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440・母の温もり
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「エールティア様、おかえりなさいませ」
召使いや兵士のみんなが私の姿を見かける度に丁寧な挨拶をしてくれて、他の国行った時よりも親しみがあるような感じがする。
仕事をしている間も活気に満ちていて、日差しの中という事も相まって明るさを提供してくれている。優しい雰囲気に包まれている通路を歩いて執務室辿り着いた私は、三回ノックをして部屋へと入る。
そこには思った通り、書類整理をこなしているお母様の姿が見えた。
「エールティア!」
入ってきた私の姿を見てすぐに喜びの声を上げてくれたお母様は、書類を崩さないように離れて駆け寄ってくる。
両手を広げて思いっきり抱きしめてくれた。ふんわりと優しい匂いがして、すごく落ち着く。
「お母様、少し苦しいですよ」
なんて言いながらも嬉しくて、つい顔が綻んでしまう。……が、すぐに連れの三人に見られている事に気付いて顔が熱くなっていくのがわかった。
「あの、お母様。そろそろ……」
「……! ふふっ、そうね。貴女もお年頃ですものね」
なにやら意味ありげに笑ってるけれど、妙に優しげな感じがする。そんなお母様に顔を背けるように三人の方に視線を向けると――なんでかファリスが羨ましそうにこっちを見ていた。
一瞬お母様の方を見てるのかと思ったけど、どうやら私で間違いないみたいだ。
「ファリス?」
「……ん?」
小首を傾げて『どうしたの?』とでも言いたげな様子のファリス。さっきの表情が嘘みたいなくらいだ。
いつものファリスに、私の方も小首を傾げそうになるけれど……気にしたら負けなのかも知れない。
彼女の事を全てわかるとは思っていないし、私のわからない何かを感じたのだろう。
「その子がファリス?」
「えっと、う、うん」
お母様もファリスの事が気になったのか、彼女に近寄っていく。
ファリスの方も少し戸惑っているように返事をしていた。
「本当に初代魔王様の複製なのね。本で見た写し絵にそっくり」
頬を触って確かめているお母様にされるがままになってるファリスは嬉しそうにしている。ただ、私と一緒にいる時とはちょっと違う感じだ。
「ふふ、可愛いわね。うちの子になる?」
「え?」
「お母様!」
ちょっと悪ふざけが過ぎるお母様を嗜めるけど、どうやら本気のようでじっとファリスの様子を窺っていた。
肝心のファリスはどうしていいのかわからないのか、ちらちらとこっちを見てくるのが少し可愛くもあって、可哀想でもある。
だから助け舟を出すように声を張り上げると、残念そうにお母様はファリスから離れた。
それをほっとため息を漏らしているけれど、何処か寂しそうな感じがする……気がする。
「残念ね。本気だったのに……」
対してお母様の方は本当に本気なのかどうかわからない感じに微笑んでいた。
確かにファリスが妹になるのは嬉しい事だけど、流石に熱心に押し過ぎだ。
「アルシェラ様、お久しぶりです」
「ご無沙汰しております」
「ええ。二人とも久しぶり。ジュールはもう少し手紙を出しなさい。全く連絡がないのも問題ですよ?」
ファリスの時とは違った感じだけど、優しい気持ちが伝わってくる慈しみのある笑みを浮かべていた。
「も、申し訳ありません。つい……」
「貴女もエールティアを支える大切な子なのですから。気をつけなさい。ね?」
「はい!」
一切手紙を出していなかったジュールは、反省するようにしゅんとなっていた。私の契約スライムなのだから、そういうところは余計に気にされるのだろう。
雪風が何も言われていないのは、そこのところをきちんとしているからだろう。マメな感じが彼女らしい。
「雪風はいつもありがとう。お陰でエールティアの様子もよく知る事が出来ました」
「ありがとうございます。僕もエールティア様やアルシェラ様のお役に立てて良かったです」
流石雪風はそれをして当然という感じの態度だ。大袈裟に喜ばず、自惚れず。こういう姿勢がお父様やお母様に好かれているのだろう。
ファリスの時とは違って冷静に戻ったお母様は、ゆったりとした足取りで机の方に戻っていく。
「エールティア。せっかく帰ってきたのですからゆっくりしなさい。どうせまた行くのでしょう?」
「……やっぱり、お見通しなのですね」
「貴女の母親ですからね。当然です」
書類を背に私達の方を振り返ったお母様は、少しだけ悲しい顔をしていた。なんでそんな顔をするのだろう? と思っていると――
「ごめんなさい。聖黒族がどんな種族かわかっています。ですが……そのせいで貴女を普段以上に危険な目に遭わせてしまうなんて――」
顔を伏せていたお母様だったけど、まさかそこまで思いつめてるなんてお思わなかった。当たり前だと思っていた聖黒族の伝統も、お母様からすればやりすぎな部分もあったのだろう。
「大丈夫ですよ。この力が皆の役に立つのであれば、私は喜んで戦います。その覚悟はとうに出来ていますから」
過去に誤った力の使い方をしたのなら、今度は間違えないように。初めて守りたちと思える人達が出来た。だから……なんの苦もない。
「……エールティア。くれぐれも無茶はしないでちょうだい。貴女がどう思っているかは知らないけれど、私達の大切な娘なのですから」
お母様はどこか諦めたような顔をしていたけれど、最終的には私のやりたいようにやるようにと許してくれた。
大丈夫。ここは私の帰る場所だから。お父様やお母様を悲しませる真似はしない。それだけは約束できるから。
召使いや兵士のみんなが私の姿を見かける度に丁寧な挨拶をしてくれて、他の国行った時よりも親しみがあるような感じがする。
仕事をしている間も活気に満ちていて、日差しの中という事も相まって明るさを提供してくれている。優しい雰囲気に包まれている通路を歩いて執務室辿り着いた私は、三回ノックをして部屋へと入る。
そこには思った通り、書類整理をこなしているお母様の姿が見えた。
「エールティア!」
入ってきた私の姿を見てすぐに喜びの声を上げてくれたお母様は、書類を崩さないように離れて駆け寄ってくる。
両手を広げて思いっきり抱きしめてくれた。ふんわりと優しい匂いがして、すごく落ち着く。
「お母様、少し苦しいですよ」
なんて言いながらも嬉しくて、つい顔が綻んでしまう。……が、すぐに連れの三人に見られている事に気付いて顔が熱くなっていくのがわかった。
「あの、お母様。そろそろ……」
「……! ふふっ、そうね。貴女もお年頃ですものね」
なにやら意味ありげに笑ってるけれど、妙に優しげな感じがする。そんなお母様に顔を背けるように三人の方に視線を向けると――なんでかファリスが羨ましそうにこっちを見ていた。
一瞬お母様の方を見てるのかと思ったけど、どうやら私で間違いないみたいだ。
「ファリス?」
「……ん?」
小首を傾げて『どうしたの?』とでも言いたげな様子のファリス。さっきの表情が嘘みたいなくらいだ。
いつものファリスに、私の方も小首を傾げそうになるけれど……気にしたら負けなのかも知れない。
彼女の事を全てわかるとは思っていないし、私のわからない何かを感じたのだろう。
「その子がファリス?」
「えっと、う、うん」
お母様もファリスの事が気になったのか、彼女に近寄っていく。
ファリスの方も少し戸惑っているように返事をしていた。
「本当に初代魔王様の複製なのね。本で見た写し絵にそっくり」
頬を触って確かめているお母様にされるがままになってるファリスは嬉しそうにしている。ただ、私と一緒にいる時とはちょっと違う感じだ。
「ふふ、可愛いわね。うちの子になる?」
「え?」
「お母様!」
ちょっと悪ふざけが過ぎるお母様を嗜めるけど、どうやら本気のようでじっとファリスの様子を窺っていた。
肝心のファリスはどうしていいのかわからないのか、ちらちらとこっちを見てくるのが少し可愛くもあって、可哀想でもある。
だから助け舟を出すように声を張り上げると、残念そうにお母様はファリスから離れた。
それをほっとため息を漏らしているけれど、何処か寂しそうな感じがする……気がする。
「残念ね。本気だったのに……」
対してお母様の方は本当に本気なのかどうかわからない感じに微笑んでいた。
確かにファリスが妹になるのは嬉しい事だけど、流石に熱心に押し過ぎだ。
「アルシェラ様、お久しぶりです」
「ご無沙汰しております」
「ええ。二人とも久しぶり。ジュールはもう少し手紙を出しなさい。全く連絡がないのも問題ですよ?」
ファリスの時とは違った感じだけど、優しい気持ちが伝わってくる慈しみのある笑みを浮かべていた。
「も、申し訳ありません。つい……」
「貴女もエールティアを支える大切な子なのですから。気をつけなさい。ね?」
「はい!」
一切手紙を出していなかったジュールは、反省するようにしゅんとなっていた。私の契約スライムなのだから、そういうところは余計に気にされるのだろう。
雪風が何も言われていないのは、そこのところをきちんとしているからだろう。マメな感じが彼女らしい。
「雪風はいつもありがとう。お陰でエールティアの様子もよく知る事が出来ました」
「ありがとうございます。僕もエールティア様やアルシェラ様のお役に立てて良かったです」
流石雪風はそれをして当然という感じの態度だ。大袈裟に喜ばず、自惚れず。こういう姿勢がお父様やお母様に好かれているのだろう。
ファリスの時とは違って冷静に戻ったお母様は、ゆったりとした足取りで机の方に戻っていく。
「エールティア。せっかく帰ってきたのですからゆっくりしなさい。どうせまた行くのでしょう?」
「……やっぱり、お見通しなのですね」
「貴女の母親ですからね。当然です」
書類を背に私達の方を振り返ったお母様は、少しだけ悲しい顔をしていた。なんでそんな顔をするのだろう? と思っていると――
「ごめんなさい。聖黒族がどんな種族かわかっています。ですが……そのせいで貴女を普段以上に危険な目に遭わせてしまうなんて――」
顔を伏せていたお母様だったけど、まさかそこまで思いつめてるなんてお思わなかった。当たり前だと思っていた聖黒族の伝統も、お母様からすればやりすぎな部分もあったのだろう。
「大丈夫ですよ。この力が皆の役に立つのであれば、私は喜んで戦います。その覚悟はとうに出来ていますから」
過去に誤った力の使い方をしたのなら、今度は間違えないように。初めて守りたちと思える人達が出来た。だから……なんの苦もない。
「……エールティア。くれぐれも無茶はしないでちょうだい。貴女がどう思っているかは知らないけれど、私達の大切な娘なのですから」
お母様はどこか諦めたような顔をしていたけれど、最終的には私のやりたいようにやるようにと許してくれた。
大丈夫。ここは私の帰る場所だから。お父様やお母様を悲しませる真似はしない。それだけは約束できるから。
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