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464・次に向かうは
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ヒュッヘル子爵との会談も終わり、ようやくひと心地ついたわたしは静かに息を吐き出していた。
意外に話がわかる人でよかった。あまりに頑固だったら私も野放しに出来ない状況に陥っていたかも知れない。お母様にはヒュッヘル子爵が私の傘下に入ったことに加えてしばらく監視を付けた方が良いと進言した手紙を送っている。まだ爵位も貰ってない私の――というのもおかしな話しだけれど、昔も力を示した女王候補は貴族を配下にしていた実例があるし、大丈夫だろう。
ともかく、しばらくはヒュッヘル子爵の領内をこちらの間者が行き交うことになるだろうけど、そこら辺は彼も同意済みだろう。
「本当に取り込んでよかったのでしょうか? また裏切るかも――」
慌てて口を閉じたジュールだけど、大体は伝わった。一度裏切った者の宿命とも言える。でも……私は彼が裏切る事はないと思っている。彼は少なくとも聖黒族の恐ろしさを知っている。態度自体は毅然としていたけれど、微かに手が震えていた。私の前で座ることすら恐ろしいと言いたげなその様は子ウサギを彷彿とさせる。
力関係がはっきりわかっている以上、無闇に裏切れば痛い目を見ることぐらい理解できるだろう。それすら出来ないなら死ぬのが運命。それくらいだ。
「ティアちゃんを裏切ったら魂が巡らないように粉砕してあげる。もちろん、そいつに従ってる人たちも全員ね」
残酷な笑みを浮かべているファリスは本当に楽しそうだ。
実際、ファリスがそんな事をしなくても私がする。何度も裏切るような輩の相手なんてしたくないしね。
「――という訳よ。何も機会を与えないなら、それはそれで無慈悲とも取れる。私はヒュッヘル子爵に最後の機会をあたえたの。これなら他の貴族にも冷酷だなんだと言われる事も少ないだろうしね」
「なるほど……!」
感激した! と言いたげな笑顔が眩しい。ジュールのこの視線はいつまで経ってもなれないものだ。
とりあえず、これでヒュッヘル子爵領は問題ないだろう。多少のごたごたは向こうで解決してもらわないとね。
「それじゃ次はルーセイド伯爵領ね」
「アネイドル男爵領ではないのですか?」
ジュールの疑問もある意味納得だ。彼女は私のように積極的に拠点の地図を眺めている訳じゃない。だから気付かなかったのだろう。
「男爵の領地にはダークエルフ族の拠点は存在しないの。そんなに大きな領地でもないし、すぐ近くにあるギュスメ男爵の領地の方にその分置かれている感じね」
アネイドル男爵の領地はヒュッヘル子爵領よりも広いけれど、まるでクッションでも置くかのように何も設置されていない。多分、ルーセイド卿のところに集約させているのだろう。ヒュッヘル領はリシュファス領と隣接しているから、前線基地も兼ねてなのだろう。
「どうせ行くなら近いところから攻めた方がいい。でしょう?」
「そうですけど……大丈夫でしょうか」
ジュールが心配しているのはヒュッヘル卿との会話で感じたルーセイド卿のきな臭さが原因だろう。
普通、都合よく盗賊なんて現れないし、食べるものに困る程被害が大きいのもおかしい。しかもこちら側に送られた使者は暗殺され、ルーセイド卿のところに向かった使者は無傷。そしてこの一件から恩着せがましいくらい指示を出してくるのも付け加えると、何か細工をした張本人である可能性は十分に感じられた。
ヒュッヘル領で拠点を制圧した際、こちらの動きに反応するように子爵に指示を出したのも彼みたいだし……当然、このまま大人しくはしていないだろう。何かしらの妨害工作があるかもしれないし、ダークエルフ族が拠点を放棄する可能性も高くなるかもしれない。それならそうで上等だ。
幸いこちらの女王陛下からの任命状はまだヒュッヘル卿の前でしか公開していない。館に入った後、こっそり他の間者が混じっているか確認したし、彼が報告でもしない限りはルーセイド卿も知らない情報のはずだ。なら、まだこのカードは切り札足りうる。もし知っていたらヒュッヘル卿が裏切り者である可能性が高くなるから、信頼のおけない相手として再認識できるし……少しでも収穫がある。今はそれで充分だ。
「もし何か不味い事があったら私達の実力とあれがあれば、大体なんとか切り抜けるだろうしね」
向こうの知らない手札をこっちは持っている。それは相手も同じだけれど、効果的に使う事が出来れば単純な数では語れない程の効力を発揮してくれるはずだ。
「ファリス、ジュール。これからはなるべく女王陛下の使者である事は伏せて行動するから、貴女達もなるべく言葉にしないようにね」
「わかったー」
「わかりました!」
二人とも返事だけは良いけれど、本当にわかっているかは不安である。……信じているけどね。
とりあえず、明日にはルーセイド領に旅立てるように準備をしておこう。ここからはより迅速な行動が要求されるからね。
ルーセイド伯爵がこちらの動きに気付く前に出来るだけ拠点を抑えておきたい。今までの情報から中々難しい事はわかるけどね。
意外に話がわかる人でよかった。あまりに頑固だったら私も野放しに出来ない状況に陥っていたかも知れない。お母様にはヒュッヘル子爵が私の傘下に入ったことに加えてしばらく監視を付けた方が良いと進言した手紙を送っている。まだ爵位も貰ってない私の――というのもおかしな話しだけれど、昔も力を示した女王候補は貴族を配下にしていた実例があるし、大丈夫だろう。
ともかく、しばらくはヒュッヘル子爵の領内をこちらの間者が行き交うことになるだろうけど、そこら辺は彼も同意済みだろう。
「本当に取り込んでよかったのでしょうか? また裏切るかも――」
慌てて口を閉じたジュールだけど、大体は伝わった。一度裏切った者の宿命とも言える。でも……私は彼が裏切る事はないと思っている。彼は少なくとも聖黒族の恐ろしさを知っている。態度自体は毅然としていたけれど、微かに手が震えていた。私の前で座ることすら恐ろしいと言いたげなその様は子ウサギを彷彿とさせる。
力関係がはっきりわかっている以上、無闇に裏切れば痛い目を見ることぐらい理解できるだろう。それすら出来ないなら死ぬのが運命。それくらいだ。
「ティアちゃんを裏切ったら魂が巡らないように粉砕してあげる。もちろん、そいつに従ってる人たちも全員ね」
残酷な笑みを浮かべているファリスは本当に楽しそうだ。
実際、ファリスがそんな事をしなくても私がする。何度も裏切るような輩の相手なんてしたくないしね。
「――という訳よ。何も機会を与えないなら、それはそれで無慈悲とも取れる。私はヒュッヘル子爵に最後の機会をあたえたの。これなら他の貴族にも冷酷だなんだと言われる事も少ないだろうしね」
「なるほど……!」
感激した! と言いたげな笑顔が眩しい。ジュールのこの視線はいつまで経ってもなれないものだ。
とりあえず、これでヒュッヘル子爵領は問題ないだろう。多少のごたごたは向こうで解決してもらわないとね。
「それじゃ次はルーセイド伯爵領ね」
「アネイドル男爵領ではないのですか?」
ジュールの疑問もある意味納得だ。彼女は私のように積極的に拠点の地図を眺めている訳じゃない。だから気付かなかったのだろう。
「男爵の領地にはダークエルフ族の拠点は存在しないの。そんなに大きな領地でもないし、すぐ近くにあるギュスメ男爵の領地の方にその分置かれている感じね」
アネイドル男爵の領地はヒュッヘル子爵領よりも広いけれど、まるでクッションでも置くかのように何も設置されていない。多分、ルーセイド卿のところに集約させているのだろう。ヒュッヘル領はリシュファス領と隣接しているから、前線基地も兼ねてなのだろう。
「どうせ行くなら近いところから攻めた方がいい。でしょう?」
「そうですけど……大丈夫でしょうか」
ジュールが心配しているのはヒュッヘル卿との会話で感じたルーセイド卿のきな臭さが原因だろう。
普通、都合よく盗賊なんて現れないし、食べるものに困る程被害が大きいのもおかしい。しかもこちら側に送られた使者は暗殺され、ルーセイド卿のところに向かった使者は無傷。そしてこの一件から恩着せがましいくらい指示を出してくるのも付け加えると、何か細工をした張本人である可能性は十分に感じられた。
ヒュッヘル領で拠点を制圧した際、こちらの動きに反応するように子爵に指示を出したのも彼みたいだし……当然、このまま大人しくはしていないだろう。何かしらの妨害工作があるかもしれないし、ダークエルフ族が拠点を放棄する可能性も高くなるかもしれない。それならそうで上等だ。
幸いこちらの女王陛下からの任命状はまだヒュッヘル卿の前でしか公開していない。館に入った後、こっそり他の間者が混じっているか確認したし、彼が報告でもしない限りはルーセイド卿も知らない情報のはずだ。なら、まだこのカードは切り札足りうる。もし知っていたらヒュッヘル卿が裏切り者である可能性が高くなるから、信頼のおけない相手として再認識できるし……少しでも収穫がある。今はそれで充分だ。
「もし何か不味い事があったら私達の実力とあれがあれば、大体なんとか切り抜けるだろうしね」
向こうの知らない手札をこっちは持っている。それは相手も同じだけれど、効果的に使う事が出来れば単純な数では語れない程の効力を発揮してくれるはずだ。
「ファリス、ジュール。これからはなるべく女王陛下の使者である事は伏せて行動するから、貴女達もなるべく言葉にしないようにね」
「わかったー」
「わかりました!」
二人とも返事だけは良いけれど、本当にわかっているかは不安である。……信じているけどね。
とりあえず、明日にはルーセイド領に旅立てるように準備をしておこう。ここからはより迅速な行動が要求されるからね。
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