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356・暗躍した者との邂逅①

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 様々な場所から響き渡る爆音が町の被害の大きさを教えてくれる。
 住民も混乱しているみたいだけれど、兵士達は冷静に対処していった。
 率先して避難勧告を行い、可能な限り被害を減らそうとしているその姿を見ていると、事前に教える事が出来て良かったと心の底から思った。

 私の事を信用してくれなければそれも叶わなかっただろうけど、お父様や女王陛下の後押しもあってこの国の王族や貴族を動かすことが出来たのだ。
 何も知らない人達が大勢死ぬような事態は避けられそうだけれど……それでも状況が悪い事に変わりはない。

 家や建物は燃え落ち、瓦礫がれきに変わってしまう。衣服、食べ物、住居……それら全てがなくなり、一からとなれば、王都は完全に機能しなくなる。復興にもお金や人手は掛かるし、被害が大きければ食糧を確保できずに飢え死にしてしまう人も出てくるだろう。なるべく急いで倒さなければならない。

「ティアちゃん。戦ってる場所がもうすぐ見えてくるよ」
「……ええ。わかってる」

 ファリスの言葉に頷き、目の前を見据える。まだ遠いし、周辺を警戒している事も相まって誰が戦っているかはわからないけれど……どうやら二対一で戦っているようだ。
 こちらの味方で協力しながら戦えるのはベルンとアルフくらいのものだけど……なんだか違うような感じがする。
 直感でしかないけれど、今までの経験から信頼するには十分だ。

 だけど、なら誰が戦っているのだろう?

「……見えてきた」

 どうやら二人組の方は魔人族と狐人族の組み合わせで、私には全く見覚えのない組み合わせだった。
 片方は鬼人族の……印象が薄い男の人だ。戦った事はある。名前も聞いたはずだ。だけど……覚えていない。

「ん? ああ、来たようだな」

 魔人族の男性がこっちに気付いてにやりと笑った。まるで誰か来るのを待っていたみたいだ。

「アロズ、ちょっと外すぞ」
「えー、そんな殺生なぁ!」

 狐人族の男性の悲痛な声を無視して、魔人族の男性は私のすぐ側にやってきた。
 それを警戒するように、ファリスが睨みながら一歩前に出る。

 改めて見ると、如何にも悪人って感じの顔つきをしている。察するに彼も複製体なのだろう。

「はっ、そう警戒すんなよ。俺達は別にお前らと事を構えようってわけじゃねえ。むしろ逆だ」
「……こっちにつくって? それを簡単に信じるとでも?」
「決めんのはお前じゃない。だろうが」

 挑発するように笑って、私に視線を向けてくる。
 その佇まいからして、常人以上の腕前を持っている事がわかる。わざわざ二人で戦う必要があるのかと疑問に思うほどに。

「まずは名前を名乗りなさい」
「俺はレアディ。そこでシャラの奴と戦ってるのはアロズだ。そっちは名乗らなくてもいいぞ。エールティア・リシュファスといえばダークエルフ共の間じゃ有名だからな」

 くくくっ、と笑いながら嫌な情報を教えてくれた。
 有名とか言ってるけど、絶対良い方じゃないのがわかる。彼らは聖黒族を憎んでいるんだしね。

「……で、貴方達はなんで私の手助けをしてくれるのかしら? 複製体なのはわかるけれど……ダークエルフ族につくのが普通なんじゃない?」

 彼らの目的がわからない。私と彼らは直接関わった事はないし、気が合うようにも思えない。
 一体どんな理由が……と訝しむように睨んでいると、突然大きな声で笑い始めた。

「はっはっはははは!! 俺は……いや、俺達は付きたいと思う方に付く。それに、どっちが勝つかなんてわかりきってるからな」
「そう? 今回の奇襲が上手くいって他の国が落ちれば……戦況はダークエルフ族に傾くんじゃない?」
「有り得ねぇな。どんなに足掻いても聖黒族には勝てねぇよ。確かに奴らの切り札は強力だがよ、結局ジリ貧でいずれ負ける。その時にどれだけの奴が生き残る?」

 考えろ、と言うかのように問いかけてくる。彼――レアディはダークエルフ族の奥の手を知っているようだ。それでも尚、こちらの勝利は揺るがないと思っている。問題はその先。全てを終えた後の話になる。
 レアディの予想では、きっと国というものがほとんど機能しない状態になると思っているのだろう。
 そうなれば――

「待っているのは文明が壊滅する程の被害って事?」

 考えた末に出した答えを、レアディは滑稽なものをでも見ているかのように再び大きく笑った。

「……ティアちゃん。彼はそこまでの事なんて考えてないよ」
「くくくっ、その通りよ。人が少なくなれば美味い酒は飲みにくくなる。女を抱く機会も減る。それだけで理由は十分だ」
「は?」

 まさか今の流れでそういうのが飛び出てくるとは思わなかった。結構大仰な話だったのに、つまり下品な男共のどうしようもない話だった。頭がクラクラしてくる。

「はっ、俺達は思うがままに生きていたいんだよ。奴らのくだらない復讐なんぞに付き合っていられるか。死んだ世界で生きていて、なんの意味がある」

 つばと一緒に吐き捨てるところがあまり好きではないけど……彼らにはそれがこちらにつく十分な理由のようだ。嘘をついているようには見えないし、いたって本気の目をしている。

 ……正直理解できないし、したいとも思わない。
 だけど彼らと言う存在は、中々得難いものだと理解できる。
 なんというか……本当に頭の痛い話なんだけどね。
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