448 / 676
448・ヒュッヘル領クルテル
しおりを挟む
一度ラントルオの休憩が入って……大体半日もかからない内にヒュッヘル領のクルテルに到着した。
流石に近場とはいえ早い。朝方立って、昼前なのだからラントルオの速さが窺い知れるだろう。
昔は鳥車の耐久も考慮して全力で走らせる事が出来なかったらしいけれど、近年は魔導の開発が進んで建造物を含めた物の耐久力が上がっている。ラントルオも重たい鉄製の鳥車を引かなくて済むから余計に早くなっているらしい。
過去にはそんな時代もあったのかと思うと恐ろしく感じるけどね。
なんでもガチガチの鉄で作られた鳥車だったらしいし、寒い地域に行ったら、更に寒さが増して死ぬ思いをするとか。
「やっぱり鳥車を使うと速いですね。あっという間です!」
「それでもわたしやティアちゃんの方がずっと早いけどね」
「何と競っているのですか……」
ふふん、と得意げにしているファリスに呆れている視線を向けるジュール。
深いため息を一つ吐いたジュールは気を取り直すように表情を変える。このままじゃれあっても埒が明かないと判断したのだろう。
「それで、今すぐ拠点に行くのですか?」
「いいえ。ひとまず宿を取りましょう。それから近場の拠点から攻めていくという形にしましょう」
「わたしはそれでいいけど……ティアちゃんって毎回宿を取るよね? それって何か意味あるの?」
ファリスの疑問は今まで他の人が聞いてこなかったものだ。私も当然のように振舞っていたから今まで説明する機会もなかった。
「私が拠点としている場所がわかれば、そこに手紙や報告が届いてくるでしょう。一応貴族の令嬢だから、どこにいるかどうかはっきりとさせていた方が色々と都合が良いのよ」
「なるほど。だから他の国にいく度にしっかり宿を押さえるんですね。私はいつでも帰れるようにと思ってました」
一応それもあるけれど、それ以上に非常事態の時に行方が掴めないなんて事になっても困るからね。
どうせあんまり戻らないけれど、それでも戻ってくるであろう場所が存在するのは不都合じゃない。
「ほら、早く場所を確保して行動に移しましょう」
「はい!」
「はーい」
話したいことはそれなりに多いけれど、今はさっさと宿を確保して拠点を見つけに行こう。
――
一応それなりに高価な宿を押さえないといけないから時間は掛かったけれど、なんとか動き出すことが出来た。下手に並とかそれ以下の宿を確保してしまうと、変な言いがかりをつけられかねないしね。
特に今は女王陛下の使者としての側面も持っている。余計に慎重にならざるを得ない。以前のように宿ならどこでもいいという訳でもないのだ。
「見栄を張るのって面倒くさいわね……」
「ティアちゃん何か言った?」
もっと自分の思うままに振舞いたいとも思うけれど、それを許してくれる身分から徐々に乖離していってる事実が私に深いため息を落とす。
「ちょっと今の状況をね……。まあいいわ。それじゃ、早く行きましょうか」
また変に憂鬱になる前に行動に移した方が良い。そう結論付けた。
「そういえば、最初に行く拠点ってどんなところ?」
「地理的に森奥深くといった場所ね。恐らく補給拠点だと思うから、どこか隠すような場所に建てられてると思うの」
以前も……というか、ダークエルフ族の拠点は全て隠れた場所に建てられている事が多い。軍事・生産拠点は大体そんな感じだった。複製体の子達がいた場所なんて地下に隠されていたし、地図があった場所は森の奥深くにあった。今回も同じパターンだろう。
「ファリスさんは……知りませんよね?」
「だってわたし、他の拠点にはほとんど行った事ないもん」
ファリスは自分が産まれた場所から他の拠点に行く事はまずなかったらしいしね。
「そういえば、以前私の誕生祭にやってきた時があったわよね。あの時はどうしてたの?」
「前? ……あー、ティアちゃんの初めてを貰った時ね。わたしが無理やり行ったから拠点なんて行ったら余計に面倒な事になってたし、普通にお金使って宿に泊まったよ」
ジュールが『え……』みたいな目で私とファリスを交互で見ていた。一瞬私も彼女と同じ顔をして――ようやく自分の失言に悟った。確かにジュールはあの日の出来事を知っていた。特待生クラスでシェイン先輩に話した時に伝わっていたからだ。だけど……今思えば相手が誰かまでは言ってなかった。男か女かわからない程度にうやむやになっていたはずだ。
「も、ももも、もしかして……あの時の相手って……ファリスさん?」
「んー? そうだけど」
「……さて、早く行きましょうか」
こうなったら面倒事になるのは目に見えている。急いで切り上げてさっさと歩きだした。
「あ! ティア様待ってください! その先の続きを――!」
あー、あー、聞こえない。聞こえなーい! 耳に手を当てて一切の音を遮断する。今から戦わなければならない敵が沢山いる。初めてのキスの話なんてしている場合ではない。
後ろでジュールが騒ぎ立てているけれど、何も気にしないで振り切るように走る。そう、今私は風になる。全てを置き去りにして私は……たった一人で森の奥深くの拠点に来てしまったのだった。
流石に近場とはいえ早い。朝方立って、昼前なのだからラントルオの速さが窺い知れるだろう。
昔は鳥車の耐久も考慮して全力で走らせる事が出来なかったらしいけれど、近年は魔導の開発が進んで建造物を含めた物の耐久力が上がっている。ラントルオも重たい鉄製の鳥車を引かなくて済むから余計に早くなっているらしい。
過去にはそんな時代もあったのかと思うと恐ろしく感じるけどね。
なんでもガチガチの鉄で作られた鳥車だったらしいし、寒い地域に行ったら、更に寒さが増して死ぬ思いをするとか。
「やっぱり鳥車を使うと速いですね。あっという間です!」
「それでもわたしやティアちゃんの方がずっと早いけどね」
「何と競っているのですか……」
ふふん、と得意げにしているファリスに呆れている視線を向けるジュール。
深いため息を一つ吐いたジュールは気を取り直すように表情を変える。このままじゃれあっても埒が明かないと判断したのだろう。
「それで、今すぐ拠点に行くのですか?」
「いいえ。ひとまず宿を取りましょう。それから近場の拠点から攻めていくという形にしましょう」
「わたしはそれでいいけど……ティアちゃんって毎回宿を取るよね? それって何か意味あるの?」
ファリスの疑問は今まで他の人が聞いてこなかったものだ。私も当然のように振舞っていたから今まで説明する機会もなかった。
「私が拠点としている場所がわかれば、そこに手紙や報告が届いてくるでしょう。一応貴族の令嬢だから、どこにいるかどうかはっきりとさせていた方が色々と都合が良いのよ」
「なるほど。だから他の国にいく度にしっかり宿を押さえるんですね。私はいつでも帰れるようにと思ってました」
一応それもあるけれど、それ以上に非常事態の時に行方が掴めないなんて事になっても困るからね。
どうせあんまり戻らないけれど、それでも戻ってくるであろう場所が存在するのは不都合じゃない。
「ほら、早く場所を確保して行動に移しましょう」
「はい!」
「はーい」
話したいことはそれなりに多いけれど、今はさっさと宿を確保して拠点を見つけに行こう。
――
一応それなりに高価な宿を押さえないといけないから時間は掛かったけれど、なんとか動き出すことが出来た。下手に並とかそれ以下の宿を確保してしまうと、変な言いがかりをつけられかねないしね。
特に今は女王陛下の使者としての側面も持っている。余計に慎重にならざるを得ない。以前のように宿ならどこでもいいという訳でもないのだ。
「見栄を張るのって面倒くさいわね……」
「ティアちゃん何か言った?」
もっと自分の思うままに振舞いたいとも思うけれど、それを許してくれる身分から徐々に乖離していってる事実が私に深いため息を落とす。
「ちょっと今の状況をね……。まあいいわ。それじゃ、早く行きましょうか」
また変に憂鬱になる前に行動に移した方が良い。そう結論付けた。
「そういえば、最初に行く拠点ってどんなところ?」
「地理的に森奥深くといった場所ね。恐らく補給拠点だと思うから、どこか隠すような場所に建てられてると思うの」
以前も……というか、ダークエルフ族の拠点は全て隠れた場所に建てられている事が多い。軍事・生産拠点は大体そんな感じだった。複製体の子達がいた場所なんて地下に隠されていたし、地図があった場所は森の奥深くにあった。今回も同じパターンだろう。
「ファリスさんは……知りませんよね?」
「だってわたし、他の拠点にはほとんど行った事ないもん」
ファリスは自分が産まれた場所から他の拠点に行く事はまずなかったらしいしね。
「そういえば、以前私の誕生祭にやってきた時があったわよね。あの時はどうしてたの?」
「前? ……あー、ティアちゃんの初めてを貰った時ね。わたしが無理やり行ったから拠点なんて行ったら余計に面倒な事になってたし、普通にお金使って宿に泊まったよ」
ジュールが『え……』みたいな目で私とファリスを交互で見ていた。一瞬私も彼女と同じ顔をして――ようやく自分の失言に悟った。確かにジュールはあの日の出来事を知っていた。特待生クラスでシェイン先輩に話した時に伝わっていたからだ。だけど……今思えば相手が誰かまでは言ってなかった。男か女かわからない程度にうやむやになっていたはずだ。
「も、ももも、もしかして……あの時の相手って……ファリスさん?」
「んー? そうだけど」
「……さて、早く行きましょうか」
こうなったら面倒事になるのは目に見えている。急いで切り上げてさっさと歩きだした。
「あ! ティア様待ってください! その先の続きを――!」
あー、あー、聞こえない。聞こえなーい! 耳に手を当てて一切の音を遮断する。今から戦わなければならない敵が沢山いる。初めてのキスの話なんてしている場合ではない。
後ろでジュールが騒ぎ立てているけれど、何も気にしないで振り切るように走る。そう、今私は風になる。全てを置き去りにして私は……たった一人で森の奥深くの拠点に来てしまったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!
犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。
そして夢をみた。
日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。
その顔を見て目が覚めた。
なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。
数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。
幼少期、最初はツラい状況が続きます。
作者都合のゆるふわご都合設定です。
日曜日以外、1日1話更新目指してます。
エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。
お楽しみ頂けたら幸いです。
***************
2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます!
100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!!
2024年9月9日 お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます!
200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!
2025年1月6日 お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております!
ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします!
2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております!
こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!!
2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?!
なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!!
こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。
どうしよう、欲が出て来た?
…ショートショートとか書いてみようかな?
2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?!
欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい…
2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?!
どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
転生したみたいなので異世界生活を楽しみます
さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。
誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。
感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる