転生姫様の最強学園ライフ! 〜異世界魔王のやりなおし〜

灰色キャット

文字の大きさ
460 / 676

460・貴族の殴り合い

しおりを挟む
 食堂に案内された私を待っていたのはかなり豪華な食事だった。普段私が食べているものと比べるとかなり上質な食材を使っている。アルファスでもドラフィシルは高級魚として知られているけれど、それの状態の良い高品質なものにも引けを取らない程の食材で作られた料理たちで、明らかにささやかな食事ではない。むしろ自分よりも圧倒的上位者に振舞われるものだと言っていい。

「如何ですか? 公爵令嬢であり、次期女王と誉れ高い貴女様には及ばないささやかなものですが……」
「いいえ、ここまでのものを用意していただいてありがとうございます」

 歯が浮くような台詞ばかり並べ立てて薄気味悪い。何か企んでいるのが丸見えだ。
 かといってここで断る訳にはいかない。向こうにも面子というものがあるし、丸潰れにさせるのは公爵家の娘の名折れでもある。使用人に促されるまま席についた私と向かい合うように座っているヒュッヘル子爵。少々縦長なテーブルが私達の距離感にも思える。こういう時、ジュールは大丈夫だろうけどファリスが少し心配だ。後ろで控えてくれてるとはいえ、いつ何が飛び出しても不思議じゃない。

 ……いや、ここで空気を読まなかったら私が不利になるのはわかっているだろうし、大人しくしてくれるだろう。多分。
 今は彼女達を信じて、とりあえず目の前の食事に手をつけるとしよう。
 パンは白く柔らかい。前菜はトメイと呼ばれている赤くて酸味の効いた野菜と同じように味わい深い白いチーズが上に乗せられているもので、実に美味。そこからスープ、魚、肉と続いて……最終的にデザートで締められる。
 フォーク、ナイフ、スプーンが立てるかすかな音が大きく感じる程の静寂。不気味なくらい静かなまま食事が進んでいって、デザートが終わると同時に一息つく声が聞こえる。

「――いかがでしたかな?」
「ええ。楽しませていただきました」
「それは良かった。貴女様のお口に合ったのでしたらなによりです」

 愉快そうに笑う彼の目は冷静な色を宿したままで、とても表情とは乖離しているようにしか見えない。

「……それで、食事の為だけに招待したわけではないのでしょう?」

 こちらも笑みを浮かべて同じように対応する。決して油断せず、他者に弱みを見せないように振舞う。まずはそこからだ。

「ええ。貴女様が捕らえたダークエルフ族の処遇――それをこちらに任せていただきたいのです」

 部屋の温度は僅かに下がったような気がするのは、私の心が冷えたからだろうか。予想はしていたけれど、こうもまっすぐ言われるとはね。色々と事情を知っている私からしたら、本性を表さないように取り繕っているだけに過ぎない。今彼に渡せばどうなるかなど明白だろう。

「それは承服いたしかねます」

 涼し気な顔で拒否した私に対し、ヒュッヘル子爵の表情は少し硬くなった。彼の頭の中ではすんなり承諾される体で話が進んでいたのだろう。全く違う答えを聞かされた事で笑顔の仮面にヒビが入っていた。

「……いやはや、まさかそう返されるとは思いませんでしたよ」
「ヒュッヘル子爵は今世界中でダークエルフ族がどんな事をしているかおわかりですか?」
「勿論知っております」
「ならば彼らは女王陛下の元に移送して然るべきかと」

 まだ女王陛下には何も言ってはいないが、最終的にそうなるだろう。私の流れではお父様に報告して、そこから彼らを引き渡し、女王陛下のおひざ元である中央都市で尋問を受けさせる――その流れが妥当だろう。

「故に、私達にお任せ頂きたいのです。――そもそも、ここは我が領地。いくら次期女王陛下に近いとはいえ、まだ正式に認められているわけではありません。いくら公爵家の令嬢とはいえ、他貴族の領地でやりたい放題するのは如何なものかと」

 目の奥に冷たいものを宿しているヒュッヘル子爵の視線は、若干怒りが混じっていた。……まあ当然だろう。私だって勝手に自分の領地を荒らされるのは気に入らない。それが親が爵位を持っているからと暴れまわっているなら尚更だ。だから彼の怒りも尤もなものだろう。

 ……やっぱりこれを持って来ておいてよかった。

「ヒュッヘル子爵。それについてはこれで全て解決するかと」

 私はジュールに任命書を預けて彼に持っていくように指示する。若干嫌そうにしていたけれど、幸いヒュッヘル子爵には気付かれなかったようだ。ここで彼に気付かれたらまた面倒な事になっていただろう。というか、もう少し感情を抑える訓練をさせるべきだったかもしれない。貴族というのは小さな弱みからどんどん突き刺していくものだから。

 不審なものを見るような目でジュールから任命書を渡されたヒュッヘル子爵は、胡乱気な目でそれに視線を落としていたけれど、内容を確認していく事に顔が真っ青になっていく。
 当然だ。女王陛下の印は魔力ペンを改良して作られているから絶対に真似できない。いわばこの世でたった一つしかない印。それが押されている任命書が偽造されているなんて可能性があるわけなく……ヒュッヘル子爵の中では今自分の立ち位置を必死に確認している最中だろう。
 さて……それじゃあ今度はこっちが攻めてみようか。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 日曜日以外、1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!! 2025年1月6日  お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております! ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします! 2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております! こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!! 2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?! なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!! こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。 どうしよう、欲が出て来た? …ショートショートとか書いてみようかな? 2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?! 欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい… 2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?! どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...