転生姫様の最強学園ライフ! 〜異世界魔王のやりなおし〜

灰色キャット

文字の大きさ
441 / 676

441・穏やかな暮らし

しおりを挟む
 ほんの僅かな穏やかな時間。ダークエルフ族の脅威とか、そういうのを一切気にしない生活を送る事の素晴らしい事を肌で感じながら、久しぶりに学園に行ってみる事にした。
 現在は緊迫している状況という事もあって、学園は帰郷した学生は休学扱いにして、残っている生徒達には普通に授業を行っているようだった。いつでも逃げられるように準備はしているようで、対策は考えているようだ。
 ……まあ、元々学問よりも戦闘に関する授業が中心だからそうもなるだろう。もちろん一般常識を始めとして政治なども教えてはいるけれど、専門の学部を設立している学校と比べると些か見劣りがする。それでも教えていないよりは全然マシなんだけど。
 王都を含む他の学校は休校して生徒達も実家に帰っているらしいからこの学園だけが特殊な事がよくわかる。王族や貴族と呼ばれる種類の人達は大半自らの親の領地に戻っているから、今残ってるのはここに安全を確信している人種か、強さを追い求めている人達かのどちらかだろう。

 聖黒族の領地というだけで攻撃される可能性は非常に高いのだけれど、それだけお父様やお母様が信頼されている証だろう。ハクロ先輩なんかの実家が近い人たちもここに残っていて訓練に励んでいるらしいし、一度挨拶に行った方がいいかもね。
 ちなみに私達も新しい年を迎えた時から休学中という事になっていて、いつでも学園に戻れるようにはなっていた。だったらもう少し校則を整えるとか他にすることはあると思うのだけれど……今は何も思うまい。

 とりあえず今はのんびり庭園を歩いて短いひと時を充実させている。雪風、ファリス、ジュールの三人も今は離れていて、本当に一人っきり。
 ……いや、保護者のような監視者は相変わらず離れた場所にいるけれど、そこは気にしない。真に一人なんて絶対にあり得ない事だしね。人によっては鬱陶うっとうしいと思うのかもしれないけれど、子供の時からこんな感じだから慣れてしまった。最初はちょっと嫌だったけどね。
 広がる花畑の中でそよそよとした風を身体に浴びながら、ふと気になっていた事に手を付けることにした。

 それはあの拠点から持ち帰った地図だ。あれにはダークエルフ族の拠点の事が詳しく書かれている。女王陛下とガンドルグ王の二人に渡した後、残っていた地図は私が大事に保管していた。というか中々見る時間がなかったから大切にしていただけなんだけど。ヒューの前で見てはいたけれど……あれだって大雑把に見ていただけだ。ガンドルグの周辺に他の拠点があれば教えてあげようの感覚でしか見ていなかった。
 細部――というか今度はティリアース周辺を詳しく見てみたい。ざっと見た時にも幾つか拠点を見つけたのだけれど、せっかくだから貴族達の領土が書かれている地図と照らし合わせる事にした。

 こういう事が出来るのは自分の国ならではだろう。流石に他の国の内情を調べる気もなかったし、ガンドルグ王もあまり良い気分はしないだろうしね。
 ティリアースの領土だけだけどどこがどの貴族の領地なのか詳しく書かれている地図を広げて、その隣に拠点の情報が載っているサウエス地方の地図を広げる。同じ範囲じゃないからちょっと見にくいけれど、まあ誤差の範囲だろう。

 優雅なひと時を過ごしながら敵対勢力の拠点の位置を調べているなんて私くらいのものだろう。
 さて……それでは早速見比べてみよう。

 ――

「ティア様、何をなされているのですか?」

 ジュールの声が聞こえてきて顔を上げると、不思議そうな顔をしたジュールが私を見下ろしていた。ついでに陽が傾きかけていて、いつの間にか夕暮れ前ぐらいの時間になっていた。
 いくら周囲が安全といってもちょっと時間を掛け過ぎてしまった。昼食後に始めたはずなのに……。

「この地図を見比べていたのよ。ちょっと興味深くてね」
「これ……あのダークエルフ族の拠点の地図ですね。ティア様……せっかく帰ってきたのですから……」

 ジュールが呆れて物も言えない――みたいな表情になっているけれど、私だってこの時間を大切にしている。だけど、気になる事があったらつい調べてみたくなってしまうのだ。それに、おかげで面白い事がわかった。

「ちゃんと休息しているから大丈夫。ちょっと暇だったから眺めていただけよ」
「……」

 じとっと疑わしい目で見てくる彼女の成長ぶりが目覚ましくて微笑ましい。以前ならもっと妄信的に私の事を称賛していたのに。おかげで疑惑の視線を向けているジュールを見てにやにやしているという何とも言えない状況を作り出してしまった。

「な、なんですか?」
「いえ。少しは成長したなと思ってね」
「当然です。ティア様と一緒に私も日々成長してます! それに――」

 今小さくごにょごにょと何かを言っていたけれど、上手く聞き取れなかった。
 聞きなおそうとすると、恥ずかしそうに後ろを向いてしまう。

「――そ、そろそろ夕食の時間ですので、遅れないようにいらしてくださいね」

 そのまま館の方に行ってしまったジュールを見送って、少しだけ笑みを浮かべる。彼女も中々頑張っているみたいだ。今度ファリスと訓練している彼女を見に行ってもいいのかもしれない。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 日曜日以外、1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!! 2025年1月6日  お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております! ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします! 2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております! こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!! 2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?! なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!! こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。 どうしよう、欲が出て来た? …ショートショートとか書いてみようかな? 2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?! 欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい… 2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?! どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...