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357・暗躍した者との邂逅②
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「レ、レアディはーん! まだ終わりませんのんんん!?」
「おう、もう少しかかるから殺すなよ!」
「はよ終わらせてぇな! こっちは結構一生懸命やってんやからぁ」
「ははは、笑わすな」
アロズの狐人族訛りの強い話し方に、よくすぐに応答する事が出来るなと感心する。私は完全に理解するのに少し時間が掛かってしまう。
それに生きるか死ぬかの戦いをしているのに、酒場でなんてことのない会話でもしているようなノリで話している。
一生懸命とか言いながらどこか嘘くさい感じのするアロズに、それをわかっているからこそ軽い調子で答えるレアディ。まるで長年組んでいる相棒のような感じがする。
「ふざけるのも大概にしてもらおう!」
シャラと呼ばれた鬼人族の一撃を難なく躱したアロズの動きは、全く必死さが伝わってこない。むしろ余裕過ぎて死ぬような未来すら訪れないだろう。
「ああもう、邪魔やなぁ。【マグマピットホール】」
鬱陶しそうに魔導が発動され、シャラを中心として大きな穴が開いた。不吉な予感がしたのだろう。魔導発動より若干早く横っ飛びに移動したおかげで、彼は落とし穴に落ちずに済んだようだ。
「な? 余裕だろ?」
にやりと笑ってくるレアディは、だから話の続きをしても平気だぞとでも言っているかのようだ。
だけど、これ以上話す事なんてあるだろうか? 正直、彼らの下半身と欲望に素直な言葉だけで胸やけを起こしそうになっている。
「……で、私になにか用があるのでしょう? じゃないとここまで長々と話はしないでしょうしね」
「あんたら、俺らを雇わないか?」
……ああ、なるほど。自分達の売り込みも含めてって事か。熱心なのは良いけれど、わざわざこんな状況でする話ではないと思うんだけれど……。
「おっと、なんで今話すのか知りたいんだろう? 簡単だ。俺達はダークエルフ族の切り札の情報を持っている。それを提供するのと引き換えにって事でどうだ?」
「魅力的な提案ね。でも、その話は後でで十分じゃない?」
「だったら、俺達を必要としている奴らの元を渡り歩くだけだ。この情報を欲しがるのは……何もお前達だけじゃないってことだ」
私の答えにすぐさま反論してくる。ひらひらと軽く手を振っている仕草が若干イライラとさせてくれる。
彼らはつまり――
「あなた……ティアちゃんを脅す気なの?」
「人聞きの悪い事言うなよ。俺達は酒と女さえあれば満足さ。とびっきりのが良い。だけどそれにはコレが必要だ。言っている意味、わかるよな?」
指でお金の形を表現しながら凄んでいるレアディの考えている事は大雑把にわかってきた。そしてなぜ今この場で決めさせようとするのかも。
急がなければならない今の状況。重要な情報を持っているというレアディ。
彼は出来る限り自分に有利な取引を行いたい――そういう事だろう。
本来ならもっと慎重に……落ち着ける場所で話し合うべきだ。少なくともこんな戦いの場でするものじゃない。まあ……だからって事なんだろうけどね。
「わかった。詳しい話は後でゆっくり決めましょう。貴方達が納得する程度には報酬を用意するし、持っている情報と今後の働き次第では重用してあげてもいいわ」
「ティアちゃん、良いの?」
「ええ。こんな事で煩わされる訳にはいかないからね」
それに彼が持っている情報が本当に重要ならば、それなりの対価を与えても構わない。腹黒い策略をして私腹を肥やしている貴族共とは違って、レアディは自分を高く売りたいだけだ。特に後ろ盾のない――むしろ敵対していた者への仕官なのだから、怠けたりしたらすぐに自分の暮らしに影響するだろう事は理解しているはずだ。
「言質は取ったぜ。おいアロズ! もう時間稼ぎはいいぞ!!」
十分だと言うかのように満足そうな笑みを浮かべていたレアディは、アロズへと指示を出して剣を肩に乗せる。
「はぁ……やっとですか。ほな、もう遠慮はいらへんな!」
少し疲れたような声を上げているアロズだったけど、動きは先程よりも機敏になっている。肉体的ではなく、精神的に疲れていただけのようだ。まるで自分を縛っていた枷が全て外れたかのように開放感のある戦い方をしている。
「言葉だけでいいの? それで私を信じられる?」
「こんな局面で嘘を吐けばどうなるか……わからないお姫様じゃないだろう。あんたは行動で示せば誠実に対応する。だから、今は言葉だけで十分だ」
それだけ言ってレアディは行ってしまった。シャラと戦っているアロズの加勢……という訳ではなく、全く別の戦場に向かって。
多分、シャラの相手はアロズ一人で十分だという事だろう。二人で戦っていたのは最初から怠けて力を温存するつもりだったからだろう。
私との取引が上手くいかなかったら、全力を出すだけ無駄で、余計な労力を割きたくないって事なんだろう。
したたか……というか計算高いと言うか。でも、こういうアクの強い人物も悪くはない。
上手く御する事が出来るなら、彼のような人物も必要になるだろう。清濁併せ吞む事だって時には必要なのだから。
「おう、もう少しかかるから殺すなよ!」
「はよ終わらせてぇな! こっちは結構一生懸命やってんやからぁ」
「ははは、笑わすな」
アロズの狐人族訛りの強い話し方に、よくすぐに応答する事が出来るなと感心する。私は完全に理解するのに少し時間が掛かってしまう。
それに生きるか死ぬかの戦いをしているのに、酒場でなんてことのない会話でもしているようなノリで話している。
一生懸命とか言いながらどこか嘘くさい感じのするアロズに、それをわかっているからこそ軽い調子で答えるレアディ。まるで長年組んでいる相棒のような感じがする。
「ふざけるのも大概にしてもらおう!」
シャラと呼ばれた鬼人族の一撃を難なく躱したアロズの動きは、全く必死さが伝わってこない。むしろ余裕過ぎて死ぬような未来すら訪れないだろう。
「ああもう、邪魔やなぁ。【マグマピットホール】」
鬱陶しそうに魔導が発動され、シャラを中心として大きな穴が開いた。不吉な予感がしたのだろう。魔導発動より若干早く横っ飛びに移動したおかげで、彼は落とし穴に落ちずに済んだようだ。
「な? 余裕だろ?」
にやりと笑ってくるレアディは、だから話の続きをしても平気だぞとでも言っているかのようだ。
だけど、これ以上話す事なんてあるだろうか? 正直、彼らの下半身と欲望に素直な言葉だけで胸やけを起こしそうになっている。
「……で、私になにか用があるのでしょう? じゃないとここまで長々と話はしないでしょうしね」
「あんたら、俺らを雇わないか?」
……ああ、なるほど。自分達の売り込みも含めてって事か。熱心なのは良いけれど、わざわざこんな状況でする話ではないと思うんだけれど……。
「おっと、なんで今話すのか知りたいんだろう? 簡単だ。俺達はダークエルフ族の切り札の情報を持っている。それを提供するのと引き換えにって事でどうだ?」
「魅力的な提案ね。でも、その話は後でで十分じゃない?」
「だったら、俺達を必要としている奴らの元を渡り歩くだけだ。この情報を欲しがるのは……何もお前達だけじゃないってことだ」
私の答えにすぐさま反論してくる。ひらひらと軽く手を振っている仕草が若干イライラとさせてくれる。
彼らはつまり――
「あなた……ティアちゃんを脅す気なの?」
「人聞きの悪い事言うなよ。俺達は酒と女さえあれば満足さ。とびっきりのが良い。だけどそれにはコレが必要だ。言っている意味、わかるよな?」
指でお金の形を表現しながら凄んでいるレアディの考えている事は大雑把にわかってきた。そしてなぜ今この場で決めさせようとするのかも。
急がなければならない今の状況。重要な情報を持っているというレアディ。
彼は出来る限り自分に有利な取引を行いたい――そういう事だろう。
本来ならもっと慎重に……落ち着ける場所で話し合うべきだ。少なくともこんな戦いの場でするものじゃない。まあ……だからって事なんだろうけどね。
「わかった。詳しい話は後でゆっくり決めましょう。貴方達が納得する程度には報酬を用意するし、持っている情報と今後の働き次第では重用してあげてもいいわ」
「ティアちゃん、良いの?」
「ええ。こんな事で煩わされる訳にはいかないからね」
それに彼が持っている情報が本当に重要ならば、それなりの対価を与えても構わない。腹黒い策略をして私腹を肥やしている貴族共とは違って、レアディは自分を高く売りたいだけだ。特に後ろ盾のない――むしろ敵対していた者への仕官なのだから、怠けたりしたらすぐに自分の暮らしに影響するだろう事は理解しているはずだ。
「言質は取ったぜ。おいアロズ! もう時間稼ぎはいいぞ!!」
十分だと言うかのように満足そうな笑みを浮かべていたレアディは、アロズへと指示を出して剣を肩に乗せる。
「はぁ……やっとですか。ほな、もう遠慮はいらへんな!」
少し疲れたような声を上げているアロズだったけど、動きは先程よりも機敏になっている。肉体的ではなく、精神的に疲れていただけのようだ。まるで自分を縛っていた枷が全て外れたかのように開放感のある戦い方をしている。
「言葉だけでいいの? それで私を信じられる?」
「こんな局面で嘘を吐けばどうなるか……わからないお姫様じゃないだろう。あんたは行動で示せば誠実に対応する。だから、今は言葉だけで十分だ」
それだけ言ってレアディは行ってしまった。シャラと戦っているアロズの加勢……という訳ではなく、全く別の戦場に向かって。
多分、シャラの相手はアロズ一人で十分だという事だろう。二人で戦っていたのは最初から怠けて力を温存するつもりだったからだろう。
私との取引が上手くいかなかったら、全力を出すだけ無駄で、余計な労力を割きたくないって事なんだろう。
したたか……というか計算高いと言うか。でも、こういうアクの強い人物も悪くはない。
上手く御する事が出来るなら、彼のような人物も必要になるだろう。清濁併せ吞む事だって時には必要なのだから。
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