を倒して彼女達を救うにしても、多少はいためつけられるでしょウ」
精神的に傷を残す。それがどんな行為かは知る気も起きないけれど、下卑た男がこういう時何考えてるかなんて大体想像がつく。転生前は私も何度かそういう目に遭いかけたし。
「あの子達が貴方が用意した偽物……という事も考えられるんじゃない?」
「だったら、いくつか質問しますカ? 疑う気持ちもわかりますし、ネ」
悪魔族の男が、ジュールを捕えている方の男がゆっくりと近づいてくる。私の契約スライム。彼女からの情報が正しかったら、それは本物である証拠……という事なのだろう。
一人、というのは仮に近づきすぎて片方を奪われても、もう一人が人質として機能する。そういう事なのだろう。
「そう。それじゃあ……私があげたリボン、あまり着けてくれないのね」
「? え、えっと……わ、私はティア様からそのような物を頂いた事はないと思うのですが……」
「そう? よく思い出してちょうだい。この前喧嘩したお詫びにあげたじゃない。一生懸命選んだんだけれど……」
首筋に刃物を突き付けられながら、お尻の方に手を当てられているジュールは、不安と羞恥からか、戸惑いが強かった。ちらちらっと自分を縛っている兵士を気にしながら答えてくれていた。
「え、えっと……すみません。やはり記憶に……」
「そう。それじゃあ……私がラポルタルトを作っていた事は覚えてる?」
「そ……それは……」
必死に考えるジュール。質問とはいえ、今の状況とはかけ離れた私の言葉に、困惑しているようだ。
……それか、別の事で考えを巡らせているのかもしれない。
「覚えてない? ほんの半月前の事なんだけれど……」
「あ、いえ、覚えてます! 確か、ティア様は失敗していましたよね」
「そうそう。それを貴女に見られたときは、本当に恥ずかしかった」
「ふ、ふふふ、ティア様らしいです」
少し気を紛らわせる事に成功したようだけれど、完全に墓穴を掘っている事に気付いていないみたいだ。
……まあ、こんな事しなくても魔導で調べれば一発でわかるんだけど。
「【エイクリゼージョン】」
偽りを見破る魔導を発動した私の目には、ジュールとリュネーのフリをしている女性の悪魔族と、魔人族の兵士のフリをしている男の悪魔族の姿が映し出される。
魔導や魔法による発動を見破るこの魔導には、悪魔族固有の魔法【偽物変化】なんてなんの意味もなさない。
ただ、彼らがあまりにも自信満々だから、少し乗ってあげただけだ。
それに、少なくとも一ヶ月前ぐらいからは記憶の更新をしていない事が確認できたし、成果はあった。
「……気は済みましたカ?」
「ええ」
「そうですカ。それでは……」
ぺろりと舌舐めずりをしてこちらに近づいてくるその動きは、少し嫌なものがある。
「そうね。さようなら」
「――あ?」
私はその横を通り過ぎて、迷う事なくジュールの偽物に迫って、顔面を鷲掴みにするように添える。
「【インシネレーション】」
偽物のジュールは、そのまま私が放った魔導の直撃を受け、瞬く間に全身が炎に包まれた。
この世のものとは思えない痛みと熱さと苦しみをじっくりと味わいながら、やがて死に至るだろう。そしてそれは、偽物の兵士も同じだった。
身体中の空気を放出するような惨めな叫び声を上げている二人を尻目に、そのままリュネーの偽物まで急接近して、同じように顔を掴む。
「あ、あの、ティ、ティアちゃん……そん、な事、し、ししし、しない、よね?」
次に自分がどのような末路を辿るのか見せつけられた偽リュネーは、身体を震わせながら、涙目で私を見ていた。
「お前達は私の怒りに触れた。その報いだ。【インシネレーション】」
「あ……ああ、ああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
想像を絶する痛みを味わっているであろう叫び声というのは……特に何も感じない。昔もそうだったけれど、耳障りなだけだ。
残ったのは、ぽかんと口を開けて私の所業を眺めていた悪魔族の男だけ。
……この程度の速度に反応出来ない分際で、調子にのるからこういう事になる。身の程を知らない愚か者は、炎に焦がされるのがお似合いだろう。
「な、なぜ……彼女達ハ……!」
「偽物が私の友人を騙るな。反吐が出るやり方をした事を後悔するといい。存分に苦しみを味合わせてあげる」
これ以上、あんな愚物と話すことなんて無い。むしろ目障りだし、さっさと苦しみを与えてアルティーナのところに行こう。
彼女には……本当に後悔させてあげないといけないみたいだからね。
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