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465・ルーセイド伯爵領
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ヒュッヘル子爵領を後にした私達は、鳥車を使って寄り道をせずにまっすぐルーセイド伯爵領へと向かった。
「そういえばルーセイド伯爵領ってどんなところなんですか?」
鳥車に揺られながら線のように流れていく景色のようなものを眺めていた私に、ジュールの質問が飛び込んできた。
「ジュールってティリアースにいるのに知らないの?」
「う……わ、私はアルファスとスラファムくらいしか……あ、あとティア様とリティアに行っただけですかね……だからあまりわからないのですよ」
ジュールが落ち込むような顔をしているけれど、私も彼女を連れて行かなかったから仕方がないのかも。
今の彼女は自分の事に一生懸命だから、地理とか学んでいる暇はないだろうし。
「ルーセイド伯爵領はそれなりに進んでいる町が多いわね。広い領地を活かして農業を行っているけれど、領民のほとんどがあまり豊かな暮らしは出来ていない。かといって最低って訳でもないからあまり気にされていないけれどね」
他の貴族領よりも税が高いのがルーセイド伯爵領の特徴だ。それでも不満が出ないのはその分手厚い保護を受けているからだという噂が流れている。実際他の領地に流れ込んでいないところを見ると事実なのだろう。
不作の時などは率先して減税で対応しているし、祝い事には必ず祝品を届けているとか。ただの領民の結婚式に貴族が贈り物なんて普通はあり得ない事だ。それに一般教養を身に着けさせるための学校もあるしね。戦闘技術を高める学園はティリアースに二つしかないけれど、学校はそれなりに多い。この領地で一番大きな町にあるそれは結構大きいらしくて、リシュファス領でも噂になっている程だ。
話を聞く限りではかなりの善人に思うのだけれど……こういう人がなんで私のお父様と敵対しているのかわからない。エスリーア公爵家と仲が深いとかいう話は聞かないし……今更ながら本当に不思議だ。
そういえばお父様も『昔は普通に話せていたのにな』ってぼやいていたっけ。一応新年を迎える時に顔を合わせてはいるけれど、あまり接点はない。以前こちらから話しかけた時、結構適当にあしらわれた。まだ幼いからわからないだろうとでも思っていたのかもしれないけど、私ははっきりと覚えている。そこから自然と疎遠になってしまい、結局年の終わりに集まる時も最低限の挨拶で済ませていた。だから本当はどんな人物かなんて私にも分からない。
「……そうだ。ジュールにお願いがあるのだけど」
「はい! なんなりと!」
私が直々というのが嬉しかったのか、飛び跳ねるようにきらきらとひた顔を向けてきた。子供のような笑顔で喜んで……。
「町に着いたらディアンおじ様――クリフウォル卿に手紙を出して欲しいの。今の状況と私の現在地を記してあるから、お願いね」
「それは構いませんが……何故クリフウォル様に?」
既にしたためてある手紙を受け取るとジュールは心底疑問そうにしていた。
確かにルーセイド伯爵領とクリフウォル侯爵領は繋がっていない。ディアンおじ様はリティア周辺でそれなりに広い領地を貰っているからね。クリフウォル領に行こうとしたら、もう一つ他の貴族の領地を跨がないといけないだろう。
「何かあった時、すぐに連携できるならそれに越した事はないでしょう? 今までよりは近いのだしね」
ディアンおじ様は何かあれば頼れって言っていたし、この際だから存分に当てにさせてもらおう。私にとってはお父様達の次に信じているあの人ならきっと上手くやってくれる。
「ティアちゃんにとってそのクリフウォルって貴族は頼りになるの?」
「もちろんよ。このティリアースでも数多い貴族の中で、あの方はお父様達の次に信じているもの」
――ディアン・ロウミュッズ。クリフウォル領を治めているオーク族の男性。聖黒族は領主のファミリーネームは領地に合わせるのだけど、他種族は基本的に違う。これも力の差を示す為らしい……けど、そこら辺は詳しくは知らない。ディアンおじ様もそういう事はあまり気にされない御方だしね。
ティリアースの貴族は数が多いけれど、誰より信頼している優しい人だ。その上強い。お父様には及ばないけれど、どっしりとした体格と積んだ経験によって纏っている強者の風格は本物だ。ただ強いだけの人では相手にもならないほどだもの。
「ジュールはそのディアンって人に会ったことある?」
「クリフウォル卿は去年の新年祭の時にお会いしたことがありますよ。あの時はまだ契約したてだった事もあって気付きませんでしたが……正直今でもあまり勝てる気がしません」
「……へぇ」
ファリスも興味が湧いてきたのか、ジュールにディアンおじ様について色々と聞いていた。
……まあ、彼女はディアンおじ様についてあまり知らないから私や雪風に教えてもらった事をそのまま話しているけれどね。
そんなこんなで辿り着いたのはルーセイド伯爵領にある大きな町だった。
「そういえばルーセイド伯爵領ってどんなところなんですか?」
鳥車に揺られながら線のように流れていく景色のようなものを眺めていた私に、ジュールの質問が飛び込んできた。
「ジュールってティリアースにいるのに知らないの?」
「う……わ、私はアルファスとスラファムくらいしか……あ、あとティア様とリティアに行っただけですかね……だからあまりわからないのですよ」
ジュールが落ち込むような顔をしているけれど、私も彼女を連れて行かなかったから仕方がないのかも。
今の彼女は自分の事に一生懸命だから、地理とか学んでいる暇はないだろうし。
「ルーセイド伯爵領はそれなりに進んでいる町が多いわね。広い領地を活かして農業を行っているけれど、領民のほとんどがあまり豊かな暮らしは出来ていない。かといって最低って訳でもないからあまり気にされていないけれどね」
他の貴族領よりも税が高いのがルーセイド伯爵領の特徴だ。それでも不満が出ないのはその分手厚い保護を受けているからだという噂が流れている。実際他の領地に流れ込んでいないところを見ると事実なのだろう。
不作の時などは率先して減税で対応しているし、祝い事には必ず祝品を届けているとか。ただの領民の結婚式に貴族が贈り物なんて普通はあり得ない事だ。それに一般教養を身に着けさせるための学校もあるしね。戦闘技術を高める学園はティリアースに二つしかないけれど、学校はそれなりに多い。この領地で一番大きな町にあるそれは結構大きいらしくて、リシュファス領でも噂になっている程だ。
話を聞く限りではかなりの善人に思うのだけれど……こういう人がなんで私のお父様と敵対しているのかわからない。エスリーア公爵家と仲が深いとかいう話は聞かないし……今更ながら本当に不思議だ。
そういえばお父様も『昔は普通に話せていたのにな』ってぼやいていたっけ。一応新年を迎える時に顔を合わせてはいるけれど、あまり接点はない。以前こちらから話しかけた時、結構適当にあしらわれた。まだ幼いからわからないだろうとでも思っていたのかもしれないけど、私ははっきりと覚えている。そこから自然と疎遠になってしまい、結局年の終わりに集まる時も最低限の挨拶で済ませていた。だから本当はどんな人物かなんて私にも分からない。
「……そうだ。ジュールにお願いがあるのだけど」
「はい! なんなりと!」
私が直々というのが嬉しかったのか、飛び跳ねるようにきらきらとひた顔を向けてきた。子供のような笑顔で喜んで……。
「町に着いたらディアンおじ様――クリフウォル卿に手紙を出して欲しいの。今の状況と私の現在地を記してあるから、お願いね」
「それは構いませんが……何故クリフウォル様に?」
既にしたためてある手紙を受け取るとジュールは心底疑問そうにしていた。
確かにルーセイド伯爵領とクリフウォル侯爵領は繋がっていない。ディアンおじ様はリティア周辺でそれなりに広い領地を貰っているからね。クリフウォル領に行こうとしたら、もう一つ他の貴族の領地を跨がないといけないだろう。
「何かあった時、すぐに連携できるならそれに越した事はないでしょう? 今までよりは近いのだしね」
ディアンおじ様は何かあれば頼れって言っていたし、この際だから存分に当てにさせてもらおう。私にとってはお父様達の次に信じているあの人ならきっと上手くやってくれる。
「ティアちゃんにとってそのクリフウォルって貴族は頼りになるの?」
「もちろんよ。このティリアースでも数多い貴族の中で、あの方はお父様達の次に信じているもの」
――ディアン・ロウミュッズ。クリフウォル領を治めているオーク族の男性。聖黒族は領主のファミリーネームは領地に合わせるのだけど、他種族は基本的に違う。これも力の差を示す為らしい……けど、そこら辺は詳しくは知らない。ディアンおじ様もそういう事はあまり気にされない御方だしね。
ティリアースの貴族は数が多いけれど、誰より信頼している優しい人だ。その上強い。お父様には及ばないけれど、どっしりとした体格と積んだ経験によって纏っている強者の風格は本物だ。ただ強いだけの人では相手にもならないほどだもの。
「ジュールはそのディアンって人に会ったことある?」
「クリフウォル卿は去年の新年祭の時にお会いしたことがありますよ。あの時はまだ契約したてだった事もあって気付きませんでしたが……正直今でもあまり勝てる気がしません」
「……へぇ」
ファリスも興味が湧いてきたのか、ジュールにディアンおじ様について色々と聞いていた。
……まあ、彼女はディアンおじ様についてあまり知らないから私や雪風に教えてもらった事をそのまま話しているけれどね。
そんなこんなで辿り着いたのはルーセイド伯爵領にある大きな町だった。
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